■□キリンジ言葉□■
〜歌詞についての考察〜

*BBSで今まであった歌詞に関するやりとりを中心に抜粋、またはまとめた物です。
「こういった解釈、考え方もあるんじゃないかな?」ということで、実際にキリンジが意図したところは、ここでは定かではありません。

 ■「Drifter」と「Moon River」の関係
drifterはムーン・リバーに  投稿者:ささQ  01/07/16 Mon

お気づきの方にとっては何を今更…なことなのでしょうが
私自身、調べて実に良かったと感じたのでご報告を。
「Drifter」歌詞の中にdrifterという言葉が出てこないのですが
最後のほうの一節
♪欲望が渦を巻く海原さえ
♪ムーン・リバーを渡るようなステップで踏み越えてゆこう あなたと
が話題にのぼったので往年の名曲「Moon River」を検索。
こちらでdrifterという単語を発見しました。
高樹さんの曲では引用がたくさんあるみたいですが、
これもこの「Moon River」を踏まえて作られているように思います。
歌詞対訳と、「月の川とは?」の素敵な解説もついたサイトが
ありましたのでご参考までにご紹介を。
「ジャズ詩玉手箱」 (「ジャズ詩玉手箱」topは→こちら
(原詩はこちら↓で見られます)
「The Sinatra Songbook」


"Drifter"と"Moon River"の関係  投稿者:みやもり  01/07/17 Tue

「Drifter」の最後の方に出てくる歌詞、
♪ムーンリヴァーを渡るようなステップで〜
については、単純にあの有名なスタンダードナンバーを思い浮かべていたのですが、 歌詞の内容は全く知らず、ただ「渦巻くような狂った世の中を、あなたと一緒に優雅 に渡ってゆきたい」というような意味かと思っていたんです。
ところが、ささQさんが知らせてくださったページを読んでちょっと鳥肌たって しまいました‥‥。
ささQさんのご指摘通り、これはかの曲の歌詞を踏まえた物だとわたしも思います。 「Drifter」をすでに聴かれた方はぜひ、そして未聴の方は聴かれてから後に、ぜひ 「ムーンリヴァー」の歌詞と対訳をご覧になることをお勧めします。きっとより深く、 高樹さんの歌詞の世界を味わうことができることと思います。

*Drifterといえば、ロジャーニコルスの名曲を即思い浮かべてしまったので、こちらの 歌詞も調べてみたいな、と検索したものの、わたしにはわかりませんでした;。あのゆったりした曲(高野寛さんもカヴァー)の歌詞は どんななのかも、気になりますよね。

*BBSでのこの話題への反響は本当に大きかったです。後日、onoさんのおかげでロジャー・ニコルス「Drifter」の対訳を見ることができたのですが、これは「関係あるのかな?ないのかな?」というような微妙なカンジでした。以上、ご参考までに。

(Thanks to:ささQさん、onoさん、他たくさんのみなさん)
 ■「太陽とヴィーナス」の“ヴィーナス”とは?
はじめまして  投稿者:ナゴミ   01/07/17 Tue

このあいだ、新曲の試聴できました。太陽とヴィーナスのヴィーナスって金星のことでしょうか。宵の明星?すごくいいですね。発売日が楽しみです。

*これにも「あっ!」と目からウロコが落ちた思いでした。「沈んでゆく太陽」と、その同じ西の空に輝く「宵の明星」を指すとしたら、泰行さんの歌詞が腑に落ちませんか?「甘く匂う果実」="ヴィーナスが手に持つ林檎"と符牒が合うし、金星は太陽に照らされて輝いている訳だし。
また、「太陽=アポロン」(美の女神ヴィーナスの恋人、太陽神アポロンのことをさすのでは?)という意見もありました。

(Thanks to:ナゴミさん)

 ■atami収録「キス・キス」の英詞(作詞:堀込高樹)について
楽曲提供  投稿者:キノコ   01/09/07 Fri
質問なのですが、atamiの「キス・キス」の

  『〜You wear love as glasses or socks.
   〜I wear love as a shirt or pants.』

ってどうゆう意味なんでしょう?

大学時代塾講師してました  投稿者:viki(with the freckle)  01/09/07 Fri
この曲自体はスミマセン聴いてないんですが、
この文だけで訳すと

『〜きみは眼鏡や靴下のごとく愛を纏う
 〜僕はシャツやパンツのごとく愛を纏う』

ん〜、そのままですね。
(『太陽とヴィーナス』の「ん〜」に無条件降伏。)

これはふたりの「愛の捉え方」の違いを象徴してます。
きみにとっての愛は身に付けなくてもそんなに支障のないもの、
僕にとっての愛は、なくてはならない存在、みたいな感じではないでしょうか?

