栄冠は誰の手に

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第2試合は、布都彦・遠夜・ナーサティヤが出走した。拾った木簡の記述は、兄・足付茶器・棺だった。布都彦は暫し考えてから道臣の元へ、遠夜はすぐに千尋の元へと駆けて行き、ナーサティヤは迷わずゴールへ向かって走った。
ゴール前で、ナーサティヤは一言エイカの名を呼ぶ。それだけで、エイカは瞬時にナーサティヤの元へと馳せ参じると、ナーサティヤに続いてゴールラインを越えた。
「これが身に着けている物が”棺”だ」
「はい、確かに…」
木簡とエイカを示すナーサティヤに、道臣はしかと頷いた。土蜘蛛の衣が”棺”と呼ばれていることは、遠夜によって知らされている。
続いて、ゴールへと駆け込んだ布都彦は、道臣に木簡を示すとこう告げる。
「日頃より兄上のようにお慕いしておりますれば、私のこの課題を達成出来まするのは道臣殿を置いて他にないものと存じます」
自らも布都彦を弟のように思っている道臣に、否やなどあろうはずがなかった。
一方、遠夜はまず最初に千尋に木簡を示すと、そこに書かれた物を読み上げてもらった。千尋から文字を習ってはいるが、そこに書かれた物は読めなかったのだ。
「神子…読んで…」
「足付茶器…だね。これって、もしかしてアレのことかな?」
千尋は遠夜の手を引いて、リブの元へと向かった。
「ねぇ、これってリブがアシュヴィンにお茶煎れる時に使ってるやつのこと?」
「はい、そうです。こちらのことですね」
リブが茶器を取り出すのを見て、千尋は手を差し出して言った。
「それじゃあ、リブ…それ持って一緒に来てくれる?」
「はぁ?」
「ほぉ…茶器を貸せとは言わないのだな」
貸せと言われなかったことにリブもアシュヴィンも驚いたが、千尋は当然のように応えた。
「だって、大切な主が口を付けるものを他人の手に委ねるような真似、リブがするはずないもの。アシュヴィンだって、そんなこと認めないでしょう?」
それを聞いて、アシュヴィンは楽しそうに笑うと、リブの手から茶器を取り上げた。
「ははは…よく解ってるじゃないか。では、俺が一緒に行ってやろう」
僅かな時間でも千尋の手を取れるチャンスを、アシュヴィンは見逃したりはしなかった。

第3試合は、風早・千尋・リブが出走した。拾った木簡の記述は、千尋の服・先生・天鹿児弓だった。まるで三すくみの状況である。
「これは、那岐の字ですね。でも、例え千尋が出走中でも、俺には簡単に用意出来ますよ。何しろ、俺は千尋の侍従ですからね。着替えの場所はよく知ってます。ああ、でも、千尋に無断で勝手に着替えを持ち出したら怒られるか……とは言え、千尋は出走中ですから許可を求められないし…」
「これ、風早の字だよね。自分達が引いたら岩長姫を連れて行くつもりだった訳か……ってことは、岩長姫に一緒に来て欲しいって言っても、そう簡単には来てくれないってことだよね。だったら、その時は…」
「…これは困りました。姫は出走中ですから、ゴールして下さるまで協力を求めることは出来ない規則でしたね。仕方がありません。ゴール脇でお待ちしましょう」
リブはすぐさまゴール脇に座り込んだ。すると、アシュヴィンが駆け寄って来る。
「リブ、何をそのようなところで寛いでいる!?」
「はぁ…姫のゴールをお待ちしております」
アシュヴィンは、リブが掲げた木簡を見て瞬時に理由を悟った。
「…運のないことだ」
「申し訳ありません」
千尋は念の為に岩長姫に交渉に行ったが予想通り断られた。そして、風早は千尋の服を借りる許可を得るべく、忍人に協力を求める。
「千尋の服を借りたいんだけど、いいかな?」
「そういうことなら彼女に直接……そうか、出走中は…」
「ええ、そう言う訳で、夫たるあなたの許可を得て着替えを取って来ようと思って……許可してもらえます?」
「いや…幾ら夫婦でも、それは俺が勝手に許可して良いものではないだろう。貸すも貸さないも千尋次第だし……ちょっと待ってろ、千尋に確認して来る。確か、味方なら出走者に協力を求めても反則にはならなかったはずだな」
千尋の元へ向かおうとする忍人を、風早は慌てて引き止める。
「あっ、だったら…まずは上着を貸してくれるか訊いてください。それがダメなら着替えを取って来ても良いかってことで…」
「解った。行って来る」
忍人に問われた千尋は、あっさりと上着を渡してくれた。千尋はそれを持ってゴールした風早に駆け寄ると、ニッコリ笑って手を伸ばす。
「風早、私に借りられてくれる?」
「俺ですか?良いですよ、喜んでお供します」
千尋に求められた風早は、差し出された手を大喜びで握ると、再びゴールラインを跨いだのだった。

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