・・・・・いわぶちさん
2001年11月21日。キリンジの 4th アルバム「Fine」が発売日されました。
タワー新宿,タワー渋谷,HMV渋谷の3店舗限定で発売されたCDには、発売元のワーナー・ミュージック・ジャパンが企画した「3/1NHKホールのバックステージのご招待応募はがき」が同封されていました。私は何となしにその1枚を投函したのです。
2002年2月13日。ワーナーから私の元に電話があり、「バックステージへのご招待に当選しました」との事。この一生分の運を使い果たしたようなバックステージ招待の模様を、レポートさせて頂きます。
2002年3月1日。NHKホールでのキリンジ・ツアーファイナル当日です。ライブ終演後、ワーナー担当者さんとの待ち合わせ場所(CD直売所)へ。身分証明をした上で、衣服に貼りつけるステッカーを貰います。
ツアー・スタッフ・IC(プラスチック・ケース入り,黒地にカラフルな「KRNJ」の文字,ネック・ハング形式)ではなく、NHKホールのゲスト用ステッカーらしく、マジックで「キリンジ 3/1」と記入してありました。
招待者10名は全員女性。私(泰行さんより一つ下)より、やや若い人が多いようです。ワーナー担当者さんは何故かしきりと恐縮して「お待たせして申し訳ない」と、ワーナー・グッズをお土産に下さいました。その説明によると、キリンジのお二人が、シャワーや着替えを終えたのを見計らって楽屋に入り、招待者一人一人とインスタントカメラで記念撮影をするとの事。
ホールからお客さんが居なくなった21時頃、いよいよ1階からバックステージ潜入開始。ステージ下手の袖から、スタッフの皆さんがケーブルや機材を忙しく運び出し、ギターラックに収まった大きなギブスンが目を引きます。廊下に手書きの「打ち上げ会場 →」という、張り紙を発見。打ち上げって、ここでするものなのか…と思いつつ、イヤぁな予感が…
招待者は、もうしばらく通路のベンチで待つ事になりました。待っている間も、NHKホール,ワーナー,Natural Foundationのスタッフが忙しく廊下を行き交います。人の流れを見ると、どうやら廊下奥の黒いドアの向うが、キリンジのお二人が居る楽屋のようです。待つこと…40分位でしょうか。相変わらずワーナーの担当者さんは「もう暫らくお待ち下さい」と恐縮し、様子が変です。どうやら、「一人一人が楽屋に入って写真撮影」という段取りは上手くいっていなかったようです。なぜなら…
出てきました。楽屋入り口から一団が。まず目に付いたのは高樹さん。ひときわ背が高く、眼鏡がオーラを放っています(私にはそう見えた)…圧倒的な存在感。招待者10名は緊張の余り呆然と息を飲み、悲鳴もあがりません。
高樹さんの陰に隠れていた泰行さんも、ヒョイっという足取りでいらっしゃいました。一緒に出てきたのは事務所の方のようです。
「おー、どうもー。お待たせしましたー」
お二人がリラックスした面持ちで、私達に声をかけると…分かりました。ほろ酔い加減ですッ!!既に一杯やってたんですね。ニコニコと上機嫌で、やや顔を赤くしています。楽屋には入れてもらえないのも納得です。高樹さんは黒いパンツに、襟付きのヨレッとした黒いシャツ。更に寛ぎモードの泰行さんは、胸に白「DUFFER」とある黒いトレーナー。お二人揃ってお酒の匂いを漂わせていました。
早速、廊下の壁をバックに、インスタントカメラで撮影が始まります。並んで立ったお二人の間に、招待者が入っては撮影という流れ作業。途中で泰行さんが突然、
「飽きた!」と言うではありませんか。
げげッ!!撮影に飽きたのかーッ?!と思ったら、お二人の立ち位置に飽きたとの事。
「んじゃ換わろう」と笑う高樹さん。芸が細かいです。
写真の絵が浮き出るのを待ち、お二人はしゃがみ込んで一枚一枚にサインをしてくださいます。
「○○さんへ」と、「キリンジ」は高樹さん担当。写真を見ては招待者に名前を尋ねます。ある招待者さんが「○○子です」と言うと、
「○○子…うちのおばさんと同じ名前。」と、高樹さん。一同どっと笑い。
「あー。俺、結構世話になったんだよね。」と、泰行さん。どんなおば様なのでしょう?
「いわぶちなおこ、です」と私が名乗ると、高樹さんはいきなり「なおこさんへ」と書き始めます。それを見た泰行さんがすかさず、
「『ふち』の字が書けないんでしょ?!」と鋭いツッコミ。
「うん。」と、高樹さん(うふふと笑う)。
「難しいよ〜ふちってのは、なかなか書けないんだよ…日付も入れよう…」
泰行さんはブツブツ言いながら一生懸命書いています。流麗な崩し文字の高樹さんに対し、画数の多い文字をデカデカ・ゴツゴツと書く泰行さんのサインは、やや時間が掛かりました。
サインが終わると、お二人が招待者一人一人に写真を手渡し、握手です。招待者は持参したプレゼントを渡しながら、お二人と軽く話が出来ました。私が高樹さんとある招待者の方に注目していると、隣りで笑い声が。見ると、
「…あ、む、無視されてしまった…」つぶやく泰行さんが手を宙に浮かしています。
「す、すみません!気がつきませんで!」お互いに苦笑いしながら握手。
泰行さんのその手は、乾いて、骨が太くて肉厚な感じがしました。
「最後、ギター、あれ、テレキャスですよね」私が泰行さんに訊ねると、
「そうです、切れちゃいましてね…」と、少し照れたようなしぐさ。
「切れるとすぐに代わりが出て来て…チューニングとか、直ぐに使えるんですか?」
「そうなんですよ、いつもちゃんと準備してくれてる人が居るんですよ。」
泰行さんの笑顔は、スタッフの皆さんへの感謝が表れているようでした。
次に高樹さんと握手。わずかに火照った、大きな手です。
「今日のギター、あれ、レス・ポールですよね?」と私が訊ねると、
「そうです」と高樹さん。
「あの赤いレス・ポール、格好良いです」
「そうですか。あれはですね…良いんですよ…」高樹さんはギターを構える真似をしながら(恐らくマニ
アックな)仕様の説明を始め、ニコニコと嬉しそう。すると、泰行さんがすかさず、
「言いたいんでしょ?!」と、右手でお兄さんの左肩にツッコミ。
「うん!」どうやらあの赤い小さなレス・ポールは、高樹さんのちょっとした自慢だったようです。
あっというまの…10分もなかったでしょうか。ご対面は終了。招待者は一様に幸せな顔で「ありがとうございました!!」とお礼をして、出口に向かいます。キリンジのお二人もスタッフのみなさんと一緒に
「どうも〜」と手を振ってくださいました。残念ながらゲスト用ステッカーは出口で回収されてしまいました。
ほのかなお酒と、乾き物の匂いのするキリンジのお二人は、同級生かアニキのような風情の、気さくな方でした。短いけど楽しい時間をすごさせていただきました。キリンジのお二人と、スタッフの皆さんにお礼を申し上げます。
2002.04.19. up