駅の前に子犬がポツンとひとりぽっち。
子犬は大好きなマサオくんが帰ってくるのを待っています。
マサオくんは毎日電車に乗って遠くの小学校にかよっているんです。
「待ったぁ〜?」
女の人が近づいてきました。
男の人が笑いながらこたえました。
「少しね」
ふたりは楽しく話をしながら駅に向かって歩いていきました。
ふたりは子犬のことなんて見もしません。
子犬とキヨスクのおばさんは顔見知りです。
「えらいね。きょうもあの子の帰りを待っているんだね」
子犬と駅員さんも顔見知りです。
「えらいね。きょうもあの子の帰りを待っているんだね」
「あ、きた」
ベンチに座っている女の子がバスを指さしていいました。
お父さんがいいました。
「ううん、あのバスじゃないよ」
「なーんだー」
女の子が子犬を指さしていいました。
「あそこに子犬がいるわ。ねぇ、見てきていい?」
お母さんがいいました。
「だめよ。もうすぐバスがきますよ」
「だってー、こないじゃない」
お父さんがいいました。
「きたよ。あのバスだよ」
女の子とお父さんとお母さんはバスに乗っていきました。
もう女の子は子犬のことをわすれてしまいました。
あたりが暗くなってきました。
子犬は首をかたむけました。
「ク〜ン」
キヨスクのおばさんが子犬にいいました。
「きょうは帰りがおそいね。どうしたのかしら」
おばさんはビスケットを子犬にあげました。
でも子犬は食べません。
駅員さんも子犬にいいました。
「きょうは帰りがおそいね。電車がおくれているってことはないんだけど」
子犬の鼻がピクン。しっぽをフリフリ。
マサオくんが改札を出てきて元気な声で子犬の名前をよびました。
「ペロー」
「ワンワンワンワン」
「おそくなってごめんよ」
ペロはマサオくんの顔をペロペロペロペロなめました。
キヨスクのおばさんは思いました。
「よかったね」
駅員さんも思いました。
「よかったね」
「ワンワンワンワン」
おしまい |