L. L. Fuller, Law in Quest of Itself, Lecture 1

第1章：自然法と法実証主義の間の選択、ホッブスから分析法学への法実証主義の歴史

ホッブスがその著作『リバイアサン』の読者に与えた多数の様々な助言の中には、読者がホッブスの “思考の連続”をどのように“規制す“べきかという事を教える一節が含まれている。この見出しで彼が扱っているのは、時折我々全てを悩ましたに違いない問題であって、“私たちの思考がさまよい始めた場合に”、何をすべきかを知るという問題である。彼が指示した処方箋は、我々は自分が思考する際に、達成しようとしていた目的を念頭に思い浮かべるべきであるというもの、それはすなわち別言すれば、我々が解決しようと試みた問題が何であったのかを自問すべきであるというものである。仮に私たちがこの処方箋を採用すれば、ふと気付くと私たちの思考が“たちどころに再び正道に帰していた”ということをホッブスは私たちに保証してくれる。彼は次のような一般的な忠告でもって締め括っている。すなわち、“…あなたが行動する時はいつも、あなたが持つであろうものがそれを方向付けるものと考えよ”と。

このアドバイスは恐らく「使い古されたもの」なのだとホッブスでさえ認めているものであって、自明かつ陳腐に見えるかもしれない。だが、法哲学者以上にそれを大いに必要としている者はいない。彼以外にみずからが為そうとしている事を忘れてしまうと言う危険を冒す者などいないのである。自らの目的から自らの思考の脇道に誘い込まれたり、あるいは自ら自身の比喩や抽象化に捕らわれてしまいそうになる思想家は、法哲学の領域以外にはいない。法哲学は見当識をつけるという、非常に特殊な努力を要する領域である。その領域では、我々は法に関して哲学するだけでなく、自分達が究極的に目的としている物は何であるのかを理解するために、われわれ自身が哲学している事をある程度哲学する事が求められる。

Synopsis：法哲学の特殊性；その究極目的による方向づけの必要性

法哲学の機能に関する許容し得る定義方法は、疑いもなく数多くあるが、私が最も有用であると思うのは、法の中で人間のエネルギーを用いることについての有益かつ満足しうるような方向付けを与える試みであると、その機能を考えるものである。このような観点から見るならば、どうやれば法哲学者や彼の仲間の法律家達がその専門家としての人生を最善に送ることができるのかを決定することが法哲学者の仕事である。この実用的な考え方を維持するにあたっては、どんなものであれ法哲学上の論争の現実性を次のように問うことによって検証することができる。すなわち、一方の見解を採ったり、他方の見解を採ることが、裁判官、法律家、法学者、法学部生が自分の労働日を過ごしているやり方に影響を与えるだろうか、というものである。この尺度に照らすと、法律家が激しく論争してきた問題のいくつかは、人間社会の諸現象にとってあまり重要な意義を持たない事が明らかになる。また他方で同じ基準で確かめれば、一見して不毛で言葉上のものと思われた問題が新たな現実性を帯びるかもしれない。これが恐らく、あらゆる法理学上の紛争－法の適切な定義に関係している紛争－のなかで、最も分かりづらい外観を持った事例であろう。例えば、法を裁判官の行動様式と定義する考え方と人間関係に適用される理由〔reason〕と定義する考え方のような相対立する二つの選択を前に考えてみよう。この選択は最初は、誰もそれに関して取りたてて興味を持つ事も無い言葉の上での妥当性に関する問題に過ぎないと見えるかもしれない。しかしこのような定義をする事によって「法」と言う言葉が法律家の生涯の仕事を意味しているならば、それらの間の選択問題に依存しているのは言葉上の争い以上に大事な何かである事は明らかである。確かに、人間の諸関係を理性的〔reason〕な調和状態にするということが自分の仕事だと考えている者は、一定の国家上級官吏の行動連鎖の海図を作ることが自分の仕事だと考えている者とは違った種類の法律家であろう。そしてもし法律家が、法律に関する自分の考えによって自らを形成するならば、彼はまた、その影響力の及ぶ範囲でのことだが、彼が暮らしている社会をも形成することになる。このことだけが問題となるならば、我々は法の適切な定義に関する論争を単なる言葉尻の争い〔logomachy〕として片付けることはできない。言葉の問題として片づけてしまったならば、戦争の現実を否定するのとほとんど同じ、愚かしい過ちを犯すことになるだろう。なぜならば、戦争がその下で行われるスローガンというものは、論理的には意味のないことであり、戦っている勢力の間の争点を明確には表現していなかったからである。単に法の定義が言葉の問題であるとしても、人類のエネルギーの適用を指示する意味を持つかもしれない言葉なのであり、言葉がそういうものである限り、現実と関係する法哲学はそれらを無視することはできないのである。

私が以下の各章で取り扱おうとするテーマは、すなわち、私たちのエネルギーを法に適用する幾つかの方法の中から選択するというこれらの重大な課題の内の１つである。とりわけ、その問題は、自然法と法実証主義という覇を競い合う二つの法的思考傾向のどちらを選択するかというものである。私はこれらの言葉を利用する方法は、伝統的な意味を害するものではないとは信じているが、誤解を避けるために、可能な限り正確に、それらが以下の各章で担うであろう意味を定義しておいたほうがよいだろう。

法実証主義〔という言葉〕で私が意味するのは、在る法と在るべき法との間に厳格な一線をひく事を主張する法思考の傾向である。このような区別が行われるのは、もちろん在る法の利益のためであり、そしてそれはケルゼンの言ういわゆる「意志法〔wish　law〕」から、在る法を追放する事によってそれを純化する事が意図されている。一般的に、常にいつもというわけではないが－実証主義的態度は、あるグレードの倫理的懐疑主義と関連している。その率直には述べられる事の無い基盤は、たいてい人は在る法を有意味に記述することはできるが、在るべき法に関しては個人的な好みを超えるような物は何も述べることができないという確信にある事が見出されるだろう。

他方、自然法は、存在と当為との厳格な分離の可能性を否定する概念であり、また、法的な議論において、それらの混合を許容する概念である。もちろん、自然法には様々な“体系”が存在する。人は自分たちの正義の基準や正法の基準を多くの起源から引き出してきた。すなわち事物の本性、人間の本性、神の本性から。しかし、様々な自然法学派を統合し、それらを共通の見出しでくくることを正当化するものは、それらのすべての中で存在と当為の一定の癒合が見出されるであろうという事実である。自然法学者は、彼の原理によれば明らかに悪であるところの制定法の妥当性を認めるという程度であってさえも、国家の権威を認めるであろうが、結局は法と倫理の間に彼は明確かつ確実な線を引かずに、彼の自然法の「善性」がそれに、制定法のより直接的な現実性によって一時的には覆い隠されることがあっても、決して全面的には無効にされ得ないある種の現実性を与えると彼が考えているという事がわかるであろう。究極的な動機の問題に関する限り、実証主義者が存在と当為を存在のために区別することを主張するならば、自然法学者は当為と存在の間の明確な区別を行うことを拒絶するとき、当為に仕えようとしていることはかなり明白である。

