DDSをめざした超徴紋子型の新親なW/0/Wエマルションの調製とその機能

− lgG、コンカナパリンAによる表面修飾 一

加藤敬一 平尾洋 松浦誠 愛媛大学工学部応用化学科

〒790−77松山市文京町TEL089〈927)9928 FAX089(927)9943

キーワードW/O/W、DOS、プロテインA、コンカナパリンA、1gG、ターゲティング

 病層部位へ薬物を標的試行的に送達させるDrug Delivery System(DDS)ヘの利用を目的とした、超微粒子型のW/O/Wエマルションを、ポリグリセリンエステルなどを用いて調製することに成功した。このエマルション表面を1gGあるいはコンカナパリンA(Con A)で表面修飾した、いわゆるリガンド固定化エマルションがDDSに有効であることを示した。

1.緒言

 DDS(ドラッグデリバリーシステム)とは、薬物の体内動態を精密に制御し、生体内に存在する特異的な作用点に、薬物を望ましい濃度一時間パターンのもとで送達させることによって、最適な治療効果を得ることを目的とする、薬物投与に関すろ新しい概念である。最近、この分野の研究は活発であり、微粒子運搬体などを用いた標的指向型DDSは、癌化学疲法を始めとする広い分野において、必須の治療手段となりつつあるl)。これまでのDDSの研究では、リポソームやリピッドマイクロスフェアーに関すろ研究がほとんどで、W/O/W型のエマルションを、運搬体として用いた研究は数少ない。

 そこで、本研究では、DDSに利用できる薬物運搬体として、水溶性およぴ、油溶性薬剤が同時に包括可能であり、またその調製がリポソームより簡便である、W/0/Wエマルションに着目した。さらに、このエマルションの脂質膜表面にリガンドを修飾して、目的臓器に送達させるいわゆるターゲテイング機能を有する、W/0/WエマルションのDDSへの利用を目的として、腫瘍細胞に親和性のあるリガンドをエマルション表面に修飾することを試みた。

 本研究では、リポソームに匹敵する粒径を持つ、超微粒子型のDDS用エマルションの開発を行い、lgGなどの腫瘍細胞と特異的親和性を有するタンパク質リガンドにより、エマルション表面の修飾することを試みた。さらに、リガンドを圃定化したエマルションの、ターゲテイング機能を調べろために、そデル系を構築して検討を行った。

2.実験・方法

 W/0/Wエマルションの油相として、大豆油(和光純薬工業M製)、乳化剤としてSpan80、大豆レシチン(和光純薬工業M製)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGCR)、ポリグリセリンラウリン酸エステル(PGL)(坂本薬品工業M製)を使用した。また、添加剤として、コレステロール(和光純薬工業M製)を用いた。包括物質はインジゴカルミン、BSA、NiCl3(和光純薬工業M製)を用いた。固定化リガンドには、コンカナパリンA(Con A、和光純薬工業M製)、免疫グロプリンG(IgG、Jackson Immuno Research Laboratories製)、ブロテインA(staphylococus aureus cell powder、SigmaM製)を用いた。また、蛍光ブロープとして1-アニリノ-8-ナフタレンスルホン酸(ANS、SigmaM製)を使用した。

 完全分散型のW/O/Wエマルションの調製は、先の発表2)と同様にホモミキサーの撹拌による二段階乳化法によって行った。エマルションの物質包括能の評価は、インジゴカルミン、Ni、およぴBSAをそれぞれトレーサーとして用いて行った。

 Con AおよぴプロテインA(ホモミキサーによってによってあらかじめ微細化した)の固定化については、二次乳化時にPGLと同時乳化して、膜表面に取り込ませろ方法(二次乳化法)によった。また、IgGの固定化については、ブロテインA固定化エマルション中で、IgGを室温で、24時間インキュベートする方法(インキュベート法)により、行つた。

 それらの固定化量は、エマルションのゲルフイルトレーション(充墳剤にセフアロース4Bを使用した)を行い検討した。タンパク質の分析は、Lowry法2)によった。また、リガンドの取り込み状態は、そのリガンドに蛍光物質であるANSを固定化し、蛍光顕微鏡観察により検討した。

