すいすい童話館より

「すいすい」というスウイン(水泳クラブ・旧北関東イトマンスクール)が
半としにいちどだしている、しんぶんにれんさいしています。ここではひ
とつのせます。ときどきお話しをかえています。2011年5月

ダビイのひっこし

                     2007年作品

 五月。青い空から、ときどき、強い風が吹いてきます。
 ここは、マンションの二階のベランダです。
 土曜日のひるすぎでした。
 四年生のハルミが、洗いおわったウワバキを、靴干しに
かけたときです。
 強い風といっしょに灰色の物がとんで来て、物干台の
はしに、ひっかかりました。また、どこかへとんで行きそうに
ゆれています。
(道に落ちたらたいへん!)
 でも、ハルミが背のびをしても、手がとどきません。
 ガラス戸を開けて、さけびました。
「だれか、早く!」
 お父さんがベランダに出て来て、灰色の物をとってくれ
ました。
 二人が、いそいで部屋に入ると、
「なに? きれいなものね!」
 お母さんが、ちかよって来ました。
 お父さんの手のひらぐらいの大きさです。 ハルミは、
そっと持ってみました。
 灰色や青の鳥の羽がたくさん使ってあります。軽くて
ドーナツ形で、ドアや壁(かべ)にかざるリースみたいです。
 そのときでした。げんかんのインターホンが鳴って、子ど
もらしい声がしました。
「八階のものですが、おとし物を、取りに来ました」
「あらっ!」
 ハルミは、いそいで、おとし物を持つと、げんかんに出て
行きました。
 ドアのそとには、ハルミとおない年ぐらいの、知らない女  まっ白なワンピース、えりの青いレースがとてもおしゃれ
です。
「はい、どうぞ!」
 ハルミがおとし物をさしだすと、女の子は、にっこりして
両手で受け取りました。そして、大きな目をぱちっとさせ
ました。
「ありがとうございました! こわれないで、良かった。わ
たしたち、これを持って、もうじき、ひっこし、します。でも、
日曜日には、また、遊びに来たいの。わたしとお友達に
なってくれる? わたしは、ダビイっていうの」
 とつぜんだったので、ハルミは、ちょっとびっくりしました。
でも、すぐに、うなずきました。
「いいわよ! わたしはハルミ」
「うれしい。じゃ、ゆびきりして!」
 女の子は、小指を出しました。

 ハルミは部屋にもどると、首をかしげました。
「おかしい。いまの子、見たことないの」
 少し考えて、お父さんがいいました。
「そうだ。このマンション、八階は、もう屋上だもの」
 お母さんが、大きく、うなずきました。
「屋上の使ってない小屋に、ハトが住みついているだけ。
だれもいないわ」
 ハルミは、目を丸くしました。
「じゃあ、いまの子、ハトの子かもしれない!」 しばらく
前から、日曜日になると、ベランダに飛んでくるハトたち
に、えさをあげてきたのです。
 でも、お母さんが、また、続けました。
「あの小屋は、もう、こわして、かたづけちゃうことになっ
てるのよ」
「えっ、そんなの、ハトが、かわいそうじゃない!」
 ハルミは、かなしくなりました。
「だいじょうぶ。ハトって、かしこいから。新しいすみかを
みつけるから」
 お母さんは、ハルミの肩をそっとなでてくれました。

 ハトが来なくなりました。
 しばらくたった日曜日のことです。
 今朝も、ハルミは、ベランダに出ました。
 青い空に、丸い白い雲が、浮かんでいます。
 そのときでした。
 高い空から、一羽のハトが飛んで来るのが、見えま
した。ぐんぐん、ちかづいて来ます。 ハトは、一回せん
かいしたかと思うと、ハルミの足もとにまいおりました。
 灰色と青がまじった羽の色です。
「ダビイちゃんね。約束、まもったのね!」
 ハルミはうれしくなって、しっかりと、ハトをだきあげま
した。

                       (おわり)

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