1.2 鉄道信号・・リレー式論理回路
信号システムを考える!

前項ではスイッチを使って論理回路を組めることをお話ししました。手動スイッチでは、論理回路というイメージとは程遠いかもしれませんが、今度のリレー式論理回路ではそれから格段と進歩します。これからの話が基本になって、各要素が半導体化されることで現在の情報処理システムへとつなげることができます。

さて、なぜ鉄道信号なのかといいますと、話しは大昔(?・・)へさかのぼります。私が小学生の時は鉄道のおもちゃが好きで(おもちゃ、と書いたのは意味があって、右のよーなちゃんとした模型なんて買えなかったから、既存の古いおもちゃからモーターだけ取り出して模型らしきものを作ったりとか、していたため!) あるとき信号を設置したいという衝動にかられ、その時発想したものが今思えば論理回路であったなあ、と、いうことは、だれでも割と素直に納得できる具体例ではないかと思ったからです。


さて、車の信号はタイマーで勝手に赤青変わるシステムですが、鉄道の場合は基本的には線路上、前方方向に列車がいるかいないかによって信号が変わります。前方に列車がいる、というのを感知するためには、列車がレール上に存在した場合、車輪によって2本のレールがショート状態になることを使用します。ですので、赤信号だけ対応する信号機ならば右図の様な回路で実現できます。


また、黄色の信号を灯すにはさらにもう一つ先の区間の状況を感知して黄色の信号を灯しますから、下図ような回路が考えられます。



さてその次に、青色の信号を灯すにはどうしたら良いでしょうか。ただ配線を変えるだけでは実現できそうにありません。今度は前に列車がいない時、すなわちスイッチOFFの時に青信号をONしなければなりません。そこで、考えたのが”電磁石でスイッチを動かせばできるぞ!”方式です。



電磁石でスイッチを動かす

右図を見てください。これは、スイッチを、電磁石で動かすことを考えたものです。

この装置では、電磁石に電流を流すことによって磁界を発生し、スイッチの可動部分を電磁石の方へ引っ張ることでON/OFFをすることを考えたものです。 電磁石が動いていない時、ONになっている端子をNC(ノーマルクローズ)、電磁石が動いているときONになる端子をNO(ノーマルオープン)、共通端子をCOM(コモン)と呼びます。
ここでCOM端子と、NC端子を使えば、"OFFの時ON"する回路を作れそうです。



なんだ売ってるやんけ

実は、小学生の私は、こういう電磁石スイッチ(=リレー)を考えたものの、”電磁石作るの難しいし、こんなものできん!”と思ったんですが、このリレーは、部品屋さんでフツーに売ってます。結構、始めのうちは電子部品というと入手困難な感じもしますが割合売ってるものは売ってるし(う、微妙な表現だ)、なんだ!こんなに安いんだ、と、感じることもあります。

右がリレーの数々です。
下の方の図は、代表的なリレーの実物写真です。

論理回路素子として見たリレー

実はリレーの本来の目的はリレーのコイルに流すだけの微小信号で大電力をスイッチするためのものです。例えば、電車の運転でも、運転台のスイッチが直接モータをONするスイッチではなくて、リレーを挟んでいるから片手で動かせるようなサイズのハンドルで済むわけで、これが直接3600kWのモータを駆動するためのものなら相当巨大なスイッチが必要となるでしょう。
(実際の細かい話しはちょっと無視。)

もう少し”使える”例では、パソコンなんかの低電圧直流系の装置から商用電源AC100Vをコントロールしたい、などといった場合、リレーを使うと上手く行きます。コイル電圧が5V程度のリレーを使い、パソコンからのなんらかの信号を2次側(コイル側)につなげてやれば、リレーの1次側(スイッチ側)で電灯でもラジオでもON/OFFをコントロールできるようになります。



ともかく、本来リレーはそういう用途に使うものではありますが、論理回路用の素子として使うこともできます。今から約50年ほど前のコンピュータではこのリレーを使ってコンピュータを組んで、計算をさせていました。 ここでリレーを使ってどんな基本回路が出きるのか例をあげて説明します。

まず、右の回路が、青信号を灯すためにも必要となる、論理反転回路(NOT回路)です。入力に対して出力が常に逆転します。


右の回路はそれぞれ、論理積回路と論理和回路です。これらは重要ですので、入力に対して出力がどうなるか、よく見てみてください。

*なお、どんな複雑な論理回路はNOT回路と、AND回路又はOR回路だけで実現できることが知られています。すなわち、右図の回路の組み合わせで、原理的にはどんな計算でもできることになります。

