上野の森ブラス

フランスツアーレポート


 上野の森ブラスにとって9年ぶりの海外公演となった今回のフランスツアーについて、主に、海外のプレーヤーとの交流を通して、今回のイベント参加のリポートをしたいと思います。http://users.hoops.ne.jp/ebakos/europe2001/morikin.htmlにも関連画像がたくさんあります。行ったり来たりしながら楽しんで下さい。


パリ(8/18)
 今回のツアーはイプシロンアンサンブルが毎年企画している「イプシヴァル」という金管楽器と打楽器の講習会&フェスティバルに参加する事が目的であった。8月16日成田発の日本航空便でパリに到着、初のコンサートは、シテドラムジークの野外ステージの予定だったが、雨天のため同会場の博物館内のホワイエで行われた。この野外のフェスティバルは、「イプシヴァル」とタイアップして開催され、イプシロンアンサンブルをはじめ、この後も、ベルギーのガブリエルアンサンブルや、フランスのトッププレーヤーが、7月21日から8月26日まで、演奏会を催した。

パリ音楽院に隣接するシテドラムジーク(音楽博物館)前の広場にて


リムザン地方初日(8/19)

 パリから特急で3時間半、更に各駅停車で30分揺られて、サンテリエンの駅に着く。人口5000人程度のこの町は、バカンス時期になると活気づく太陽の町だ。リタイアしたお年寄りの割合も多いらしい。ホテルでゆっくりする間もなく、彼ら(イプシロンアンサンブル)の手厚いもてなしを受ける。湖畔のレストランでは、元カナディアンブラスのフレッド・ミルズ氏と同席、その日の受講生とのコンサートのヴィデオを見せて貰った。日本からは、私たちの他に、講師として田宮堅二さんが招聘されていて、久々の旧交を温め合った。
 ここで、今回、講師として招聘された演奏家を紹介しておこう。パンフレットに名前が挙がっていたのは、次の方々。
ピエール・ティボー(元パリ高等音楽院教授)
マルセル・ラゴルシュ(元パリ高等音楽院教授)
アントワン・キューレ(パリ高等音楽院教授)
フレッド・ミルズ(元カナディアン・ブラス、ジョージア大学教授)
ジャン=フランソワ・ディオン(ボルドー音楽院教授、ボルドーオケ)
ローラン・マレ(パリ・オペラ座首席)
マニュ・メラー(ベルギー王立高等音楽院教授)
ウラデミール・カフェルニコフ(ボルドーオケ首席、元レニングラードオケ)
バラズ・ネメス(フランクフルト放送響首席)
田宮堅二(桐朋学園大学教授)
レオ・ウーターズ(ベルギー国立管首席)
フランク・プルチーニ(エプシロン主宰、バーデンバーデンオケ首席)
ジャン=フランソワ・カナップ(ジャズ)
この他にも、凄く高そうな車で駆けつけたスイスロマンド管弦楽団の首席奏者グレゴリー・カス氏(ジュネーブ高等音楽院)も参加していたので、パンフレットの書き落としがあるようだ。
 ウラデミール・カフェルニコフ氏とは、旧レニングラード管弦楽団の日本公演に演奏させて頂いたこともあり、双方とも慣れない英語で、大いに語り合った。
ティボー氏と田宮氏は、前半だけの参加とのことで、残念ながら私たちとは入れ違いに、翌日の朝早くサンテリエンの町を立った。



 リモージュ博物館コンサート(8/20)

 翌日は、このあたりの中心都市、リモージュの博物館前の野外ステージで上野の森ブラスのコンサートが催された。当団のチューバ奏者S氏のたどたどしいフランス語による司会進行には、大きな喝采が寄せられた。ここリモージュは、リモージュ焼きという陶器で有名な町である(余談だが、リモージュ空港で日本人ビジネスマンの二人連れに会う。彼らは日本の某デパートのバイヤーで窯元ごと買い取れるかどうかの調査だった模様)。フランス国営ラジオ局のレコーディング(録音機材はかなりチープなもの)も入ったので、ひょっとすると、在仏日本人の中で、聴いて下さった方もいらっしゃるかもしれません。コンサートを11時頃に終え、そそくさと片づけをして、サンテリエンに帰ってくると、ホテルから50m位のところにあるブラッセリー(居酒屋ですね)で、受講生・先生が一緒になって、お酒を飲みながら談笑している。どこの国でも、金管楽器奏者達は、酒好きで、にぎやかだ。

