欧州ツアーレポート その4 ダルムシュタット編後半


7/19 Kiyonori Sokabe Trumpet Workshop in DARMSTADT

 今回のツアー、最後の本番となった。現代音楽のメッカとも言えるダルムシュタット音楽祭でのワークショップである。我ら、大和魂トランペット隊(?)は、木原が日本から持ってきたみそ汁付き朝食で気合いを入れる。

 朝10時には会場に到着。まともなピアノがないレクチャー予定会場に行ってみると、黒板に細川330と書いてあった。細川さんがちゃんとしたピアノのある部屋を手配して下さったのだ。早速その部屋の設営をする。ピアノの場所を決め、竜安寺の立ち位置を確認する。三輪さんのメガホンとG3ノートもセットして、テストもオッケー。椅子も会場いっぱいに並べた。10時からの細川さんのレクチャー枠での「望月京・自作を語る」が終わり、その聴講メンバーが私のワークショップに来てくれた。もちろん、それ以外の人たちもたくさん来てくれて、ちょっと狭めの部屋であったが、会場はほぼ満席になった。今日のために私が最初に言おうと用意していたのは「日本には金管楽器の歴史がありません」だった。つまり、日本人の感性によって書かれた金管の作品はまだまだ少ない。それだけに可能性は充分ある、それを真っ先に言いたかった。ダルムシュタットの雰囲気にはそぐわない感じの佐藤聰明さんや武満徹さん、西村朗さんの作品の作品を意識して演奏した。それは私なりの抵抗でもある。そして、近藤譲の接骨木の3つの歌とジョン・ケージの龍安寺。後半はデュッセルドルフ出身で日本在住のペーター・ガーンの作品、原田敬子さんの作品、三輪眞弘さんの作品と続けた。三輪さんの作品では、コンピュータのご機嫌が宜しくなく、曲の途中で、Pラムをクリアして再開。その後は、プログラムはちゃんと動いたが、私の集中力が切れてしまい、自分では納得ゆかない演奏になってしまった。しかしまあ、全体の出来としては、来てくれた人たちにはトランペットの可能性を感じてもらえたのではないかと、自負している。

原田敬子作品「Mouth」ピアノは大宅裕さん

三輪作品「mega-phone-M」入場シーン

 内輪の打ち上げは毎朝トラムで通りかかって気になっていた地ビール屋さん(工場の横にレストランがある)に行った。私が気に入ったのは、豚の膝肉の煮込みと牛の顔肉のゼリー寄せビネガー風味。ビールもめっぽううまかった。大満足で一人あたり日本円で¥2000程度。日本円の強さに改めて、感謝した。

 5時からのコンサートはファゴットのパスカル・ガロワとアコーディオンのテオドール・アンゼロッティのデュオリサイタル。二人の超絶技巧には舌を巻く。望月京さんの作品も演奏された。8時からのコンサートでも彼女の作品が演奏されたが、このコンサートではなんと言ってもグロボカールのDialog uber Erdeを演奏したマルシア・アルデレアヌの打楽器のソロが印象に残っている。舞台中央に水槽があり、2/3程水が張ってある。その中に打楽器を沈めてゆくところから作品は始まるのだが、その後が、ものすごいことになる。日本でも誰か取り上げて欲しいものだ。

 ホテルに帰って部屋でまだまだ盛り上がっていると、ヤマハの小澤君から電話があった。一度フランクフルトの管楽器のアトリエを訪ねる約束をしていた。夕方から夜にかけては、仕事の先客が入ったので、20日か21日の午前中ではどうか?とのこと。では20日の午前中に伺いますと返事をして、電話を切る。机の上を見たら、彼からのファックスも届いていた。小澤君は芸大の2級後輩で、本当にまじめで律儀な男である。彼が学生時代に左肘を骨折して入院していたときに、私と友人何人かで彼を横浜の病院に見舞った。そのことを彼が思いだして、「あのエキスパンダーのプレゼントには、大笑いもし、泣きもした。」と。20数年前のことが、突然鮮明に蘇った。


