L&A探偵物語

<THE LAST CHAPTER-3>

アリオスのおかげで、レヴィアスは全快した。
そして彼が退院した日、事務所ではアンジェの提案で快気祝のパーティーがささやかに行われた。もちろん実際に一番働いたのはアリオスであるが、アンジェも飾りつけなどいろいろ手伝ったし、一応ドレスアップなどもしてくれたのでアリオスは上機嫌だった。
「それでは、レヴィアスさんの回復を祝ってカンパ~イ♪」
アンジェの音頭でパーティが始まった。招待客はセイランとエルンストとオスカー。アリオスはオスカーを招くことを渋ったが、調査に協力させた手前、仕方なく声をかけたのだった。そして、夜という時間の都合でアンジェの叔父であるカティスも同席した。外泊許可をとったアンジェは、今夜は叔父の家にお泊まりである。
「いくらアリオスを信用していても、まさか可愛い姪をこんな時間に紅一点でパーティーに参加させる訳にもいかんしな。」
口では仕方無さそうに言いながらも、結構気の合っているレヴィアスの快気祝にカティスは喜んで出席し、祝いの品としてしっかり特製のワインなど持参していた。
美味しい料理と美味しい酒。大したことのない話題でも、コロコロとよく笑う少女の存在もあって、とても楽しい時間が過ぎていった。
そしてパーティが終盤に差し掛かった頃、レヴィアスがふと思い出したように呟いた。
「そう言えば、アリオスへの礼がまだだったな。」
「ああ? 別にいいよ。んな改まって礼を言われるようなこと…。」
そこまで言って、アリオスはハッとした。レヴィアスの言った意味に気付いたのだ。だが時既に遅く、慌てて逃げようとしたアリオスはしっかりとレヴィアスに捕獲されていた。
「病室での我に対する暴力と悪口雑言。さて、この始末をどうつけてくれようか。」
腕の中でじたばたともがくアリオスに、レヴィアスは楽しそうに告げた。
「陰険で悪趣味と評された我としては、お前をここでオスカーに引き渡すのも面白いかと考えるが…。」
「わ~、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。撤回するから、それだけは勘弁してくれ~!!」
アリオスのあまりの慌て様に、セイランはオスカーの方を見ながらクスッと笑った。
「君、随分と嫌われたものだね。いくらアリオスがレヴィアスに弱いからって、ここまであっさりとはいかないよ。」
第一、あのレヴィアスが他の者の手にアリオスを委ねることなどするはずがないのに、たった一言でそれさえも失念する程に追い込まれるとはかなりの嫌がり様だ。
だが、嫌われ者の張本人であるオスカーは、レヴィアスの手から逃れて部屋の隅へ駆けて行くアリオスに流し目を送っていた。
「フッ、嫌がる顔もまた魅力的だぜ、女神様。」
「あなたの方が、よっぽど悪趣味ですね。」
平然と言い切るオスカーに、エルンストは呆れたように眼鏡を直した。それからエルンストは、アンジェの腕を掴んで足留めしながらこの状況を楽しんでいるカティスの方へと視線を流した。
「楽しそうですね。」
「そりゃ楽しいさ。仲良くじゃれ合って、見ていて微笑ましいじゃないか。」
「じゃれ合い、ですか?」
部屋の隅で再びレヴィアスに捕獲されたアリオスの悲鳴を聞きながら、カティスは平然と続けた。
「どうやら、2人とも本気じゃないようだ。」
アリオスが本気で逃亡を図るなら、向かう先は奥の部屋への扉ではなく外へ通じる扉のはずだ。そしてレヴィアスが本気だったなら、1度だって取り逃がすはずがないし、彼の手に何も握られていない訳が無い。
目をやると、レヴィアスはアリオスの頭に強烈な拳を見舞った後、頬を引っ張っていた。
「我に暴言をはいたのはこの口か。」
「ひゅみ~!!」
「エリスの真似をして誤魔化そうとしても無駄だ。」
頬から手を放してアリオスの頭を平手で軽く叩くレヴィアスに締め上げられながら、アリオスは心の中で「別にエリスの真似した訳じゃねぇよ」と呟いて頬をさすった。
「そもそも、我を陰険で悪趣味などと評するとは何事か。」
ペシッと軽く乾いた音が鳴る。
「だから、謝って撤回したじゃねぇか。」
アリオスは、叩かれた頭を押さえて言い返す。
「それで済む問題ではないわ。」
頭を押さえるアリオスの手の上で、ペシペシッと連続で音が鳴る。
そんな様子を見ながら、セイランは溜息混じりに呟いた。
「まったく、仲が良いのか悪いのか…。」
まぁ、あれでもレヴィアスはアリオスに感謝してるんだろうな。
何しろ、麻酔も鎮痛剤も効かない身でドナーになったんだから。
麻酔をして尚かなりの苦痛を伴う骨髄の採取。薬の効かないアリオスの心身にそれはどれほどの負荷をかけたことか。ルヴァ様から紹介されていた鍼師が来てくれなかったら、とんでもないことになっていたよ。
借りは作りたくない、なんて言っていたのもアリオスの身を心配してのことだったなんて、レヴィアスは絶対に認めたくはないだろうけどね。
命がけの我が侭、か。アリオスは、多分気付いていたんだろうな。だから、わざと怒らせて移植を受けさせてしまったのだろう。もちろん、報復は覚悟の上でね。
それにしても、レヴィアス。君、我が侭で傲慢で性格歪みまくってるって発言については気にしてないんだね。まぁ、自他共に認めるってことなんだろうけどさ。
そんな風に心の中で呟きながら、セイランも楽しそうに残りの料理に手を伸ばした。
「レヴィアス、早く戻って来ないと料理もお酒もなくなってしまうよ。」
適当なところでセイランに声をかけられて、レヴィアスは仕方なさそうな振りをして戻って来た。入れ違いに、カティスの手から解放されたアンジェがアリオスに駆け寄る。
「大丈夫?」
「7割回復ってところか。まだまだ本調子じゃなさそうだな。」
とにかくなるべく栄養あるもん食わせてやらねぇと、などとブツブツ言っているアリオスに、アンジェはキョトンとした。
「どうかしたか?」
「アリオスって、レヴィアスさんのこと本気で心配してたのね。」
「おかしいか?」
「ん~、仲悪いと思ってたから。」
「確かに仲良しじゃねぇけど…。」
でも、本当に仲が悪かったら一緒に生活してなんていられないし、あんな手の掛かる奴の世話なんてやってられねぇだろうな。こんなことで死なれちゃ寝覚めが悪い、とか言い訳出来なくはなかったが、結局「嫌いじゃない」と正直に言い切ってしまった。後で、セイラン達から「お人好し」と口々に言われたし、これでレヴィアスはますますつけあがりそうだが、まぁ見殺しにするよりは遥かにマシだっただろう。
そんなことに気付いてしまったら、もうアリオスは笑うしかなかった。これからもレヴィアスは自分を玩具扱いするのだろうけど、こうなったらもう半ば自分で蒔いた種である。責任持って自分で刈り取らざるを得まい。ただ一つだけ気になることは…。
「お前、呆れて俺のこと嫌いになったりしてねぇよな?」
「えっ、何のこと?」
「今でも俺のこと、好きか?」
真剣に問いかけるアリオスに、アンジェは満面に笑みを浮かべて答えた。
「うん♪」
「…サンキュ。」
アリオスはアンジェを控えめに抱き寄せると、軽くその背と頭をポムポムとした。
そして一夜明けると、アリオス達はまた元通りの生活に戻っていったのであった。