リモージュ博物館前広場


 コンサート in セギュ・ル・シャトー(8/21)

 翌日は、比較的近い場所でのコンサートだったので、当団の多くは、他の講師のレッスンの見学に早くから出かけていったようだ。私は、この後のソロツアーの練習をたっぷりとホテルの自室で行う。コンサートは、通常午後8時半からで、この日は、セギュ・ル・シャトーという1200年に建てられたというお城の中庭でのコンサートであった。コンサート終了後は、元領主という方のお招きを受け、ディナーと相成る。しっかり頂いて時計を見ると、1時近い。ホテルに帰り着いたのが1時半を回っていて、ブラッセリーは、未だ明々と明かりが灯っていたが、私は自室に引き上げた。メンバーの何人かは、当然のごとく、参加。


ホリデー(8/22)

 翌日はオフだったので、レッスンを見学することにした。読者の方々も、この辺が知りたいところだと思うので、一人一人紹介しよう。会場は、モーリスラヴェル小学校、なかなか、粋な命名である。レッスンは、何時から何時までこの人とかいうように決まっているのではなく、朝、この人と思う先生の部屋に行って、一緒にウォーミングアップをするも良し、一区切り着いたら、次は別の先生というように、受けようと思えば、全員のレッスンが受けられるシステムである。悪く言えば、殆どほったらかしにされている。しかし、言い換えれば、やる気のある生徒はどんどん貪欲にいろんな事を吸収できるようになっている。もちろん、たまたま私が見学していたときの感想でしかないので(事実の裏付けあり)、多少の独断と偏見はお許し願いたい。この他に、生徒達だけのアンサンブルのコンサート(メンバーはオーディションを受ける)も、私が知る限り、2つ行われていた。
 生徒達は、その学校の施設に、宿泊する。シーツ持参と参加申込書にあった位だから、リッチなものでないことは確かである。私たちのように国外から呼ばれた講師はホテルに泊まるが、イプシロンアンサンブルもフランスからの講師も、同じ学校に泊まる。宿泊場所は見ていないので、実際にどんな風に宿泊しているかは想像でしかないが、生徒同様、リッチな感じではないことだけは確かなようだ。フランクは、実家が近いのか、帰ると言っていた。


 では、レッスン内容を紹介しよう。

 カフェルニコフ氏のレッスンでは、主に高音域の体重移動の意識と柔らかなタンギングのやり方について、かなり丁寧にアドバイスをしていた。

カフェルニコフ氏レッスン風景


 ミルズ氏は最初の日程からの参加だったようで、レッスンはもう終わっていて、自分のトレーニングをやっていた。私のゼフュロスを吹きたいと言ってくれたり、たくさんお話をすることができた。
 アントワン・キューレ氏のレッスンは2人の女性が受けていたが、殆どがソルフェージュと運指に終始していた。
 若手のローラン・マレ氏のところには、ベネズエラから参加の女性プレーヤーがレッスンを受けていた。マレ氏のアドバイスは、息の流れとタンギングに注意しながら、中音域を豊かな柔らかい音でというものだった。ノーラッカーの楽器の丸みを帯びた音色が印象的だった。
 ジャン=フランソワ・ディオン氏のレッスンは、いわゆるフランスのモダンエチュードをやっていた。フレーズの流れを作るのは息だということを、執拗に言っていた。そして、自然なクレッシェンド・ディミニュエンドを全てのフレーズに感じるようにということ。
 マルセル・ラゴルシュ氏は、もう吹いて教えることはできないと、楽器も持たずのレッスンだった。私たちの年代のトランペット奏者にとっては、往年の名演奏を知るだけに、その片鱗でも聴きたいところだったが、とても謙虚に「私はもう老人だから・・・」といって、微笑むばかりであった。
 ジャン=フランソワ・カナップ(ジャズ)氏のレッスンもちょっと覗いてみた。たまたまトランペットの受講生はいなかったが、チューバとバリトンの奏者がアドリブのレッスンを受けていた。といっても、決まったリフを演奏した後、ミッシェル・ゴダール(Tuba)氏のベースランに乗ってアドリブを展開、できる生徒は、何コーラスもアドリブを取ってという感じで、体験しながら憶えていくというスタイルだ。