Synopsis:自然法の実体と理想に関する、自然法学者と法実証学者の見解の相違。

これら二つの法的思考傾向の間に問題点を設定してきたので、その選択は私が最初に述べたような問題、つまり法に我々のエネルギーを用いる競合している方法のどちらを選ぶかという問題とは違うように見えるかもしれない。アメリカの哲学者がそれとわかる皮肉は言わないで主張しているように、「実際に法であるものと我々が倫理的理由から法であるべきだと考えるものとの間に明確な区別１」があるとするならば、その時には単純にその様な区別を追認する事は、我々の義務ではないのではないか。もし我々が昏迷さと明快さの二者択一に迫られているならば、われわれ自身を法学研究に向ける択一的な方法のどれかを選択するというような問題に我々はどのようにして正統に言及することができるだろうか。実証主義者が主張するように、法思考には二つの異なった道筋があるならば、つまり一方は「存在」に向けられ他方は「当為」に向けられているならば、同時に両方の方向に導く振りをしている見かけ上の道筋に従うことに、どのような効用がありうるだろうか。

これらの疑念に対する解答は、次の事実にある。実証主義者はそう仮定することが非常に多いが、自然〔nature〕は我々に手際よくまとめられた小包という形で存在と当為を差し出てはくれない。もしもそれらの間に｢明確な区別｣が在りうるとすれば、実証主義者の分析的な努力によってもたらされねばならないだろう。そのような区別は彼の活動の正統な目的として仕えることはあろうが、彼の出発点として仕えることはない。創造的な人間のエネルギーが触れるいかなる領域においても、存在と当為の間に厳格な一線を引くことがいかに難しい事かは、次のようなかなり細かい説明が十分に示してくれるであろうと私は考える。

もし私が聞いてきたおかしな物語をもう一度話そうとするならば、私が話すその物語は二つの力の産物であろう。（１）私が聞いたままの物語。つまりその物語が最初に話された時のそのままの物語。（２）物語の要点に関する私の考え方。換言すれば、その物語のあるべき姿についての私の観念。私が再度その物語を話す場合、そのそれぞれの影響力は様々であるかもしれない事ははっきりしているが、私はこの二つの力の圧力を正確には判断しようとはしない。もし私の聞いた話が、私の見方ではまずい話し方をされたならば、以前の語りによって私の記憶に突き刺さった言い回しを、ものぐさや不完全な洞察力によって恐らく何度も繰り返すことになるとしても、あるべきその物語についての私の考え方によって大半は導かれてしまうものである。他方私が極めて優れた談話家からその話を聞いたのであれば、その物語が話されるべき方法に関する私自身の考え方が誤った記憶によって残されたギャップを埋めなければならないとしても、私は彼の正確な言葉を再生産すべく努力するかもしれない。この二つの力はこうして私が話す物語を形作る際にお互いに補い合っているのだ。〔つまり〕その物語は存在と当為がともに働いている事の産物なのである。そのそれぞれが、最終的な結果に寄与する度合いを測る方法はない。この二つは解きがたく織り交ざっており、「その物語」は全体として本当に両者を含みこんでいるということができる程度にまでなっている。実際、もしも私達が時を経てその話を見てみれば、その物語の現実性はより複雑にさえなるだろう。その物語に本質的な一貫性を付与する「ポイント」は、再び話されている間に変わることがある。後に続く話手の技量を通じて、そのポイントはより明確になっていくと同時に、新しいものになっていく。つまりある何時とは言えないがある転機に、その物語は改良され新しい物語になってしまうのだ。だからある意味で、我々が「物語」と呼ぶものは存在する何かではなくて、生成する何かなのである。言い換えるなら、それは現実の確固とした固まりではなくて流動的な過程であり、その過程は、人間の創造的な衝動すなわちあるべきその物語についての彼らの考え方によって指示されるが、それはそれらの衝動を解き放った元々の出来事がそうするのと同じである。ここにおいては当為は人間の経験の一部として存在同様にまさしく現実である。そして二つの間の一線は、二つが伴に流れこむ語り継ぎの共通の流れの中に融けて消え去るのである。

正確には制定法や判決に関しても同様のことが言えるかもしれない。それには一連の言葉と探求される目的という二つの事柄が含まれている。このような目的は、立法者や裁判官によって選択された言葉によって幸運にも表現された事があるかもしれないし、ないかもしれない。この目的は、逸話のポイントと同様に、ぼんやりと判るだけかもしれないし、はっきりとわかるかもしれない。つまりそれは、それを起草した人物よりはその制定法を解釈する人物によってより明確に理解されるのかもしれない。制定法や判決は、存在しているものの一部分なのではなくて、逸話のように生成の過程なのである。制定法や判決は再解釈される事によって、ほんの少しずつ元々のものではない何かになるのだ。可能な目的の領域は、重なり合った図形によって満たされており、これらの図形の一つをはっきりとなぞって描き出そうという試みは、ほとんど必然的に新しいパターンを創造するのである。今そうであるものにより明確に成る事によって、当該事例における準則は、以前はそう成ろうとしていたに過ぎなかったものになるのである。このような状況においては、存在している準則と存在すべき準則とを厳格に区別する事は、経験的に我々が得られる生のデータからかけ離れた抽象化に助けを求める事になる。

その事が十分に明らかになるのは実証主義が、在る法の何らかの基準を探求する際に遭遇する困難に関してである。何故なら、その様な困難は反省無しでは決して明らかにはならないからだ。常識的に我々は、法と良い法の間の違いがあらねばならない事を知っており、そして一見すると、実証主義は全事例をこのような区別に対する自己証明能力に委ねる場合、十分に正統性を持っているようだ。しかし我々は、分析するまでもないほど明らかな区別は、厳密に言えばしばしば分析に耐えられないような代物だということも記憶に留めておかなければならない。常識的に私は、あるものが蒸気エンジンである事と、良い蒸気エンジンである事との間にはっきりとした違いがある事を知っている。しかしもし私が目の前のホイールやギアやピストンのような意味不明な集合体を前にして、「これは蒸気エンジンですか」と尋ねれば、この質問が「これは良い蒸気エンジンですか」という質問と大いに重なり合ってしまう事は明らかである。蒸気エンジンも法もどちらも含む人間の目的的行動の領域では、価値と存在は二つの異なった事柄ではなく、全一的な現実の違った側面である。

だからもし一定の勢力が自然法という海賊旗の下に結束してその区別を不明瞭にするということに利害を持っているなどと言うことがなかったならば、明確になっていたであろう区別を行うように私たちに要求しているだけであると言ったところで、実証主義者には馬耳東風であろう。自然法の支持者は、自分がその事で攻撃されている｢不明瞭化〔obfuscation〕｣が、実は自然の曖昧さに対する自らの高い尊敬の証なのであり、自分自身が形成した二分論にむりやり現実性を付与することへの拒絶の証なのであると答えることによってこのような主張に反撃するかもしれない。彼は、次の点を自らの見解の特別な利点として論ずるかもしれない。自分の見解は、さもなければ、不可分なものを分けようとする無益な試みの中で浪費されるであろうエネルギーを、より有効な仕事に解き放つのであると。これに対しては実証主義者は、次のように答えるかもしれない。自ら背負い込んだ仕事の難しさがどんなものであれ、それが消費する時間と労力は、それらがあるべきものは何かといった曖昧な思弁に浪費されるよりは、より有効に利用される。このように引き出される一連の反論によって、我々が直面している問題は、我々がすでに有しているものと得がたいものを求める事との間の選択の問題ではなくて、その求め方の間の選択の問題である事が明らかになる？。そしてまた、この選択の問題は、その活動が法にかかわる全ての人に影響する事もまた明らかである。

