L&A探偵物語

<CHAPTER 3-1>

アリオスが買い物から帰ると、事務所の扉を開けた途端に鞘付きの小剣が飛んで来た。
「遅いっ!!」
そう叫んだ小剣の投げ手は、珍しく部屋の奥ではなく隅の方で屈み込んでいた。
「何やってんだ、レヴィアス?」
アリオスは、出かけてから1時間掛からずに帰って来たのに「遅い」と言われていきなり小剣を投げ付けられたことよりも、あのレヴィアスが部屋の隅で屈んでいることの方が遥かに気になった。まだ掃除前の部屋の床には汚れが溜まっているにもかかわらず、レヴィアスは懐中電灯片手に何やら真剣な表情で這うようにして隙間を覗き込んだりしているのである。
「エリスが居なくなった。」
「エリス?」
エリスって女の名前だよな。でも聞いたことないし、そもそもこのレヴィアスの行動とどんな関係があるんだろう、とアリオスは首を捻った。
「ぐずぐずしてないで、お前も探せ。」
「探せって言われても…。」
知らないものを探せと言われても困るのだ。
「エリスって、何だ?」
隙間を探しているくらいだから人間の女じゃないことはわかるが、それだけに余計に何を探せば良いのかわからない。
「猫だ。」
「ああ、あいつ、名前あったのか。初めて聞いたぜ。」
エリスは、レヴィアスが自室で飼っている猫だった。どこから来たのかはわからないが、この事務所に入り込み、何故かレヴィアスの膝の上を気に入って、そのまま居着いてしまったという、まだ幼いと思われるのに大変肝の座った子猫である。
「で、居なくなったのはいつ頃なんだ?」
「我が目を覚ました時は既に居なかった。」
レヴィアスが目を覚ましたのは、つい先程である。そこでバスケットがもぬけの殻になっていることに気付き、エリスを呼んでみたが返事がなかった。そこで次はアリオスを呼んだのだがこれも返事がなく、枕元と事務所に「買い物に行ってくる」とのメモ書きが残されていたので、自力でエリスを探し始めたのだ。
「俺が出かける前に声かけた時にはバスケットは膨らんでたな。まぁ、中身まで確かめた訳じゃねぇが…。」
ブツブツと呟いているアリオスに、レヴィアスは立ち上がって詰め寄った。
「とにかく、早く探せ。猫探しはお前の得意技だろう。」
「好きで得意になった訳じゃ…。」
アリオスがこの事務所で働くようになって以来、レヴィアスが最も多く受けた依頼が迷子の犬猫探しだっただけのことである。ただ、その犬猫が一癖も二癖もあったのだが…。
「好きだろうと嫌いだろうと、得意なことに変わりはあるまい。いいから、さっさと見つけだせ。」
「何焦ってんだ? たかだか1時間くらい姿が見当たらないだけじゃねえか。」
相手はぬいぐるみではないのだから、散歩くらいする。元々どこかからここまで歩いて来たのだから、足の心配もないだろう。
「我は、焦ってなどおらぬ。」
レヴィアスは精一杯強気を保とうとしているものの、アリオスの目には焦っているようにしか見えなかった。よっぽどあの猫が気に入っていたのだろう。
「ったく、仕方ねぇなぁ。」
アリオスは、そう呟くと台所で手早くエリス用の餌皿にキャットフードを入れて事務所のど真ん中に置いた。そして四方八方に向って叫ぶ。
「エリス~、飯だぞ~!!」
そしてしばらく耳を済ましていると、横で見ていたレヴィアスに頭をはたかれた。
「いきなり殴ることはねぇだろ。」
「喧しい。手抜きをするな。」
「文句言うなら、自分で探せよ。」
「だから、我も探しているではないか。」
とは言え、レヴィアスは行方不明になった人間を探し出すのは得意でも、犬猫探しは不得手なので、高級な服を傷めながらアテもなく隅々を探し回っているだけであった。そんなレヴィアスを見ながら、アリオスは軽く溜息をついた。
「こりゃ、外へ遊びに行ってると見るべきだな。ちょっと外を回って来る。」
そしてアリオスは、手早くレヴィアスの朝食兼昼食を作ると「それ食って大人しくしてろ」と言い残して出かけて行ったのであった。

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