すいすい童話館より

「すいすい」というスウイン(水泳クラブ・旧北関東イトマンスクール)が
半としにいちどだしている、しんぶんにれんさいしています。ここではひ
とつのせます。ときどきお話しをかえています。2012年1月

真夜中のレッスン

                     2010年作品

    ミサちゃんの家は、ドングリ林のちかくにあります。いまは、六月。
 ミサちゃんは、一年生。学校のかえりみち、幼稚園(ようちえん)の
ところまできたときでした。
「ミサちゃんは、うらやましい!」
 とつぜん、大きなとり小屋のなかから、お父さんのクジャクが、声を
かけてきました。
「どうして!」
 おどろいて、ミサちゃんはふりむきました。
「だって、あのこうさてんを、一人でじょうずにわたれるようになったか
らさ」
「だれだって、わたれるよ。ちゃんと、こうつうきそくをまもっていればね」
「き、きそく! おしえて」
「うーん・・・・・、こんどね」
 ミサちゃんは、かけだしました。

 その夜のことでした。
 ミサちゃんの部屋(へや)は、いっかい。
 よなかに、
「コツ、コツ・・・・・」
 まどをたたく音が、しました。
 ふっと目をさましたミサちゃんは、そっと、カーテンをあけると、おどろ
きました。
お父さんクジャクが、くちばしで、ガラスをたたいているではありません
か。
「どうしたの!」
 いそいでまどをあけると、ミサちゃんは、小さな声でききました。
 お母さんクジャクも子どもたちと、まどを見あげています。
 よく見ると、ようちえんでかっているヤギやウサギ、それから、しらな
いタヌキやちゃいろいネコもまじっています。
「きょうは、園長(えんちょう)先生が、もんのカギや動物小屋(どう
ぶつごや)のカギをしめわすれてね。こんやは月夜だし、ぼくたちは、
チャンスだって、でてきたのさ」
 お父さんクジャクが、息をはずませました。
「そしたら、ウサギさんやヤギさんたちもついてきてね。ドングリ林の
タヌキさんや町を歩いていたネコさんにも話したら、みんな、教え
てほしいって、ついてきたのさ!」
 ミサちゃんは、目をぱちくり。
 でも、町のなかを歩くネコやタヌキは、あんぜんに道をわたるのが、
なかなかたいへんです。
 ミサちゃんは、いそいで洋服をきました。

 お月さまは、まんまるで、金色。町の人たちは眠っていますが、
そとは、ひるまのよう  な明るさです。
「青すすめ、ぱかぱか、いそげ、赤とまれ」
 これは、お母さんが、おしえてくれたことで、ぱかぱかというのは、
しんごうが、またたくことです。
 公園でのレッスンは、しずかに、でも、みんなが、いっしょうけん
めいやりました。
「しっかりおぼえて、なかまたちに、おしえてあげようね」
   タヌキとネコが、話しあっています。
 レッスンは、おわりました。
 いよいよ、ほんばん。
 ミサちゃんをせんとうにして、みんなで、こうさてんのところへやって
きました。
「一番目は、クジャクさんのかぞく!」
 ミサちゃんのごうれいは、ひくい声です。
 なにしろ、まよなかなのですから。
「青すすめ、ぱかぱかいそげ、赤、とまれですな」
 つぎはヤギのふうふが、わたりました。ウサギのかぞく、ネコ、さい
ごはタヌキです。
 みんな、じょうずにわたりました。

 あくるあさ、ミサちゃんは、カッコウのなき声で目をさましました。
 まだ、六時。
 そっと、部屋のまどをあけました。やわらかな土の上に、いろいろ
な形の足あとがついています。
「やっぱり、ゆめじゃないや。もうひとねむり」
 ミサちゃんはつぶやくと、まどをしめて、また、ベッドに入りました。
 (おわり)
  

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