すいすい童話館8

「すいすい」という北関東イトマンスクール(水泳スクール、現在・スウィン)が
半としにいちどだしている、しんぶんにれんさいしています。ときどき
お話しをかえています。2011年5月

夏のふしぎなカレンダー

                   2002年作品

 

「八月はもうおしまいだから、チュンちゃん、カレンダー、
なおしておいてね」
 ゆうがた、お母さんがいいました。
 チュンは、一年生。小学校に入ってはじめての夏休み
は、きょうで、おしまいです。「八月」のページを、い
きおいよくきりとりました。
 このカレンダーは、きょねん、お母さんにてつだって
もらって、チュンが、作りました。
 いっしょうけんめい考えて、一月から十二月まで、ひ
とつきごとに、いろいろな、絵をかきました。
 一月は、男の子が、ようかいみたいな顔の夜を、やっ
つけようとしているところ。寒くてすぐ暗くなる一月。
チュンは、夜がきらいです。
 二月。雪がふっているなかを、ハガキをポストにいれ
にいく自分をかきました。
 おじいちゃんやおばあちゃんは、さむいあいだは、な
かなかあそびにこられません。「げんきでね」と、ハガ
キに、大きく書きました。
 三月、四月、五月、六月、七月・・・・、チュンは、
どんな絵がいいか、いっしょうけんめい考えましたが、
とてもたいへんでした。
 でも、八月だけは、すぐにきまりました。バッタと青
虫が、テーブルに向かいあって、なかよく食事をしてい
るところです。
 青虫は、ずりおちないように、体のはんぶんぐらいを、
いすのせなかにのせています。ごちそうは、お皿のうえ
の赤いリンゴ。
 バッタは、長くてつよそうなうしろ足で、やっぱり、
いすのせなかに、しっかりつかまっています。まえのお
皿には、だいすきな細いはっぱを、やまもりのせてあげ
ました。
 チュンは、この絵がいちばん気にいっていましたが、
きょうで、とうとうおわかれです。
「さ、おゆうはんできたわよ。はこぶの、てつだって!」
 お母さんが、よびました。
 チュンは、カレンダーをくしゃくしゃとまるめると、
おもいきって、くずかごに、ほうりこみました。

 その夜のことでした。
 お母さんは、となりのへやで、あかちゃんのルウを、
ねかしつけています。お父さんは、まだ、のうぎょう研
究所から帰りません。
 ランドセルに夏休みの宿題をつめていたチュンは、
「あれっ!」と、耳をすましました。
 そばの、くずかごが、かすかにゆれています。なにか
音がしています。
 チュンは、そっと、ちかづきました。
「これじゃ、こまるよ。こんなにくしゃくしゃっとまる
められちゃあ、きゅうくつでたまらない。はっぱが、ま
だたくさんのこってるんだ」
「あたしだって、まだまだ、リンゴをかじりたいわ。こ
れじゃあ、自由にうごけやしない」
 ガサガサと、羽をこすりあわせているような声。小さ
くてやさしい細い声。どうやら、バッタと青虫のようで
す。
 チュンは、ドキッとしました。いそいで、まるめたカ
レンダーをくずかごからひろいだすと、しわをのばしま
した。
「ああ、やっと、らくになった」
「からだが。すっきりしたわ」
「たすかった、たすかった。さ、はっぱをたべようかね」
「おもうぞんぶん、リンゴをかじりましょ」
(ああ、やぶらないで、よかった!)
 チュンは、ほっと、ためいきをつきました。いままで、
カレンダーは、毎月はずすと、まるめてすてていました。
(でも、これからは、だいじにとっておこうかな)
 チュンは、八月のカレンダーをそっともちあげると、
ていねいにしわをのばして、かべに、セロテープでとめ
ました。
「いつまでも、たくさんたべてね」
 つぶやくと、チュんは、そっと、へやのあかりをけし
ました。
「ガサガサ・・・・・」
「カリカリ・・・・・」
 チュンがねむるまで、その小さな音は、つづいていま
した。
                (おわり)

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