L&A探偵物語

<CHAPTER 11-3>

開けるなり小剣でも飛んでくるんじゃないかと警戒して、ルヴァを安全な位置に立たせてからそっとアリオスが事務所の扉を開けると、眉間にしわ寄せて睨み付けるようにしながらもレヴィアスは動かなかった。
「探し人、連れてきたぜ。」
後でまとめて怒りを爆発させるんじゃないかとの不安を覚えながらも、アリオスは努めて事務的に既に中で待っていたセイランに声を掛けた。そして、ルヴァに中へ入るように促す。
「あ~、依頼人はあなただったんですか?」
「お久しぶりです、ルヴァ様。」
日は開いてしまったが、ルヴァが自主的にこっちへ向かっていたことを聞いていたセイランは、杞憂に終わったことを喜ぶと同時にちょっとだけ居心地の悪さを感じていた。
「本当に、お久しぶりですね~。元気そうで何よりです。そうそう、あなたにお土産持ってきたんですよ~。」
ルヴァは、のほほんと挨拶すると、アリオスに運んできてもらった大きな風呂敷包みを開け始めた。そして、何やら取り出してはセイランを言葉を交わす。
そんな様子を見ながら、アリオスはそっとレヴィアスのデスクに近づいた。
「アンジェとのティータイムは楽しかったか?」
「まぁな、一応感謝はしとく。」
2人きりでもっとゆっくり出来たなら本当に楽しかったんだろうけどな、とアリオスはボソッと呟いた。
実際のところ、頭数は2つも多いし、レイチェルがあんなことした所為で2人揃って顔面蒼白になった挙げ句、アンジェは黙々と目の前の皿やカップを空にしていく始末。楽しくお喋りする暇などあったものではない。その上、アリオスはルヴァの風呂敷包みを膝に乗せていたため、何も口にしていないのだ。
それでも一応レヴィアスに感謝するのは、僅かな時間とは言えアンジェの顔をじっと眺めていることが許されたからかも知れない。
「でもな、文句があるならはっきり言えよ。」
「今のところ、特には無い。」
「だったら、そんな風に睨みつけるな。」
レヴィアスは小首を傾げた。
「睨んでいるつもりはないが…。」
確かに愛想よくしてるつもりも無かったが、長年傍にいるアリオスは無愛想な顔など見慣れているはずだ。
レヴィアスが不思議に思っていると、ルヴァが突然こっちを向いた。
「そこの貴方、首の回りが凝ってませんか~?」
急な問いかけに、レヴィアスもアリオスも戸惑った。その鈍い反応に気付いているのかどうかは知らないが、ルヴァは何かを手にしてレヴィアスの方へ歩み寄って来た。
「ちょっと失礼しますよ~。」
言うが早いか、ルヴァはレヴィアスの首に手を伸ばす。敵意も感じられず、あまりにも無造作なその動きに、レヴィアスは避けることもなくその手を触れさせてしまった。
「うっ…。」
クイっと摩るように、それでいて指先に力を込められて手を動かされて、レヴィアスは鈍い痛みとえも言われぬ心地よさを感じた。
「あ~、相当凝ってますね~。」
ルヴァはそのまま肩や頭にも手を持っていく。
「あ~、これでは目つきも悪くなりますよね~。」
アリオスは驚いた。
「そんな理由で、俺はこの数日間、幾度も恐怖体験をして来たのか?」
「はぁ、そういうことになりますかね~。」
肩凝りが酷いと憂鬱になるし、頭が重くて目つきが悪くなる。あるいは、目の疲れから肩凝りが酷くなっているとも考えられる。
ルヴァは納得したような感じで頷くと、手にした小物を使ってレヴィアスの肩を揉み始めた。レヴィアスは、されるがままになっている。
「何なんだ、一体?」
その光景にアリオスは困惑しながら後ずさった。すると、セイランが傍に寄って来て、呆れたように説明する。
「どうやら、ルヴァ様は今回の旅で『指圧』とか『ツボ治療』とかってものにハマっちゃったらしいんだ。」
振り返ると、応接テーブルの上には不思議な小物がたくさん乗っている。
アリオスが目を点にしていると、先程ルヴァが説明した内容を要約して、セイランはS字型の棒や棘のようなものが生えたボールなどの様々なツボ押しグッズを紹介していった。
「こういうのって、薬の効かない君の体調を整えるには有効かもね。折角だから、どれか貰っておきなよ。」
そんなことを言いながらセイランがグッズの紹介をしていると、レヴィアスの肩を揉み終えたルヴァが戻って来た。そして、レヴィアスはと言うと、軽く首をコキコキと動かしながら、単なる無愛想な表情に戻っている。
「あ~、貴方もかなりお疲れのようですね~。」
そう呟きながら、ルヴァはグッズの中から小さな木の棒を取り上げると、アリオスに使い方を説明し始めた。
「ちょっと、試してみましょうか~?」
促されるままに、アリオスはソファーに腰掛けると靴を脱いだ片足をもう片方の膝に乗せるようにして、足の裏に木の棒を押し当てた。
「そうそう、そのままギュッと押して下さいね~。」
言われた通りにした途端、物凄い痛みが走り、アリオスは跳ね上がりそうになった。
「そんなに痛かったですか~?いけませんねぇ、お酒の飲み過ぎには注意して下さいよ~。」
「はぁ?酒なんか、ここんとこ一滴も飲んでねぇよ。」
レヴィアスもアリオスもかなり酒に強い。それでも、普段から酒を口にすることが多いレヴィアスと違って、アリオスはバーなどに聞き込みに出かけた時くらいしか酒を口にすることはない。碌に探偵の仕事がないのに、これでどうやって飲み過ぎになれるというのだろうか。
「そうなんですか~?それでは、相当ストレスが溜まってるんですね~。」
「当然だろうね。何しろここ最近、余計な心配してたんだからさ。」
心配そうな顏をするルヴァの言葉に、セイランは楽しそうにアリオスに同意を求めるようにした。
「言えてるかもな。」
それでなくても、毎日レヴィアスの我が侭に振り回されてるし…。
そんなアリオスやレヴィアスにルヴァはいろいろレクチャーすると、セイランと共に事務所を後にした。
後日、事務所ではルヴァが「非力な人でも軽い力で疲れずしっかり肩が揉めるんですよ~」と言って置いていったゴム板のようなグッズを使ってレヴィアスやアリオスの肩を揉むアンジェの姿が見られるようになった。
そして、何故かアリオスの部屋では時々レヴィアスがアリオスに『ツボ治療』を施す姿も。
「痛いってば!!やめろ、離せ~!!」
「喧しい。我が親切にもお前の健康の為に尽力してやっているのだ。有り難く思え。」
確かに後々足が軽くなった気がするから疲労回復にはなっているのだろうが、それでも足の裏を木の棒で押されると滅茶苦茶痛いことには変わりない。どれ程親切ぶった台詞を吐こうとも、部屋に押し掛けて来てはアリオスを捕獲して楽しそう木の棒を足に押し当てているその様子に、それがレヴィアスにとっての新しい娯楽であるに違いないと思わずには居られないアリオスだった。

-CHAPTER 11 了-

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