L&A探偵物語

<CHAPTER 3-2>

エリスを探して外へ出たアリオスは、まずは近くのゴミ捨て場や茂みを覗き回った。
「腹減ってるはずなんだけどな。」
レヴィアスと一緒に昼近くまで寝てた以上、エリスはお腹を空かしているはずである。その割には、台所が荒らされた様子はなかった。となると、どこかに餌のアテがあって出て行ったと見るべきか。あるいは、何かを嗅ぎ付けたか。
アリオスはエリスの名を呼びながら、商店街方面へと歩いて行った。
「ヤバいな。エリスの奴、こんな方まで来て餌漁ってたらデカいノラにやられちまうぜ。」
普通なら逃げそうなものだが、エリスはあのレヴィアスに懐いたくらいの恐いもの知らずだ。無謀にも立ち向かって御臨終なんてことになりかねない。
「って、その場合、やっぱ俺が八つ当たりされるのか?」
エリスの安否に自分の身の安全がかかってくると気付いたアリオスは、これまで以上に真剣にエリスを探し始めた。
「エリス~、どこだ~、さっさと出て来い~っ!!」
しかし、夕方近くなってもエリスは見つからなかった。こっそり事務所を覗いてみても、戻って来た様子はない。
「ああ、もうっ、どこ行きやがったんだ。ったく、無事で居てくれよな。俺はまだ死にたくねぇぞ。」
そんなアリオスを見つけて、事務所に向う途中だったアンジェが駆け寄って来た。
「誰を探してるの?」
「ああ。レヴィアスの猫だ。エリスって名前の…。」
そこまで言って、アリオスはアンジェが抱えているものに気付いた。
「エリス!?」
「えっ?」
アリオスはアンジェの腕の中で幸せそうに眠っている子猫をそっと取り上げて、模様や首輪を確認した。
「間違いねぇ。」
ついでに、怪我をしてないかなども確認して、アリオスはホッとした。これでレヴィアスに八つ当たりされずに済む。
「何処に居たんだ?」
「あ、あのね、学校に迷い込んで来たの。それで皆で放課後までお世話して、アリオスに飼い主探してもらおうと思って連れて来たんだけど…。」
まさか、レヴィアスの猫だなどとは思わなかったらしい。それも仕方のないことだろう。いくらアンジェがアリオスの家事を手伝っているとは言え、あくまで事務所内のことだし、レヴィアスはエリスを自分の部屋から出そうとしないのだから。その上、あのレヴィアスが一目で雑種とわかる茶トラ猫を飼っているなどとは思うまい。これが、黒猫だったら話は別かも知れないが…。
「とにかく助かった。」
アンジェ達が寮でこっそり飼おうとか誰か飼えそうな人に引き取ってもらおうとか考えなかったのは幸いだった。そんなことをされていたら、探し出すのに苦労しただろう。
「サンキュ。」
エリスを抱え直しながら礼を言うアリオスに、アンジェはとっても嬉しそうに微笑んだ。

「遅い!!」
エリスを抱えて事務所の扉を開けたアリオスに、今度は鞘のついてない小剣がまとめて2本襲い掛かった。
「危ねぇじゃねえか! こいつに当たっても良いのかよっ!!」
エリスを押し出すように苦情を申し立てるアリオスに、レヴィアスは平然と応じた。
「当たるわけなかろう。」
お前は絶対に避けるか庇うかするのだから、と言わんばかりの態度に、アリオスはムッとした表情を見せながらエリスを差出した。
「スモルニィまで遊びに行ってたらしいぜ。」
「ほぉ、それはまた遠出をしたものだな。」
レヴィアスはエリスを受け取ると愛おしそうに膝の上に乗せて背中を撫でた。そして、アリオスの後ろにいるアンジェに目を止める。
「それで、お前はこれ幸いと逢い引きしてた訳か。」
「妙な言い掛かりつけるんじゃねぇよ。街中探してる時に、エリス連れたこいつと会っただけだ。」
「あの…、飼い主を探してもらおうと思って…。」
反論するアリオスに、アンジェも言葉を続ける。
「…まぁ、そういうことにしておこう。」
幸せそうに眠るエリスを見ながら、レヴィアスは面白く無さそうに続けた。
「アリオス、夕食の支度。それと、お茶。ああ、そこの掃除も忘れるな。」
期待などしてはいなかったが、労いの言葉もなく用事を言い付けるレヴィアスに、アリオスは「俺は昼飯抜きだったんだぞ!!」と心の中で叫びながらアンジェと共に言い付けられた用事に取りかかったのだった。

-CHAPTER 3 了-

前へ

次へ

indexへ戻る