3. 音の発声機構(Production mechanism)の改良

  ここまでは、この金管楽器の基本機能の理解しやすい例について述べてきた。次の段階は、より自然な楽器の音発声工程のより良い近似方法を用いて、モデルを改良することである。

3.1 計測された反射関数

 管内の圧力と流れる波は、入力と出力の波の和と考えられる[この場合、出力の波(反射波)は負の数として加算されたという表現をしているものと思われる]。このことから、管内のインパルス応答に代わり、反射関数を使うことができる。

  管内の最も厳密な線形のモデルは、実トランペットの計測した反射関数を使用したものであろう。R.Causse'とN.Misdariisの支援を得て、幾つかのトランペットの複素入力インピーダンスを計測した。周波数領域で、このことは次のように表すことが出来る:

   R(f)=(Z(f)−Zc)/(Z(f)+Zc)

 ここでR(f)は反射関数のフーリエ変換形であり、Z(f)は楽器の入力インピーダンスであり、Zc はトランペットの入力における特性インピーダンスである。そして、時間領域の反射関数は、R(f) の逆フーリエ変換を計算することによって算出できる。

 しかしながら、歪みや脈動波(ripple)が反射関数を変化させてしまうため、これは理論通りに行かないのである。この変化を最小限にとどめるための過程を[GGA95]に記述した。その内容は、最初に毛細管状のファイバーを通じて行われる、計測を補正するために、入力インピーダンス上に相回転を与えるということがある。そうすれば、入力インピーダンスの0Hzから計測された周波数の間が補間される。エルミート対称補正を行ったことになる。連続性の状態を最良にするために、対称形の中心が選択される。最後に、脈動波(ripple)の影響を防ぐために、相回転を反射関数スペクトルに適用する。反射関数の結果は図2に示す。

 図-2

  この厳密な反射関数を使うことはモデルの音質を大きく向上させるが、シミュレーションのための計算負荷についても大きく増加させてしまう。リアルタイム性を保つためには、反射関数の思い切った簡略化を行わなくてはならなかった。最初の選択として、図2中の400あたりのサンプルに見られる、ベルによる大きなピーク以降の反射関数を無視した。その結果は図3の通りである。

 図-3

 これはプログラムの計算負荷を低減させるが、欠点なしという訳にはいかない。10ミリ秒以降の反射関数を無視したため、1/0.01=100Hz近傍のインピーダンスピーク、即ち一番低い側のインピーダンスピークの幅を、図4のように、計測されたインピーダンス(図5)と比べて、低く計算してしまっている。明らかに、このモデルでは最初の2つの倍音を演奏することが困難であることを示している。このことを改良するための解を、3.2 の節で提案する。

 図-4

 図-5


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