〔その選択〕問題に最も直接的にかつ明らかに直面するのは、それはもちろん裁判官である。彼にとって、それは私法の領域における自らのモデルとしてホームズをとるのかそれともカドーゾをとるのか、エルドンをとるのかマンスフィールドを採るのかと言った問題を決定しなければならない事を意味している。彼の第一義的義務は、現存する法に対する忠誠の義務であるのか、それとも彼はもっと創造的な役割を担っているのか。彼が改革に対する衝動を持ち合わせていると仮定しても、その様な衝動をどうやって表わすべきなのか。例えば、彼にオウスティンやベンサムが激しく非難する司法立法と言う「不正な（oblique）」方法を避けるべきなのか。あるいはまた彼をしてその様な方法が、一方で伝統を継承しながらもその伝統を改良しようと試みる場合には、避ける事のできない付属物であると認めるべきなのか。〔しかしながら、〕存在と当為をどうやって明確に区別するかを知ると言う問題は、裁判官の活動のあらゆる領域にわたっており、またその裁判官が何をしているかのみならず、そのやり方にすら影響を及ぼす事は明らかである。

法律家が訴状の適用書を準備する際の問題は、自らの議論のための投錨地点の選択の問題である。彼は法準則の中にそれを見出すべきであるのか、それともそのような準則の背後にある目的にそれを見出すべきなのか。彼は自らの依頼人の権利を論ずべきであるのか、それとも自らの依頼人の事例の正しさを論ずべきなのか。法律家は自らの主張を、法文や判例に書きとめられた準則を一種の二次的で確証的な表現として扱いながら、正義のような基本的な概念という基礎におくべきであるのか。さもなくば、準則自体を自らの法的な天空の最も重要な現実として受け入れ、そしてそれらを自らの依頼人に有利な判決を必然化するように整然と配列すべきであるのか。

法学部の教授にとって問題は、どのように何を教えるべきかだけではなくて、教室の外で自分の毎日の労働日をどのようにすごすのかである。｢適切な事例(the neat case)｣として知られるものを解決する所から生じる知的な刺激に主たる満足を見出せるのだろうか。それとも、法準則の倫理的な基礎へと向かう広大無辺なor向こう見ずな(pervasive)探求を行おうとするのだろうか。このような探求の犠牲として｢適切な事例｣は消滅してしまうのを知りながら――何故なら、もはや準則が目的から抽象化されて扱われない場合には、それは法律家が仲間と喜んで論じようとする好都合な対立を生み出さなくなり、また法的な巧みさを試す様に見える興味深い問題は、あい争う切実な倫理的要求の間からの選択と言う平凡な問題に解消してしまうからだ。改革に向けた法学者の義務は何であるのか。彼は自らの革新主義を、自分達がしている事が忙しすぎて適切に説明できない裁判官によってもたらされる改革を支持するような、議論に耐えうる法律理論を構築しようと言う意志によって十分に証明しているのか。あるいは彼の役割は、より行動的なものであるのか。新興の倫理的価値に法的な形式を与える事によって将来を予測する事が、彼の義務であると言うのか。それとも彼は、法の進歩の後に残された概念的な瓦礫を、きれいに掃除する働きをする知的なごみ清掃人のようなものに過ぎないのだろうか。

Synopsis：法学教授にとっての存在と当為の問題；裁判の後づけか将来の予測か？

最後に問題は法学を学ぶ者に向けられる。彼は理想的な指導者として、グレイを選ぶべきか、はたまたエイムスを選ぶべきか。言うならば1940年４月２日火曜日の午後２時に｢存在している法｣を説明でき、あらゆる近時の判例に精通しているような教授を彼は探し出すべきなのであろうか。あるいは彼の選好は、移ろいがちな法の倫理的背景、すなわちそれと比べると｢在る法｣が持続的な重要性を持たない偶然的な形態として現れる背景への洞察力を持つ人間を選ぶべきなのか。同様の選択問題に彼は彼自身の研究を方向づける際に遭遇する。法学部生がこれらの疑問に決定を与えるやり方は、重要性において、彼自身の経歴に及ぼす影響を凌駕している。と言うのは、彼が自分の教師に彼が教えられるべきであると考える事柄を彼に教える様加える圧力を通じて、彼は自分が考えているのよりははるかに強く法学教育に-そして間接的には法に-影響を及ぼしているのだから。

Synopsis：法学部生にとっての存在と当為の問題；
現行法を説明できる教師か、倫理的背景への洞察ができる教師か。

私が今検討してきたような問題を解決する際に、完全に他に依存しない判断を行う事ができるかのように装うのは、誰にとっても愚かしいことだろう。このようなたぐいの問題は、我々の生活の基本的な傾向に影響を与えるものではあるが、ほぼ決められている。そのような解決は、我々自身のある種弱々しい衝動と、我々が生活している知的かつ情動的な環境に対する、それよりはずっと強力な力との間の妥協の一種としてたち現れる。しかし選択の際の個々人の力が、せいぜい弱々しいものに過ぎないとしても、自身に影響を与えている諸要素を分析するまでは、言い換えるならば、自身が生きている知的風土がどのようなものであるのか自分が発見するまでは、そのような力は瞬時足りと存在し得ない。この事は必然的に、歴史が頼みの綱であることを意味する。優勢な時代の気質―人間の諸活動を方向付けるやり方とか、何が重要で何がそうでないのかという考え方―は、必然的に過去というものに条件付けられているからだ。これが私が、自然法対法実証主義という問題のより良い理解を獲得する一つのステップとして、法実証主義の主要な学派を手短に再検討する事を提案する理由である2。この講義のタイトルが示すように、この検討は、法自身のある種排他的な支配権、倫理や哲学の混乱からその存在が自由でありえるようなある極限（ultima Thule）への法の探求という研究を含んでいる。より限定すれば、私の法実証主義に対する検討は、ホッブスの命令理論、オースティンとショムロによって代表される分析法理学派、ハンス・ケルゼンによって基礎付けられた所謂ウイーン学派、そして法の定義を専らとするアメリカン・リーガル・リアリズムの側面を含むこととなろう。

　　Synopsis: 法実証主義対自然法論という論点の有効な研究方法は学派の歴史を辿ること

私はコント、デュルケーム、デュギー(Comte, Durkheim, Duiguit)達の社会学的｢実証主義｣を含むつもりはない。この特殊な実証主義は、自然法の拒否と言う意味を含んでおらず、｢国家(the state)｣とか｢権利(a right)｣と言った形而上的な実体を拒否すること意味している。実際に、社会学的実証主義は存在と当為の厳格な分離など決して主張して来なかったし、そしてそれゆえに、法実証主義者の目からは、理性が全面的に尊敬された試しはなかった３。

