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「ラジオから生まれた歌」
ピアノ:岡田 知子
in カジノ・バウムガルテン (2001.02.23&24)


2001年2月23日午前10時 【雨のち曇り一時雹】
 カジノ・バウムガルテンにて音出し開始。ステージではなく、フロアにピアノを置き、ちょうどステージに向かって歌う形になっていた。天井がうんと高いわりに残響が長すぎず、響きがとてもナチュラルなので歌いやすい。「日本とはかなりセッティングが違うんですよね」とT氏。たしかに今まで経験したことのない位置にマイクがセットされている。それにしても、本当に繊細で自然な響きだ。お蔭ですんなりと録音に入れたが、ピアノがスタインウェイ、調律師さんがベーゼンドルファーの方だったので、ピアノの音色に少し違和感があった。そこでピアノが馴染むまでの間、音のクリアーなバリッとしたものを演ることに。
 この日は夕方からオーケストラの練習が入っていて、5時までしか使えない。難渋しそうだった《ぞうさん》と《こもりうた》がすんなり録れたので、やはり時間がかかりそうな(翌日の最後に予定していた)《ああプランタン無理もない》と《ちいさい秋みつけた》を録った。驚くべきことに録音後の疲労感が全くない。日本ではヘトヘトになるのに…。やはり日本は越えなくてはならないハードルが多すぎ?
 まずは空調の問題! 日本のホールでは空調がうるさいため、完全に切って録音しなくてはならない。そのため、真夏や真冬のレコーディングでは、演奏以前に暑さ寒さとの闘いがある。ウィーンではホテルもホールも静かで空気が動かない暖房なので実に快適。
 次に残響! 日本では、残響が長いほど良いホールだと勘違いされているフシがあり、残響の長いホールが好まれる傾向があるようだが、歌の場合、残響が長すぎるホールでは子音が前の母音の響きに埋没しないよう気を遣う。どんな言語を歌っても発音や語感がきちんと伝わらなくては話にならないからだ。もちろん単に残響の長さを問題にしているのではなく、響きの質が重要なわけだが。



2001.02.23


2001.02.24

2001年2月24日午後2時 【晴れ時々曇り】
 この日は1,2曲目から手間取った上、3曲目の《山の煙》で和音に問題が生じた。楽譜とレコードの演奏がかなり違っていたためオリジナル音源をダビングして持ってきたのだが、CDプレイヤーで聴こうとしたら倍速になってしまう。コンピュータではちゃんと聴けたので、ホテルまで取りに行くことに。
 音を確認し、オリジナル楽譜のピアノパートを変更して収録。まだ7曲も残っているのに、まわりはもう薄暗い。それ以降もピアノパートは謎だらけで、オリジナル音源を聴きつつ慎重に進めた。T氏は今日中に機材を撤収し、次の録音のためにイタリアに移動しなくてはならない。もしかしたら今日中に全曲録り切れないかも知れないのに表面的には皆んな平静を装っている。録音は1曲ずつ丁寧に進む。不思議なことに次第に時間が気にならなくなり、9時前に19曲終わった。「残り1曲がシビアなので、ちょっとお休み下さい」とお願いし、新しいポジションを試す。あれ?? 簡単にできる。なぜ??
 ナチュラルなホールエコーのお蔭で、薄氷を踏むごとくデリケートなポジションが楽に決まる。「いけそうです!!」 いよいよ最後の曲《雪の降るまちを》に入った。
 「その声を使いたい気持ちはわかるけど、mfのところはもう少し声をきかせて欲しいなぁ」とI氏。「う〜む!? 実声を使いたくないので、この発声で抜け道を見つけます……」と、さらにもうひと頑張りした結果、抜けられた!!

 いつものことながら、ぶっ続けで歌う私を、ペースを乱さずサポートして下さる皆様、本当に有り難うございました。これまでにも増して、楽しく、充実したレコーディングでした。
 そういえば、私がカメラータで最初のソロアルバム(『山田耕筰歌曲集』)を録ったとき、T氏が「僕らは良い録音ができれば満足。売れればもっと良いんでしょうけど、そういうことはあまり気にしていません」と仰って下さいました。厚かましい言い分ながら、私も同じ気持ちです。曲目を決めて、楽譜を探し、校訂して録音するまでが最高に楽しいわけで、CDが完成したからといって、宣伝活動にエネルギーを消費する気にはなれません。そんな時間があったら次の階段を登りたい。現実的に見れば、CDが売れなくては困るはずなのに、こんなわがままを許してくれる会社、質の高い音を求め続ける会社、カメラータ・トウキョウに感謝!!!!!


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