L&A探偵物語

<CHAPTER 7-2>

文化祭前日。スモルニィの近くに怪しい人影が姿を現した。
「気に入りませんね。あの方が、女子校の文化祭に行かれるなど…。」
「まったくです。」
「最近のレヴィアス様って、アリオスに感化されてお人好しになってない?」
キーファーとユージィンとジョヴァンニである。
「あの者に感化されるなら、とっくに変わられていたでしょう。」
ユージィンは軽く息をついた。それを受けて、キーファーが呟く。
「犯人は、あの小娘ですね。」
「あっ、僕、あの子達嫌~い。」
アンジェの所為でアリオスの手伝いをさせられレイチェルに喚かれたジョヴァンニはあの時のことを思い返してから、クスクスと笑いながら続けた。
「あの子達の企画を台無しにしちゃおうか。」
「具体的には?」
問い掛けるユージィンに、キーファーが横から答えた。
「ここは古典的に、夜中に忍び込んで衣装を引き裂くというのでは如何でしょう?」
他の2人の賛同を得て、キーファー達はその夜、アンジェ達の教室に忍び込んで、ドレスを切り刻んだのだった。
そんなこととは知らず、アリオス達はアンジェとの約束の時間に合わせてスモルニィまでやってきた。車での来場は禁止されているので、セイランのところからはレヴィアスも徒歩である。
「何で、お前達も一緒なんだよ?」
アンジェと2人で文化祭を見て回れると思っていたアリオスは、レヴィアスはおろかセイランまで一緒と知ってぼやいた。
「我も、アンジェに招待を受けたのでな。」
招待状を見せられて、アリオスは先日レヴィアスがあっさりと文化祭行きを許可してくれたことについて合点がいった。その様子を横目で見ながら、セイランが呟く。
「それにしても、あの子、遅くないかい?」
待ち合わせの時間はとっくに過ぎているのに、案内をしてくれるはずのアンジェの姿は一向に見えなかった。
「時間にルーズなタイプには見えなかったけど…。」
以前会った時の印象から、セイランは不思議そうに呟いた。
「ちょっと、電話してみるか。」
アリオスは内ポケットからケータイを取り出し、アンジェのケータイをコールしてみた。
コール音が長く繰り返された後、やっと出たアンジェは何やら説明しようとしてからそれをやめ、電話を切ると急いで待ちあわせ場所に走ってきた。その目には涙が浮かんでいる。
「ごめんなさい!!」
とにかく皆に何度も謝るアンジェに、アリオス達は事情を話すように促した。
「…という訳なの。今、貸衣装屋さんをあたる一方で同じような服地を買いに行ってるんだけど、直せるかどうかわからないの。」
最後には泣き出してしまったアンジェに、何故か3人揃って慰めるようにその肩や頭をポムポムと叩くと、アリオスがそっと口を開いた。
「泣くな。俺も、ドレス縫い直すの手伝ってやるから。」
「アリオスって、お裁縫も得意なの?」
驚いて泣き止むアンジェに軽く微笑みかけると、アリオスは首を縦に振った。もちろん全員分をひとりで直すことなど出来はしないが、少なくともアンジェのクラスメート達よりは遥かに上手に手早く直せるはずだ。
続けて、セイランもアンジェに声をかける。
「僕も協力してあげるよ。たまには布を縫い合わせるのも面白いかも知れないしね。」
普段は芸術的な手さばきで人体を縫い合わせているセイランの協力申し出を、アンジェは有り難く受け取ると、3人を連れて自分の教室へと向った。

アンジェ達の教室に案内された3人は、思ったより生徒の数が少ないことを訝しんだ。
「クラブのお当番とかを抜けられない人が多くって…。」
こんなことになるなどとは思っても居なかったので、殆どの者が出番までの間に先約が入っていた。勿論、中には彼氏を案内するなどの個人的な都合を優先した者も居なかったとは言えない。
「とにかく、裁縫道具と破れた衣装を持って来い。」
「うん。」
アンジェは、とてとてと走って行ってドレスを一抱えにして戻ってくると、アリオス達の前に広げて見せた。それらはかなり派手に引き裂かれている。中でも、四姉妹の衣装は損傷が激しい。
「こりゃ、酷いな。」
「でも、身ごろは無事みたいだね。これなら下がシンプルでも映えるから、同じような色の服地が見つかったらスカートだけ取り替えてしまえば平気だよ。」
ジョーとベスの衣装については、スカートや袖口やボタンを取り替えるだけで済みそうだった。だが、メグとエイミーの衣装は身ごろも派手に切り刻まれていた。
「これは修理ってレベルじゃダメだね。貸衣装屋に期待するしかないかな。」
完全に仕立て直さない限り、使用には耐えそうになかった。
それらを前に泣きそうな顔をしているアンジェをしばらく見つめた後、アリオスは深く溜息をつくと、アンジェに友達数人を連れて事務所まで走るように言った。
不思議そうな顔をしながらアンジェ達が指示された衣装箱を抱えて教室に戻って来た頃、アリオス達は他の者が買って来た服地でジョーとベスの衣装を直していた。
「お疲れさん。」
手を止めてアンジェ達の手から衣装箱を受け取ったアリオスは、その場でそっと箱を開けた。中からは、様々なドレスが出て来る。
「…何で、こんなもの持ってるの?」
目を丸くするアンジェに、アリオスは嫌そうな顔で答えた。
「レヴィアスによる嫌がらせの産物だ。」
捨てたら殺す、と言われたために捨てられなかった数々のドレス。数年前に、レヴィアスによって着せ換え人形のようにして遊ばれた時の誂え品である。
「ほぉ、懐かしいものが大量だな。」
面白そうだとばかりに寄って来たレヴィアスは、衣装ケースの中を覗き込んでニヤリとした。そんなレヴィアスを無視して、アリオスはメグ役の生徒に声をかける。
「あちこち摘んで補正すりゃ使えるんじゃねぇか?」
出来れば一生しまい込んでおきかったが、この際持ってるものは何でも利用するべきだろう。もちろん、メグ役の子が長身とは言ってもやはりこの服は大きいのだが、体形の違いもあって、肩や丈を縫い縮めると大体使えるレベルにまで仕上げられそうだ。
しかし、メグのドレスはこれで何とかなるにしても、エイミーのドレスだけは準備が整わなかった。あとは、貸衣装屋にあたっている者達に期待をかけるしかないかと、祈るような思いでアリオス達は衣装の修理と補正に尽力していった。

前へ

次へ

indexへ戻る