図1 W/O/Wエマルションの構造

 W/O/Wエマルションの調製は、二段階乳化法を用いた。また、エマルションの生成率の測定は、インジコカルミンをトレーサーとして測定した3.4)。本研究では、図1に模式的に示すようなW/O/Wエマルションを調製した。油相として、大豆油を、一次乳化剤として、疎水性界面活性剤のSpan80、PGCR、大豆レシチン、二次乳化剤として、親水性界面活性剤のPGL、添加剤として、コレステロール、フルクトースを使用した。それぞれ試薬の添加量は表1に示した。

表1

 複数の一次乳化剤を混合して用いることによって脂質膜の強度が増す。また、添加剤を加えることよっても安定なエマルションの生成を可能にする。このエマルションは、その構成成分が人体に安全であり、人体投与粒子として動脈注射に用いることができる。

3.結果と考察

3-1 転相温度の測定

 W/O/Wエマルション調製の際、一次乳化時に温度を変えて、W/Oエマルションの調製の転相温度を調べてみた。その結果を図2に示す。20〜22℃以下の温度では、乳化が全く起きていないことが確認される。このことより、転棺温度が20〜22℃付近に存在し、一次乳化は、この温度以上で調製する必要があることが判明した。

図2 一次乳化時における温度と生成率の相関

3-2 超微粒子型エマルションの調製

 調製したW/O/Wエマルション懸濁液を高速遠心分離する事によって2つの層に分割することができる。上層は、粒径が1〜20μmの大粒径のエマルションを含み、下層は粒径が1μm以下の超微粒子型エマルションを含むことが位相差顕微鏡によって観察することができる。その写真を図3に示す。エマルションの形状は完全分散型であり、超微粒子型エマルションは、DDSの薬物運搬体として非常に有効であると思われる。

図3 遠心分離によるW/O/Wエマルションの粒径分離

 この超微粒子型エマルションの形態を、透過電子頭微鏡(TEM)で観察した。図4が、そのTEM写真である。この写真より、エマルションの構造が、脂質一油相の一枚膜を有する、完全分散型でほば球形の構造を有していることが、判明した。

図4 超微粒子型エマルションのTEM写真

 さらに、勤的光散乱法によって、この超微粒子型エマルションの粒径分布を測定した。その結果、この超微粒子型のエマルションの粒径は、約30〜60nmの範囲にあり、リポソームに匹敵する極微細な粒子であることが判明した。

 さらに、エマルション中に、抗ガン剤として知られていろ5‐フルオロウラシル(5‐FU)やインスリンを包括した状態で、2週問放置した結果、生成直後と比較して、約20%程度の破壌率にとどまり、高い安定性を有することが確認された。また、エマルションの水相として、人体に勤注投与する際にもちいろフルクトース等張液を用いて、エマルションを調製しても、高い生成率が得られた。このことより、血液内へのエマルションの導入が可能であることが示唆され、現在、血管内のエマルションの挙動を検討中である。

 また、このW/O/Wエマルションの内水相7への物質包括能について、BSA、Niをトレーサーとして用いて検討した。測定は、ゲルフイルトレーション法およぴ、メンプラン法によった。実験は、1〜20μmの大粒径のエマルションと、1μm以下の超徹粒子型のエマルションに分離して、これら2種のエマルションの内水相中に、BSAやNiが、仕込量の何%包括されているかを検討した。

 図5は、BSAを包括した超微粒子型エマルションのゲルクロマトグラムを比較したものである。図5中で均相水溶液系の(b)のビークが、水溶液中に溶解しているBSAであろことが分かる。このようにしてBSAの包括量を測定した。

 このようにして測定した結果を表2に示す。表2に示すように、BSAは大粒径エマルション中に仕込量の約40%、超微粒子型エマルション中に約50%包括されており、残りの約10%が外水相中に漏出していろことが分かる。また、ニッケルでは、それぞれ約30%、40%包括され、30%がエマルション外に漏出したことが分かる。このように、両エマルションともに優れた包括能を示すことが確認できた。

図5BSAを包括した超微粒子型工マルションのゲルクロマトグラム:(●)超微位子型エマルション系:(○)均棺水溶液系:peak(a)エマルションに包括されたBSA:pea上(b)外水相中に遊離したBSA

表2エマルションの物質包括率

*)ゲルフィルトレーションを行つた後、lowry法によって測定:**)メンブランフィルターで位径別分離を行った後、原子吸光法によって測定


次のページへ