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沖縄県本土復帰30周年記念番組
(2002.4.27〜4.30/那覇)

 沖縄県本土復帰30年にあたり、開局30周年となるNHK沖縄放送局が記念番組を制作することになった。第一夜が沖縄の伝統芸能、第二夜が金井喜久子作品展だという。これは実に画期的なことだ。沖縄の伝統芸能なら、誰もが考えつくだろう。しかし金井喜久子を取り上げるとは、ずいぶん凄いことを考える人が居るものだと感心させられた。
 女性を特別扱いするのは好きではないが、少なくとも金井が日本人女性として最初にオーケストラ曲を書いたのは事実だ。しかも、まだ民族音楽など注目されていなかった時代に、彼女は琉球民謡を作編曲していた。もともと民謡の好きな私が金井の作品に興味を持ったのは、ごく自然の成り行きだったわけだが、実際に楽譜に向き合ってみると、方言の種類の多さや、完璧に仮名表記できない独特の発音に悩まされた。それでも、ようやく2000年3月13・14日に録音し、同年6月にCD発売に漕ぎ着けた。
 こうした経緯と、第一夜の伝統芸能の公開録画を鑑賞したい一心で、私は沖縄で琉球民謡を歌うという怖い者知らずの仕事を引き受けた。そして2年ぶりに那覇を訪れることになったのである。

 今回のホテルはナハテラス。毎日の楽しみは庭を眺めつつ食べる朝食だった。2階には(上の写真のように)小さなプールもあり、仕事がなければ1日中ぼんやりとプールサイドで過ごしたいほどだった。朝食後は、1階の中庭でゆっくりとコーヒーを愉しんだ。沖縄にはパワーがあるのか、ホテルに居るだけで、なぜか元気が湧いてくる。
 食べ物も美味しい。国際通りを公設市場の方に曲がると、さとうきびジュース屋さんが何軒かある。そこで飲んだ朝獲りのさとうきびジュースは、信じられないほど美味しかった。今回はピアニストの岡田知子さんと一緒だったので、いろいろな場所に出掛けて食事をした。中でも一番感動したのは、公開録画終了後に行った「ぱやお」で、ぱやおは魚礁(ブイ)という意味らしい。ちょうどお店の奥に個室感覚で使える部屋が増築されたばかりで、木の香りも清々しい素敵な空間で沖縄料理を堪能させていただいた。写真手前はスミジューシー(イカ墨の雑炊)、左がお馴染みの沖縄そばで、奥が石垣島直送のしゃこ貝のおさしみ。このしゃこ貝があまりに美味しくておかわりまでしてしまった。ほかにもたくさん頼んだのに、写真を撮るのも忘れてどんどん食べてしまった私(たち)……。

 今回の収穫のうち、最も印象的だったのは三線との共演だ。初共演させて頂いた山内昌也さんは1973年生まれで沖縄県立芸大の御出身。地元のベテランからも注目され、組踊地謡界のホープとして活躍されている。山内さんは、小学校入学後、まずピアノを習い、五年生のとき三線を始められたとか。西洋のクラシック音楽にも通じているため、いとも簡単に私の未熟さをカバーして下さった。
 29日の公開録画のメインは、金井喜久子のオーケストラ作品と創作舞踊によるステージだ。山内さんも『琉球舞踊組曲第二番』に参加して三線を弾いておられた。オーケストラはアマチュアの沖縄交響楽団と聞いていたが、その演奏は大変素晴らしく、とくに沖縄独特のリズム感はどんなに上手いプロのオーケストラでも容易に真似できるものではないと感じた。中でも打楽器奏者7人が「四つ竹」を同時に鳴らす箇所は圧巻だった。
 また27日の伝統芸能の夜では、「二面踊り」に驚かされた。伝統芸能とはいえ、“大城政子の選曲・振り付けによる創作舞踊”と解説されていたので、さほど古いものではないのかも知れない。最初、アンガマの翁面を付けて踊りながら出てくるのだが、足元を見なければ後ろ向きだとはわからない。後ろ向きの踊りには得も言われぬ滑稽味があるものなんだと感心させられた。後半は前を向いて普通にお化粧した顔で踊ったり、表裏がくるくる転換するのだが、衣装は前後とも左前に着ており、人生における老いと若さの両面を踊りで表現しているのだという。
 このように沖縄ではただ古典を伝承するだけでなく、次々と新しい創作舞踊が生まれている。ここに沖縄パワーの源泉があるように思えた。

 29日の金井喜久子のオーケストラ曲に付けられた創作舞踊も実に見事だった。最初、琉球舞踊とバレエの共演なんてどんな風になるんだろうと思っていたが、琉舞の伝統を踏まえた上で踊るバレエは、音楽ともまったく違和感がなかった。それどころか、金井の音楽自体が琉球民謡を西洋音楽の書法でオーケストレーションしたものなので、琉球舞踊とバレエの共演があまりに作品の本質をついていることに瞠目させられた。沖縄は奥が深い、というのが偽らざる実感だ。
 30日は、ゆっくりと首里城周辺を散策し、紅型の工房で、古い楽器や漆器、調度品などを見せていただいた。絹芭蕉やオリジナルの紅型の反物なども溜息がでるほど素晴らしかった。もちろんNHKの出演料で買えるような作品はないため、今度は紅型貯金をして出直そうと心に誓った。
 もっともっとたくさんの琉球民謡をきちんと歌えるようになって、紅型の衣装を自分で縫ってコンサートができたらいいなあ…と、つくづく思う。

 ビデオから画像を保存するなんて芸当はアナログ人間の私には無理ですが、人様のページにupされていたものを肖像権は私にあるだろうと踏んで転載させていただきました。

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