サヴィニー(Savigny) によって創設された歴史法学派は、以前は、しばしば「実証主義的」なものとして引き合いに出されたが、それはここには含まれていない。確かに、この学派は、一見したところ私が実証主義について与えた定義を満たしているように思われる。その学派は、理論上自然法に反対しており、そして在る法と在るべき法との混同に反対していた。法を一つの法源、民族精神に起因すると考える事によって、その学派は、倫理という汚濁から逃れつづけるのに役立つような、在る法に対する実証的な基準を提供するように見える。しかしシュタムラーが初期の論考で指摘していたように4、サヴィニーと彼の弟子たちは「悪い法の支配？」、すなわち民族の精神を真に表すものではない法の支配のような事がありうると仮定した。しかしながら、この「悪しき法」は、歴史法学派それ自体の理論とは無関係な、ある種の原理から法としてのその妥当性を獲得しなければならない。そしてもしそのような原理が存在しているならば、その場合、法は民族精神から流れ出るという観念は、在る法の基準ではなく、在るべき法のためのある特殊な自然法的な基準を表現していることになり、そうして歴史学派は、私がここで使っている意味での「実証主義的」であるという資格を全く失ってしまう事に成るのである。

個々の実証主義者に関して、彼らが追い求めていたものは何であったのか、そして彼らをして、自然法という路線よりも実証主義という路線を好ませるものは何であるのかを、我々が明確に述べるようなことができるとすれば、実証主義に関する我々の歴史的調査は、より判りやすい物にする事ができるだろう。〔しかし〕最近の実証主義者たちに関しては、それは残念ながら不可能である。というのは、我々が彼らに達した途端に、ファイヒンガー(Vaihinger)の言う「目的に対する手段の優越という法則」が作用し始めているからであり、実証主義の道具立てを操作する内に、その目的を見失なってしまうからである。しかしながら、我々が法実証主義の父と言っても良い人物まで立ち戻ってみれば、この困難は存在してない。トーマス・ホッブス(Thomas Hobbes)5については、彼が自らの理論を組み立てる際に追求した目的に関して、曖昧さも多義性も存在していない。彼は自然法を土台に法実証主義を樹立したと、矛盾も無く言われてきた。彼の議論は、ほぼ次の通りであった。人間が獲得しようと捜し求めるような物質的または精神的な様々な対象を見渡してみれば、これらの目的の内の一つ―平和と秩序というようなもの―が、他のあらゆる物の必須条件であり、そうである故に他のものに優越する特権を与えられている事がすぐに理解できる。ある程度の平和と秩序が無ければ、芸術・文学・科学――〔あるいは〕より大きな肉体的な喜びを享受することさえ――全て不可能であるし、人間の生活は「孤独でもっとみすぼらしく、敵意に満ちて野蛮で、あっけないもの」になってしまう。

　　Synopsis: 法実証主義者の概観その2：目的への着目。T．ホッブスを例として①

しかしながら、人間の利害関係が必然的に紛争状態に陥りがちであり、その結果として人間というものが他人との戦争にあるのが自然状態であるとするならば、我々がこのような最小限の平和や秩序を得る事などできようか。人間に道理を説いても、このような状態に平和と秩序をもたらすことなどできはしない。正しい理性なるものが与えられることなどがあるとして、人間は常にそれに従うであろうなどと仮定しても、人間を分別する我のものと汝のものという諸問題の多くは、説得(reasoning)によってすぐさま解決の余地が在るものではない。それゆえに必要とされるのは、その様な問題を解決できるような最終的な権力を持つある程度現世的な権威なのである。そしてその様な権威は、このような問題を解決する際に自然な理性の代わりをする、ある種の人工的な理性として作用するものである。この現世的な権力を我々は主権／権力と呼び、対立の解決手段として制定される諸準則を、我々は法と呼ぶことになる。法を制定する際には、この主権／権力も、自然理性からの教えが主権／権力を担える限りで、その教えに従うべきである。しかしながら不幸にして、主権／権力がそうするだろうと保証する方法はありえない。理性自体が法の内容に関して多くの事を宣言しようとも、理性によって解決できる事と命令／法令によって解決されねばならない事との間に、堅固な即効性のある線をひく方法はない。それゆえに、人が主権者の命令を理性に照らして判断する事を許せば、革命と混乱を招く事になるやもしれぬ。従って人は、主権者の不当な命令や不正義な命令にも従うべきである。何故なら、〔その様な命令を〕遵守する事によって生ずる悪弊は、遵守しない事によって生ずるよりも少ないからである。我々は主権者の命令に従わなければならないだけでなく、自分達自身の思いつきでそれらを縁取ってはならないのだ。何故なら、もし主権者の権力が無ければ、｢人は他人に対して狼になるだろう｣と言う事が本当ならば、あらゆる人間を隣人に対して狼にしてしまう第一歩は、彼をして法を自らが相応しいと解釈する事を許してしまう事だからである。

Synopsis：承前；個々人に恣意的な解釈を許すと自然状態になるので、人々は主権者の如何なる命令にも従わなければならない。

その本質があまりに単純であるが故に｢理論｣とは呼びがたい――この見解が、法を形成する際に、人間の理性が重要な役割を演ずるべきであるという事を全く否定していないという事を特筆しておこう。それはこのような｢当為｣が担うべき制裁という問題にのみ関わっている。ホッブス自身は、主権者が従うべき自然理性という精巧な一連の諸原理を組み立てており、かつ彼の〔その〕カタログは、自然法の考え方を擁護する現代の法律家のものよりは、実際ずっと詳細にわたっている6。このような基盤があるが故に、人間の基本的な性質は反社会的であるというこのような作者達の第二世代から区別して、シュタムラーが何の説明も断りも無く彼をプーフェンドルフやグロチウスと供に自然法の代表的人物として分類しているのは正統化される7。

　　Synopsis：シュタムラーはかようにしてホッブスを自然法論者とする

ホッブスの主権の観念が、弁別と定義に大いに悩まされている事もまた注目されよう。ホッブスが混乱し詭弁を労するようになるのは、主権概念を説明する際にではなく、それを正統化する際である。〔つまりそれは〕彼の理論の実証的な側面ではなくて、自然法的な側面においてなのである。主権者の権力が、人民から発し主権者に及ぶ承諾／授権[grant]に由来し、そしてこの承諾／授権は、そのまさに性質上取り返しのつかないものであることを示そうとしたホッブスの試みは、その入念な巧妙さの故に賞賛に値するが、その他に見るべきものは無い。例えば、説得力を引き出すような主権者の？権力という点ではほとんど無い。ここで私達自身がその問題にかかわるのは止めた方が良いだろう。何故なら、その問題は、法実証主義のその後の歴史に全く影響が無いからである。その後の法実証主義者達は、主権者の権力の必要性を証明しようとはしなかった。むしろ彼らはそれを当然のことと仮定した。ホッブスに起因するこの問題は、非常に悩ましいものであるが故に、彼らはそれを無視する事によって解決したのだ。

