Band Journal


これらの原稿は、音楽の友社の依頼により、書いたものです。


2005年吹奏楽コンクール北海道大会職場一般の部を聴いて

第47回全日本吹奏楽コンクール四国支部大会を聴いて

審査員の聞き所


第44回全日本吹奏楽コンクール職場の部を聴いて


 1996年10月20日。第44回全日本吹奏楽コンクール職場の日は、選挙制度が新しくなって初めて行われる総選挙の日であった。倉敷は快晴。ホテルから会場への道のりを歩いたが、やや汗ばむ陽気だった。午前中に一般の部の審査があるので、職場の部は午後からになる。実際に演奏を聴かせていただく前に、前日手元に届いたプログラムを見て気が付いたことを、2、3述べてみたい。因みに吹奏楽コンクール職場の部を聴かせて頂くのは、これが初めてである。独断偏見の程、平にご容赦願いたい。

 まず、職場の部の特徴についてぼんやり考えてみた。

 会社の援助がある。練習場、大型楽器の購入、コンクールの参加費用だって馬鹿にならない。会社持ちで趣味を満喫できるのなら、こんな良いことはないだろう。

 固定メンバーで練習できる。学生のように卒業していなくなることがない。弱いパートの補強だってやりやすいのではなかろうか?・・・とは思ったが、このご時世である。転勤、残業、リストラ、交代勤務まであるらしい。なかなか練習には集まれないのが現状か?

 人間関係はどうだろう?上司が必ずしも良い演奏をするとは限らない。しかし、これは杞憂かもしれない。私の知っている限りでは、みんな嬉々としてやっている。音楽やっている時は上司も部下もない。了見の狭い奴は音楽を楽しむ資格がないのかもしれませんねえ、ハハハ。

 次に、登録団体と参加団体、そして本日演奏する団体の数である。登録団体130予選参加団体44である。

 登録はしているが、参加はしない、これは何を意味するのか?

 全くの推測であるが、バブルがはじけて参加できなくなった。余ったお金で吹奏楽団をつくったものの、その後の不景気で運営がままならない。参加しようにもメンバーが集まらない。これも景気に関係があるのかもしれないが、仕事がきつくなり、練習しようにもその時間がとれない。リストラで転勤を余儀なくされ、中心メンバーが欠けて、合奏が成り立たない。パートのバランスも取れない。

予選参加団体44出場団体10。これは何を意味するのか?

 相当の広き門である。中学、高校と比べてみよう。登録加盟団体数(中学校6509高等学校3624)吹奏楽コンクール参加団体数(中学校5649高等学校2711)全国大会出場団体数(中学校高等学校とも29)。この広き門のため、バブル効果も手伝って、一時的に登録団体が増えたのかもしれない。現在は当時よりさらに広き門になっている。吹奏楽団をつくって企業イメージをアップさせようと思っている社長さん、今がチャンスですよ。

 それを狙った訳ではないのだろうが、今回出場なさった団体のうち、ひときわ私の目を引いたものがあった。大企業に混じって高橋水産吹奏楽団。私が知らないだけなのかも知らないが、他はNEC、NTT、沖電気、松下電工、JR東日本、ブリジストン、ヤマハ・・・錚々たる大企業の名前が並んでいる。

 異色は高松市役所。予算規模を考えればここも相当大きい。演奏を聴くのが非常に楽しみになって来た。

 そうこうしているうちに演奏が始まる。一番手は注目の高橋水産吹奏楽団。北海道からの参加。女性が多い、35人中21人が女性である。無条件に頑張って欲しいですね、ここには。

 高松市役所は3番目に登場。ホルンが3人しかいない。パーカッションも3人で、パートのやりくりが大変そうである。やはり、選挙の仕事を抜けられなかった人がいたのだろうか?ここは、平均年齢が高そうである。楽器を、音楽を、いつまでも愛し続けていってもらいたい。

 編成が35人以下の団体が3つもあった。当然パートは歯抜けになる。全国大会レベルでそれはちょっと寂しい。作曲者はすべてのパートを必要なものとして書いているはず、編成が不足しているのなら、その編成にあった作品を探す方向が健全なものの考え方だろうと思う。

 しかし編曲物に関してはその限りにあらず。自分たちのフォーマットにあった編曲があって良い。そういう意味では、編曲物の方が有利であると言えるかもしれない。力の足りないパートは他の楽器に書き換えればよいからだ。

 私個人は、オリジナル作品がどんどん出てきて欲しいと思っている。このような現象(トランスクリプション全盛)は私の考え方に反している。優秀なアレンジャー、バンドディレクターの耳の善し悪しが、そのまま審査員の評価に直結してしまうだろう。(吹奏楽のための)オリジナル作品とアレンジ作品を同列で論じるには、かなり問題がありそうだ。長期的に見た場合、やはり吹奏楽のオリジナル作品が、オーケストラ作品と同列で論じられる物(水準)であってほしいと思う。(吹奏楽専門の作曲家と言っては失礼かも知れないが、そういう方だけではなく、もっと多くの作曲家に、吹奏楽のための作品を期待したい)

 音楽の世界でも女性プレーヤーの躍進は目を見張るばかりである。そんな中で、男だけの団体があった。ブリジストン吹奏楽団久留米。男所帯だからと断定するわけにはゆかないが、素晴らしく豊かな音色・音量であったように思う。男の子の吹奏楽離れが現実の物になってきている昨今、このバンドには頑張って貰いたいと思うのはかつてのバンド少年の儚い願望であろうか?

