2 リズムの特殊性

この作品の大きな特徴として、

1 拍子記号はいっさい使われていない。

2 フレーズ自体四分音符できちっと割り切れるものではない。

3 三連符や五連符を多用している。

これらの事と作者自身のコメントから推察するに、この作品の中で武満はアゴーギグに対する新しい記譜法を提案しているのではないかと思われる。このことは実際にこの曲をコンピュータに入力、それをシーケンスデータとしてシンセサイザーで鳴らしてみた時の私の驚きに依っている。冒頭の部分をインテンポで再生してみると、私の耳にはその中にテンポの揺らぎが聴こえたのである。譜面を追ってゆきながら、そのことを検証したい。

まず、譜例no.1を見て欲しい。これを、リタルランドやアッチェルランドまたは、テヌートなどのアーティキュレーションを使って書き直してみよう。

通常私たちが演奏するときの約束として、テヌートは少しテンポを遅く感じて演奏することが多い。また、一拍ごとのテンポの変化をアッチェレランドやリタルランド、アテンポなどの記号で表してみた。このように書き直してはみたが、演奏が同じように聴こえたとしても、譜面から感じとれる音楽の印象とは随分違っている。また、逆に書き直した譜面を色々な演奏家が演奏したとして、原譜のように演奏されることは、少ないであろう。武満は演奏家のその日の気分によるアゴーギグの変化を避けたかったのではないか?つまり、インテンポの中で、テンポの揺らぎは聞き手の想像力をかき立てるファンタジーと言っても良いだろう。

「想像(ファンタズマ)」を掻き立てながら、厳然とした「歌(カントス)」がそこに「ある」のである。

また、私達の耳に馴染んだ2の整数乗倍で拍を割る(例えば、四分音符、八分音符、十六分音符、三十二分音符のように)のではなく、三連符や五連符を多用しているのは、どういうことなのだろう?

次に取り上げるテンポとの関連を含めて、このあたりを検証してみたい。


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