　　Synopsis: ホッブスは主権の正当化に必ずしも成功はしなかった。

一方で、主権者命令説(the imperative theory)の後の主唱者たちを悩ませた膨大な難問の中で、ただ一つだけがホッブスによっていささか詳細に論ぜられている。法を主権者の命令と定義するならば、裁判官によって制定される法に関して何と言うべきなのか。王や摂政の統治下にあるのならば、裁判官は自ら自身の権利において確実に統治者などではなく、もし彼らが統治者であるとすれば、その時にはもちろんのこと、法的命令／法秩序の統一性と効果は破壊されることになろう。裁判官の判決が統治者の意志にではなくて、主に慣習や理性と言う独立した法源に基づいていると慣習的に主張される事実がなければ、彼らを統治者の代理人と見なすのが当然だろう。仮に裁判官が代理人であるとすれば、彼らは常習的にあたかも本人であるかのように話しているのだ。ホッブスは、この困難を、それ以来彼の賛同者たちによってずっと承認されている非常に単純な方法論的な処置で解決した。基本的にそれは、裁判官の話を無視する事にある。裁判官は、自らを統治者の代理人であるとは考えていない。しかし、彼は代理人なのだ。何故なら主権者は、彼らの意志を自身のものとして採用するからである８。統治者が認める事は、暗黙のうちに彼が命令しているのだ。代理人として行動すると称する人間によって、承認された行為が成されなければならないと言う代理権の原則は、実証的法理学のより高い領域には当てはまらないようだ。

Synopsis：主権者命令説の誤謬；裁判官は統治者でもその代理人でもない。

ホッブスが平和と秩序に置いた高い価値が、恐らくや彼が生きた乱れた秩序の時代によって悪化した彼の性格の幾分臆病な傾向から生じていると稀に暗示されることがあった。こういった解釈は、ホッブス自身のけんか好きな性格と奇妙な対比を見せており、そうであるが故に、彼の知的なエネルギーの多くの部分を不正にも犯している論争的な著作の中に強く現れている。もし彼の見解が自らの性格にその源を有しているとするならば、それは彼自身が自らの資質の中の破滅的で無駄な衝動と見なしているものに抗する一つの反動であると考える方が良かろう。闘争しようという自らの意思を誇りにするような人間、｢グッド･ファイトを愛する人間｣は、ホッブスとは無縁なつつましさの犠牲になることがままある。自身を戦うこと以上に生産的なことはできないと感じている者は、論争が内包する悲惨な消耗という無意味さなど、当然のことながら経験しないだろう。ホッブスはこういう輩ではなかった。彼が『リバイアサン』の最後を書いた時、彼はまさに自分自身の動機を表明していたと私は思う。〔そこでは〕いわゆる国家という人工的な具象体（the Artificial Body called the State）について、その著作で十分に取り扱わなかったが故に、彼が自らの「自然の具象体に関する中断されたままの推論(interrupted speculation of Bodies Natural)」に帰る事が許されると望んだのだろうと思うのである。彼は自らのものを含め、闘争本能によって満たされた世界の創造的な仕事のために平和を求めたのである。しかしこのような事実があるからといって、彼の見解を｢現実逃避者｣のものと非難するいわれは無い。彼の理論が彼自身の人格の一つの側面を表している限りにおいては、それは同時にあらゆる場所の文明化された人間の必要とするものを表しているのである。

オースティンとショムロを傑出した人物として選び出せるであろうホッブスの後継者たちをたどってみると、｢法命令説｣が大きな変化を経験してきたことを発見する9。それはもはや、区別と定義の迷宮にあまりにはまり込んでしまったので、それをホッブスの単純で常識的な見解から導き出されたものと認めることは、時として難しい。私が思うに、この理論〔法命令説〕におけるこのような判りにくさは、二つの異なった方向から立ち現れてくる。

第一に、そのような混乱は、国家の構造の増大する複雑性を部分的に反映している。オースティンを悩ませた、主権を政府の阻止均衡に位置づけ分立させると言う問題に、ホッブスは何の関心も示さなかった。彼はひどく事実を曲解する事無しに、イングランドにおける統治者の権力が、王か摂政と言うただ一人の人間に委ねられるであろうと仮定できたのである。政府がより複雑になるにつれて、支配力を統一する主権者の権力と言う概念は、保持していく事がずっと困難になった。何故なら、それがもはやただ一人の人間の存在に由来する権力の座から、その統一性を引き出す事ができないからだ。その概念が関わっている統治の構造の複雑性が増す程に、理論自体の複雑性が増大せざるを得ないのだ。

Synopsis：判りにくさ、その一；主権者の権力構造の複雑化が理論の複雑化を生む。

第二に、――そしてこれが私にとっては、あまりはっきりとしていないながらもより重要な要素なのだが――ホッブスが倫理的に必要な物として見ていたものは、人事の許す限りできるだけ密接な近値値に近づくように成し遂げるべき、満たされるべく意図された、何か目的からは独立して存在する物として彼の後継者達からは見られていた。たしかに、まさに如何なる種類の「現実性」を後の実証主義者が、彼らの主権者に帰属させたのかという疑問が生ずる。しかし、彼ら（その後の実証主義者たち）がそれ（実在）を自然な所与のものと見なそうと、あるいは演劇の筋のようなそれ自身の内的な論理を伴なった一種の仮定的な実在としてのみ見なしていようとも、彼らの主権者は記述されるべきものであって、ホッブスがそう考えていたのと違って、実現されるべきプログラムではなかった。このように、主権の理論をその自然法の根源から解放することで、彼らはその後の実証主義者の理論を取り巻く難解で無益な議論への道を拓いた。

分析法学者達によって仮定された形式に、主権理論の要約を試みようとする際に、私は別な著者の見解を比較するつもりは無い。我々の当面の目的にとって必要なのは、ホッブスの後継者たちを困惑させた類の問題を概観することであり、それに答える際に用いられた方法が指し示すものを簡潔に示すことである.このような問題と神学のある種の問題との類似性は、すぐに明らかなことであり、後で言及しよう。私は分析法理学者の立場を、できるだけ好意的に述べるつもりである。もし彼らの解決がしばし言語上に過ぎず、形式的なものに見えるならば、それは彼等がそういう種類の解決を選んだからだというわけでなく、彼等が答えねばならないと考えた問題の視点では、それが彼らにとって開かれた唯一の類の解決方法だったからであるという事を、我々は思い出さねばならない。彼らの考えた目的という観点から、我々は彼らの業績を判断しなければならないのである。

すでに私が指摘したように、小さな主権者の問題と呼びうる一つの問題が、すでにホッブスによって整理されていた。分析法理学の視点からは、小さな主権者のように見える男―言うならば裁判官は、大きな主権者の代理人にすぎないと述べる事によってこの問題は解決されていた１０。裁判官の地位に関するこのような解釈が、彼ら自身のそれに関する理解に反していることは、まったく取るに足りないことだった。何故なら、もしも彼自身の理解している事が採用されるような事があれば、そういう理解によって、法秩序の統一性が破壊されてしまうだろう。ひるがえって、そしてもし私たちが、存在する／ある法の基準を保ち続けるようとすれば、今度は、それが基本的な前提になる。法の成長に影響を与えるような人の全てが、主権者の地位にまで登る事を許されているわけではない。例えば、起草者や教授は法を形成する手助けはする。がしかし彼らは、主権者の代理人と言う地位を与えられているのではない。彼らは単に、主権者やその代理人に自分達の意見が影響を与えるかもしれない人物にすぎない１１。このような影響がどのように働くのかという予測は、制定法に関する同様の予測よりも、より確実な事実的基盤に基づくかも知れないということは、もちろん取るに足らない。我々は、人間の行動を現に作り出す力に興味があるのではなくて、そのような力を法的なまとまりへと還元する、法的な解釈(construction)にこそ興味があるのである。