 投稿者:みやもり  01/09/08 Sat

「キス・キス」訳詞はわたしも同じく思っていましたが、vikiさんの解釈の「愛の捉え 方の違いを象徴している」ことまでは気付いていませんでした!素晴らしい!
…でも人によっては眼鏡の方がシャツより必要?なんてコトも思ったりして?そうすれ ば「二人それぞれ異なるものでありながら、互いに自然に愛を身に纏っている」と、 とれるような気もしませんか?(ヘンな解釈かな?個人的にはこう捉えていたもので)


ネイティブの人に聞いてみたよ。 投稿者:日華  01/09/09 Sun
ちょっと遅い反応ですみませんが、御参考までに。

"You wear love as glasses or socks,I wear love as a shirt or pants"
...This is a metaphor.Metaphor is associate tangible things to words of meaning.
When a parson says"wear love as glasses or socks"it
meansthat love is not important to them.but to wear it as
shirt or pants is more important.

...だそーです。

 投稿者:viki(with the freckles)  01/09/10 Mon

>…でも人によっては眼鏡の方がシャツより必要?なんてコトも思ったりして?そうすれ ば「二人それぞれ異なるものでありながら、互いに自然に愛を身に纏っている」と、 とれるような気もしませんか?

みやもりさん!私も思います。
「重要」みたいに訳してしまったけど、「逆もアリだなあ」と思いつつ、 自信が無くて書けませんでした。よかった、同じ意見だ。

日華さん、これまた同じ解釈で安心しました。
こういうやりとりが出来る場って無いからいいですね。


*日華さんご紹介の、ネイティブの方の意見と、 vikiさんの解釈 が同じ意味だったという訳でした。
わたしだけかもしれませんが、表面的に捉えているだけではわからないものですね。

(Thanks to:キノコさん。viki(with the freckles) さん、日華さん)

 ■「左岸」について。

左岸について  From:らみ  2003/01/11 Sat 19:41


はじめまして。
キリンジと言葉、他、興味深く読ませて
もらってます。
そこで・・・、
前前から気になっていた、「左岸」
(BY「風を撃て」)
について、なにか知っている方、
いらっしゃればお聞きしたいのです。

私、高橋幸宏さんの
「LEFT BANK」
という歌が大好きなんですが、
左岸、という言葉が
よくわかりませんが、すごく
宗教か哲学的な意味に聞こえるのです。

「向こう岸に僕の肉が
 迷っている
 左岸で骨になるまで
 僕は歩いて
 ついに
 君に触れられることなかったねと
 つぶやいて
 泥で顔を洗う」

これが歌詞のラストです。
決して 右岸 は出てこず、
あくまでも左に対しての向こう岸。

風を撃て
でも「左岸の向こうから」
ですよね。たしか。
・・・何でもいいので心当たりがあれば・・・。


身近には左岸グランド From:水道水真水   2003/01/12 Sun 09:07

はじめまして。らみさん。
その「左岸」については何も疑問を持っていなかったので、あらためて考えると
面白いですね。
市内の木曽川の河原に、私が住んでいるのは愛知県、岐阜県側に対しての
「左岸グランド」というのがありますが、そういえば「右岸グランド」というの
はありません。

その「左岸」で考えられるのは、三途の川ではないでしょうか。過去数回
「にっぽんむかし話」等で三途の川の絵を見ましたが、渡る前の「こちら側」の
視点では流れは左でした。ということは、生きている間は左岸。あの世は右岸。
「右岸」の意味をそうするなら、一般に用いないのも納得できます。
これは全て推測なので、詳しい方の返答を私も期待してます。


From:GEN  2003/01/13 Mon 08:16


「左岸」話面白いすね。私は即物的に直ぐ作者の原風景とか勝手に想って
しまうこともあって、
越辺川(おっぺがわ)挟んで、坂戸側に吹く北風であれば、左岸側からなのかなと。
http://www1.odn.ne.jp/fukadasoft2/bridges/oppe/
(1枚目の写真。高架線もみえる)
ただ、歌詞にした場合、左岸の方が訓読みではまりやすいというのもあるのかも。


