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 いきいきとほめるコツ

06  
 

 卒園、進級と、子どもたちがひときわ輝いて見える季節がやってきましたね。
 あたりまえと感じていた子どもの姿にも「そういえば、大きくなったなぁ」とあらためて目を細めることも多いでしょう。みなさんは、子どもをほめたい時に、どのように声をかけていらっしゃるでしょうか。

 子どもをいつもほめている、という親が二人に一人の割合であるのに対して、親にほめられている、と感じている子どもは四人に一人の割合だという調査結果があります。
 親はほめているつもりなのに、それが伝わっていないことが多いのです。ほめているのに気持ちが伝わらないなんて、もったいないですね。

 例えば、あなたの料理を食べた子どもから
「さすがだね。これからもがんばってね」
「料理が上手でいいお母さんだね」
と言われたら、どんな感じがしますか。また、
「これ、だぁ〜い好き。うれしいな。」
と言われたら、どんな感じがするでしょう。

 この二つの言い方には、大きな違いがあります。それは、隠れた主語です。
前の例は「あなた」、後の例では「わたし」が隠れた主語になっています。「親業訓練講座」ではこの二つの言い方を「あなたメッセージ」と「わたしメッセージ」と呼んで区別しています。

 あなたメッセージは評価を伝えます。もしあなたメッセージのほめ方があまりうれしくなかったとしたら、評価が的外れだったり、「わたしがあなたを評価する」というニュアンスにカチンときたのかもしれませんね。

 一方、よい、悪いといった評価でなく、自分の気持ちを素直に伝えるのが、わたしメッセージです。話し手の考えや気持ちがストレートに伝わります。

  真奈ちゃんは、お母さんが買い物に行っている間に、部屋のおもちゃをきれいに片付けました。帰って来たお母さんは
「いい子ね。さすが年長さんね。もうすぐ小学生だもんね」
とほめました。真奈ちゃんは鼻高々です。
「真奈、えらいでしょ?」
と聞くので、お母さんは(あらっ?)と感じながらも「えらいよ」と答えました。

 親として「子どものいいところはほめたいけれど、子どもがほめ言葉を求めて顔色をうかがいながら行動するようになったら困る」とほめることに迷いを感じることはありませんか?

 「(あなたは)いい子ね」というあなたメッセージでは、子どもは良い評価をもらって気分がいいのですが、親の気持ちが見えにくいので不安にもなり、ほめ言葉で安心しようとしてしまうのです。いつもほめてほしい子どもの気持ちには、実は不安が背後にあることがあります。そのような子どもの不安を生じさせないのが、親の気持ちを伝えるわたしメッセージです。

 親業を受講した真奈ちゃんのお母さんは、次にわたしメッセージで自分の気持ちを伝えました。
「お部屋がきれいになっていて、とっても気持ちがいいよ。お母さん、うれしいな」
その瞬間、真奈ちゃんの顔がぱあっと輝きました。そして本当にうれしそうに「うふふっ」と笑いました。

 「わたし」を主語にした言葉には、温かな血が通います。親の気持ちがストレートに表現され、評価されたうれしさとはひと味違う喜びが、しみじみと子どものこころを満たします。子どもの行動から生まれた喜びを、親子でわかちあうことができるのです。

 親が上に立って評価するのではなく、「わたしはこんなにうれしい」と対等に、正直に語ることで、本音を話しあえるこころの絆がしっかりと結ばれます。普段のくらしの中で肯定的なわたしメッセージで自己表現を、親が何を大切に考えているか、親はどんなときにうれしいのかが子どもに自然に伝わっていきます。親の人間性が伝わるのですね。

 ほめたくなった時には「お母さんはね」「お父さんはね」と話しはじめてみましょう。親と子が気持ちを通いあわせるすてきな時間が生まれますよ。

■坂倉裕子 プロフィール
 一九六四年生まれ。静岡大学理学部卒。日本保育学会会員。幼児教育研究から、親子のかかわりが子どもの知的・情緒的発達に大きな影響を与えることに着目し、インストラクターとなる。親業訓練講座の指導とともに、「親のコミュニケーションの幅が広がると、子育てはもっと楽しくなり、親が受容されると、子育てはもっと楽になる」ことをテーマに研究、講演、執筆、子育て支援活動、ホームページの運営にもたずさわる。

掲載「親の悩みアラカルト」、『ほとけの子』、2003年3月号、宣協社 

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2001 Yuko Sakakura ; Communication House