Synopsis：分析法学における小さな主権者（little sovereign）の問題
；重要なのは、その法的解釈にある。

主権者の力が、所与の社会にどのように位置づけられるべきなのかという疑問は、オースティンによって十分に答えられたが故に、後の実証主義者達は、あら捜しをする事も無く一般的に彼の答えを受け入れている。その答えというのは要するに、主権者というものは、社会が主観的に従っている人物、あるいは人々の集団であるというものである12。このような概念は、究極的には、習慣に法秩序を依拠させるものであると言う事は明らかである。何故なら、この概念に従えば主権者と言うのは、服従という慣習の単なる信託受益者にすぎず、彼の地位の安全性は、それを支える慣習の強度に依存する事になろう13。現実的には、慣習の役割は主権を決定する事に限定されるわけではなくて、法の内容それ自体が、そして主権者の代理の間での権力の割り当てまでもが、また大部分、慣習によって決定されている事は、同じように明らかである。社会の基本的な安定性を支えているものが、主権者の権力というよりは、むしろ慣習であるということは、次のポルタリスの観察からいっそう明らかであろう。曰く、｢人間は法以上に簡単に支配を変える事が経験的に証明されている。14｣しかしながら、オースティンと彼の後継者たちにとって、慣習のこのような効果は、法理学的に重要性をもたない単なる事実上の現実のものにすぎない。分析法理学の視点では、慣習は主権者を限定する場合にのみ、自身の力で作用するのだ。それが有するかもしれない如何なる効果も、それは主権者の寛容によってのみ存在するのであり、それゆえに、その意味からして主権者のものと仮定される命令に一致している事になる。

Synopsis：分析法理学における主権者概念の定義；社会の服従慣習

この事から次の事が明らかになる。それは主権者のある命令が時折無視されるとしても、つまり個々の法律が実際上従われなくともお咎め無しであるとしても、この事によってそれらの法としての性格を破壊するものではない15。もし破壊してしまったのならば、在る法に関する我々のテストは役に立たないものになるだろう。一つ一つのルールが主権者たちによって明示的にせよ黙示的にせよ命ぜられたかどうかを、我々はもはや問えなくなるだろう。しかしその替わりに、我々は一つ一つのルールが人間の行いの中でどの程度現実化されているかを問わなければならなくなるだろう。この事は明らかに、程度問題であるので、我々は在る法に関する我々のテストを失っていた事だろうし、単にあるべきにすぎない法からの汚染に大きく扉を開いてしまっていた事だろう。

Synopsis：前述の主張からの帰結；在る法に関するテストの無効

個々の法律を発している主権者が、もはや社会の大部分の服従をもはや享受していないと我々に言わしめるほどに高じていないのならば、これらの法律が執行され服従される度合いは重要ではない。そのような場合、われわれは無政府の状態にあるか、あるいは――そしてこちらの方がより一般的なのだが――新しい主権者の権力が生じてしまっているのかのどちらかにある１６。自然は急激な変化は起こさないと言われてきたが、オースティン学派に関しては、急激な変化なくして、自然は動く事はないと言われているのかもしれない。そういう言い方は、大革命は認めても、小革命は認めない。〔つまり〕主権と言われるような抽象的な事柄における変化は認めるのに、人々の織り成す日常生活の中での変化は認めないのだ。何故そうならざるをえないかは明らかだ。基本的には、実証主義が探求は、在る法を平易に明示し、それを単に生成しつつある、あるいは単に在るべき法から在る法を区別しようとする何らかの試金石のためだからである。このような試金石／テストは、オースティンと彼の学派によって、主権者と言う概念の中に見出されている。〔しかし、〕このような概念は、もし不変性と統一性を有しないならば、〔言い換えるならば〕常に起こっている小さな革命を吸収し乗り越えられないならば、恐らくその機能を果たす事は出来ないのだ17。

Synopsis:オースティン流主権概念に対する批判；
日常に起こる小さな革命(little revolution)を取り込めるか？

今議論した以上に厄介なのは、無慈悲な主権者の問題と呼んでもいいような一連の疑問から生ずるものである。主権者の概念は、法秩序に統一性をもたらし、実証主義を可能足らしめるべく意図されたものである。もしも我々の現実の主権者が慈悲深い主権者と呼びうるものであるのならば、分析法理学にとっての彼の有用性を損なうような事はしないであろう。まず第一に彼は、法的な全能者として振る舞おうとするだろう。何故なら、自らの権力に関してどんな法的限界でも在れば、我々はこのような制約に関して、調停者として行動するような何らかの予定しない第三者を呼び入れねばならない事になるだろうし、自然法と言う法的な地下世界からの審判のためにドアを半ば開いたままにせねばならないだろう。同様の理由から、我々の慈悲深い主権者は、矛盾する命令を発布するような事はしないであろう。何故なら、もし彼が矛盾する命令を発するような事が在れば、我々はその命令のうちのどれに従うべきかを決定する際に、何があるべきかという考慮を計算に入れる気になってしまうかもしれないからである。さらにもし彼が、ことのほか慈悲深いならば、彼は自身の命令が起こり得る紛争(dispute)の全領域をカバーするように気をつけるであろう。何故なら、もし法に欠缺が在れば、誰がその欠缺を埋め得るのであろうか。そして如何にしてか。

Synopsis：オースティン竜主権者命令説の難点２；無慈悲な主権者問題
――慈悲ある主権者概念の確認

しかし我々の現実の主権者が、法実証主義者の要求には配慮しないと判明していると仮定てみようか18。まず最初の例として、彼が自らの権力は法的に制限されていると宣言するとしてみよう。分析法学には、このような法原理の侵害を扱うのに、二つの方法がある。彼の役割を引き受ける事のできる何者かの存在が期待される場合には、この扱いにくい主権者は、単純に地位を下げられる19。いったん制定された法は、全住民の三分の二の投票のみによって変更する事ができると立法者が命ずれば、その場合我々は｢本当の主権者の権力｣は人民の三分の二にあると宣言する事ができるかも知れず、その場合立法者は、このより高い権力の代理人に過ぎない。もし我々の元来の主権者の義務を引き受ける事のできる他の権力が無い場合には、状況はもっと厄介な事になる。その場合には、ただ一つの方法だけが残されるのであり、それは大胆なものである。つまりは、このような自ら課した制約が、無効なものであることを宣言する事である。我々の主権者は非常に強大であるが故に、自分自身の権力を制限する能力を欠いている20。

