L&A探偵物語

<THE LAST CHAPTER-2>

しばらくすると、アリオスはレヴィアスが倒れた原因が過労などではないことに気付き始めた。だが、正面から聞いたところでレヴィアスもセイランも答えるはずがない。そこでアリオスは勝手に調べることにした。
かといって1人で調べるには限界があるし、調査と言ってもこういうのはかなり畑違いだった。考え倦ねたアリオスは、エルンストは勿論のこと、関わり合いになりたくなかったオスカーまで協力させて様々な方面から情報を集めて行ったのだった。
そして行き着いた結果は、全て同じ答えを導き出した。
「『急性骨髄性白血病』か。」
アリオスの調査内容も、エルンストのデータ解析も、オスカーの聞き込みも、見事に一致した。信じたくはなかったが認めざるを得ないだろう。
「サンキュ。お前らはここまででいいぜ。」
調査資料を掻き集めて手を振るアリオスに、オスカーが後を追う。
「おいおい、水臭いこと言うなよ。俺だって献血くらいは出来るぜ。」
「要らねぇよ、何か病気うつされても困るし。ここから先は俺の役目だからな。」
アリオスは突っぱねるように言うと、なるべく軽い調子を装ってセイランの元へと出かけて行った。
研究室に居たセイランは、食事までかなりの間があるにも関わらずやって来たアリオスを訝しみながら、表面上はいつもと変わらぬ調子で出迎えた。そして、頼みがあると言うアリオスに目を丸くした。
「君がこの僕に頼みごとなんて、正気かい?」
「残念ながら正気だぜ。俺の骨髄がレヴィアスに移植可能かどうか調べてくれ。」
普段のように「消毒薬分けてくれ」と言ってるかような調子で言われた言葉に、セイランは面喰らった。
「あいつ、過労なんかじゃねぇんだろ?」
「はぁ~、バレてしまったんだね。」
溜息をつくセイランに、アリオスはもう一度同じことを依頼した。だが、セイランはアリオスの方を向き直ってハッキリと告げた。
「調べるまでもないよ。」
今度はアリオスの方が目を丸くする番だった。
「君がレヴィアスに引き取られる時に、この病院では可能な限りのデータを採らせてもらってる。これがその時の資料さ。」
不安そうな顏のアリオスに、セイランは完全に医者の顔に戻って続けた。
「型は一致するよ。移植は可能だ。ただ、レヴィアスがそれを拒んでいる。」
「治療を拒否してるのか?」
アリオスの問いに、セイランは首を横に振った。
「治療は希望している。でも、君からの提供は受けないそうだ。借りは作りたくない、ってね。」
セイランの言葉に、アリオスはギリッと口の中で音を立てると乱暴な足取りで扉の方へと向った。
「何処へ行くつもりだい?」
「レヴィアスの病室に決まってんだろっ!!」
そう叫んで出て行ったアリオスの背中を見送ってから、セイランはクスッと笑って辺りの資料をしまい直すと、レヴィアスの病室へと向ったのだった。

途中で追い付いて来たセイランと共にアリオスが病室へ入ると、そこにはアンジェが居た。レヴィアスのお見舞いに来ていたのだ。
「どうしたの? そんなに血相を変えて。」
不安そうに声をかけるアンジェを無視して、アリオスはベッドの上で身を起こしているレヴィアスの元へ歩み寄り、その頭に拳を落とした。
「アリオス!?」
慌ててアンジェがレヴィアスを庇おうとしたが、その必要もなくアリオスはレヴィアスが頭を押さえている間に半歩下がってレヴィアスから離れた。そして、不機嫌そうに見上げるレヴィアスに向って怒鳴る。
「てめぇ、我が侭も大概にしとけよ。命削ってまで、意地張るんじゃねぇ!!」
「何のことだ?」
「俺は、お前に貸し作るなんて思わねぇよ。だから、さっさと骨髄移植受けやがれ!!」
これに驚いたのは、アンジェだった。
「骨髄移植、って。それじゃ、レヴィアスさんは…。」
「過労なんかじゃねぇ。白血病だ。」
アンジェは息を飲んだ。それから、恐る恐るアリオスを見上げる。
「治る、のよね? アリオスがドナーになってくれるのよね?」
「ああ。それを、借りは作りたくない、なんてほざきやがって。んなこと言ってたら手遅れになっちまうかも知れねぇんだぞ。」
予想外に辛そうな顔をしているアリオスに、レヴィアスは不思議そうな表情を浮かべた。
「どうして、お前がそんな顔をする? それではまるで、我のことを心配して…。」
レヴィアスが皆まで言い終えぬ内に、アリオスが呟いた。
「心配しちゃいけねぇのかよ。」
そう言って目を反らすアリオスに、レヴィアスは複雑な表情をした。
「そりゃ確かにお前は我が侭で傲慢で陰険だし、やたらと俺に当り散らすし、何かしら理由をつけては俺のこといたぶるような悪趣味な奴だけど、でも、どんなに性格が歪みまくっていようとも俺はお前のこと心底嫌っちゃいねぇよ。お前に生きてて欲しい。そう思っちゃいけねぇのか?」
アリオスのこの言葉に、レヴィアスは布団の端を握りしめて小刻みに震えた。そして、まさか感動してるとも思えないけど、と訝しむセイランの前で、レヴィアスは押さえた声でアリオスに言い返した。
「よくも我にそのような暴言を…。許せん。」
「ハッ、許せなかったらどうするつもりだ?」
挑発するかのようなアリオスに即座にレヴィアスが反応し、セイランに向って叫ぶ。
「セイラン、直ちに移植の準備を整えろ。ドナーはアリオスだ。」
「了解。」

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