L&A探偵物語

<CHAPTER 1-2>

「つまり、お前は我に二枚舌を使って出かけ、意に背いて勝手に依頼を受けた挙げ句、手に負えなくなったから力を貸せと、そう言うのだな?」
ここ数日の行動に対して身も蓋もない言われ様にアリオスはカチンと来たが、事実なので開き直った。
「ああ、そうだよ! 俺じゃ、あの爺ィに会うどころか門前払い食わされてあいつを連れ去られるのがオチだからな。」
そんなアリオスの様子に、レヴィアスは僅かに唇の端を上げた。
「まぁ、いいだろう。我にとっては大した手間ではない。お前の態度次第では口添えくらいしてやろう。」
「俺に、どうしろってんだよ?」
アリオスはレヴィアスが何を言っても怯むまいと必死に自分の心を奮い立たせた。
「我に力を貸して欲しくば土下座して頼むことだな。」
やっぱりそう来るか、とアリオスが思ったところで、レヴィアスは再び唇の端を微かに上げてから言葉を続けた。
「と言いたいところだが、今回だけは大目に見てやろう。今夜の献立をシチューにしろ。それで許してやる。」
「あ? ああ、シチューね。へいへい、腕によりをかけて作らせてもらう…って、ちょっと待て。今、何時だ!?」
アリオスが慌てて時計を見ると、時刻は6時15分前。材料は……無い。
「材料買って来る!!」
アリオスは慌てて踵を返した。だが、そこをレヴィアスが呼び止める。
「何だよ!?」
急いでる時に呼び止められたアリオスは、レヴィアスを睨み付けるように振り返った。
「我がいつもこれほどに寛大だなどとは思わぬことだ。」
「誰が思うかっ!!」
材料が無いのを知ってて行きつけの肉屋が閉まる15分前にしかも調理に時間の掛かる料理を夕食2時間少々前に注文する奴が寛大だなどとは絶対に思わん。これは明らかに新手の嫌がらせだ。それを恩着せがましくするなんて、やっぱりこいつは性格が歪みまくってる、と心の中で叫びながらアリオスは商店街まで走って行った。
そして、全速力で足りない材料を買い集めたアリオスが必死になって包丁を振るい、後は煮込むだけという状態までもっていって台所で脱力している間に、レヴィアスは約束通り1本の電話をかけたのだった。

翌日、アリオスは女装したジョヴァンニと共にスモルニィの門の前にいた。
「遅いねぇ。」
「そのうち出て来るだろ。あいつトロいからな。」
良家のお嬢様風の格好をしたジョヴァンニとそのボディガードの振りをしたアリオス。この設定のおかげで、アリオスは学院関係者に怪しまれることなくアンジェを待ち伏せすることが出来た。
「あれ、そうじゃない?」
「来やがったな。」
アリオスは手はず通りにジョヴァンニと共にアンジェに近寄った。
「アンジェリーク♪」
ジョヴァンニが校外のお友達の振りをして声を掛ける。
「はい? えぇっと、どなたでしたっけ?」
「関係者だ。」
その声にアンジェが目線を上げると、アリオスは手短に事情を話して彼女を車に誘った。だが、アンジェが了解する前にレイチェルが抗議の声をあげる。
「ちょっと待ってよ。いきなりお話しろなんて言われても困るヨ。アンジェにだって心の準備ってものがあるでしょ。」
「時間がないんだ。心の準備とやらは、車の中でやってくれ。」
「そんな勝手な…。」
「勝手なのはわかってるが、このままだともっと勝手なことをされちまうんだ。」
その言葉に、事態は本当に時間の問題になって来ていることを感じ取ったアンジェは、心配して離れないレイチェルを伴って車に乗り込んだ。
「それにしても、たかが小娘1人の為にレヴィアス様の御手を煩わせ、あまつさえ僕達まで巻き込むなんて、いい度胸してるよね。」
車が発進するなり、ジョヴァンニはお嬢様の仮面を脱ぎ捨ててアリオスにからみ出した。要するに、アリオスに手を貸すのが面白くないのである。
「どうやって、レヴィアス様を動かしたの? 跪いて懇願でもした?」
「してねぇよ。」
「へ~、それでよくレヴィアス様が動いて下さったね。一体、どんな気紛れを起こされたのやら。」
「知るかっ!! んなものは、レヴィアスに聞け。」
シチューの嫌がらせくらいでレヴィアスが動いた真意は、アリオスにも見当はつかなかった。一体、裏で何を企んでいるのやら。少なくとも、アンジェの依頼をまともに取り合わなかったことへの反省などではないことだけは確かだ。
「でもさぁ、レヴィアス様に逆らってまでその子の味方した理由くらいは教えて欲しいな。」
「こいつが『騙り』なんかじゃないって思ったからだ。後は成り行きだな。」
「ふ~ん、成り行きねぇ。」
ジョヴァンニは含み笑いをすると、標的をアンジェに変更した。
「君さぁ、アリオスにどんな報酬を約束したの?」
「えっ?」
「お金? それとも躰? ああ、もしかして、うまくカトレア家に入り込めたら婿にしてあげるとでも言った? それならアリオスも必死になるよね。日陰者から一躍表舞台に出られるんだもの。」
アンジェはジョヴァンニの言ってる意味がよくわからなかった。
実際に報酬として約束したのはお茶一杯である。しかし、そうでなくても自分の何処を見てお金とかそういう発想が出て来るんだろうか。
「ちょっと、アンタ!! さっきから黙って聞いてりゃ言いたい放題。この子はそんな子じゃないヨ!!」
「お~、恐い恐い。おまけの分際でよく吠えるね。」
「何ですって!?」
アンジェの代わりにジョヴァンニに噛み付いたレイチェルは、おまけ呼ばわりにますます怒りを募らせた。だが、そこへアリオスが割って入る。
「いい加減にしろっ!! それ以上ふざけたこと抜かすとただじゃおかねぇぞ。」
「おやおや、どうする気?」
「殺す。」
そんなアリオスに対して、ジョヴァンニは楽しそうに笑った。
「面白いね。そんなことしたら、レヴィアス様に八つ裂きにされるよ。」
「お生憎様。あいつはまだ俺を手放す気にはならねぇよ。」
さもなければ、あんな嫌がらせくらいで済むはずがない。アリオスは、その点だけは絶対の自信を持っていた。
「そこまでにしておきなさい、ジョヴァンニ。これ以上のアリオス殿への干渉は、レヴィアス様のお怒りを買いますよ。」
「は~い。」
運転席のカインの言葉にジョヴァンニは渋々引き下がったのだった。

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