　　Synopsis：法実証主義者の主権者の自己制限
　　 Synopsis: 現実の主権者と法実証主義の要求との関係

矛盾しあう命令に関して、われわれの主権者（君主）が法学に対する自らの義務を意識しており、また矛盾として現れるものは単に表面的にそうに過ぎないと仮定するならば、あらゆる疑念が解決できるだろう。もし主権者自身が自らの命令が矛盾している、あるいはそうかもしれないと宣言するならば、我々は当然ながらこのような方策から断ち切られる。そういう場合、我々はまた主権者が単純に悪いのだと言わざるを得なくなる。しかしながら分析法学の視点では、主権者は自分自身に矛盾することはできない21。これを主権者の権力に関する法的限界だと取り違えてはならない。なぜなら、彼の権力は限界などないままであるが、ある種の法学的制約に従属しているだけなのだ。このような主権者の権力の限界を、自然法に由来すると見なすべきではない。なぜなら自然法は善生〔Good　life〕に関わらねばならないものだからだ。一方で、このような制約は、ある種倫理的に偏っていない法理論的な要求に由来してもいない。（Neitherの効力をどこまでと見るか）

Synopsis：分析法学による主権の限界説の誤謬の２
　　　　　　　　　　；主権者の自己矛盾的命令は、主権者の制約となるか。

法の欠缺の問題は、おそらくあらゆる問題の中で最も困難なものである。法実証主義は、実定法というシステムの中でできる限り多くの欠缺をふさぐ際には、確かに有利である。何故なら欠缺があること自体が、自然法や倫理に対して進入可能なポイントを示すからである。この問題に対する一つの解決は、法には欠缺など全く無いと言う事である。何故なら主権者が禁じていない事は、彼が暗黙のうちに許している事だからである。したがって、もし原告が主権者によって作り出された現存する強制機関に訴訟を提起し得ないならば、被告に有利な判決に達しなければならず、このような判決は基本的に、主権者の暗黙の命令によってもたらされたものなのだ。これは、最も極端でかつ抑制的な形式を有する既存の法秩序の完全性に関する理論である22。一般的に、法実証主義は（judge-made law）裁判官法の発展を阻害していると非難されることを望まないが故に、法における欠缺の問題をより抽象的で、あまり抑止的でないやり方で解決してきたのだ。事例に先立って存在しているルールはないかもしれないが、事件を処理すべく準備されている機構はある。事件を判断する裁判官は、主権者から権能を与えられた代理人であるであり、当然に彼の命令は主権者の命令である。従って、実際に法に欠缺などはない。というのも、規定の存在しないケースというのも本当は規制されているからだ。すなわち主権者は、あらかじめ次のように命じているのである。「新奇な事例（novel impression）」が起こったならば、適応されるべき準則は、彼の代理人や裁判官が適切と考えたものでなければならない23。これが裁判官自身が物事を見ているやり方ではないということは、またどうでもいいことである。裁判官自身の見解によればそれを律する「法が不存在」であることから、その訴訟につき判断するのを拒否することは、法の欠缺の存在を確定するものではない。なぜなら、分析法学の観点からは、被告勝訴の判決は、原告勝訴の判決と同じように法による判決だからである24。裁判官は、彼がそれを拒否すると述べている時であっても立法しており、そして彼がこのように立法したものは、主権者の採択によって主権者の法となる。この解決方策は、言葉遊びのように見えるかもしれないが、しかし少なくともそうする事によって、実証主義の原理を形式的には完全に維持している。

　　Synopsis：法の欠缺問題に関する法実証主義者の理論；主権者の命じていないものは黙示的に許されている。

分析法学は、恐らく法・国家・主権者から成る三位一体の内的関係を扱う時に最も神学に接近する。これらは三つの事柄なのか、それとも同じ事柄の三つの側面なのか。国家は法の人格化なのか、それとも法が国家の道具であるのか。国家は主権者によって建設された何物かなのか。あるいは主権者は、国家の人格化に過ぎないのか。ここで政治理論のこれらの細かい諸点を議論しようというつもりは、私にはない。しかしながら、それらが２０世紀の知識人によって真剣に論じられてきたという事実は、それらが仕えようとする目的への言及なしに概念的実在を取り扱おうという危険の十分な兆候であり、極めてありふれた間抜けな行動は、何をすべきかという事を忘れてしまうことにあるというニーチェの辛辣な格言のもう一つの例である。

　　Synopsis：法、国家、主権者との関係における分析法学における議論は神学の如し。

〔1998年12月第一回読了〕
〔2003年2月3日　第一回見直し終了〕

１ Cohen, A critical Sketch of Legal Philosophy in America, in 2 Law, A Centry of Progress ( pub. by New York Univ. Press, 1937) 266,285.

2 私はまた最近出版された三冊の本の書評の中でも自然法対〔法〕実証主義の問題点を取り扱った。Hall,Reading in Jurisprudence (1939) 78 U.of Pa.L.Rev. 632; Pound,The Formative Era of American Law (1939) 34 Ill.L.Rev.372; Williston on Contracts (1939) 18 N.C.L.Rev.1,13-15. これらの書評は、私がこれらの講義で述べることになっている事柄を、一定の点で、補っている。特に、それがこの国の現代の思潮に影響を及ぼしている限りのことである。

３ベルグボーム、法理学と法哲学（1892）。51；ギルヴィッチ、自然権？？？（1933）。

4 ベルグボーム、法理学と法哲学(1892)232et seqも参照。

5 ホッブズの著作の中で我々の議論に最もかかわり合うものは、もちろん、「リバイアサン(Leviathan) 」である。（以下の引用文はスミスの編集による版、Oxford Univ.Press,1909のページ数による。）「法の要素(The Elements of Law)」(ed.T nnies,Cambridge,1928) 」と「コモン・ローに関するある問答(A Dialogue of the Common laws) 」in 6 works(Molesworth,1840)3-160も見よ。私がここで提供しようとしていないものである―主権理論の完全な歴史的取り扱いには、もちろんボディンの研究が含まれねばならないだろう。この講義の記述からは、私は彼を除くことが可能であると感じている。部分的には彼の実証主義が、ホッブスのものよりは自然法の色合いがより濃いものであって、明らかに非常に｢不純な｣様相を呈しているからであり、かつまた彼の著作は、（政治とは区別された）法的な主題に関して、後世の著述家たちにはっきりと影響を及ぼしてはいないからである。ボディンに関しては、McIlwain,　Constitutionalism and the Changing World(1939)40-55,とその他随所を、またSabine,　A History of Political Theory(1937)399 以下のページを参照の事。ホッブスの見解が、プロタゴラス(Protagoras)によってすでに論じられていたというギルビッチ(Gurvitch)の主張[Droit naturel ou droit postif intuitif?(1933) 3 Archives de philosophie du droit et de sociologie Juridique55,59]は、プラトン(Plato) とディオゲネス・ラエルティオス(Diogenes Laertius)〔ギリシャの哲学者たちの列伝的哲学史を書いた、紀元２４０年頃の人物〕の中で述べられているプロタゴラス哲学へのわずかな言及によっては正当化されないように思われる。確かに、しきたり（convention）対理性というテーマは、ギリシャ哲学の中でたびたび繰り返されたテーマである。しかしギリシャ思考に欠けているものは、しきたりの最終的仲裁人として振る舞うものとして設立される何らかの機関という概念である。ホッブスの哲学の基礎になっている精神に関する限りでは、サビーネ(Sabine)が、ギリシャ人の中では、エピクロス学派がおそらく彼に最も近かったと主張している。前掲書132-136頁。

