L&A探偵物語

<CHAPTER 4-2>

事件はグループ行動の中で起こった。数日前に襲って来た台風の影響で大量の水を含んでいた崖が突然崩れたのだ。
その時、宿へ戻るためにアンジェ達が乗っていたバスは運悪くそれに巻き込まれ、トンネルの中に閉じ込められてしまった。
「やだぁ、圏外。」
友人達が次々とケータイを取り出しては悔しそうに鞄やポケットに戻していった。バスの無線も通じない。徐々に、車内の空気は緊迫していく。そんな中で、アンジェはアリオスから聞かされていたこういう時の心得を思い出していた。
「追い詰められた時程、落ち着いて行動しろ。パニクって下手な行動を起こせば、助かるものも助からなくなっちまう。」
もっとも最近俺はお前の事になると泡食っちまうけど、と言って苦笑していたアリオスの顔を思い出して、アンジェは必死に自分の心を静めた。
「大丈夫、アンジェ?」
目を閉じて手を胸の前で握りしめているアンジェに、レイチェルが心配そうに声をかけた。トンネルの中のライトでぼんやりと見える様子では、アンジェが苦しそうに胸を押さえているように見えたのかも知れない。
「大丈夫よ。心を落ち着けなきゃって思ってただけだから。」
「そうだね。騒いだからって助かるもんじゃないし、それで反って事態が悪くなったら嫌だもんね。」
レイチェルの言葉に強く頷きながら、アンジェはアリオスのことを考え続けた。
それからどれだけの時間が経ったのだろう。アンジェの念が届いた訳ではないだろうが、突然、彼女の荷物の中から音楽が流れ出した。
「何?」
「あっ、着メロ…。」
でも何故、と不思議そうな顏をしながら、アンジェはアリオスからもらったケータイを取り出した。そして、恐る恐る電話に出てみる。
「アンジェ!!」
ケータイから、アリオスの声が聞こえて来た。
「…アリオス?」
「お前、無事か? 変わりはねぇか?」
確かに電話が繋がっているらしい、とアンジェは驚きながらアリオスの声を聞いていた。
「悪い、驚かして。「また電話する」って言ってたお前がこんな時間になっても連絡寄越さねぇから心配になってさ。ハッ、まいったな、相当イカレちまってるみてぇだ。ちっと連絡が遅かったくらいでこんな…。」
反応のないアンジェに、アリオスは彼女が呆れているのだと思ったらしい。
「ア、アリオス!!」
「ん? どうかしたのか?」
「実は…。」
アンジェは今の自分達の状況を簡単に説明した。もちろん、レイチェルも横から補足する。
「莫迦っ!! どうしてすぐに連絡しねぇんだ!!」
「だって、こんなところじゃケータイ繋がるなんて思わないし、実際、皆のケータイは圏外でバス無線だって…。」
アンジェがしどろもどろに言い訳していると、電話の向こうから不機嫌そうな声が聞こえて来た。
「アルヴィースの技術力も見くびられたものだな。」
「あっ、レヴィアス。てめぇ、盗聴してやがったな!! って、返せよ、それ。」
どうやらケータイをひったくられたらしいアリオスの声が漏れ聞こえて来る。そしてそれを軽くあしらうようにしながらレヴィアスの声が続く。
「これは我が作らせた特注品だ。そこらのケータイや通信機と一緒にされては不愉快だな。」
「ごめんなさい。」
素直に謝るアンジェに、レヴィアスはアリオスとの会話を盗聴しながら手早く集めた情報を教えてくれた。それによると、崖崩れがあってすぐに警察や消防が動き出したが、手に負えそうにないので派遣軍の出動が検討されているらしい。
しかし、中に閉じ込められている者の状況がわかれば少しは対応に変化が出るだろう。閉じ込められたのがアンジェ達と運転手だけで、中の空間が広く開いているとなれば、慎重かつ迅速に人命優先で救出作業が始まるはずだ。
「だが、救助には時間が掛かるだろう。」
「わかりました。ありがとうございます。」
アンジェが礼を言って電話を切った。
本当は、アリオスに替わってもらって元気づけて欲しかったが、これは今のアンジェ達が外と連絡をとれる唯一のものである。何かあった時にバッテリー切れで使えなかったら元も子もない。友人達はアンジェからこのケータイを借りて思い思いに外へ連絡をとろうとしたが、登録された相手-正確には同種の系統の端末-にしか繋がらないとわかってすぐにアンジェに返してくれた。
そしてアンジェは、再び静かに祈り続けたのだった。

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