信号システムの実現

少し話がそれましたが、鉄道信号の話しに戻します。

さて前述では、青信号について配線の工夫だけでは出来ないということを話しましたが、リレー式論理回路があれば、それも可能になります。

右の図で設計すべきシステムについてまとめてみましょう。
入力としては区間2と、区間3に、列車がいることを検知する入力信号IN2とIN3により、信号を点灯するための出力信号G-OUT(緑)、Y-OUT(黄)、R-OUT(赤)を制御するための論理回路(”?”の部分)を設計するのが仕事となります。

*なお回路記述形式が今回から変わりましたので説明します。
回路図上で配線と配線との接続点では黒丸を用いています。黒丸の無いところは、交差していても接続はしていません。

また、IN-COMや、OUT-COMなどの、共通端子を用いました。あまり電気になじみの無い方では、電気というと常にプラスとマイナスの2本の線を書かないとしっくりこないという方もいるかも知れませんが、特に0Vは省略して回路図に書かない場合もあります。



真理値表

信号システム構築のために、回路の真理値表を書きます。G-OUT、Y-OUT、R-OUTのはそれぞれにIN2、IN3と対応しますから、真理値表はそれぞれに書き、3つ用意します。なお、追加仕様として、次のことを追加します。

始めの赤・黄対応信号回路では、実はまずいことがあります。長い編成の列車では、区間3と区間2に車両がまたがり、赤・黄両方の信号をつけてしまう可能性があります。これを回避するために、”区間2と区間3両方に列車がいる場合は、赤だけつけ黄はつけない”という要求を追加します。

これらを真理値表で表します。
IN2及びIN3が両方ともONの時、(表の右下)つまり区間2と区間3の両方に列車がいる場合のR-OUTとY-OUTに注意して下さい。R-OUTは1ですがY-OUTは0になっています。


よろしいでしょうか。よく吟味してください。
リレー式論理回路での実現

真理値表の論理を実現するための回路の一例、は右図です。

真理値表と照らしあわせて確認をしてください。なおR-OUTの回路についてはIN3を使用していません。これは、真理値表を良く見ると、出力の値が、IN3が1でも0でも変わらず、IN2のみによって出力が規定されることが読み取れるため、IN3は使う必要が無いためです。

これらには設計上の工夫が含まれており、良い回路を設計するためには、それなりの経験、勘が必要かな、と考えられますが、論理回路の設計法については標準的なやり方がありますし、そもそも最近の論理回路設計では、こういった工夫は専用ソフトウェアで出来るため、どちらかというと技巧的工夫より原理原則をしっかり身に付けよう、という方向になってます。(シビアな設計をする分野ではまた違うのでしょうが)



拡張と一般化

さてそれでは信号システムの拡張と、話しを一般のシステムへつなげましょう。

右図では鉄道信号システムを拡張したものです。信号機の数は今までと違って1つではなく、複数になります。さらに、図にはありませんが、ポイントの向きにより信号の点灯を変えたり、といったことも考えられます。

どちらにせよ、信号の入力と出力にを整理し、その間の論理を考え、制御回路を設計するというのが方針であり、制御回路部分は前時代的なリレーを使った論理回路でもいいですし、マイコンによる制御も考えられます。場合によっては事故の時など、人間が人力で制御部分を実行することもありえます。

右上図はテレビ受像機のブラウン管を拡大したものです。R,G,B、3色の蛍光体の点滅によって色々な色を出しています。と、いうことで話しを大きくしますと、パソコンでなんであれ、例えばキーボードから"a"を入力すると画面に"a"と表示されますが、結局すなわちその入力と、画面上のR,G,Bの点灯パターンが何らかの論理によって結び付けられています。よって基本的に今までの話を理解すれば、パソコンでもなんでも作れることになりますね!

*相当話しが飛躍してますが結局そういうことです。ただ今の話しは人間で言えば細胞程度の話しをしていて、細胞の専門家ならじゃあ人間の頭の構造、性格、なんでも解るかといったらレンジがちと違う、ということになりますが。
この連載ではあくまでも下から(回路側)から出発してマイコンまで到達する方向なので、先は長いんですが、上からやるよりは全体が見渡せて頭すっきり・・となるんではないかと期待しています。

追記

以下は参考ですので、鉄道マニアで突っ込みを入れたい人はここで突っ込んでください。

実際の鉄道信号システムについては私も良く知らないんですが、通常、線路には動力を動かす系統の帰線電流と、信号電流が流れています。動力系では、全てのレールが電気的につながっていなければまずく、信号系では各閉塞区間毎に電気的に絶縁している必要があります。これを実現するために、直流区間では信号電流は交流信号を用い、線路の接続点ではインピーダンスボンド(記憶あやふや。確かこんな名前。ちなみに鉄道用語であって、電気用語ではない)を用いて信号電流だけ遮断しています。




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お、コイルの向きが変?ゆるしてくれー