第1回 『わたし』で自分の気持ちを語ろう その(1)
対話には、素直に心を伝え、受け取るためのコツがあります。
これから5回にわたって、そのコツをご紹介していきます。
今回は、「いい気持ち」の伝え方について考えてみましょう。
夫がお皿を洗ってくれた。
妻が部屋をきれいに片づけてくれた。
子どもがごみを出しておいてくれた。
そんな日常のささいな思いやりで、自分がうれしく、気持ちが良くなることがあります。
それを相手に伝えたいとき、あなたは、「ありがとう」の後に、どんな言葉をくっつけますか?
A:「気が利くね」「えらいね」「めずらしいね。雪でも降るんじゃないの?」
B:「うれしいな。きれいになって気持ちいいね。」
試しに、近くにいる人に頼んで、AとBのセリフをあなたに向かって実感を込めて言ってもらってください。どんな感じがしましたか?
AとBの違いは、隠れた主語にあります。
Aは「(あなた)気が利くね」
Bは「(わたし)うれしいな」
主語が変わると、伝わるメッセージが変わります。
Aは「私のあなたへの評価」、Bは「私の気持ち」が伝わるのです。
相手との関係が円満なときには、AでもBでも、あなたのうれしい気持ちが通
じます。
ところが、相手が何か面白くない気持ちを抱えているとき、隠れた主語が「あなた」だと、思わぬ
反発や不機嫌な態度が返ってくることがあります。
それは、「私があなたを評価する」というメッセージに、かちんとくるから。
隠れた主語を「あなた」から「わたし」に変えると、相手に気持ちが伝わりやすい。
このコツを、あなたの手持ちのカードに加えて活用してくださいね。
(週刊なび 2000/11/02号)
第2回 『わたし』で自分の気持ちを語ろう その(2)
前回は、「隠れた主語を「あなた」から「わたし」に変えると、相手に気持ちが伝わりやすい」というコツを使って、「いい気持ち」を伝えるお話をしました。
今回は、同じコツを使って「いやだなという気持ち」を伝えてみましょう。
秋晴れの休日。心待ちにしていた、家族でのお出かけの直前に、夫の職場から電話がかかってきました。念のために出勤するというので、お出かけはとりやめです。あなたと子どもたちは本当にがっかりしてしまいました。
こんなとき、あなたはどう言いますか?
A:(攻撃型)「断ればいいじゃないの!家族より仕事が大事なのね?」
(ひっこみ型)「・・・。(沈黙。すごく不機嫌)」
B:「本当にがっかりだわ!一緒に行くのをすごく楽しみにしてたのに!」
試しに、近くにいる人に頼んで、AとBのセリフをあなたに向かって実感を込めて言ってもらってください。
どんな感じがし、何と言いたくなりましたか。
お気づきの通り、AとBの違いは隠れた主語にあります。
A:「(あなたは)家族より仕事が大事なのね」
B:「(わたしは)本当にがっかりだわ」
Aは「私のあなたへの評価」、人格への攻撃が、Bはお出かけできなかった事に対する「私の気持ち」が伝わります。
あなたが夫に伝えたいのは、「夫は悪者だ」ということですか?
それとも「一緒に出かけられなくて残念だ」ということですか?
伝えたいことに合わせて、隠れた主語を使い分けてくださいね。
(週刊なび 2000/11/10号)
第3回 気持ちを受け取ったことを伝えながら、話を聞こう その(1)
対話には「お互いの気持ちを伝えあう」だけではなくて、「相手の気持ちを受け取ったことを伝える」必要がある時があります。
それは、相手が、その人自身の問題で悩んでいる、困っているとき。
悩みの相談にのってあげて、親身になってアドバイスしたのに、相手が不機嫌になったり、黙ってしまったこと、ありませんか?
友達、あるいは夫・妻が仕事のことで悩んでいるようで、こう言いました。
★「今の職場、どうも自分に合っていないみたいなんだ。」
こんなとき、あなたはどう言いますか?
A:「辞めたりしたら、再就職はたいへんだから、ちょっと我慢しなよ」
B:「いやなところにいるより、いっそ新しい道を探したほうがいいよ」
C:「自分のことなんだから、あなたが決めるのがいいと思うよ」
D:「今の職場が合っていないような気がするんだね」
試しに、近くにいる人とペアを組み、あなたが★のセリフを、相手がAからDのセリフを交互に実感を込めて言ってみましょう。相手に、自分の思っていることを、もっと話せそうな感じがしましたか?
