L&A探偵物語

<CHAPTER OF BIRTHDAY SPECIAL-1>

11月22日昼、L&A探偵事務所は臨時休業し、事務所のスペースはミニパーティー会場となった。
「レヴィアスさんとアリオスのお誕生日を祝してカンパ~イ♪」
アンジェの音頭で皆がジュースグラスを掲げて乾杯すると、ささやかなお誕生日パーティーが始まった。
「美味しい! アンジェの言った通りだね。」
普段から聞かされている惚気話に、てっきり贔屓目が山ほど入っていると思っていたレイチェルだったが、アリオスの作ったパーティー料理は贔屓目無しで絶品だった。
「確かに美味しいけどさ。どうしてパーティーの主役が調理やホストをしてるんだい?」
このパーティーを企画したのは君とレイチェルじゃなかったっけ、とセイランに視線を向けられて、アンジェは居心地悪そうに首を竦めた。
すると、言い訳を考えるアンジェの様子を見ながら、アリオスが明るく言った。
「俺はまだ死にたくねぇからな。」
途端にアンジェがアリオスに怒鳴る。
「ど、どうせ私はお料理下手よっ!!」
アリオスの入院中にアンジェがレヴィアスに食べさせた料理の何と酷かったことか。お茶を煎れるのはとっても上手いので少しは期待していたレヴィアスだったが、あまりのことに適当な理由を付けて本邸へ帰ってしまった。そして、そのツケは退院後のアリオスが支払わされることになったのだった。
だからどこかのお店から仕入れてこようと思ってたのに、と言いながらアリオスを睨み付けるアンジェの表情のあまりの可愛さに、皆は笑いを堪えられなかった。
「あはは、すねてないでプレゼント渡したら?」
笑いの中からレイチェルに声を掛けられて、アンジェはハッとして部屋の隅に置いた鞄の中を探った。他の者達も、それぞれ自分達の鞄やポケットからプレゼントを取り出す。
「はい、レヴィアスさん。お誕生日おめでとうございます。」
本音を言えば真っ先にアリオスに渡したかったが、とにかくレヴィアスを優先させないと後でアリオスが苛められると最近は良く解ってきているアンジェだった。
「これは…紅茶か。」
早速包みを開けたレヴィアスは、中から出てきた遮光袋のラベルをまじまじと見つめた。彼が普段飲んでいるものとはまったく違う銘柄だ。
「カティス叔父さんお勧めの逸品です。」
アンジェの叔父カティスは、郊外でワイナリーを営む傍らで紅茶の売買も手広く商い、敷地内では道楽で昼は喫茶店、夜はバーまでやっている。本人もワイン通の紅茶通で、以前レヴィアスはアリオスと一緒に彼の家へ行った時に出された紅茶がとても香り良く美味だったことを覚えている。彼がお勧めの逸品となればこの紅茶はレヴィアスの口に合うこと疑い無しだ。
「では、早速手ずから煎れてもらおうか。」
お茶を煎れるのだけは自信のあるアンジェは、喜んでレヴィアスの求めに応じた。

アンジェがお茶を煎れている間に、他の者達がプレゼントを渡していった。
「はい、レヴィアスの分。で、こっちがアリオスの分。」
セイランが、リボンの端に"L""A"と書かれている以外には殆ど同じに見える大き目の巾着袋を差出した。
セイランがプレゼントを用意してきたことにも驚いた2人だったが、怪訝そうな顔で中を見て目が点になった。
「おい、これ…。」
「心配しなくても、有効期限はたっぷりあるよ。医局から安く回してもらった新品だから。」
袋の中身は医薬品だった。レヴィアスの方は湿布薬多めであとは軽い傷の手当てに使えるものが少々。デスクワーク中心で肩がこるであろうと、症状に合わせて使い分けられるように冷湿布と温湿布が入っている。後は、エリスと遊んでいての引っ掻き傷の手当て用というところか。
そしてアリオスの方はと言うと、消毒薬にガーゼに包帯多めで冷湿布に絆創膏が少々。
「随分と気の利いた贈り物だな。」
レヴィアスの仕打ちと時々は探偵の仕事の所為で流血や打撲が多いアリオスにとって、有り難い代物であることは確かだ。しかし深読みすると、アリオスにこういう物を贈るのって「遠慮なく苛めて良いよ」とレヴィアスを唆しているようなものなのではないだろうか。
「そう? 気に入ってもらえて嬉しいよ。」
アリオスの言わんとしているところを察していながら、セイランは涼しい顔で返事をした。
「あの、これはレイチェルと私の2人からと言うことで…。」
全く同じ種類の高級な花束が2つ、エルンストとレイチェルの手からそれぞれに渡された。
「いろいろ考えたんだけどね。結局、ワタシ達はオーソドックスなものにしたの。」
「ワタシ達」と語るレイチェルの口調には、どことなくエルンストへの想いが感じられて微笑ましかった。アンジェがこの事務所に関わるようになったおかげで再会できた2人は、まだ恋人同士にはなっていないものの徐々に親密度を上げていっているらしい。
「サンキュ。」
「早速、そこに花瓶を用意させよう。」
花束を受け取ったレヴィアスの言葉に従って、アリオスは奥の部屋で花瓶を支度してきた。
そしてアリオスが花を生けている間に、招かれざる客からレヴィアスにウォッカの瓶が手渡される。
無言で受け取ったレヴィアスは、それをそのままデスクの上に置いた。

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