栄冠は誰の手に

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スウェーデンリレーが終わると、お昼休憩の時間が設けられた。
「アシュヴィン達は、お昼、どうするの?一緒に食べる?それとも、何か用意して来てるとか…?」
「携帯食があるにはあるが……お前の誘いとあらば、馳走になるか」
「僕も一緒に食べるよ、お姉ちゃん」
シャニも喜んで、アシュヴィンと一緒に千尋に付いて来た。リブもすかさずアシュヴィンに続き、しばし考えた後ナーサティヤ達も付いて来る。
千尋がアシュヴィン達を案内した先では、忍人の指揮下、運営スタッフの兵士達がきびきびと動き回って肉や野菜を焼いていた。千尋からすれば、運動会の合間にバーベキュー大会をしているようなものである。
「シャニ、肉ばかりではなく野菜も食べろ。サティにバレたら、また叱られるぞ」
「え~、でも…」
野営時さながらに丸ごとかざっくり切られただけの野菜には、シャニは少々苦手意識が先に立った。しかし、アシュヴィンの言うように肉ばかり食べていることが上の兄にバレたら、長々とお説教されるに決まっている。それでも、なかなか手を出せずにいると、千尋が見慣れぬ物を手にしてやって来た。
「お野菜が食べにくいなら……シャニも、これ、食べてみる?」
それは、饅頭で肉と野菜を挟んだ物だった。肉も野菜も薄く切ってある。
「丸齧りって思ってたよりも大変だったんで、忍人さんに切って貰っちゃった」
見れば、端の焜炉では忍人が俎板も使わずに小柄で肉や野菜を火の上で削ぎ切りにしていた。
試しにアシュヴィンも食べてみると、これがなかなか旨く、食べやすかった。シャニもこれなら野菜も食べられる、とお代わりをし、次第に他の者達も我も我もと端の焜炉に押し寄せた。
「お前達、黙って見ていないで、厨房で材料を切り直してもらって来い。柊、欲しければ自分で切れ。風早もだ。二人とも……少しは手伝ったらどうなんだ」
忍人は部下を叱り飛ばし、皆と一緒になってちゃっかり順番待ちしている兄弟子二人を追い立てた。何しろ、兵士達はぶつ切りには出来ても薄切りには出来ない。こんなことが出来るのは、同門の3人だけ。同じ岩長姫門下とは言え、道臣はこういうことはあまり得意ではなかった。
最初こそもの珍しそうに齧り付いていた千尋が、少々難儀し出したのを見て「食べやすく切ってやろうか」と言ったのが運の尽き。気が付けば、この焜炉を任せたはずの部下は隣の焜炉の前で見物人と化している。思わぬ人気に、忍人はせっせと肉と野菜を切り続ける羽目になった。それでも、隙を見て一口大にして手元に落とした肉が焼ける度に自分の口に放り込み、食事をとることは忘れない。
その騒ぎを横目で見ながら、反対の端の焜炉では、 那岐が自分で持ち込んだ茸を勝手に焼いて食べていたのだった。

昼食後、全員参加による総当り戦の綱引きが行われた。
結果は、白組が2勝で1位、黒組が1勝1敗で2位、紅組が2敗で3位となった。
戦闘能力の高い忍人と言えど、力の有り余っている岩長姫と布都彦には敵わなかった。頭数が一人多いことなどあの二人の破壊力の前には意味などなさず、立ち上がりの早さでこそ勝っていたものの、すぐにズルズルと引き戻され、気合い一発で敗北した。
「力比べとなると、師君と布都彦の得意分野だな」
「皮手袋って反則になるんじゃないの?」
「う~ん、でも、あれって柊の一部みたいなものだし……アシュヴィン達にも、手袋を取るように言ったら喧嘩売ってることになりそうだから、黙認するしかない気がするよ」
それでも何とか、綱を引くなどという行為には慣れていないアシュヴィン達には、立ち上がりの早さかコツを知る千尋と那岐が居たおかげか、辛うじて勝利することが出来た。

むかで競争では、足往とシャニがメンバーから外れての一発勝負だった。
結果は、1位が紅組、2位が黒組、3位が白組だった。
互いの身長と歩く速さの差分が少なかった紅組は、初めてとは思えない綺麗な走りでゴールテープを切った。
黒組は、千尋の歩く速さと歩幅を良く知る忍人が、上手く調節して危な気ない足取りで進んだが、その分、紅組の走りには及ばず、二着と相成ったのだ。
そして白組は、歩調が合わずに、またしても転倒した。
「あんたら、もっとしっかり走んな」
「申し訳ありません!」
「俺は精一杯やってます」
「……師君が速すぎるんですよ」

玉入れも一発勝負となり、 試合の結果は、1位が紅組、2位が白組、3位が黒組だった。
高みに設えられた籠に布で作った玉を放り込むだけの単純な競技だったが、これがなかなか上手く籠に入らない。最初は一生懸命に玉を放り投げていた千尋は、自分が闇雲に外れ玉を量産して足を引っ張っていることに途中で気付き、自分は玉を拾い集めることに専念し、それをほぼ百発百中の忍人に渡す作戦に切り替えた。しかし、追い上げ空しく最下位となった。
そもそも、他の組が上手過ぎた。序盤で何個か連続で失敗したものの、残りは投げた玉の殆どが綺麗に籠に入っていく。風早は手慣れたように、柊も片目とは思えないくらい確実に玉を投げ上げた。布都彦も岩長姫も、序盤の失敗を踏まえてすぐに力加減などを微調整して、次々と成功を納めていった。
紅組は、最初から主に玉を拾わせない二人の従者の献身が功を奏し、布都彦達同様に失敗からの立て直しが早かったアシュヴィンとナーサティヤの活躍が光った。マイペースで競技を楽しむシャニの玉も幾つか入って、終わってみれば僅差で白組に勝っていた。

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