欧州ツアーレポート その3 ダルムシュタット編


7/16 ダルムシュタット到着

 飛行機はフランクフルト空港に到着。芸大時代の同級生の小林君とヤマハ・フランクフルトに勤める後輩の小澤君が出迎えてくれているはずである。しかし・・・しかし・・・だ。預けた3つ目の荷物が出てこない。木原のリユニオンブルーのトランペットのソフトケースだ。小澤君の携帯電話に連絡して、事情を説明して、もう少し待ってくれるように伝える。心配して、小林君がバゲッジクレイムまで来てくれた。普通はそんなことはできないと思うのだが、彼は日本の旅行社のドイツ支社に勤めているのである。彼が手続きをしてくれ、ルフトハンザだからきっと出てくるよと言われたので、少しは安心する。

 到着ロビーを出ると、小林ファミリーと小澤君が出迎えてくれた。ライン川を見下ろすワイナリーで昼食を取ろうということで出かけたが、あいにくこの日は貸し切りであった。仕方なく、近くの観光地リューデスハイムへ。観光社の添乗員がついているようなものなので、任せっきりである。細い通りの両脇にレストランが建ち並ぶ。小林君ご推薦の店へ。日本語のメニューもあった。ドイツの肉料理とワイン(白と赤)で、久々の邂逅を祝う。お互い髪の毛とおなかの出具合が気になるが、20数年経っても学生時代の雰囲気はそのままなのは嬉しい。小林家の長男の剛君は体操をやっており、州の代表だそうだ。頭の形や体型も日本人離れしており、もちろん、ドイツ語はお父さんよりうまいそうだ。

リューデスハイムで小林ファミリーと

 たっぷりと食事を味わった後は、すぐ近くの自動楽器の博物館へ。ドイツ人の職人気質にはただただ感心するしかないが、その中でひときわ私の目を引いたのは、ヴァイオリンとピアノのデュオの自動演奏システムと、小鳥の鳴き声をそっくりにまねる小さなボックスである。レプリカを売っているというので、ちょっと食指が動くが値段を見てあきらめる。博物館を出ると、外は快晴であった。まだ緑の小さな実のなったブドウ畑の間を駐車場へ。小林ファミリーとはここで別れる。楽しい時間をありがとう。

ヴァイオリンとピアノのデュオの自動演奏器

かなり欲しかった小鳥の鳴き声のするオルゴール 中央ので3200マルク

 ダルムシュタットまでは、小澤君の運転するアウディで向かう。駅前のインフォメーションで会場を聞いてくれと言われていたので、中央駅に行ってみるが、今日は日曜日で開いていない。次は警察に行く。可愛い婦警さんが調べてくれたが、手がかりは見つからなかった。もう一度、中央駅に戻り、ブリュッセルから来る予定の大宅さんを待つが、予想した電車からは降りてこなかった。チェロを持った男女を発見、彼らのホテルを尋ねて、そこに行ってみることにした。宿泊者リストに僕らの名前はなかった。転んでもただでは起きない私たちは、そこで本部の場所を確認。建物の外に出ると、日本人らしい箏の奏者が車から楽器を出している。その人は後藤マキコさんで、リコーダー奏者の鈴木さんが、僕と同じホテルだという情報をもらった。ホテルの名前と電話番号をゲットする。

 本部へ行く。細川さんからのメッセージが残されている。「16時30分にここに来ます。」時計を見ると17時になろうとしている・・・困ったぞ。「そかべさーん」と声がかかったので振り返ると、トロンボーンの村田君ではないか!!「8時からアルディッティカルテットのコンサートがあるので、そこにはきっと細川さんも来るでしょう。」とのことで、まずはホテルにチェックインに向かう。ホテルが近づいて、小澤君が「私、一度、このホテルに来たことがあります。」と言う。懸命に思い出して、カナディアンブラスがこのホテルに泊まって、そこを訪ねたのだとか・・・部屋はとても綺麗で満足。ひょっとして高いのではないかという懸念も頭をよぎるが、今夜の寝場所を確保できた事で、ちょっとほっとする。