7/20 ヤマハフランクフルト訪問&ハイデルベルグ観光

 予想通り早起きはできず(^^;)、島丸の運転するベンツで、11時頃、ヤマハのアトリエに着く。彼が説明してくれた道順は完璧であった。金管担当が彼で木管担当の人と日本人は二人だけ。後は現地採用のドイツ人である。この2人で、ヨーロッパ全体の管楽器奏者の対応をしている。実際、私のワークショップの時は、ロンドン出張で聴いてもらえなかった。多忙な仕事である。現在、そこで進行中の新しい楽器の試みは大きく2つあるのだが、企業秘密とのことで私の口からは申し上げられない。

左から島丸さん、小澤君、私(撮影:木原)

 昼食は近くの中華料理へ。ドイツの肉料理に辟易していた私たちは大いに食べた。お米は長いインディカ米だったが、炊き方にこつがあるのか、日本のお米のような柔らかさであった。私の好きな香草もちゃんと入っている。お代わりをして、中華料理のソースまでお皿に残らないほどであった。先日のドイツ料理のお返しにこの日は私たちがご馳走をした。

 笑い話をまた一つご紹介しよう。島丸がライプツィッヒから乗ってきた車(レンタカー)はベンツの180A(丸っこくて、短い奴です)であったが、ガソリンの給油口がどうしても開かない。下手に強くやって壊してしまってもいけないので、相談したところ、どうもよくわからない・・・ディーラーに電話してくれたり、すったもんだした挙げ句に解ったのだが、右上を強く押すのだそうである。それが解って、ようやく給油にガソリンスタンドに向かう。ドイツのガソリンスタンドは自分で給油する。もちろん、窓を拭いてくれたりはしない。街の中にコンビニがないので、ガソリンスタンドに飲み物や食べ物・雑誌が売っている。

 午後からは古都ハイデルベルグへ。ダルムシュタットに来て初めての観光である。古城を目指して、ベンツは登ってゆく。眼下に赤煉瓦の町並みが広がり、街の中心を流れる川には、長崎の眼鏡橋をいくつか重ねたような古い橋が架かっている。山の頂上付近から折り返して、古城に行く。

美しいハイデルベルグの町並み

宮殿の中庭

 5時からのコンサートはパス。8時からのコンサートも最初のシャリーノの海のコンチェルトは遅刻して聴けなかった。しかし、この日の大収穫は、バート・ヒューレルのARIAという作品が聴けたことである。シャリーノのMuro d'orizzonteも素晴らしかった。アンサンブルリシェルシェの演奏も秀逸!クラリネットは岡さんという日本人女性だ。


7/21 トロンボーンワークショップ

 島丸を朝5時過ぎに見送って、もう一度寝る。木原は23日までのみそ汁を確保して残った分とかりかり梅をおみやげに渡していた。こういうことには非常に気のつく男である。9時過ぎに起きて、いつものように朝食を取り、ちょっと大丈夫かなと思ったが、木原に用事を言いつける。三輪さんのメガホンを郵便局から送って欲しいというものだ。私は部屋でせっせとホームページの原稿を書く。英語もドイツ語もままならない木原はかなり苦労したようだ。お金が足りないと一度ホテルに戻ってきたので、今度は私も一緒に行ってみる。ずいぶん、人が並んでいる。概してドイツ人はこういう時、我慢強い。みんな並んで待っている。

 そうこうしているうちに、ずいぶん時間が経ってしまって、トロンボーンのワークショップには遅れてしまった。講師はアンサンブルモデルンのウヴェ・ディークセン。かなりの技術の持ち主だが、やっている内容は私がやっているのと全く同じだったので、にんまりしてしまった。木原も同じ感想を持ったようだ。

