L&A探偵物語

<CHAPTER 8-3>

車の中とその回りを調べていた黒服の男が突然声を上げた。
「ありました!!」
途端に、アリオス達を拘束していた者とジュリアスが車の方へと駆け寄る。
「うむ、確かに。」
ジュリアスは指輪を確認して、アリオスの方を振り返った。しかし、拘束していた者が傍を離れると同時に、アリオスはアンジェの手を引いてその場を後にしたのだった。
慌てて追いかけて来た黒服の男からジュリアスの言伝を聞かされたアリオスだったが、取り合わずに、逆にジュリアスへの言伝を頼んだ。
「感謝してるなら俺達のことは忘れろ、と伝えといてくれ。」
仕方無さそうに駆け戻っていく黒服の男の背を見送ってアンジェは残念そうな顏をしていた。
「おい、まさかディナーに誘われたかったなんて言うんじゃねぇだろうな。」
「うっ…。」
図星をさされてアンジェは言葉に詰まった。
「旨いもんをたらふく食えると思ったら大間違いだぜ。確かに珍しいもんとか高級なもんとかは出るだろうけど、旨いかどうかは別問題だ。」
「美味しくないの?」
不思議そうに聞くアンジェに、アリオスはゲンナリした顔で答えた。
「まぁ、半分はゲテモノだと思った方がいいな。」
「ゲテ…。」
アンジェは絶句した。
「旨いもんが食いたかったら、俺が食わせてやるよ。伊達にレヴィアスに鍛えられちゃいねぇからな。」
「……うん。」
確かに、アリオスの作ってくれる御飯は美味しかった。家庭的なものが多いが、メニューによっては一流レストラン並に整えられているし、とにかく味は最高だった。但し、アンジェは昼食しか食べられないので、どうしても簡単な料理が多かったのだ。
「今度、外泊許可取って、アリオスにディナー振舞ってもらおうかしら?」
「が、外泊ってお前…。」
アンジェの大胆な発言に、アリオスは焦った。
「ねぇ、叔父さんの家まで作りに来て貰えないかなぁ。レヴィアスさんが怒るかしら?」
無邪気に聞いて来るアンジェに、アリオスはホッと胸をなで下ろした。
「叔父さんとこか。はぁ、マジで焦ったぜ。」
「えっ?」
「あ、いや、何でもねぇ。レヴィアスも一緒なら平気なんじゃねぇの?」
アリオスの返事に、アンジェは嬉しそうな顔をした。
「それじゃ、お互いの都合の良い日に作りに来てね。」
「ああ。その辺は、レヴィアスとお前の間で話つけてもらえれば、俺はいつでもOKだぜ。」
時間ギリギリに何とか帰りついた寮の門の前で、そんな会話を交わすとアリオスは誰も居ない事務所へと帰って行った。

レヴィアスが戻って来て、いつも通りのアリオスの生活がいつものように過ぎて行った。
留守中にアンジェとデートしてたことは2人だけの秘密として、アンジェには口止めしてある。いつものように事務所の手伝いに来るアンジェも、その点は抜かりがなかった。ディナーの件に関しても、何となく思い付いたような振りをしてレヴィアスに誘いをかけた。
だが、そんな秘密もいつまでも隠し通せるものではなかった。
「忘れろ」と言っておいたにも拘らず、ジュリアスの家の者がアリオスの身元を探し当てて、謝礼の品とやらを届けに来たのだ。しかも、運悪くそれをレヴィアスが受け取ってしまった。普段なら誰が訪問しようがお構い無しのレヴィアスも、散歩から帰って来たエリスが扉の前で鳴けば扉を開けるし、そこで訪問者と顔を合わせてしまえば荷物を受け取るくらいはしてしまう。
買い物から帰って来たアリオスは、不機嫌ブリザードを吹き荒れさせたレヴィアスに出迎えられた。
「我の目を欺いて逢い引きすることは許さぬと言ったはずだが…。」
レヴィアスに詰め寄られて、アリオスは白を切ろうとしたが、証拠の品があっては誤魔化すことなど不可能だった。
「あ、欺くも何も、単にお前が留守にしてただけじゃねぇか。俺は、嘘ついて出かけた訳じゃないぜ。」
何とか言い訳を試みたアリオスだったが、言ってる本人もこれが通用するとは微塵も思っていなかった。既に身体は逃げる体勢に入っている。
「問答無用!!」
普段のものぐさな動きとは比べ物にならない素早さで、レヴィアスは逃げるアリオスを捕まえ、そのままソファへとねじ伏せた。
「ひゃっ、やめ…。やめろって、レヴィアス。」
レヴィアスはアリオスの上に腰をおろすと、懐からある物を取り出しアリオスをいたぶり始める。
「やめろってば。くすぐったい~!!」
「殴っても効かぬ奴への仕置きにはこれが一番。」
玩具のネコジャラシでくすぐられて、アリオスは悲鳴を上げた。
「ひゃははは…。もう、やめろって。息が…。」
笑い過ぎて呼吸がままならなくなってきたアリオスに、レヴィアスは平然と告げた。
「息が止まらぬ程度には加減してやるから心配するな。」
「そ、そういう、問題じゃ、ねぇってば。苦し…。もう、や…。許して…。」
アリオスは何とかしてネコジャラシから逃れようとしたが、身体はレヴィアスの下敷きになってるし、手でカバーしようとしても空いてる方の手で片手をとられ、そのままもう片方の手首を押さえ込まれているのでどうすることも出来なかった。しかも、レヴィアスはアリオスをくすぐるのに適したポイントを熟知している。
「やはり、羽根ペンより効果あるな。」
「しみじみ、言うな~!!」
息も絶え絶えになるくらいまで続けられたネコジャラシ攻撃に、アリオスはグッタリとなりながら、それでもレヴィアスへの文句は忘れなかった。
そんなアリオスに、レヴィアスはいつもの表情で言った。
「何をのんびり寝ている。さっさと夕食の支度をしろ。」
「へいへい。」
反射的に返事をしてふらふらと台所へ向う途中、アリオスはアンジェの言葉が冗談ではなかったような気がして来たのだった。

-CHAPTER 8 了-

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