L&A探偵物語

<CHAPTER 2-2>

調査を始めて間もなく、アリオスは行方を眩ませてから3日間のアンジェリークの足取りを掴んだ。町外れの高級ホテルを転々としながら、裏町入り口のゲーセンで遊んでいたらしい。警察は誘拐と家出の両方から捜査をしていたが、彼女が本名で高級ホテルに宿泊し、その一方で裏町で遊ぶなんてことは考え付かないようだった。
「メチャクチャだな、この女。」
良家のお嬢様って何考えてんのかわかんねぇ、と呆れながらアリオスはその後の足取りを追った。だが、裏町の中に入ったところでプッツリと足取りが掴めなくなった。
「やっぱ、これって拉致されたか?」
最近、この辺りでは相次いで行方不明者が出ている。しかし、それらは家出中や家庭崩壊している家の者なので、警察でも新聞でもあまりまともに取り上げられてはいなかった。
「お嬢様がこんなとこ歩いてたら、カモだよな。」
ひとまず、アリオスはエルンストのところで行方不明者の詳細データを受け取ると、事務所へ戻ってレヴィアスに報告を行った。
「お前の読み、当たってたぜ。あのお嬢さん、裏町で遊んでやがった。で、2日前から足取りがプッツリだ。」
「2日か。では、そろそろ次の被害者が出る頃だな。」
もしかしたらもう出ているかも知れないがこれからならば手がかりを掴むチャンスはある、とレヴィアスは微かに笑った。
「何をやる気だ?」
「やるのはお前だ。女装して、囮になれ。」
「……は?」
アリオスも固まったが、近くで窓を拭いていたアンジェも手が止まった。
「女装?」
そんなもんはジョヴァンニにやらせろよ、と言いかけたアリオスを余所に、アンジェは雑巾を握りしめて叫んだ。
「無理よ!!」
「無理ではあるまい。服と動作に気をつければ、充分化けられるはずだ。最近の高校生は発育が良いから、その背の高さもさほど問題ではあるまい。」
レヴィアスは楽しそうにアリオスを眺めた。しかし、アンジェはアリオスの横まで来ると、その顔を指差しながら言った。
「だから、無理だって言ってるんです!! アリオスじゃ美人過ぎて反って誰も寄りつきません。」
アリオスは、こいつってやっぱり感覚ずれてる、と頭を抱えた。
「では、お前がやるか?」
「私?」
「反対!!」
今度は即座にアリオスが叫んだ。
「こいつに、そんな危険なことさせられっか。」
「えっ、やってもいいけど…。」
レヴィアスの目から隠すようにアンジェを自分の後ろに回すアリオスの影で、アンジェはキョトンとした顔で言った。
「だって、私ならごく普通の現役女子高生だもの。きっと引っ掛かってくれるわ。」
「莫迦っ!! お前がやったら確実に引っ掛かるじゃねぇか。んな危ない真似すんじゃねぇよ!!」
アリオスが失言に気付いた時は手遅れだった。レヴィアスはニヤリとすると、囮をアンジェに決定した。
「便利で健気な恋人を持ったものだな。」
支度にかかるアンジェを見送ったその表情を楽しむように、レヴィアスはアリオスを見上げて意地悪な微笑みを浮かべていた。

「おい、マジでやるつもりか?」
裏町の入り口まで来たアリオスは、中に入ろうとするアンジェに考え直すように言った。
「危ないからやめろよ。お前にそんなことさせるくらいなら、俺は女装でも何でもするって。」
「アリオスの女装姿、見てみたい気はするんだけどね。でも、それじゃ絶対誰も引っ掛からないわよ。」
アンジェにはわかるのだ。自分がよくナンパされるから。
隙のない人間には誰も寄ってこない。アリオスが女装したら、綺麗すぎて反って敬遠される。
「大丈夫よ。だって、私にはアリオスが付いてるもの。絶対、助けてくれるでしょ?」
「当たり前だ!!」
いざとなったら、レヴィアスの立てた作戦をぶち壊してでもアンジェを助け出す。
「信じてるから。だから、行ってくるわ。」
「気をつけろよ。」
アンジェの意志が変わらないのを悟って、アリオスは彼女を囮として放った。そして、自分も遊びに来たような振りをしてアンジェの後をつける。
アンジェは少し奥まったところのゲーセンに入ると、囮の自覚があるのかないのか、クイズゲームを見つけて夢中で遊び始めた。それを横目で見ながら、アリオスは近くのシューティングゲームを冷やかす。多少余所見しながらでも高得点をマークし、適当に遊んでる振りを続ける。
そうしてどのくらい遊んだことだろう。アンジェは店の奥の化粧室へ向い、何者かに薬を嗅がされた。
だが、布を押し当てられながら相手ともみ合いになった時に微かに漏らした悲鳴を、アリオスは聞き逃さなかった。
店の外へ飛び出したアリオスは、アンジェを連れ去る3人組を目の端に捕らえ、後を追った。すると、その誘拐犯は裏町を出て、待ち構えていた車に乗り込んでしまった。アリオスは、その車のナンバーを記憶し車体に発信機を投げ付けると、レヴィアスとエルンストに電話を掛け、見失うまで車を追って走り続けた。

前へ

次へ

indexへ戻る