A〜Cの言い方(説教・提案・同意・論理)は、★の言葉を受けての自分の考えを返しています。
Dの言い方は、「あなたは今、こう言ったんだね。わたしにはこう聞こえたよ」という確認です。
相手が悩んでいるとき、A〜Cからは次のような裏メッセージが伝わります。
「あなたの感じ方は正しくない」「わたしの言う通りにすればよい」。
相手を思って正論を伝えているのに、相手には「自分を分かってくれない」という不安が生まれ、黙ってしまったり、反論の末ケンカになることもあります。
そんな時、Dのように相手の言った言葉を繰り返したり、こんな気持ちかな?と気持ちを汲んで返してみましょう。
まず、気持ちをそのまま受けとめてもらうことで、相手はちょっと安心します。
その安心感が、本当の問題解決に向けて自分自身で考えはじめる原動力になるのです。
(週刊なび 2000/11/17号)
第4回 気持ちを受け取ったことを伝えながら、話を聞こう その(2)
今回は子どもに対して「気持ちを受け取ったことを伝える」ことを考えてみましょう。
子どもは、大人との対話から、人との関わり方を学んでいます。
あなたの子どもが転んで、泣き出しました。
子「いたいよ〜!え〜んえ〜ん」
こんなとき、あなたならどう言いますか?
親A:「よそ見をして走るからだよ。これから気をつけようね」
親B:「痛くない痛くない。お兄ちゃん(お姉ちゃん)だもんね」
親C:「いたいね〜。すごくいたいんだね。」
あなたが子のセリフを、相手が親Aから親Cのセリフを交互に実感を込めて言ってみましょう。
どんな気持ちがしましたか?
AやBでは、親は、子どもに早くこの痛みを乗り越えて欲しい、という親心から、忠告や提案という形で「自分の考え」を伝えています。
ところが、子どもが辛い思いでいっぱいの時には、この伝え方から親心とは裏腹な、裏メッセージが子どもに届くことがあります。
「あなたが悪いからこうなった」「あなたが痛いと感じるのは間違っている」
この裏メッセージは、子どもの心に2つの反応を生みます。
「ちっともわかってない!痛いと言ったら痛いんだよ〜!」→大泣き
「自分の感じ方は変なんだ。思ったことを言っちゃいけないんだ」 →無言
何を言っても、子どもは泣きやむどころかずっと泣き続け、ついに「いい加減にしなさい!」と怒ってしまった、というのは、こんな時です。
子どもが辛い思いをしている時、Cのように、相手の言った言葉を繰り返したり、こんな気持ちなのかな?と気持ちを汲んで返してみましょう。ちゃんと伝わった、と安心すると、子どもは魔法のように泣きやむことがあります。
忠告や提案は、それからでも決して遅くありませんよ。
(週刊なび 2000/11/24号)
第5回 上手なケンカのしかた −対立がおきた時
最終回の今回は、ケンカのしかたです。
どんなに仲が良い2人でも、対立する時があります。
そんなとき、あなたは、相手を言い負かす方ですか?
それとも、自分の意見を引っ込めるほうですか?どちらにしても後味が悪いですよね。
「ケンカするほど仲が良い」という人たちは、いままで4回にわたってお伝えしてきた話し方と聞き方のコツを上手に使って、「どちらも負けない」解決をしていることが多いのです。
ケンカはお互いの「要求」が対立して始まります。
夫「新しいテレビを買いたい」
VS.
妻「今ので十分。もったいない」
要求レベルで相手を説得しようすると、平行線をたどってしまいます。
ここで、隠れた主語に「わたし」を使って「気持ち」を表現してみましょう。
夫「夜帰ってきてから、テレビを見ると、ちらちらしていてすごく目が疲れるんだ。仕事の疲れも抜けなくて、いやなんだよ。」
また、「相手の気持ちをうけとったことを伝え」ながら、自分の気持ちも伝えてみましょう。
妻「目が疲れちゃうんだ〜。辛いよね。(相手の気持ちを受け取る)私は、いま子どもに英語を習わせてあげたいんだ。だからできるだけお金は節約したいの(自分の気持ちを伝える)」
夫「節約したいんだね(相手の気持ちを受け取る)じゃ、目が疲れずにしかも節約できることってあるかいな?」
お互いに、「気持ち」を受け取ってもらうと、少しほっとして、相手に歩み寄る気持ちになります。
そこで、2人ともが満足する案を知恵をしぼって考えましょう。
こわれるまで待つ。中古の映りのいいのを買う。思いきって新品を買う。拾ってくる。オークションで探す。この機会にテレビを無くす・・・。
お互いの気持ちを大切にした解決策を見つける、この共同作業が楽しいのです。
見つかったときには、一層仲よくなっています。
ケンカも、捨てたもんじゃないでしょう?
(週刊なび 2000/12/01号)
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