L&A探偵物語

<CHAPTER 9-2>

オリヴィエのスタジオの回りを簡単に下見してから事務所に戻ったアリオスは、その日の調査結果についてレヴィアスに報告した。
「とりあえず、今日のところは怪しい影はなしだ。まぁ、そっちについてはこれから本格的に探るとして、メルが面白いこと言ってたぜ。」
レヴィアスに注文されたついでに自分の分のお茶も煎れて、文句を言われないのを良いことにデスクの横の壁に凭れて茶を啜りながら、アリオスは報告を続けた。
その内容を聞いたレヴィアスは、アリオスと同じことを思い浮かべた。
「害意なし。奇妙な手紙に無言電話。女の回りには護衛が大勢。」
「そう。そして当事者がそれに怯えてない。それどころか、嬉しそうにしている。」
レヴィアスの呟きに、アリオスが呼応する。
「エルンストには、女の私的な交友関係を中心に当たらせよう。お前は明日から、とりあえず張り付け。なるべく目立つようにな。」
最後の一言と共に軽く唇の端を上げるレヴィアスに、アリオスは「了解!!」と答えて探偵の顔から主夫の顔に戻った。
そして翌日から、アリオスは遊び着姿でロザリアに張り付いた。本人からボディガードを依頼されたなら絶対にこんなことはお断りだが、相手にその気がないならアリオスとしても大して苦にはならない。しかも、守る必要がないとなれば気楽なものである。
スタジオの中でも外でもべったりと間近に居るアリオスに、ロザリアは抗議の声を上げた。
「一体、どういうおつもりですの!?」
「悪いがこっちも仕事でね。迷惑なのは解ってるが、もうしばらく辛抱してくれ。」
「護衛など要りませんわ。」
ロザリアは、ツンとそっぽを向いた。それを見て、アリオスは何故か心地よい気がしていた。本来、こういうツンケンした態度の女は嫌いなのだが、彼女の場合は実に良く似合っている気がする。まだ少女の域にありながら、彼女はそういう態度に見合う程に内面も磨き上げられているということか。
「護衛なんかじゃねぇよ。あんたを守る気なんて全然ねぇしな。」
「では、何ですの?」
「それは言えねぇな。まぁ、職業上の秘密ってやつか。」
犯人が何処で聞いてるとも限らないし、ロザリアから話が漏れても困る。
「とにかく、あと少しの辛抱だ。」
そろそろ、アリオスに刺激された犯人が動きを見せるはずだ。それと前後して、エルンストの方でも犯人候補が絞られるはず。ある程度目星がつけば、真犯人を見つけだすこともその目的を突き止めることも容易なことだろう。

数日後。事態は一気に解決へと向った。しばらく影をひそめていた犯人が、ロザリアの周囲に現われたのだ。
アリオスが定時連絡の為と言って席を外した頃合に、カタルヘナ家の者達が不審な影を発見した。そして追いかけ回したが、いつものように影は途中で消えてしまった。しかしアリオスは今、その影の目の前に居た。
「馬に蹴られるのは御免だが、こっちも仕事だ、悪く思うな。」
密会中のロザリアとクラヴィスに軽い口調で声をかけながら、アリオスは2人の傍へと歩を進めた。
「被害者のはずのお嬢様が犯人と結託してたんじゃ、お付きの者達には捕まえられないはずだよな。」
奇妙な手紙も無言電話も2人が密会する為の合図だった。便箋の色で場所を電話の掛かる時間で待ち合わせ時間をクラヴィスが提示し、私服のアクセサリーでロザリアが返事をしていたのだ。
「何故判った?」
クラヴィスはロザリアを庇うようにアリオスから遠ざけながら、アリオスに向き直った。
「クッ、そりゃ判るぜ。そのお嬢様、演技が下手だからな。」
気丈なお嬢様は怯えた素振りは見せない。
「難しいよな。実は怯えているけど気丈に振舞ってます、って振りをするのは。あんた、本気で恐ろしい目にあっても他人に怯えた素振りなんて見せらんねぇんじゃねぇの?」
「うっ…。」
図星をさされてロザリアは悔しそうな顔をした。
「さて、犯人の目的は判明したし、これで一応俺の仕事は終わりだな。」
アリオスは大きく伸びをした。それから、ふと思い付いたように聞いてみる。
「でも、何であんたら密会なんかしてるんだ?堂々と会えば良いじゃねぇか。」
身分違いでも何でもないし、2人とも未婚で婚約者も他の恋人も居ないし。
「その…、歳の差が少々あるのでな。」
「家人を説得する口実を考え倦ねているのですわ。」
困ったように言う2人に、アリオスは呆れた表情を浮かべた。
「歳の差って、あんた、俺と2つしか違わねぇだろが。6つも8つも大して変わりゃしねぇよ。好きなら堂々と交際申し込みに行きやがれ。当たって砕けたら駆け落ちでも何でもすりゃいいじゃねぇか。」
メルにも匹敵する占いの能力があれば、何処へ行っても良い稼ぎを得られるだろう。
「何やら、妙に説得力があるな。」
「そうですわね。」
クラヴィスは、フッと笑うと吹っ切ったように顔を上げた。それからアリオスに対して薄く笑みを浮かべる。
「では、有り難く忠告に従うとしよう。」
「そいつは素直で結構なことだな。」
そうして出て行く2人を見送ると、アリオスはレヴィアスに電話で事件解決の第一報を入れて事務所へと戻って行ったのであった。

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