「左岸について」 From:そふぃあ 


 辞書で確認したところ、河川の下流に向かって左側が左岸、右側
が右岸。一般には東西南北で呼ばれることが多いように思います。

 古今東西問わず川は何かと何かを隔てるものの象徴。例えば『砂
漠の修道院』(山形孝夫、新潮選書)という本で、ナイル川の西(左
岸、ですね)は砂漠、枯れ谷、異界、この世のしがらみとは無縁の
世界、墓場、のようなニュアンスを持つということが書かれていま
す。日本人が普段使うような意味での彼岸に近いですね。三途の川
について調べたところ岩波仏教辞典によれば「三途の川を説く『地
蔵菩薩発心因縁十王経』は中国で作られた偽経。ギリシア神話のア
ケローン川と渡し守カローンの観念にも似る」とあったのが興味深
かったです。

 パリのセーヌ川の左岸(南岸)、リーヴゴーシュ界隈は芸術家や学
生が多く住む街で、(the)Left Bankでそのあたりを指します。それ
に対して右岸という言葉も使われるようですが、ロンドンの East
End/West End ほど対照的なニュアンスは無いようです。

 対岸に対してリーヴゴーシュ界隈がLeft Bankと呼ばれるのは期
せずしてか、そこに住む住人であるアーティストないしアーティス
トくずれの自意識を表現していると思います。

 キリンジの『風を撃て』で踏まえているのはこのリーヴゴーシュ
のことだと思いますが、メロディに乗せるのに「ひだりぎし」と
読ませて、面白いのは「左岸の向こうから」と歌っているところ。

 最初はわたしもみやもりさんと同じように、「左岸の向こうから」
は「左岸側のさらに向こう(=一応左岸)」と思っていました。し
かし改めて考えていると、地球は丸いのでずっと向こう向こう向こ
う…と行くと右岸にたどり着いてしまいます(笑)。

 「左岸の向こう」は空間的な左岸/右岸の別を越えた次元から風
を撃とうとしているように感じます。悪い意味でのアーティスト気
質に溺れない、キリンジのスタンスを想像させられます。

 ちなみに米語ではfrom coast to coastで全米の意。北を上にした
地図が一般的なので西海岸側をleft coast、東海岸側をright coast
と呼ぶことがあります。米国政治では保守派が右、リベラル派が左。
西海岸は左が多数派なのでこの意を含めてleft coastが使われるこ
ともあるそうです。

 さて高橋幸宏さんの『LEFT BANK』も基本的にはリーヴゴーシュ
から来ていると思いますが、実は詞を読んで真っ先に思い出したの
は『香山リカのきょうの不健康』(香山リカ、河出文庫)という本で
す。香山リカが神経症経験のあるアーティスト、鈴木慶一、大槻ケ
ンヂ、高橋幸宏の3者と対談しております。

 この本で語られている高橋さんの話から『LEFT BANK』につなが
るイメージを読み取ることは可能です。病気であることが流行とな
ってしまった今日では紹介するのがはばかられる気もしますが、興
味のある方はご自分で読まれて判断されるのが良いと思い、僭越な
がら紹介させて頂きます。

『<じぶん>を愛するということ』(香山リカ、講談社現代新書)、
高橋幸宏さんの『ニウロマンティック』を意識したのではないかと
私は勝手に想像している、『ロマンティックな狂気は存在するか』
(新潮OH!文庫、春日武彦)も併せておすすめです。

 以下は余談です。

 辞典では三途の川の流れる方向はわかりませんでした。しかし川
向こうのあの世は一般的には西岸。川を渡る前のこの世は東岸で絵
の構図上、三途の川が右から左へ流れているとすると川は北から南
へ流れていることになります。

 三途の川が画面の構成上川が右から左へ流れているのは、舞台の
上手(客席から舞台に向かって右手)、下手(左手)という影響かなと
思いました。また、絵巻は縦書きで右から左へストーリーが展開し
ていきます。その際場面転換や時間の経過を表現する装飾に、雲、
橋、川といったものを象徴的に使うといった伝統もあるかもしれま
せん。

 それに対して、太陽暦のカレンダーは左から右へ時間が流れてい
ます。「時は流れない、それは降り積もる」(『時は流れず』大森
荘蔵、青土社。俗にいう「サントリーのテーゼ」^^;;)らしいです
が、日常生活でこの左から右への構図に無意識のうちに、私達は安
定感を覚えています。以前『NHK新日曜美術館』でムンクの「さけ
び」を解題するという企画があり、その際、主題の人物像はそのま
まにして、背景の急傾斜で描かれている桟橋(?)と雲(?)のとぐろ
の傾きのみを逆にするという試みを観ました。その解説で、左右の
意味づけと画面構成の安定感について聞いたことがあります。

