L&A探偵物語

<CHAPTER 7-1>

いつものようにアリオスの家事を手伝いに来たアンジェは、機を見てレヴィアスにそっとお伺いを立ててみた。
「来週の日曜日、文化祭にアリオスを招待してもいいですか?」
台所に聞こえないように声を潜めておねだりするアンジェに、レヴィアスは軽く笑いながら問い返した。
「奴は何と言っている?」
「まだ、アリオスには言ってません。だって、レヴィアスさんの許可がないと…。」
招待したら喜んで来てくれると思うが、レヴィアスがそれを許さなかったらアリオスが苦しむことになる。楽しみに待っているアンジェの期待を裏切るか、それともこっそり文化祭に行ってレヴィアスの怒りを買うか。
「あ、あの、招待したいのはアリオスだけじゃなくて、レヴィアスさん達もなんですけど…。」
アンジェは慌ててレヴィアスの前で1枚の招待状を取り出して見せた。宛名はレヴィアスで、同伴者1名まで有効になっている。
「我にアリオスを連れて行けと言うのか?」
「いえ、アリオスにも招待状を渡します。それに、アリオスは招待状無しでも大丈夫ですし…。」
レヴィアスの許可があればアンジェはアリオスにも招待状を渡すつもりだが、別にそれがなくてもアリオスだけなら入場出来る。これぞ保護者及び学校公認の威力と言うやつで、交際許可証を持っているアリオスは普段からスモルニィの敷地内に入れるのだ。勿論、用件その他をしつこく聞かれはするのだが。
不安そうな顔で見つめるアンジェの前で、レヴィアスはしばらく招待状とアンジェの間で視線を行ったり来たりさせた後、アンジェの願いを聞き入れた。
「まぁ、たまには良かろう。我も同行する以上、目の届かぬ場所ではなくなるしな。」
とたんにアンジェの顔がパ~っと輝いた。そして、そのまま台所へ走っていく。
それから間もなく、アリオスが慌てた様子でレヴィアスの元へ走って来た。
「おいっ、本当にアンジェんトコの文化祭に行っていいのか?」
「ああ。」
「大丈夫か?お前、熱でもあるんじゃ…。」
アリオスは訝しむように、レヴィアスの傍らで身をかがめてその額に手を伸ばした。すかさずレヴィアスはその手を払い除け、そのまま手を伸ばしてアリオスの襟元を掴んだ。
「我の好意を疑うような者に育てた覚えはないぞ。」
アリオスは締め上げられながら心の中で「俺もお前に育てられた覚えなんてねぇけど…」と呟いた。
「文化祭に行きたくないのか?」
「…行きたい。」
「ならば、素直に信じて我に感謝するのだな。」
その言動に、レヴィアスはひとまず正常らしい、と判断してアリオスがコクコクと頷くと、レヴィアスはアリオスの襟元から手を放した。
「サンキュ。」
ただの気紛れか裏があるのか、何にしてもスモルニィの文化祭に行かせてもらえることは確かなので、アリオスはとりあえず礼を言っておいた。

文化祭に向けて、各人は準備に明け暮れていた。
「アンジェってば、随分と張り切ってるね。」
「うふふ。だって、アリオスが見に来てくれるんだもの♪」
アンジェ達のクラスの出し物は体育館の舞台でのお芝居である。題材はダイジェスト版の『若草物語』。アンジェは三女のベスを、レイチェルは次女のジョーを演じることになっている。
「もうっ、張り切り過ぎて本当に熱なんて出しちゃダメだからね。」
本番は間近に迫り、現在は衣装を付けての通し稽古の真っ最中。クライマックスのシーンで迫真の演技を見せるアンジェに、レイチェルはからかうように声をかけた。
「わかってるわ。」
熱を出したら、舞台に立てないどころかアリオスに会うことも出来ずに寮で寝てなきゃいけない。そんなことにならないように、アンジェは健康管理に充分な注意を払った。
「そう言えば、あの2人って誰か誘って来るのかなぁ。」
「ん~、アリオスは誰も誘うつもりがないみたいだけど…。」
レヴィアスは誰か誘うつもりがあるのか良く解らなかったが、アンジェとしてはアリオスが来られるならそれで良いのである。
「はぁ~、相変わらずだねぇ、アナタ達って。」
レイチェルは呆れたように言った。あのレヴィアスが誘うような相手が居るとしたら、見てみたい反面、怖い気もするのだ。
そして、レイチェルにそんな風に思われていたレヴィアスは、その頃セイランに声をかけていた。
「へぇ~、面白そうだね。」
セイランは乗り気だった。
「でも、君がそんなところに行こうなんて言うのは、どんな気まぐれなんだい?」
「アレは、我のお気に入りなのでな。」
レヴィアスは電話の前で軽く笑った。それを受けて、セイランもクスッと笑う。
「確かに、見てて飽きないよね。」
「それに、アリオスで遊ぶには格好の材料になる。」
「カモってこと?」
からかうように言うセイランに、レヴィアスは真面目な声で答えた。
「いや、ネギだ。」
カモはアリオスで、アンジェは彼が背負ってるネギ。これまではアリオスをつつく材料を自分で用意しなくてはならなかったが、今はその材料がアリオスに付いて回っている。正に、カモネギ状態である。
「やれやれ、僕もあの子のこと結構気に入ってるんだけどな。」
電話の向こうでセイランは残念そうな声を漏らした。
「それじゃぁ、せいぜい自重させてもらうよ。君のネギを横取りする程身の程知らずじゃないからね。」
「賢明だな。」
「でも、少しくらいお相伴に預からせてもらっても良いよね?」
「そのくらいは良かろう。」
話がまとまって、当日の合流方法等を決めると、レヴィアスは電話を切って意地悪な笑みを浮かべたのであった。

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