 夜はマニュ・メラー氏率いるベルギーブラスソロイスツのコンサートを聴きに行く。カナディアンブラススタイルの軽妙な演奏で、オペラの序曲を中心に演奏していた。当団のO氏が、オッフェンバック「天国と地獄」の演奏中に、何を思ったのか舞台に乱入してカンカン踊りを踊りだしたのには唖然としてしまったが、場内は拍手喝采であった。コンサート終了後、ブラッセリーで彼らと意気投合。ブリュッセルでの再会を約束した。



コンサート in アイモーティエ(8/23)

 翌23日は長い一日であった。リモージュまで車で行き、そこから、この時期だけ走らせているというSLに乗り込む。途中の駅で、ミニコンサートをし、ジュースとケーキをご馳走になる。途中、スイッチバックの箇所を通ったり、水を補給したりして、約3時間、煙にまみれながら、アイモーティエの町に着く。日本で言えば、軽井沢や那須高原のような町なのだろうか、バカンス客らしい車がひっきりなしに通り抜ける。鱒が住むという河畔横の特設ステージでのコンサートだったが、夏を楽しみに来た観光客らしくリラックスした雰囲気でコンサートは進行。帰りのSLの時間も気になったが、運転士の皆さんも聴いて下さっているということで、しっかりアンコールにも応えての、今回のツアー、上野の森ブラス最後のコンサートとなった。帰途はまた長い道のりを、それでも、行きよりは多少早くリモージュまで戻り、そこから車に乗り継いで、結局ホテルに帰ってきたのは、2時過ぎ。この日も、元気なメンバーは、数名、ブラッセリーで盛り上がったようだ。



ファイナルコンサート(8/24)

 イプシヴァル最終日。ホテルの玄関で、ミルズさんに出会う。小学校への道すがら、彼が語ってくれたのは、彼の一生涯のことだった。今は、アメリカ南部のジョージア大学で教鞭を執りながら、演奏活動も貪欲に行っている。私が自分のCDをプレゼントすると、カナディアンブラスをやめてから出したというCDを見せてくれて、2枚も頂戴してしまった。
 ミルズ氏と一緒にキューレ氏のクラスのウォーミングアップに途中から参加する。ちょうどやっていたのは、アルペジオで2オクターブを静かにソフトな音色で上がって行くレッスン。私もHIGH-F(実音)位までは挑戦したが、何のウォームアップもしてなかったので、リタイア。ミルズさんはおどけた表情でDあたりでやめてしまった。最後まで残ってがんばっていたのが、ベネズエラから来たサンドヴァル君で、無理矢理出そうとして、「ノンノン・・・」とキューレ氏に制止されていた。
 向かいの教室ではレオ・ウーターズ氏のレッスンが始まっていた。オーケストラプレーヤーらしくしっかりとした豊かな音色。受講生はベルギーから参加のエヴァさん(彼女の噂はその後ブリュッセル音楽院でも聴いた)で、トマジのコンチェルトの第1楽章で受講。やはり、高音に行くときの体重移動というか、後ろに反り返らないで、前に意識を持って行くようにと、カフェルニコフ氏と同様のアドバイスを送っていた。私も常々自分のレッスンの中で言っていることなので、我が意を得たりという感じであった。
 もう一度キューレ氏のレッスン室に戻り、誰も受講生の居なくなった部屋で、日仏の現代音楽シーンについて情報交換をした。最後にベリオのセクエンツァのフィンガリングの大変なところについて尋ねたら、俺はこうやってると、変え指を教えてくれた。彼は喉を使ってのフラッターから舌を使ってのフラッターへの移行が実にスムーズで、冒頭部分を吹いてくれたが、実に美しい。私は幼い頃に扁桃腺を手術して取ってしまったので、いわゆるフランス語の「R」の発音ができない。何とか克服せねばとは思っているが・・・・
 プルチーニ氏とキューレ氏は、私のC管(ゼノ・イエローブラス・リバースタイプ・ラウンドクルーク/市販していません)に興味を持ったらしく、試奏させて欲しいとのことで、試して貰った。キューレ氏はさほどでもなかったようだが、プルチーニは気に入ったようだった。彼がヤマハを吹く日も近いのだろうか?