-L&A探偵物語 了-

《あとがき》

思いつきで始まったこのシリーズですが、とうとう終結してしまいました。
応援して下さった方々、本当にどうもありがとうございましたm(_ _)m
実はこの最終話の初稿が書かれたのは「CHAPTER 3」よりも前なんですが、折角だから守護聖様方を全員出演させてから終わりにしようと思い、発表までかなり熟成させてしまいました(苦笑)
そんな訳(?)で、名前しか出て無い方々も多く居るものの、ひとまず課題はクリア出来たのでこれにてひとまず終了とさせていただきます。
結局、レヴィ様は最後まで性格が歪みまくったままだったようですが、最初に比べればかなり可愛くなったかと…。そして、アリオスはどんどんお人好し度が増していってしまいました(^^;)
終わってみて、読み返してみて思うのは「セイラン様がどんどん美味しくなっていっている」ということでしょうか。書いてる途中で感想などをいただきますと、出番が増えたり美味しくなったりといろいろ影響を受けてしまうようです。そうやって、ジョバンニも出番が…。
こんなに続いちゃって「そんなにLUNAはアリオスを苛めて遊びたかったのか?」って感じですが、愛はあるんです。ただ、ちょっと、好きな人に意地悪したかっただけ……いえいえ、レヴィ様に楽しんでいただきたかっただけで…(汗;)
まぁ、何はともあれ、最後まで読んで下さってありがとうございました。
反応によっては復活なんてこともあり得ますので、その時はまたよろしくお願い致しますm(_ _)m

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