婚礼衣装は誰が為に

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婚儀を終えて、千尋の部屋には改めて祝いを述べるべくアシュヴィン達がやって来た。
勿論、普段着に戻った忍人や、柊、風早なども集まっていた。千尋もかつての戦いで纏っていた動きやすい服装になっている。
「ああ、そうだ、忍人。頼まれた物を持って来てやったぞ」
「感謝する」
忍人はリブの手から箱を受け取ると、千尋の方へと差し出した。
「これは君の物だ」
開けてみるとそこには真っ白なドレスとベールが入っていた。
「これ、ウエディングドレス!?」
「常世の花嫁衣装だ。忍人から是非にと頼まれて用意したのだが、お前にそれ程に喜んでもらえるなら、作らせた甲斐があったというものだな」
「凄い!ありがとう、アシュヴィン、忍人さん」
嬉しそうにドレスを抱えると、千尋は早速着てみるために奥の間へと駆けこんで行った。そして程なく大声を出す。
「風早~、背中留めて~!それと、髪もお願~い!」
身体にフィットした服の背中を留めるのはファスナーでも難しいところだが、このドレスはボタン留めになっていた。とても一人では着られない。指名を受けた風早は、すぐに奥へと飛んで行った。
その背中を見送りながら、アシュヴィンは呆れたように言う。
「しかし…お前も大概変わった男だな。自分の女に贈る服を恋敵に用意させるなど、正気の沙汰とは言えんだろう。千尋に常世の花嫁衣装を贈りたい、と文が来た時には、俺との縁談がまとまったのかと少々期待もしたのだぞ」
言われてみれば、と柊もアシュヴィン同様に呆れた顔になる。
「おまけに何だ、妻の身支度を他の男にさせるとは…。夫の自覚が足りないんじゃないのか」
「風早は昔からあれが仕事なんだ。今更とやかく言っても仕方がない」
それに忍人には見慣れない常世の服の着せ方など解らない。手慣れた風早に任せた方が互いの為だと思うのだった。

「タタタタ~ン、タタタタ~ン、タタタタン、タタタタン……」
着替え終わった千尋は、楽しそうに歌いながら風早と腕を組んで現れた。
不思議そうな一同に構わず、ゆっくりと忍人の前まで歩いてくる。
そして、風早から腕を解いて忍人に腕を絡めると、満足そうに笑った。
「これがやりたかったんだぁ。本当に二人ともありがとう。でも、よく寸法が解ったね」
女王の正装は帯でいくらでも調節出来るが、このドレスはそうはいかない。それが、千尋の身体に完全にフィットしている。作らせた、とアシュヴィンは言っていたが、まさしく千尋のためのオーダーメイドであるようだ。
「そのくらい、見れば解るだろう。多少の変化も考慮して、忍人に改めて確認はしたがな」
「嘘っ、何で忍人さんが知ってるの!?私、忍人さんに寸法教えた覚えなんてないよ」
忍人が、アシュヴィンのように見ただけで女性のスリーサイズを正確に把握するようなスキルを有しているとは思えない。
驚いた顔で自分を見つめる千尋に、忍人は事もなげに答えた。
「君の体型なら、全てこの身体で覚えている」
忍人は、その記憶を元に割り出した数値をアシュヴィンに伝えたのだった。
「全て身体でって……忍人、結婚前に千尋にそんなに何度も手を出したんですか!?」
「人聞きの悪いことを言わないで貰いたい」
忍人は、動揺する風早が呆れたような目を向ける。
「千尋はよく俺に飛びついてくるだろう。だから、受け止めた腕の感覚で、寸法も…その変化もよく解る」
成程、と納得しかけて、千尋はハッとなった。
「それって、もしかして、私の体重も解るってこと?」
「正確には言えないが……およそ米三斗半だろう」
米一斗が約15㎏と風早に教えてもらい、計算した千尋は真っ赤になる。
「…正解。忍人さんって、私のことなら何でも解っちゃうのかなぁ」
「君のことが何でも解るようなら苦労はしない。君はいつも、何を考えているのか解らないようなことばかり仕出かしてくれるからな。俺はいつでも気が気じゃない」
忍人はそう言うと、心底困った風に溜息をついたのだった。

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