すいすい童話館より

「すいすい」という北関東イトマンスクール(水泳クラブ、現在・スウィン)が
半としにいちどだしている、しんぶんにれんさいしています。ここではひとつのせます。ときどき
お話しをかえています。2011年5月

青い自転車

                     2009年作品

 トモキの家は、自転車店です。
 月曜日の夕方、お父さんがいいました。
「さあ、山田さんの家へ、ちゅうもんの配達(はいたつ)
だ」
「マミちゃんの自転車、できたんだね!」
 四年生のトモキは、さっさと、軽トラックの助手席にのり
こみました。
 自転車は、今日の青い秋の空のような色。同じ組のマ
ミちゃんが、すきな色です。
 マミちゃんとは、幼稚園(ようちえん)のときからの友達で
す。
「じゃあ、出発!」
 お父さんのかけ声で、車はゆっくり動きだしました。

   電話をかけてあったので、マミちゃんは、もう、家の前で
待っていました。
 お母さんは、買い物にでかけています。
「かっこいい!」
 マミちゃんは、さっそく自転車にのると、家の前の道を走
りはじめました。
 長いかみの毛が、ふわっと、後ろに流れています。
 トモキは、あとをおいかけました。
「さきに行くぞ!」
 お父さんの車は、帰っていきます。
 この道は、すぐゆきどまりで、めったに車がこないので、
安全。それに、今日は、ふしぎに歩く人もいない、しずか
な道です。
「いい色。かるいね、この自転車!」
 マミちゃんは、ぐるぐるまわったり、いそいで、走ったりしは
じめました。
 トモキは、はあはあと息がきれます。
 マミちゃんが、さけびました。
「今日は、この自転車、空中(くうちゅう)をとばしてみよう
か? なんだか、できるような気がしてきたんだ。うふっ!」
 トモキを見て、笑っています。
 マミちゃんは、自転車こぎのめいじん。でも、自転車が空
中をとぶなんて。映画(えいが)やテレビでは見たことがありま
すが、トモキには信じられません。
「そ、そんなこと、できるわけないよ!」
「じゃあ、やってみようか?」
「だって、マミちゃんは魔女(まじょ)でもないし・・・・・」
「では、トモキくん、目をつぶりなさい!」
 マミちゃんは、少しおとなのような声でいいました。
 信じられないけれど、しかたなく、トモキは立ち止って目をつ
ぶりました。
 マミちゃんのつぶやく声が、きれぎれにきこえてきます。なんだ
か、トモキのほっぺたをなでる風が、強くなったような気がします。
 そっと目をあけたトモキは、目を丸くしました。
 いつのまにか、自転車はうきあがって、トモキの背の高さぐら
いの空中を、かるく走りまわっています。
「だ、だいじょうぶ?」
 びっくりして、トモキはさけびました。
「もちろん。わたしのマホウだから」
 マミちゃんは、へいきな顔。
「自転車だって、空をとびたいって思うこともあるんだよ。あんま
り高くとぶと、人にみつかっちゃうから、低くだけどね」
 なんだか、ほんとうに、自転車がうれしそうに、いきおいよく走っ
ています。ハンドルについた青いベルも、リンリンと歌っているよ
うです。
「でも、あぶないよ。おりな!」
 トモキが、いったときでした。
「あっ、お母さんだ!」 
 マミちゃんは、スーッと自転車を地面におろして、ぴたっととめ
ました。

 それから、いく日もたちました。
 でも、あの日いらい、マミちゃんは、自転車にジュモンをとなえ
たことはないそうです。
 それは、いつも、道にはだれかいるし、車や自転車が走ってい
るからだそうです。
(また、やるの?)
 トモキは、いつか、マミちゃんにきいてみようと思いながら、なん
だかマミちゃんが魔女みたいで、まだ、話すことができません。

                       (おわり)

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