3.4 スライドトランペット

  同様にスライドをトランペットに付け加える。トロンボーンのグリースサンドにおいて、演奏者の唇の固有振動数は管内の共振周波数に調整される。そのため唇は時間とともに変化する周波数と同じ共振する倍音を励振する。我々のモデルでは、管内(ボア)の長さを徐々に変化すること、即ち、遅延時間を変更すること(3.3 節参照)で、そのままスライドをシミュレーションすることになる。同じ倍音にとどまるために、唇の固有振動数が比例するように変更した。我々のリアルタイムシステムでは、MIDIペダルを使い、より直観的に操作できるようにした。

  MIDIで制御する場合、8ビットのMIDIメッセージによって離散化(discretize)するため音程は完全な連続ではない。しかしながら、妥当な範囲でグリースサンドは連続的な音を出す。例えば450Hzから650Hzまで、認知できるステップなしに、本当のグリースサンドを演奏できる。最後に、グリースサンドの範囲内で完全な連続したスライドを得るため、MIDI変数を補間できるように、分数的(微細)な遅延要素を組み込むことにした([DT96]参照)。

3.5 閉じたモデルの洗練

  唇が開いている時の弾性係数をkとし、粘性制動(減衰)係数をrとする。唇が閉じている時には弾性係数3k、粘性制動(減衰)係数4rを付け加える。唇が開いた状態から閉じた状態に閉じる時、また逆に開く時も、パラメータ値の急な変更を無効にするために、制動(減衰)係数と粘性係数について補間した。事実、もし実際の唇が振動している状態のことを考えてみると、唇は一つの塊のような要素ではない。唇は端から徐々に閉じていく。従って、実際の唇の場合でも、弾性係数と制動係数は徐々に変化していくと仮定できる。さらに、同じ理由によって、唇の間の開き具合が、一定の限界値を下回った時に補間を適用する。

  唇の開閉するところで、唇の間の流量を示す式を変更する。そうでなければ、ベルヌーイの圧力は、唇が閉じようとする直前に急激に増加し、閉じきった時にはゼロになる。これは、非現実的な高周波の音を発声させる。これまでのモデルでは限界の層を無視していたことに注意する必要がある。唇の開きが少ない状態であれば調整は出来なくなる。(唇の開きが小さくなればなるほど、それはますます現実に合わなくなる。)おおまかな話であるが、限界の層では、粘性効果によって流量は減少する。この現象をある単純な動きとしてとらえるために、唇の開き具合が特定の限界値よりも小さい場合、流量を滑らかに制動する。この閉じたモデルが適用された時、シミュレーションされた音はよりリアルなものとなった。

3.6 モデルの動作の制御

  [RV96]でモデルの基礎となる構造が変化しない限り、ホッフの理論は適用できることを示した。ここに示した最終モデルは多少の簡略化はなされているものの、ホッフの理論を適用するための条件を充分に満たしていると立証されている。従って、振動の正確な条件を、分析的にも備えているといえる。このモデルの振動が存在し、一意的で、安定していること、そしてその周波数と振幅も、固定点の近くで計測することができた。


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