1999年作品
夏が、おわりました。
土曜日、さとみは、学校から走ってかえってきました。パパとママは、
ブランコは、しずかに、しばふのうえでゆれていました。ジョンと
(おわり)
「たんじょうびのプレゼントは、なににしましょうかね?」
パパは、ヒバチャマにききました。ヒバチャマというのは、三年生のさ
とみのヒイおばあちゃんです。
「なにしろ、あたし、こんど九十さいになるんですからね。ごほうびに、
二人のりの白いブランコをおねがいしようかしら」
ヒバチャマは、すましていいました。
でかけているのですが、きょうは、ブランコがとどくのです。
「さとみちゃん、はやくはやく!」
庭にはいると、ヒバチャマが、ブランコのうえから手をふりました。
さとみは、目をかがやかせました。
しばふのうえの白いブランコは、まるで、空の雲のように、まっ白です。
「あたしものせて!」
さとみは、かけよりました。
そのとき、犬小屋から、ジョンがとびだしてきました。ジョンは、う
す茶色の長い毛の大型犬です。
「ちょっと重くなるけど、ジョンものせてやりましょう」
ヒバチャマは、ジョンを足もとにすわらせました。
つづいて、しばふをよこぎって、トラねこのチャーが走ってきました。
「チャーものせてやりましょう」
ヒバチャマは、チャーをだきあげました。
「じゃあ、いくわよ!」
さとみは、りょうほうの足に力をこめて、ブランコをこぎはじめました。
ブランコは、はじめはゆっくり、だんだん大きくゆれていきます。
風が、あつまってきました。ブランコのまわりを、ビュンビュン音を
たてて、かけまわりはじめました。
さとみは、しんぞうが、ドキドキしてきました。
ブランコが、いつにまにか、しばふからうきあがっています。だんだん
だんだん、高くのぼっていきます。
さとみは、こわくなって、ヒバチャマにだきつきました。
「だいじょうぶ。風はね、きっと、ブランコを雲だとおもっているのよ。
でも、そのうち、まちがいにきづくわ」
ヒバチャマは、おちついています。
ブランコはゆれながら、白い大きな雲にちかづいていきます。風たち
は、まいごのこの白い雲を、はやく、なかまのところへつれていってや
らなきゃと、おもっているのでしょう。
さとみの家が、だんだん、小さくなります。さとみが通っている南小
学校やスイミングスクールが、とおざかっていきます。
「ワーン、ワーン!」
「ニャーゴ、ゴロゴロ!」
とつぜん、ジョンとチャーが、かなしそうになきだしました。ふあん
で、しんぱいで、がまんできないというように。
風が、ふいに、とまりました。ブランコもとまりました。なにか、か
んがえているように、風が、ブランコのまわりを、ゆっくりと、まわり
はじめました。
「気がついたのよ、きっと。白いけど、雲じゃないってことに」
ヒバチャマが、さとみの耳もとで、ささやきました。
風は、ブランコを、したにおろしまじめました。だんだん、スピード
をあげていきます。ぐんぐん、家がちかづいてきました。
さとみもヒバチャマも、おもわず、目をつぶってしまいました。
チャーが、ブランコからとびおりていきます。
「スリルまんてんだったわね!」
ヒバチャマは、うふっと、わらいました。
さとみは、まだ、胸がドキドキしています。
「パパとママが帰ってきたら、きいてもらうわ」
さとみがいうと、ヒバチャマが大きくうなずきました。BR>