1項 表紙

2項   ミニ説法

  世界のいくつかの地域が一発触発の危機にあります。アメリカも強引に自国の平和のみを主張している感があります。
 何を理想とするのか。「お互いが兄弟のように同じテーブルにつくこと」。そう夢を語った人は、アメリカの公民権運動の指導者キング牧師です。
 彼は、1964年にノーベル平和賞を受賞し、その4年後、銃で撃たれ死亡します。時に39才でした。
 その後,彼の誕生を記念し,1月の第3月曜日はアメリカの祝日となっています。個人で祝日となった人は,キング牧師のほかは,コロンブスと初代大統領ワシントンだけです。
 彼の名前を一躍有名にしたのは、バスボイコットです。当時、アメリカは黒人と白人の差別がひどく、バスの座席では、黒人が後ろに座らねばならなかったり、映画館の席も白人と黒人が別になっていました。そんな中、ある一つの事件が起きたのです。黒人女性が規則にそむき、バスで白人に席を譲らなかったために投獄されます。その5日後、キング牧師はすべての黒人に「翌朝はバスに乗らないように」との指令を出します。当時、26才の無名の青年です。彼自身、どれほどの人が従うか自信がなかったといいます。
 ところが翌朝、中心部へつながる道路は歩く黒人達でいっぱいになり、バスは空っぽでした。バスのボイコットは翌年も続き、キング牧師の勇気ある行動は名声を得ていき、ついに市の人種差別規則は連邦最高裁判所で違法とされ廃止されたのです。
 そして彼の最も有名は演説は1963年8月28日,リンカーン記念堂前で黒人公民権運動の行進に参加した25万の人びとにむけて行なわれた“I have a dream.”(私には夢がある)の演説です。彼は歌うように語ったと言います。
「私には夢がある。いつかジョージア州の赤い丘で以前の奴隷の子と、以前奴隷を所有していた者の子が兄弟のように同じテーブルにつくのを……」。
 これほど明確な平和へのメッセージはありません。平和の理想が、「お互いに兄弟のようなること」。何とシンプルで豊かな夢か。
  浄土真宗も阿弥陀如来を「親さま」と親しみをこめて呼びます。同じ親をもつとは、お互いが兄弟姉妹であるということです。大きないのちに連なる者という人間理解が大切です。
 現在の世界の人類の結びつきは、同じ利害を共にする者といった感じがあります。同じ利害から、同質の人間理解へと。お互いを認め合うことです。


3項上段  今月の詩

鍵なくしている鍵の穴の冷たさ

                     神戸市 木村健治

 標記の歌は、尾崎放哉を記念して創設された「放哉賞」第1回受賞作品です。日常の一瞬の感覚を言葉にした見事さがあります。
 私も鍵をなくした体験をしている。しかしその時の感覚は私の上では言葉になっていません。こうして言葉として歌われると、「ああ、そうそう」と、過去の体験の感覚が蘇ってきます。おそらく言葉にされなかったら、その時の感覚は闇に流されていくのだと思います。
 私の体験した感覚は99.9999パーセント以上が、言葉にならずに闇に消えていったのでしょう。いや人類の…。すべてが跡形もなく消えていくので、始終、凡夫であるに気づかずに。
 

3項下段 仏事アラカルト
 
本尊について

Q 浄土真宗では、ご本尊は阿弥陀如来だと聞いていますが。立像と座像のお姿がありますが。

A 浄土真宗は立像の阿弥陀如来を礼拝します。この立像は、阿弥陀如来の慈しみを表現したもので、働いて下さっている仏様という意味です。

Q 立像でも、大勢の仏さまや菩薩と連なる絵像を見かけますが、どうなっていますか。A 浄土真宗では一体の正面を向いているお姿が正式です。真向のの尊像といい、浄土真宗のみです。常に私の所におよんで下さっているというお姿です。
 他宗は来迎仏(右に向かうは来迎仏)と言い、臨終にお迎えに来て下さるお姿や、引接仏(左に向かうは)浄土に運んでいくなどがあります。来迎・引接と言うと有り難そうですが、お迎えには条件が付けられています。

Q いつの時代からこのお姿を礼拝しているのですか。
A 一節には、覚如上人(親鸞聖人の玄孫)の時、初めて真向本尊を発布したと言われています。このお姿の元は、京都・寺町の阿弥陀寺に源空上人安置の画像(真向の身形)があり、左方下角に光明をよけて、沙門源空と御名御判があり、本願寺派の真向の本尊はこれを写したものといわれています。

 以上


4項下段 通信

● 私は雅楽で龍笛を吹きます。宮内庁直伝です。雅楽は、笛・笙(しょう)・しち力の三管が主体となって演奏する音楽です。雅楽の特徴の1つに、不協和音を再々用いるということがあります。音には和音があります。基本となるのがドミソです。その音の組み合わせが最も美しい音楽だとされます。クラシック音楽は、この和音で構成されています。その背景にはキリスト教の調和の考え方があるようです。不協和音とは、調和しない音ということです。雅楽は、この不協和音を用いて、ダイナミックな宇宙の摂理を表現するのです。
 最近雑誌で読んだのですが、アメリカの奴隷制度の中から生まれた音楽「ブルース」も、この不協和音を多用し、独特の音楽の響きを表現しているとのこと。不協和音、すなわち音と音とが互いの音を主張しあい、ぶつかり合うことから来る独特の音のひずみが、人間の苦悩や叫びをあらわすようにも聞こえるのだそうです。
 「違った性質を持つ者が兄弟のよう」にという、キング牧師の言葉から、ふと思い出した話です。

● 過日お訪ねした銚子の宝満寺は、天井画で有名です。前住職が、ニューヨークで活躍されている現代美術家ジェニフアー・バートレットにお願いして描かれた321枚(1992年完成)の天井画です。制作者本人が銚子で取材した和食器・着物・道具・魚・植物などをモチーフにして、手すきの和紙に岩絵の具を使用して描かれたものです。仏教寺院の天井画としては破格です。この天井画を取り上げた美術誌は「一見無縁な素材を巧みに寄り添わせることで1つの世界を作ってきたバーレットならではの感性が、天井画に曼陀羅さながらの生命観を与えている」と絶賛したそうです。構想も入れて6年、仕事は2年の作品だとのこと。私は、全く違う文化の融合により、新しい文化が生み出されていく。そんな感想を持ちました。    
合掌

いのちの学び寺報 「いのちの学び」は

  2月・4月6月7月9月10月12月発行です。
            執筆者は、西原祐治です

NO139 平成14年7月1日号

NO138