ある非日常・3

公園のベンチでリュミエールが一休みしていると、頭上から声が降って来た。
「こんなところで、お昼寝ですか?リュミエール様。」
セイランだった。何やら、板状の包みを抱えていた。
「こんにちは。いいお天気ですね。」
リュミエールは当たり障りない返事をし、セイランの出方をうかがった。
「今日は、リュミエール様のお誕生日だそうですね。」
「ええ。」
またか、とリュミエールは思った。朝から意外な人物にばかり、誕生日を確認されているが、何でまたセイランまでもがそんなことを言うのか不思議だった。そして案の定、セイランも手にしていたものを差し出してこう言った。
「どうぞ。プレゼントしますよ。」
リュミエールは目眩を覚えながらも、何とか表面上は穏やかな笑顔をキープして、礼を言いながら包みを受け取った。
「興味深い楽譜を見つけたんでね。僕には演奏できそうにないし、ちょうどいいから差し上げますよ。」
包みを開けるリュミエールに、セイランは楽しそうに補足説明を加えた。
取り出された楽譜には、リュミエールの知らない曲名が書かれていた。
「『5分03秒』ですか。変わった曲名ですね。」
「ちょうどいいでしょう?」
「そうですね。ありがとうございます。」
楽譜は丁寧にビニールパックされているので中は見られないが、面白そうな楽譜が手に入って、リュミエールはとてもうれしくなった。
「宜しければ、今度、演奏を聴きにいらっしゃいませんか?」
「その曲の?」
聞き返しながら、セイランは爆笑しそうなのを堪えているようだった。
「ええ、その時はこの曲もお聴かせしたいと思います。」
「楽しみにしてますよ、リュミエール様。それじゃ。」
セイランは本当に楽しそうに去って行った。
リュミエールはセイランの反応を不思議に思いながらも、ビニールパックされた楽譜を大切に包み直し、私邸に向かって歩きだした。

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