 そして、コンサート会場のオランジェリーに向かった。オランジェリーとはドイツ式の古い様式の庭園で、ダルムシュタット音楽祭のメインのコンサート会場である。またまた、小澤君のアウディでオランジェリーへ。翌日ロンドン出張予定の小澤君とはここで別れる。いやあ、大変な世話になった。彼なしでは、今頃、まだ、町中をさまよっているだろう。そのうち、ハンブルグから松岡さんも到着。そして、その後、ようやく細川さんと会うことができ、ホテルが同じという鈴木さんともご挨拶した。私の演奏は当初の予定と違って、19日の3時からと細川さんから報告を受ける。島丸と松岡さんにはオッケーを取ったが、大宅さん、原田さんとは、まだ連絡が取れていない。とりあえず、暫定的に、この日でオッケーを出す。

夜のコンサート会場のオランジェリーでアルディッティ弦楽カルテットを聴いた

 アルディッティカルテットの演奏は何度も聞いているが、今夜の演目はケージのアパートメントハウス、ウルマンの弦楽四重奏第2番、シェーンベルグの弦楽四重奏第4番であった。ケージの作品の仕掛けはよくわからなかったが、全編通してノンビブラートで調性音楽、音程を取るのが大変そうであった。ウルマンの作品はラッヘンマンを思わせるような、センプレピアニシモで特殊奏法の作品。興味深かったが、疲れた頭には、かなり辛かった。シェーンベルクは他の団体で聴いたことはあったが、彼らなりの味付けが随所に施されているようで、楽しめた。しかし、この曲なら、もっと他の団体の方が良い演奏はするだろうなと思った。

 帰りは少し歩いてトラムの駅のすぐ側のレストランで松岡さん、鈴木さん、木原と4人で夕食を取り、ホテルに帰る。鍵は自分で持って出ていて23時以降は、玄関の鍵は自分で開けて、部屋にはいるというシステムである。概して、ヨーロッパは盗難などの警戒が厳しいが、郊外のホテルなので、若干緩やかな感じはした。インターネットにはまだ繋がらない・・・難問山積みのまま、床につく・・・


7/17 ダルムシュタット2日目

 練習場所の確保とワークショップの場所の確保のため、早起きしてGBSに行くと、すでに、松岡さんが場所を確保してくれていた。本当に、気が利く人である。大宅さんとも無事合流、再会を喜び合った。リハーサルは松岡さんが確保してくれていた場所とは違って、学校の一番奥にある体育館を拝借。松岡さんは早くからここに来て、指慣らしをしたといっていた。誰も使っていないエアポケットのような場所、ラッキー。広い場所で大宅さんのピアノを初めて聴く。素晴らしい。私などが共演して良いのだろうかと思うほどだ。原田さんの導きに感謝する。しかし・・・今日到着する予定の原田さんからはなんの連絡もない。これまでの私たちの不運が、彼女に付きまとわないことを祈る。

松岡さんが予約してくれた部屋にあった凄い色のピアノ 鍵盤上に鞄を置いてあるのは西村朗「ヘイロウス」の練習のため

 しかし、またここで変更が。私のワークショップは、3時からではなくて、11時からの細川さんのレクチャー枠で行うことになった。というのも、今回のフェスティバルから方針が変わり、これまでのように自由にワークショップが行えなくなったというのである。2時間と思っていたプログラムを1時間ちょっとに短縮しなければならない。細川さんからは日本人の作品を中心にというリクエストもあった。残念ながらメルキオーレの作品は演奏しないことにする。他の作品についても私の独断でその作曲家の個性が出ている場所を中心にカットして演奏することになった。もちろん、ダルムシュタットに来ている(来る予定の)松岡さんと原田さんの作品はご本人のコメント付きで全曲演奏する予定。三輪さんが17日必着でロッテルダムから送ったメガホンは未だ到着しない・・・・

 5時からのコンサートは、芸大の後輩で今や、ドイツでは大人気の中村功君とその奥さんハン・カヤさんのデュオリサイタルであった。彼の演奏は、とにかく音楽の息づかいが素晴らしい。どんなリズムも生き生きとしている。学生時代に彼がはまっていたサンバののりで現代音楽も演奏しきってしまう、とてつもない才能の持ち主である。もちろん、いつか共演してみたい音楽家の一人である。取り上げた作品の中には疑問符のつくものもあったが、コンサートは素晴らしいものであった。これを聴けただけでも、ダルムシュタットまで来た甲斐があったと言うものだ。

