L&A探偵物語

<CHAPTER 8-2>

水族館を出ると、辺りは随分と薄暗くなって来ていた。
「急いで帰らねぇと…。」
寮の門限までにアンジェを送り届けないと大変なことになる。アンジェは反省文の提出と1ヶ月の自由外出禁止。そして、アリオスはその間交際禁止を喰らってしまう。
しかし、そういう時に限ってアンジェは禄でも無いことに首を突っ込むのだった。
「ねぇ、あの人達どうしたのかしら?」
アリオスがアンジェの視線の方向を見遣ると、そこでは黒い服を着た者達が必死に何かを探している様子だった。その中心には高そうな服に身を固めた豪奢な金髪の男性が立って何かを叫んでいる。
「放っておけ。関わり合いになると碌なことにならねぇから。」
「でも、何だか困ってるみたいよ。」
「心底困ってる訳じゃねぇから放っておけって。他人の心配する前に、自分の心配をしろ。」
今なら充分門限に間に合うが、あんなのと関わっていたら時間などいくらあっても足りやしない。
アリオスはアンジェの手を掴むと、彼女を現場から遠ざけるようにしてその場を後にしようとした。だがアンジェは強引にその手を振り切ると、近くに居た黒服の男に声をかけてしまった。
「どうしたんですか?」
アリオスが慌てて掴まえ直して引き戻そうとした時は手遅れだった。声をかけられた男はアンジェに事情を話し出し、それを聞いたアンジェは「お手伝いします」とその場に屈み込んだのだった。
「何やってんだよ、お前は。」
「だって、こちらの方が大切な指輪を失くされた、って。」
「お前、俺の話ちゃんと聞いてたのか?」
関わると碌なことにならない。心底困ってる訳じゃない。自分の心配をしろ。アリオスの言葉はちゃんとアンジェの耳には入っていた。だが、困っている人を見捨てられるアンジェではなかった。
「だからって、お前まで闇雲に探してどうすんだよ。」
「えっ?」
「とにかく帰るぞ。さっさと立て。」
アリオスはアンジェの手を引いて立たせると、そのまま引っ張って帰ろうとした。
「でも~。」
「放っとけって。本当に困ってるなら、こういう奴らにはいくらでも手の打ちようがあるんだから。お前が手伝う必要なんかねぇよ。」
愚図るアンジェに言ったアリオスの言葉に、金髪の男が抗議の声を上げた。
「今何と? 本当に困っている訳ではないと申すか。」
「ああ、その通りだ。」
アリオスは、相手の迫力をものともせずに簡単に答えた。
「だって、あんたは何もしてねぇだろ?」
「そなた、このジュリアスにも地面を這って探せと申すのか!!」
ジュリアスはますます激昂した。しかし、アリオスは平然と答える。
「誰がそんな無駄なことをしろって言ったよ? ただ、心底困ってるならこんなところでグズグズしてねぇで、さっさと家中の者を呼び寄せるとか警察呼ぶとかすりゃいいだろ。人海戦術で探しゃ、運良く見つかるかも知れねぇしな。」
保険会社の人間なら目の色変えて探し出してくれるかも知れないぜ、と言い残してアリオスはアンジェを連れて立ち去ろうとした。だが、ジュリアスはそれを許さなかった。
「随分と偉そうな口を聞いてくれるな。そなたは一体、何様のつもりだ?」
黒服連中に行く手を塞がれて、アリオスは不機嫌そうに振り返った。
「通りすがりの庶民のつもりだよ。」
「庶民が偉そうに意見するか。」
手にしたステッキをそのまま握りつぶすのではないかと思われるくらいに握りしめて、今にもそれをアリオスに叩き付けるのではと思わせるジュリアスの様子に、アンジェは横から口を挟んだ。
「あの、アリオスは探偵なんです。」
それを聞いて、ジュリアスの態度が変わった。
「探偵、か。では、この場で仕事を依頼しよう。日没までに指輪を探し出せたら、相場の倍払っても良い。」
だが、アリオスはあっさりと断った。
「生憎、うちは依頼受諾の可否も報酬金額も所長の一存で決まるんでね。悪いがそっちに掛け合ってくれ。って言っても明日まで留守だけどな。」
それで再びこめかみに青筋をたてるジュリアスを見て、アンジェはアリオスに囁いた。
「ねぇ、お仕事としてじゃなくて普通に探してあげられないの?」
「時間がねぇって言ってるだろ。」
こんなところで言い争っている間にも、門限は刻一刻と近付いて来る。
「大体、すぐに見つかるかどうかなんて、こいつ次第なんだぜ。」
アリオスはジュリアスを指差して言った。
「いつ何処で最後に指輪を見たのか、そして失くしたことに気付いたのか。その間に自分がどんな行動をとったのか。それを事細かに思い出してもらわねぇと探しようがねぇし、失くしたことに気付くまでの間にあちこち動き回ってたらそれこそ捜索範囲が広すぎるってもんだ。」
ジュリアスは、アリオスが言ったことについて思い出してみた。
ここへ来る前に車に乗り込んだ時は確かにあった。車の中で書類を受け取った時に、手元にあったのを見ている。
失くしたと気付いたのは…。
その呟きを聞いて、アリオスは車の中とその回りを調べるように言った。

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