 その後は、出張してきているダルムシュタット音楽センターで譜面漁りをする。ケージとウォルフの譜面を購入。後はカタログを見て注文と思ったが、担当の者が今日は休みなので、明日の5時までに来てくれと言う。注文する作品を書き出した。

 さて、今日の5時からのコンサートはノーノの...sofferte onde serene...とブーレーズの「二つの影の対話」であった。2曲ともライヴエレクトロニクスを駆使した作品である。ノーノの作品は私はとても楽しめた。少し疲れが出たのか、扁桃腺が痛い。夜のコンサートはパス。


7/22

 木原の買い物好きは、ハンブルグ編で紹介したとおりだが、帰国予定の23日が日曜日で主なお店は閉まってしまうので、この日に買い物にフランクフルトに出かけた。いつものルートに飽きたので、今日は歩いて最寄りの郊外列車の駅に向かう。バスもあるのだが、地図で見るとさほど遠くなさそうだったので、歩き始めた。2つ目のバス停の手前でバスに抜かれる。最近運動不足だからまあ良いかと、この時はなんとも思わなかった。駅が近づくにつれて前を歩く人が速足になる。これは電車の到着が近いんだなと予想して、こちらも速足になるが、駅で切符の買い方が今ひとつ解らないので、タッチの差で乗り遅れてしまった。しばらくして反対のホームに電車が着いた。電車の一番後ろの上を見ると(Darmstadt HBF)とあるではないか!!しかもしばらく停まっている。これは、この駅で折り返すに違いないと、勝手に決め込んだ私と木原は走ってその列車に乗り込んだ。すぐにドアは閉まり、私たちの思惑とは裏腹に、列車は次の駅へと動き出した。電車での失敗はロッテルダムに続き、これが2回目である。(結局、次の電車は1時間待たなければ来なかったので、この失敗で時間をロスしたわけではない)次の上り電車でダルムシュタット中央駅へ。そこで乗り換えて、ようやくフランクフルト中央駅に着く。ここからは、木原買い物隊長の独壇場である。

木原が3足靴を買ったGUCCIの店

 約10分歩いてブランドもののショップが建ち並ぶゲーテ通りへ行く。木原の目は爛々と輝いている。いくつか有名店を一緒に覗いた後、2時に待ち合わせをしたが、いっこうに待ち合わせ場所に現れない。GUCCIに違いないと思って、そこへ行くと居た。普段は礼儀正しく、私を待たせるなんて事は無い子だが、ちょっと血迷ったか・・・・

 3時10分の電車で一緒にダルムシュタットに戻る予定だったが、彼を置いて私は先に戻った。譜面の注文をするためである。私にとっては、ブランド品を買うより、新しい音楽を見つける方がよほど興味深い。電子メールアドレスを知らせて、在庫と値段を確認の上、送ってもらうことにした。

イタリアンレストランで 松岡みち子さんと原田敬子さん

 5時からのコンサートはフィリップ・ユレルの作品展だったが、今ひとつ、おもしろいとは思わなかった。コンサート終了後、今夜で帰国する私たちの送別会を兼ねてと、食事に誘ってくれた。その中に、6月24日の私の東京のリサイタルを聴いたという大阪音大の作曲科の生徒が二人。川島素晴君の生徒だという。それから、ブリュッセルに住む太田君。私と木原を含めて全員が「○○のり」という名前だったのは、かなり奇遇である。8時からのラウンドテーブルトークはパス。太田君は、結局、この夜、私の部屋に騒ぎに来て、朝方帰っていった。

この4名と木原が「○○のり」という名前


7/7 出発の日

7/11 ハンブルグ4日目 松岡貴史・みち子作品展

7/12 ハンブルグ5日目 曽我部清典 トランペットレクチャー&リサイタル


欧州ツアーレポート その2 ロッテルダム編へ

欧州ツアーレポート その3 ダルムシュタット編前半へ

欧州ツアーレポート その5 フランクフルト編


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