 職場の部ならではのインテリジェンスを感じさせる演奏を披露してくれたのが、ヤマハ吹奏楽団浜松。現代の音楽を吸収しながら、更に音楽的に高い見地に登っていって欲しい。

 楽曲の解釈に関してのコメントも少しだけ述べると、全体を通して、フェルマータやゲネラルパウゼが短いと感じた。音楽は止まるところではしっかり止まって欲しい。最後に、課題曲II「般若」を演奏した団体の割合が高かったことを申し添えておきたい。皆さんお疲れさまでした。

*( )内は、このページ制作のため、補足しました。



華やかさ・美しさに加えマーチングの基本を踏まえた表現力は、ますますのレヴェルアップを感じさせた

第11回全日本マーチングフェスティバル/Part1−中学・高校他の部

文:曽我部清典(トランペット奏者・上野の森ブラス)
主催:(社)全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社
写真:エーコーフィルム プロダクション

今年から「千葉市・幕張メッセ」と「神戸市・ポートアイランド」で隔年に開催されることになった全日本マーチングフェスティバル。そこでは、日頃の練習で培われた素晴らしい演奏と演技が繰り広げられた。

 去る11月29日(日)、2年ぶりに千葉市「幕張メッセ・イヴェントホール」で「第11回全日本マーチングフェスティバル:中学・高校他の部」が開催されました。昨年から大震災後の神戸市での開催が可能になり、第10回大会を4年ぶりに神戸で開催できたことで、第7回大会から千葉市と神戸市で隔年開催になるはずだった実施計画がやっと実現できました。今大会の審査員は、小倉清澄、塚田靖、坪能克裕、山崎昌平の4氏と私(曽我部清典)の5名です。

 私にとってマーチングは、7年前に衛星放送の「Do! Marching World」にレギュラー出演した時以来ですから、この間、このマーチングの世界がどのように発展してきたのかを楽しみにしながら、審査に臨みました。ここでは、マーチングフェスティバルを初めて目の当たりにした音楽家の一人として、素晴らしいレヴェルの様々な演奏・演技が繰り広げられたなかで強く感じたことを中心に感想を述べてみたいと思います。


                    ※


 さて、当日も前日の「小学校バンドの部」に続き快晴となり、会場の前にはすでに長蛇の列ができていました。一時の観客離れに、音楽を重要視することをより前面に出したのが功を奏したのでしょうか?会場は、開場後しばらくで満席となりました。


 「パレードコンテストの部」ですが、この部門は持ち時間が6分です。そのうち規定をクリアするのには約3分を要するとのこと。勿論、規定を美しく演じることは重要な要素ですが、残りの3分で各団体の個性を発揮し、自分たちの音楽をアピールすることは、逆にいえば大変なことと言えます。残念なことには、規定をきちんとクリアしていないと見なされた団体が2つほどありました(注意・減点の対象になりました)。

 まず、始まって最初に感じた「不思議!」は演技についてです。この部門は、その編成の発生から、ミリタリー調になるのはしかたない気もしますが、他の表現方法はないものでしょうか? ほとんどのバンドで行われた敬礼は、門外漢の私の目には奇異に映りました。また、演技終了後、ドラムに合わせての退場の際、禁止されているにも関わらず、ドラムメジャーが敬礼するためにわざわざ中央近くまで出て来たバンドも一団体ありました。さらに、次の団体の紹介が始まっているにも関わらず、大音響での退場、これもいただけません。次の団体は、団体名紹介の他に、メンバーからのメッセージが紹介されますが、その紹介が聞き取れないことが何度もありました。

やはり、これは、音楽を演奏する立場としてもっと考えるべきかな?と思いました。

 2つ目の「不思議!」は、出番を待つ場所で、次の出演団体があげる雄叫びです。ラグビーのウォークライを思い出しました。出演者にとっては、青春の一ページ。微笑ましい光景といえます。しかし、音楽のシーンでは珍しいですね。また、会場の観客席から(多分関係者)激励の声が掛かります。まるでスポーツの大会のようでした。スポーツとしての「美しさ」は、音楽の「美しさ」に通じると思いますが、演技の最中(曲間など)に、ゲキを飛ばすのは、ちょっと控えていただきたいものです。これも、何団体かで見られた現象ででした。

 次に、演奏についてです。

 音楽を演奏するということは、ある種の運動です。ほんの少し立つ姿勢を変えたり、支える指の位置を変えたりすることで、それまでできなかったことが急にできるようになることは、決して珍しいことではありません。金管楽器の高音域を身体を反り返らせて吹くのは見た目はかっこいいのですが、本当のところ、しっかりとした高音は、重心を下げた方が出しやすいことを忘れないでください。私のホームページではそれらについて説明していますので参考にしてくだされば幸いです。

