L&A探偵物語

<CHAPTER 11-2>

レヴィアスがセイランの依頼を受け、アリオスは調査を開始した。
まず手始めに、葉書の消印からそれが投函された時間帯と範囲を絞り、それを手がかりにその後の足取りを洗うことにしたアリオスは、情報収集を頼んだエルンストに言われた通り、ロキシーという男の元を訪ねた。
「やあ、アリオス。元気そうだな。」
訪ねるなり、昔からの親友みたいな声を掛けられたアリオスは面喰らった。
「確か、あんたとは初対面の筈だが…。」
「おっと、こいつは失礼。初めまして、ロキシーだ。」
エルンストから話を聞いていたのでつい馴れ馴れしくしてしまった、と漏らすロキシーに、アリオスは早速ルヴァの行方を訊ねてみた。
「ああ、ルヴァ様なら、今朝の始発バスで君達の住んでる町に向ったよ。」
「そうか。サンキュ。」
すれ違いになってしまったものの、どうやらルヴァはそのままどこかへ旅立つことなくセイランの元へ向っているらしいと聞いて、アリオスはすぐにも後を追うことにした。
「何だ、もう帰るのか?どうせなら、もっといろいろ聞いていけば良いのに。例えば、エルンストの子供の頃の面白い話とか弱点とか…。」
ロキシーは残念そうにアリオスの背中に声を掛けた。そこで、アリオスは軽く振り向いて答える。
「エルンストの弱点、ねぇ。そんなもんに興味はねぇよ。レヴィアスの弱点なら話は別だけどな。」
「ああ、それなら君だよ。」
ロキシーはあっさりと答えた。
「はぁ?」
「レヴィアスの弱点は、アリオス、君だ。」
アリオスは、言われた意味が解らなかった。自分のどこかレヴィアスの弱点だと言うのだろうか。
「試しに、3日くらい姿を暗ましてみな。必死になって探し回るだろうさ。」
ロキシーは笑いながらそう言った後、それを少し堪えるようにして続けた。
「もっとも、見つけ出してホッとしたらその後は血の雨が振る可能性が大だがね。」
試してみるなら観察日記をつけたいから声を掛けてくれ、と言うロキシーに、アリオスは苦笑しながら答えた。
「そいつは無理だな。」
「やっぱり怖いか?」
からかうようにアリオスを見るロキシーに、アリオスは首を横に振って見せた。
「いや。俺の方が3日も保たねぇよ。」
「それもそうだな。」
レヴィアスを見捨てておけるくらいなら、とっくにアリオスは何処か遠くへ行ってしまっていてもいいはずだ。しかし、レヴィアスの弱点がアリオスなら、その逆もまた然り。アリオスの最大の弱点はアンジェだが、レヴィアスも事も充分すぎる程気に掛かるのだ。はっきり言って、世話を焼いてないと落ち着かない、という状態である。
それにしても、さすがはエルンストが溜息混じりに推薦した情報屋である。「要らないことばかり良く知ってますよ」との言葉に偽りないらしい。
アリオスは気を取り直して、再び踵を返した。
「それじゃ、邪魔したな。」
「エルンストによろしく言っておいてくれ。」

ロキシーのところを後にしてすぐにアリオスはレヴィアスの元に連絡を入れた。しかし、折り返し連絡が来たところによると、ルヴァはまだセイランの元に現れていないらしい。
「途中で降りたか、それとも近くまで行きながらセイランに会わずに再び旅立ったか。」
アリオスはバス路線を辿りながら、ルヴァが行きそうなところをチェックした。
セイランからの情報によると、怪しい場所は書店、図書館、薬材店、釣具店、そして日本茶を出しそうな食事処。
通りすがりにそれらの店を覗き込みながら、アリオスは通いなれた商店街まで戻ってきた。すると、どこからかアンジェの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「あぁ?もう、そんな時間か。」
そう呟いてアリオスが時計を見ると、昼をかなり回ったところだった。どうやら、スモルニィは午前授業だったらしい。今日はアリオスが探偵の仕事の予定が入っていると知っているから、レイチェルと買い物したりして過ごすつもりかも知れない。大方その前に、近くにあるお気に入りのオープンカフェで何か飲み食いしているのだろう。
アリオスが納得しかけたところに、レイチェルの声が重なった。
「本当に、ルヴァ様って物知りなんですね。」
突然、探し人の名前を聞いて、アリオスは慌てて声のした方へ走って行った。
「アンジェ!!」
駆け寄るなりアンジェの名を叫んでしまうのは、この際仕方の無いことだ。何しろ、アンジェが自分達以外の男性と食事をしていたのだから。
「あ~、お知り合いですか~?」
こんな状態でも慌てず騒がず振り返ったその人は、セイランが探してくれるように依頼したルヴァに間違いなかった。
問うような視線を受けて、レイチェルが簡単に事情を説明してくれる。
アリオスが想像した通りアンジェ達は遊びに行く前にここでお昼を食べていたのだが、その際に皿数の都合で4人席を使っていた。そこへ、大きな風呂敷包みを抱えたルヴァが、一休みしようとしてやってきたのだ。ところが、見渡す限り満席状態。奥の方まで行けばどこか空いてるかも知れなかったが、望みは薄かった。
その時、アンジェ達の席はテーブルの上は混んでいたが、椅子は2つ余っていた。そんな状況で、アンジェがルヴァを見捨ててなどおけるはずがないだろう。相席しての食事には無理があるが、お茶を飲むくらいのスペースはあったし、他の席が空くまで荷物を降ろしておくくらいは出来る。
そんな訳で、アンジェはルヴァに声を掛け、相席してお茶を飲みながら楽しくお喋りをしていたのだった。
「ところで、アリオス。お仕事は終わったの?」
アンジェに言われて、アリオスは本来の目的を思い出した。
「まぁな。もうじき終わりってトコだ。」
そう答えると、アリオスはルヴァを指差した。
「こいつを依頼人に引き渡せば、それで終わる。」
アリオスは答えながらレヴィアスに連絡を入れた。
「直ちに事務所へ連れて来い」と言われたらしい様子を見て、レイチェルがアリオスの足を突ついた。
「何だ?」
会話を中断してレイチェルに問い掛けるアリオスに、レイチェルはジェスチャーでケータイを渡すように伝えた。それを見て、アンジェもアリオスを促す。
そしてアリオスがケータイを渡すと、レイチェルはそれに向かって一言吠えた。
「お茶くらいゆっくり飲ませなさいっ!!」
「レ、レイチェル!?」
驚くアンジェを後目にレイチェルはすっきりした顔でアリオスにケータイを返す。事務所で耳を押さえているであろうレヴィアスを想像しながら、アリオスは溜息をつくと、再びケータイに向かった。
「悪い。そういう訳だから、セイラン待たせといてくれ。」
このところずっと不機嫌なままだから、後が恐い。しかしそれでも「アンジェにゆっくりと茶を飲ませてやるが良い」との言葉に望みを託して、アリオスは彼らの食事が終わるのを待ってからルヴァを事務所へ連れていったのだった。

前へ

次へ

indexへ戻る