フランク・プルチーニとジャマイカから参加のサンドヴァル君



 ファイナルコンサートは町一番の大きな教会で行われた。上野の森ブラスは前座で「ソーラン節」とサティの「君が欲しい」を演奏。引き続いて、ミシェル・ベッケ指揮によるオールスターキャストの演奏が始まる。


ミシェル・ベッケ指揮によるファイナルコンサート


 ベッケ氏は地元リモージュの出身とのこと。このコンサートのために、何度も練習してきたらしく(私たちが出張演奏している間に)、素晴らしいハーモニーと音色に、聴衆は酔いしれた。このコンサートが聴けただけでも、はるばる日本からやってきた甲斐があったというものだ。曲間にメンバーの紹介を一人ずつ行う。ちょっとプロレスのリングアナウンスのようでもあるが、これが、フランス式なのだろう、実に盛り上げるのがうまい。プログラムは以下の通り。


Fanfare for the Common Man / Aaron Copland
Marche Fune'bre / Edouard Grieg
Bruckner Etudes / Enrique Crespo
Canzone Septimitoni N。1 / G. Gabrieli
Almighty Brass / David Uber
Suite Latino Americaine / Enrique Crespo
Suite Bre've / Andre Lafosse
Praise / Chris Hazel
Brass Cats / Chris Hazel

ファイナルコンサートに参加したトランペット奏者たち 

左から私、マニュ・メラー、織田、ゲルト・デゴステル、フレッド・ミルズ、レオ・ウーターズ、フランク・プルチーニ、ローラン・マレ




 コンサートが終わり、主催者主催のパーティもあっさり終わって、これでホテルに引き上げるのかと思いきや、いつものブラッセリーの前には受講生全員と言って良いほどの人の群。また、来年ここで会うことを約束し合っているのだろうか。当団のメンバーもここ何日かのあわただしい日程から解放されて、全て終わったという喜びで、誰ともなく乾杯し合っていた。そうこうしているうちに、夜中の1時を回っているというのに、遠くからバンドの音が聴こえるではないか!!イプシロンアンサンブルのトロンボーン奏者ブルーノ率いる受講生による金管バンドの演奏が、この時間から始まる。近所の人達は、この日ばかりは仕方がないとあきらめているのだろう。そのうち、プロのプレーヤーも何人か飛び入りで参加。

左から二人目の黒シャツがローラン・マレ、背中の青シャツがシュテファン・ラベリ。シュテファンはこの夏の浜松のセミナーに来日するようだ。

 その中でも、パリオペラ座の首席ローラン・マレ氏はスペイン調のメロディーを連発、パリ管弦楽団のチューバ、シュテファン・ラベリと大いに乗った演奏を披露。打楽器奏者達は街角に備え付けてあるゴミ箱の蓋でリズムを取っている(ロンドンのミュージカルシーンで流行とか)。壁際でにこにこしながら見守っているプルチーニの姿が印象的だった。私は途中で抜けてしまったが、この騒ぎは朝の5時半まで続いたという(当団S氏・H氏談)。




後記
 この原稿を、私の今回のツアーの最終地ドイツのカールスルーヘで書いています。日本を発ったのが8月16日、今日はちょうどその1ヶ月後の9月16日ですが、ヨーロッパの夏は短いという印象を強く持ちました。9月6日に急に寒くなり、それまで25度くらいあった気温が急に18度になりました。今日は一日雨が降ったりやんだりで、途中凄い雷もありました。気温はなんと10度。これからはずっとこんな天気が続くのだそうです。短い夏、せめて、もっと暖かい地方で、夏を満喫したいという気持ちが強くなるのは当然でしょう。そして、野外で音楽というと、金管楽器が好まれるというのも、自然な成り行きのような気がします。
 主催者のプルチーニによれば「世界最高級の先生方と世界最低の価格で受けられるサマーキャンプ」とのことですが、参加費は今年のデータで、10日間9泊3食つきで4150F。約7万円です。来年の講師陣には、未だ予定とのことですが、ガブリエル・カッソーネやティエリー・カーンス、ロナルド・ロムなどの名前も挙がっています。ウイントン・マルサリースが来るという噂もあります。日本からは聖ヴァレンタインブラスアンサンブル(アマチュア)が参加表明をしているとの事ですし、日本では航空券が一番高い時期ですが、鉄道が半額になる特典などもあるようなので、日本のプレーヤー諸君も、奮って参加してみてはどうでしょうか。日程は今年と同じく8月16日から25日まで。更に詳しいリポートと、上野の森ブラスに引き続いての私のソロリサイタルツアーに関するレポートは私のホームページで見ることができます。 http://users.hoops.ne.jp/ebakos/europe2001/index.html
 

 末筆ながら、今回のツアーに関して、資金協力を頂いた国際交流基金と株式会社ヤマハにはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。


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