L&A探偵物語

<THE LAST CHAPTER-1>

最近、レヴィアスの様子がおかしい。普段からものぐさではあったが、前にも増してだるそうな様子で、さすがのアリオスも本当に心配になってきた。
「なぁ、マジで熱あんじゃねぇのか?」
アリオスがそう言って額に手を伸ばすと、レヴィアスはこの時だけは素早い動きでその手を跳ね除ける。
そして、そんなことが続いたある日、本業の都合でアルヴィースの本邸に戻っていたレヴィアスは意識を失ってセイランの元へ運ばれたのであった。
「過労だとぉ!?んな理由で倒れる程、いつお前が働いたってんだよ?」
連絡を受けて病院に駆けつけたアリオスは、セイランとレヴィアスの説明に不満そうな声を上げた。
「君の基準がどうであれ、とにかくそういうことだよ。」
セイランはあっさりと答えた。そして、不満そうな顔をしたレヴィアスの声が続く。
「しばらく入院することになるが、ここの食事は口に合わん。」
「3食運んでこいってのか?いいのかよ、セイラン?」
病院食に口に合う合わないなど関係なく出てきたものを大人しく食べるべきなんじゃないのかと言わんばかりのアリオスに、セイランは少々呆れたような表情を浮かべながら応じた。
「食餌療法の必要がある訳じゃなし、不満が過度のストレスになってもいけないしね。」
つまり運んでこいと言う訳か、と表情で聞き返すアリオスに、セイランは言葉を続けた。
「君の作る食事は栄養バランス的にも問題ないから、しっかり運んでくるんだね。」
「へいへい。」
医者の指示となれば仕方がない。アリオスはそれから毎日レヴィアスの病室まで食事を届けては、様々な仕事を言い付けられたり八つ当たりされたりする日々を送っていった。

「レヴィアス様、大丈夫かなぁ?」
ルノーが心配そうに呟いた。目の前で急に倒れたレヴィアスに、驚いたルノーは慌てて皆を呼び、そして結局病院までついていった。
「治療法はあるんだよね?」
ルノーの問いに、カインが答えた。
「ええ。骨髄移植をすれば、かなりの高確率で完治されるでしょう。」
レヴィアスの本当の病名は『急性骨髄性白血病』。まさか数年前に視察に行った工場で放射能漏れが起きていたことが原因とも思えないが、とにかく発病したことだけは事実だった。
「今、バンクのデータを当たらせています。」
キーファーは淡々と言葉を発したが、レヴィアスと型が合うものなど、そう簡単には見つからなかった。ショナは、バンクの登録データのみならず病院や軍のデータまでハッキングして調査しているが、未だに適合者は見つからない。
「僕じゃダメなの?」
レヴィアス様のためなら何でもする、と日頃から公言しているルノーだった。求められるものが、骨髄ではなく心臓だったとしても喜んで差出しただろう。しかし、それにはユージィンが苦し気に答えた。
「残念ながら、私たちは全員不適合です。」
「望みがあるとすれば、アリオス殿だけです。」
だが、カインのこの言葉にカーフェイが横やりを入れる。
「確かに兄弟の場合は適合率が高いと聞くが、それは両親を同じくする場合だろう?」
「そうそう。アリオスは異母弟だもの。望み薄いんじゃないかなぁ。」
後に続いたジョヴァンニの言葉に、カインはスッと目を伏せて呟く。
「お忘れですか?アリオス殿が一族に名を連ねられなかった本当の理由を。」
そんなカインの言葉に、その場に居たものは彼に注目した。
「本当も何も、母親が身元不明の下賎な女だったからでしょ?」
すかさずジョヴァンニが茶々を入れたが、真相を思い出したユージィンが呟いた。
「いいえ。その逆ですよ。」
それを受けてカインが続ける。
「双子…だったのです。先代の奥方様とアリオス殿の母親は。」
だが、家柄を大事にする者にありがちな話で、彼女達の生家であるフェンネル家でも畜生腹だの罪の証だのと言われて双子は忌み嫌われた。だから、生まれてきた子供の片方をいずこかへ捨て去ったのだ。
そんなこととは知らず、妻を亡くした後の先代は街で亡き妻にそっくりの娘を見かけ、そしていつしか関係を持つようになった。そうして生まれてきたのがアリオスである。真相を知っていたのかは定かではないが、周囲の見方では恐らく知らなかったものと考えられている。
だが、アリオスを一族に加えようとすれば母親の出自が明らかになる。それだけは、何としても隠し通さなくてはならない。そのため、フェンネル家とその親派はアリオスのことを身元不明の下賎な女の子供と罵って一族へ加えさせなかったのだ。身元など、その気になれば容易く判明することなどは周知の事実であるにも関わらず強硬に事を運ぶ彼等に不信感を抱いた者も多かったが、結局は「一族には加えないが自分の身近に置く」という形でレヴィアスが周囲を押し切ったのである。これによりレヴィアスは母の実家に多大な貸しを作り、以後、ますます発言力を強めていったのだった。
「それって、他人の空似とかじゃないの?」
そんなジョヴァンニの問いに、当時実際に動いていたキーファーが答えた。
「間違いなく双子ですよ。DNAが完全に一致しましたからね。」
つまり一卵性。遺伝子的には同一人物である。
「それじゃ普通の兄弟と変わらないんだ。」
それならば期待が持てるとばかりに素直に喜ぶルノーに、一同は沈みがちな顔をした。
「どうしたの?早くアリオスに検査受けてくれるように頼みに行こうよ。」
不思議そうな顔をするルノーに、カーフェイが吐き捨てるように言った。
「今更、どの面下げてあいつに頼みごとなんて出来るんだ?」
ユージィンやキーファーも続く。
「それに、事実を知れば、彼はこれ幸いと自由になることを選ぶでしょう。」
「あるいは、こちらの足元を見て取り引きを持ちかけてくるということも考えられますね。」
揃ってジッと俯いたまま、しばしの時が流れた。
「だったら、拉致しちゃえば?」
ジョヴァンニがパッと顔をあげていったが、すかさずカインから反論された。
「無傷で捕らえるのは無理ですね。」
レヴィアスに鍛えられたおかげで腕は立つ。その上、薬物は効かない。
目的のためには彼に大怪我をさせる訳にはいかないのだが、手加減をして捕らえられるような相手ではない。それが出来るのはレヴィアスだけである。
「ここは一つ、あの少女を利用させてもらうとしましょうか。」
キーファーがそう呟いたが、やはりカインは首を縦には振らなかった。あの天使のような少女はアリオスの弱点であると共にレヴィアスのお気に入りだ。決して、勝手な手出しは許されない。
そうして彼等は打てる手立てもなく、ただ堂々回りのような議論を続けたのであった。

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