 百聞は一見にしかず、ということで是非画集か何かで「さけび」
を観て想像してみて下さい。はっとします。


わたしは「左岸の向こうから」は「左岸側のさらに向こう(=一応左岸)」と
思い込んでいたんですが、そういえば右岸をさしているようにも解釈できる のですね。
(これってわたしだけかな(苦笑)?)「はるか遠くから」というのは
とても広がりのあるイメージで素敵ですね。

(Thanks to:らみさん、水道水真水さん、GENさん、そふぃあさん)
 ■キリンジが影響を受けた作家、好きな本やマンガなど。

雑誌やラジオなどで発言のあったもの、(最近読んだ)的なものも含め 記憶とBBS過去ログで古いものから順に挙げています。
もし他にもご存じの方はぜひ、メールBBSで教えていただければ幸いです。

高樹さん
読んで面白かったもの:
別役実「日々の暮らし方」、安野光雅「エブリシング」、富岡多恵子、 東海林さだおのエッセイ、
パトリシア・ハイスミス、レーモン・クノー、イタロ・カルヴィーノ「難しい愛」、
岡本かの子のエッセイ(好き嫌いをする息子の太郎の目の前で寿司を握 り、食べさせるエピソード)、
「現代百歌園」(短歌の選集)[Amazon]、日影丈吉の小説、
「INSPIRATION」(海外のミュージシャンへの曲作りや音楽に関するインタビュー集)[Amazon]、安部公房「砂の女」など
(以下マンガ)
高野文子「ラッキー嬢ちゃんの新しい仕事」[Amazon]、しりあがり寿「弥次喜多in DEEP」[Amazon]、
高野文子「棒がいっぽん」(マガジンハウス刊/「奥 村さんのお茄子」収録)[Amazon]、
諸星大二郎「栞と紙魚子」、本秀康「レコスケくん」など

影響を受けたもの:
宮武外骨([癇癪と色気][野良の虹]あたりに影響が)、
久生十蘭(「47'45"」のインスト「V.I.P.」は彼の小説「魔都」のイメージだそう)
吉増剛造([野良の虹]は彼の詩「燃える」から直接影響を受けている)
北園克衛、西脇順三郎などのモダニズム詩人もお好きなようです。
(管理人註:吉増剛造作品はwebでも公開されているので、興味のある方は
“吉増剛造 燃える”で複数語検索してみるとよいでしょう)


ほか、公言していないものの元ネタと思われるもの:
アンドレ・ジイド「地上の糧」より  『憂鬱は凪いだ熱情に他ならない。』
 →([耳をうずめて]“憂鬱は まさにそう! 凪いだ情熱だ”

泰行さん
読んで面白かったもの:カート・ヴォネガット「デッドアイ・ディック」
アゴタ・クリストフ「悪童日記」
(以下マンガ)
手塚治虫「七色いんこ」、ちばてつや「あした天気になあれ」、さいとうたかお「ゴルゴ13」、弘兼憲史「課長(部長)島耕作」

影響を受けたもの:はっぴいえんどの歌詞
(詞を書く上はもちろん、大学時代にタバコを吸い始めたキッカケは
 はっぴいえんど「抱きしめたい」を聴いたことから)
_ _ _ _

以下「ダヴィンチ」2000年2月号、高樹さんのみのインタビューなのですが 作家名関係だけ抜粋しますと・・・

(リリースされたばかりのアルカディアについて、自分は深く語れない、と前置きして)
・「‥‥泰行は 松本零士的男のロマンとかわりと好きなので、アルカディアって
タイトルなんじゃないですかねえ」
(詞を書く上で影響を受けたのは?)
・「僕の場合、吉増剛造って詩人の作品、文体が常に怒ってて語感が凄く面白い。
詩の語尾なんかには影響があるかもしれないですね。ふだんの読書では、手に取るのは
どうしても『新青年』あたりの作家になっちゃう。久生十蘭とかも好き。パトリシア・
ハイスミスからレーモン・クノーまでいろいろ読んではいるんだけど、どうも中身を
あんまり覚えてないんですよね(笑)。ミュージシャンだと、細野晴臣さんの詞がすごい好き」
_ _ _ _

■高樹さんの2003年・おススメマンガ 
1.「最強伝説黒沢」福本伸行(小学館)
2.「独りの夜も長くない」近藤ようこ(小学館)
3.「本秀康名作劇場」本秀康(小学館)
 ‥‥「Yahooエンターテインメント・アワード2003」 堀込高樹コメント より

(Thanks to:BBSに寄せてくださったみなさん、フーバードさん、GENさん、みなみのさん、いつこさん)

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