6 リバイアサンの特に14、15、21、27章を見よ。

7 Recht und Staatstheorin der Neuzeit (2d ed. 1925)15. Del Vecchio, Lezioni di Filosofia del Diritto (3d ed. 1936) 65; Brgbohm, Jurisprudenz und Rechtsphilosophie(1892) 164; Robertsin, Hobbes(1886)142.などを参照。

８ Leviathan 213 ［143］

9 オースティンの『法理学講義(4^thed．1879)』、そしてショムロ『一般法学(2d ed.1927)』参照。(広範な書誌学的一覧を含むショムロの著作は、実証主義に関する著作の全体像に接近する手段を与えてくれる。)

　もちろん私がここで『分析的法理学』の全学派を適切に扱おうとすることはむりだ。パウンド｢法の過程、分析的法理学(The Progress of the Law, Analytical Jurisprudence) 1914-1927｣(1927) 41 Hav.L.Rev.174、同じくパウンド「法学の五十年(Fifty Years of Jurisprudence)(1937-1938)」50 Harv.L.Rev.557,51Harv. L.Rev.444,777；コクーレク『ジョン･オースティン以来の分析法学の世紀(The Century of Analytic Jurisprudence since John Austin)』printed in 2 LAW, A Century of Progress(pub. By New York Univ. Press, 1937)195.

法実証主義に関する歴史の中で、もっとも好奇心をそそる著作は、ベルグボームのものである。Bergbohm, Jurisprudenz und Rechtsphilosophie(1892). この著作の中でベルグボームは、彼の時代のあらゆる仮想的実証理論は、実は非常に自然法的な要素の影響の強いものであることを示そうとしていた。計画していた第二巻で彼は、この状態を改善し、法思想から自然法を完璧に排除するような、明確な実証主義的基準を引き出そうと計画した。〔しかし〕第二巻は、現れることは無かった。

１０オースティン、前註 104 ；ショムロ,　op.　cit. ∫106

１１オースティン、前註 104；Lecture XXX; ショムロ　,op.　cit. ∫106,p.359;　ホッブス,Leviathan 212[143]

12 オースティン、前掲註226。Et seq.:ショムロ, op. cit 29

13 デル・ビッキオは一段飛躍して、｢主権者｣の背後だけでなく主権者を作り出す｢服従の週間｣の背後をも洞察している。｢法｣を作り出している要因の全体的な複雑性における最も永続的な現実は、人間の理性の内にあると論じている。何故なら、所与の法システムが一般的な承認を得るだろうかどうかは――服従の習慣を不可欠のものとするのかどうかは――、究極的にはそれが人間の理性に訴えかけるものかどうかに負っているからなのであると主張しているのである。　Il Problema delle Fonti del Diritto positivo(1934) 14 Rivista Internazionale Di Filosofia Del Diritto 184.

参照、「さてあらゆる法は、排他的に国家に、あるいは国家を通じてその起源を獲得するという実証主義派のフィクションを考察してみよう。今やそれは、確固とした基盤の上にあるように見える。そしてまたそこでは、少なくとも人は自分がどこにいるのかを知っている。〔しかし〕あなたは、間違っている！探求をもう少し推し進め、国家という概念を超えなさい。そうすれば、自分自身がまさにどこに立っているのかに気づくであろう。かつて非情にまじめに警告された法をもたらす権力を専横するあらゆるものが、再び舞台に返り咲く。つまりは、『人間の本性『強者者の自然権』――同様に『理性』に根ざした『平和的秩序』･･･。全てあまりに多くの野を問うことによって葬り去ったもの達だ。」ベルグボーム、Jurisprudenz und Rechtsphilosophie (1892) 116-117.

14 Discours Preliminaire, in I Logre, La Legislation de la France (1892) 116-117.

15 ショムロ、op. cit. 35

１６オースティン、前掲註２３０－２４０；ショムロ前掲註31－32、39－40

17 「　　　」ショムロ、op. cit. p.313.

18 統治という事実を主権者と言う方理学的な鋳型に課すという仕事の難しさは、時としてショムロにとっては過酷なものになったようだ。ある場所で彼は、次のように宣言している。「　　　　」Op.cit.p.17.

19 全掲註12と16を参照。

20 オースティン、op. cit., Lecture Ⅵ, 特に254,264,270-298. ショムロは、主権者が命令するのと同様に約することもできると考えているが、主権者の約束によって課された責務は、オースティンの言う｢実証的道徳｣に負っている。しかし｢法的には｣、主権者は何時でも自らの約束を撤回することができる。Op.cit. 94 and 104.

　｢･･･しばしば否定されるものではあるのだが、主権者は法的限界から逃れられないと言うボディン―ホッブス―オースティンの前提は、法的真実の逃れられえない前提である。根本原理以上に究極的なものなどありえない。｣コクーレク、Op. cit. supra, note 9. 200. 参照。「拘束的な責務をする権利は、主権者に付属する能力である。」Hughes, C.J., in Perry v. United States,294 U.S. 330,353(1935).

21 「最高の法的権力の表現したものがみな法的準則の首尾一貫したシステムと解釈されねばならないという命題は、法それ自体の性質からくるものだ。それ故にそれは避けられない。主権者の表明は解釈されてはならないとか、立法者のそれぞれの表現は単独で考慮されねばならないという主旨で、それがあるかもしれない法的な条項の影響を受けることはありえない。立法者の矛盾を解釈で何とかしきることはできないのだと言う明確な準則によって、それが廃棄されることさえありえない。」ショムロ、前掲註383。ケルゼンは主権者の概念を不要にしているが、彼はまた単一の法秩序内部の矛盾の不可能なことを当然のこととしている。純粋法学（1934）84-89。もしもそのような矛盾が認められれば、｢法秩序の一体性は、失われるだろう｣と彼は述べている。法実証主義もまた同様の絶滅〔の危機〕に見まわれるだろうと言い添えても良かろう。

22 Bergbohm, Jurisprudenz und Rechtsphilosophe(1892)参照。

23 ショムロ、op. cit. 117. 彼の言う法における｢技術的欠缺｣の問題を解決する際に、ケルゼンは、もちろん主権者と言う概念を導入することはしないが、事実上同様の解決に到達している。 Reine Rechtslehre(1934) 40-41. ｢法の欠缺｣と言う想定問題は、政治的な理由から自然法の支持者によって大げさに想定されたものだとショムロとケルゼンは考えている。ショムロはこういう法律家をマーク・トウェインの物語の中の人物になぞらえている。その作中人物は靴を食べながら、最も好きなのはどの部分かと聞かれ、「穴のとこ」と答える。ショムロによれば自然法に対するパルチザン達が実定法に対して最も好むものは、その穴であり、彼らは当然のことながらその存在と重要性を誇張しがちである。ショムロ、op. cit. p.410.

24 ケルゼン、Reine Rechtslehre(1934)　40.；Goble, Affirmative and Negative Legal Relations(1922) 4 Ill.L.Q. 94,98; (1919) 28 Yale L.J. 387,391 (a Case Comment by Professor Cook). この見解に関する批判的なコメントは、パウンド参照。Fifty Years of Jurisprudence (1937) 50 Havard L.Rev. 557,574, n.81; and Fuller, Legal Fictions (1931) 25 Ill.L.Rev 887,892, n.208.