L&A探偵物語

<CHAPTER 5-1>

いつものようにアンジェが事務所の手伝いに来ると、レヴィアスが依頼人を追い出したところに遭遇した。
「今の人は一体?」
すれ違うように事務所に入ってきたアンジェに、レヴィアスは不機嫌そうな顔で奥の椅子に座り直すと簡潔に答えた。
「迷惑女。」
これだけで、彼女の依頼の内容がよくわかる。アンジェ自身、これと思われてレヴィアスにたたき出されたことがあるのだから。
「あの…、前々から思ってたんですけど…。」
「何だ?」
「どんな依頼なら受けるんでしょうか?」
探偵の仕事として真っ先にアンジェが思いつく素行調査のようなものは受けていない。ボディガードもやらない。一体、いつ、どんな仕事をしているのかというアンジェの問いに、アリオスが横から答えた。
「探し物なら結構受けてるぜ。」
アンジェが知っているのは1件だけだが、人やペットや物を探す仕事は結構受けていた。基本的に、どれもあっさり解決するためアンジェが知らないところで処理されているだけだ。
「大体、ボディガードとかは専門外だしな。」
自分が狙われることが多いレヴィアスに、他人の身の安全に気を配れという方が無理というものだ。パーティーなどを催す場合は客の安全に気を配るが、それはあくまで管理上の話である。自らが誰かを守るというようなことはない。そしてアリオスはと言うと、これまた気の進まない相手を守れるほど器用には出来ていない。
「余程の事がない限り、俺は真っ先に自分の身を守るぜ。」
正直と褒めて良いものかどうか疑念が残るが、アンジェはアリオスの言い分に納得してしまった。

レヴィアスが事務所でお茶を飲みながらアンジェをダシにアリオスで遊んでいた頃、彼に事務所からたたき出されたアンジェラは取り巻きの前で怒り狂っていた。
「ああ、もうっ、あったま来ちゃう!! 何でボディガードして欲しいって言っただけで、あんなに悪し様に言われなきゃなんないのよ!?」
叫びながらクッションをボスボスと叩き付けまくる。
「嘘なんかじゃないわよ!! 本当に誰かに付け回されてるんだからっ!! それを端から人の話を無視してくれちゃって!!」
叫びまくった後、動きを止めて肩で息をしていると、ランディが爽やかに声を掛けた。
「だからさ、最初から言ってるように、俺達が君を守るよ。」
最近誰かに付け回されてるような気がする、と彼女が言い出した時、ランディもマルセルも自分達がガードすると言ったのだが、彼女はプロに頼みたいと断ったのだ。
「そうね。それじゃ、お願いしようかな。」
「任せてくれよ。」
ランディ達が頷き、皆で護衛当番の割り振りを行ったのを見て取った後、アンジェラはボソッと呟いた。
「もう一つ、お願いしていいかな?」
「もちろんだよ。大好きな君のお願いだもの。」
マルセルは、アンジェラの隣にしゃがむと、その伏せた顔を覗き込むようにして先を促した。
「私の心を傷付けたあの人達をちょっと痛い目にあわせてくれる?」
「えっ?」
「誰かに付け狙われる恐怖を、あの人達にも味あわせてやりたいの。」
あくまで恐い目にあわせたいだけだと言うアンジェラに、ランディとマルセルはその願いを受け入れることにした。そして、アンジェラの願いを叶えるためにいろいろ策を練り、彼等への攻撃を開始したのだった。

しばらくして、事務所の周りでよく奇妙な物音がするようになった。また、差出人不明の中身が真っ白な便箋の入った封筒がポストに入ることが多くなってきた。
「一体これは何の悪戯なんだろうな?」
「とりあえず、実害はないから放っておけ。」
昔から狙撃されたり中傷誹謗の手紙をばらまかれるのに慣れているレヴィアスである。こんなことくらいは気にもしない。
放っておくと、今度は外出したアリオスの後を誰かが付け回すようになった。何度かそんなことが続いたところでアリオスがそっと様子を伺うと、相手は女の子と見紛うような金髪の少年だった。
「子供のお遊びにしても、付け回されるのってあんまりいい気分じゃねぇな。」
まぁ、自分は取りたてて面白いことをしている訳でもなし、知れて困るような行動をとっている訳でもないからいいか。そんな風に考えながらもアリオスは一応レヴィアスに報告だけはしておいたが、案の定、返ってきた言葉は「放っておけ」だった。
「ねぇ、あの人たち全然堪えてないみたいだよ。」
「気づいてないとか?」
「ううん。そんなはず無いよ。だって、プロでしょ。」
「じゃぁ、この程度は慣れてるとか?」
あれこれ考えた挙げ句、ランディは直接攻撃に出ることにした。外出したアリオスを、弓矢で狙おうと言うのである。
「当てる訳じゃなくて、近くを狙ってさ。」
これなら、さすがに自分達が狙われているって感覚を持ってくれるだろう。
「でも、気を付けてよ。見つからないように、よ~く離れた所からね。」
「わかってるって。」
こうしてランディはアリオスの買い物コースを狙えるポイントを探し出し、ビル風に吹かれながら彼が通りかかるのをジッと待ったのだった。

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