中村功君、松岡さんと談笑

 そして8時からのコンサートは、日本人の演奏家が登場。とりわけ耳を引いたのは、川村京子さんが演奏した謡曲の古典「明石」とリコーダーの鈴木俊哉さんが演奏した細川俊夫さんの無伴奏作品であった。このコンサートには来るだろうと思っていた原田さんは未だ到着せず・・・・

左から鈴木俊哉さん、川村京子さん、細川さん、後藤さん

 昨日に続いて今日もシュトラッセンバーンの乗車駅の向かいのレストランで、ビールとドイツ料理で夕食を取り、12時ちょっと前にホテルに入る。


7/18

 翌日のワークショップのリハーサルのため、この日も早めに主会場のGBSに行く。まさかとは思っていたが、今度は原田さんに災難が・・・フランクフルト空港に昨日の夕方到着はしたという。なにかが邪魔をして荷物を積んだカートが動かない。親切なドイツ人のおじいさんが動かしてくれようとしたその瞬間、勢い余って、原田さんの膝の上にそのふとっちょの全体重がかかった。左膝脱臼の大けがで全治3週間。2つの病院へ罹り、宿泊先のドイツテレコムに到着したのは、深夜だったという。私の譜面を忘れてきた事件から始まって、いよいよ怪我人まで出てしまった。日本ならば御祓いをしてもらうところだ。リハーサルに取っていた部屋までは、私が負ぶって上がった。ロッテルダム・ブリュッセル・ダルムシュタットと3度の合わせで私と大宅さんのコミュニケーションはかなり取れるようになっていたせいか、基本的にはとてもうまくゆく感じがした。原田さんもその出来に満足してくれているようで、この作品に関しては、明日の演奏が楽しみになってきた。

 しかし・・・である。細川さんがレクチャー会場に割り当てられた部屋にはまともなピアノがない。せっかくの大宅さんのピアノを変なピアノで聴きたくはないし、西村朗のヘイロウスはソステヌートペダルがないと演奏不可能である。またまた、細川さんにお願いして、他の可能性を当たってもらうことになる。大変恐縮である。

 その後は、龍安寺で使う打楽器の選定について、中村君にお願いする。金属には電車のレール(ANVILと言います)木製の方は、ウッドブロックを借りた。ハンブルグの時の松岡家のキッチンから拝借したまな板と鍋も良かったが、今回は通常の打楽器を使うことにした。 三輪さんのメガホンも夕方ようやく到着した。いろいろあったが、事態は好転している。ライプツィッヒに留学している生徒の島丸も4時頃、無事到着。彼女にはこちらの都合でレンタカーを借りてライプツィッヒから車でアウトバーンを吹っ飛ばしてきてもらった。小型ながら車種はなんとベンツである。

ベンツに乗ってちょっとご満悦の私

 この日の5時からのコンサートは龍安寺他のリハーサルで聴けなかった。8時からのコンサートではレベッカ・サンダースのピアノソロ作品が最も印象深かった。中川君へのプレゼントにしようかと私が言うと、島丸には大受けであった。中川さんがこの曲を弾く姿が、目に浮かんだという。トランペットの入った室内楽もあるようなので、この期間内に出張してきている楽譜屋さんに注文しよう。(レベッカの譜面はすべてレンタルと後で判明)

 夕食はトランペット3人で囲んだ。島丸には同じホテルを昨日リザーブしてある。明日のコンサートに向けて、気合いを入れ直した。


7/19 ダルムシュタットトランペットワークショップ


7/7 出発の日&ハンブルグ

7/11 ハンブルグ4日目 松岡貴史・みち子作品展

7/12 ハンブルグ5日目 曽我部清典 トランペットレクチャー&リサイタル


欧州ツアーレポート その2 ロッテルダム編へ

欧州ツアーレポート その4 ダルムシュタット編後半へ

欧州ツアーレポート その5 フランクフルト編へ


インデックスに戻る


Exclusive rights reserved. Last update 8/4/2000
Site authored & maintained by ebakos@jade.dti.ne.jp