 また、激しく動いた後の、静かな音楽や遅いテンポの音楽をうまく演奏するためには、それなりのブレスコントロールが必要です。これが演技に伴わなくて、向上が必要な団体も多々ありました。また、選曲に関してですが、数曲、同じ曲が何団体かで演奏されました。パレード=マーチなのでしょうが、もう少し、個性的なマーチはないのでしょうか?素朴な疑問です。

 それから、楽器についてです。甲高い音のするマーチング用の打楽器、もう少し抑制の利いたフォルテにはできないのでしょうか? もちろん、何箇所かに「ガッン」とくるのに文句を言うわけではありません。技術の優劣もあるのでしょう。上手な打楽器奏者のフォルテは、決してうるさくないものです。

木管楽器がメロディーを演奏している部分の金管楽器もしかりです。

 木管楽器をサクソフォーン中心に編成しているバンドがいくつか見られましたが、この金管の音量に対しての考慮なのでしょうか?しかし、これは、私個人としては余りお勧めできません。やはり、どんな時でも、クラリネットやフルートの音色はバンドに不可欠と思います。ただし、ブラスバンド(金管バンド)に関しては、ある程度確立された編成であると思いますから言及はしません。

 以上のような感想の中で強く印象に残った演奏団体は、「中学校の部」が、神戸市立神出中学校、山崎町立山崎西中学校の兵庫県勢、「高校の部」は、福岡・精華女子高校、熊本・玉名女子高校の九州勢と大阪府立淀川工業高校です。ただし、淀川工業高校の「六甲おろし」はシャレなのでしょうが、選曲への気配りという点で多少の疑問が残らないわけではありません。パレード部門に関しても、選曲に一貫性が欲しいと感じました。


 「フェスティバルの部」にもいくつかの「不思議!」を感じました。

 この部門は、「パレードの部」と違って、オーケストラ・ピットに据え置きの打楽器や鍵盤楽器を置いて演奏することができます。指揮者も指揮杖ではなく、指揮棒で指揮をすることが多く、服装も演技するメンバーと違い、礼装用の服装が多かったようです。しかし、指揮棒を使うのならカウントをとるかけ声や、手拍子は不用なのでは?これが、パレード部門ならば違和感はないのですが…。

 次に、途中の弱奏やスローの部分を、鍵盤楽器にまかせている団体が多かったことです。動いている人よりは、確実に演奏できるのでしょうが、私には「逃げ」のように思えます。楽器の基礎的能力や体力の劣る小学生には過分な要求かもしれませんが、高校・一般にはぜひチャレンジして貰いたいと思います。そのことが、マーチング全体の技術アップにつながると思うのは私だけでしょうか?

 最後に、表現のストーリー性についてです。今回私は、「フェスティバルの部」は、「吹奏楽を使ったミュージカルなんだ!」「ミュージカルにおけるダンスシーンだ!」という思いに何度もさせられました。コミカルな動きを取り入れたり、ウイットに富んだ内容も大変楽しむことができました。しかし、別のバンドで同じようなアイデアを織り込んだ場合、これは、先にやった方が有利です。審査員といえども、すべて白紙の状態で、すべてのバンドをきくことは不可能です。では、このような演出は良くないかというと、そうではありません。このバンドの同じ演技を、「もう一度見たいか?」そこに「鍵」があるように思えます。古典落語のように、次のセリフがわかっていても、やはり「おもしろい!」、そこが大事なのではないかと思います。

この部門で印象に残ったのは、石垣市立石垣第二中学校、氷見市立氷見南部中学校、創価学会富士鼓笛隊マーチングバンド、京都・京都橘女子高校が、それぞれ個性ある演技を披露してくれました。中でも、多少の無理は感じましたが、氷見南部中学校の「天の岩屋戸の物語」は、マーチングの新しい方向性を指し示してくれるものだったと思います。「マーチングバンドのための」現代作品(シアターピース)なんて素敵じゃないですか!。わが国の作曲家の方々にも、マーチングバンドの面白さをご理解いただいて、どんどん新作をお願いしたいところです。

 不思議や疑問で、苦言的な内容になったかも知れませんが、私はこの2日間を大いに楽しみました。そして、このマーチングの世界をマニアだけの世界にしないで、もっと多くの人に聴いて(観て)もらいたいと強く思いました。皆さんには、それだけの能力や可能性は充分にあるのですから…。この記事がその一つの指針になれば、幸いです。


                   ※


 なお、今回で3年連続出場を果たした次の5校が特別表彰を受け、連盟規定により来年の第13回大会を休みます。
 北海道・小清水町立小清水中学校、常呂町立常呂中学校、青森・県立三沢商業高校、埼玉・浦和学院高校、京都・京都橘女子高校


※編集部注:曽我部先生のホームページのアドレスは以下のとおりです。

http://www.jade.dti.ne.jp/~ebakos/

<バンドジャーナル編集部>



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