ある非日常・1

5月3日。
今日はリュミエールの誕生日である。だからといって、執務が休みになるわけでもなく、リュミエールはきちんと出仕し、書類を揃えてジュリアスの執務室へとやってきた。
 コンコン
「入れ。」
「失礼致します。」
リュミエールは執務室へ入ると、ジュリアスの机の前まで静かに歩を進めた。机の上には、大量の書類が山積みになっていた。
「先日の惑星調査の考察レポートですが、どちらの山へ提出すればよろしいのでしょうか・」
「うむ。それは、右端の山だ。」
「はい。よろしくお願い致します。」
リュミエールは返事をしながら、自分から見て左端の山へとファイルを乗せた。
「それでは、失礼致します。」
「あ、リュミエール。」
静かに退出しようとするリュミエールをジュリアスが止めた。
「はい?」
「確か今日は、そなたの誕生日であったな。」
「はい。」
確かに誕生日であるのだが、どうしてジュリアスがそのようなことを言い出すのか、リュミエールには分からなかった。しかし、呼び止められたことは事実なので、とりあえずリュミエールがジュリアスの近くまで戻ると、ジュリアスは引き出しから小さな包みを取り出して言った。
「実は、そなたに誕生日プレゼントを用意したのだ。受け取るが良い。」
慣れぬことをしているせいか、ジュリアスはどことなく落ち着きを失っていた。
「はい。ありがとうございます。あの、ここで中を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「うむ。」
リュミエールが包みを開けると、中の箱からは「水晶の招き猫」が出て来た。
「美しくて可愛らしい置物ですね。」
「辺境の惑星などでは、縁起物としても扱われているものだ。」
「それは、大変素晴らしいものをありがとうございます。」
「いや、気に入ったなら良いのだ。」
「はい。ありがとうございます。」
リュミエールは、招き猫を手にして、ジュリアスの執務室を後にした。

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