すいすい童話館10

「すいすい」という北関東イトマンスクール(水泳スクール、現在・スウィン)が
半としにいちどだしている、しんぶんにれんさいしています。ここではひとつのせます。ときどき
お話しをかえています。2010年10月

約束の日よう日

                   2006年作品

   もうすぐ春休みです。
 南小学校は、一時間めの休み時間。校庭では、みんな、
走りまわったり、(うんてい)にぶらさがったりしてい
ます。
 四年生のユキは、少しつめたい風のなかを、同じ組の
シンヤくんのあとを追いかけて、走っていました。
   シンヤくんは、校庭のすみのケヤキの木の下で、きゅ
うに立ち止りました。
 とつぜん、シンヤくんのくちびるから、
「ピー、ピー・・・・・」
と、笛みたいな音が出はじめました。
「すごい! シンヤくん、口笛が吹けるんだ」
 ユキは、目を丸くしました。
 シンヤくんは首を少しふりながら、テレビアニメ『タ
ムタム』の曲を吹いています。
「じょうず。大人みたい!」
 ユキも、口笛が吹いてみたくなりました。
「ねえ、ねえ、だれに教えてもらったの?」
「お父さんにさ!」
 シンヤくんは、とくいそうに、鼻の穴をひくっとさせ
ました。
 シンヤくんのお父さんは、会社の仲間と、「ハッピー
」という名前のバンドを組んでいて、ときどき、ボラン
ティアで、老人ホームなどをまわります。
「教えて、教えて」
 ユキは、大きな声でいいました。
「うーん・・・・・」
 少し考えて、「教えてあげるよ」と、シンヤくんがう
なずきました。
「いいかい、こんなふうにくちびるをね」
 シンヤくんは、説明をはじめました。
 ユキは、まねしてやってみました。でも、「フィー、
フィー」
 風が吹いているような音ばかり。
「宿題!」
 シンヤくんは、先生みたいにいいました。

 その日、学校から帰ると、ユキはいそいでおやつをた
べました。
 お母さんは、買い物。
 ユキは、窓のそばで、口笛の練習をはじめました。
   庭のアオギリの木に、オナガが三羽とんできました。
まだ寒いので、アオギリには、葉っぱが少ししかありま
せん。
 オナガたちは、黒い目で、じっとユキをみつめていま
す。
「ピー!」
 とつぜん、ユキのくちびるから、笛みたいな音が出て
きました。いままでは、まるで、風が吹いているような
音しか出なかったのです。
「やったー!」
 ユキは、とびあがりました。
 そのときでした。三羽のオナガが、さわぎはじめまし
た。
「ゲエーイ、ゲエーイ」
 とてもへんななき声です。青みがかった灰色の羽をバ
サバサ動かしています。
 まるで、へただねといっているみたいです。
「いじわる。あんたたちこそ、へんな声!」
 ユキは、窓を開けていってやりました。

 つぎの日、休み時間に、ユキとシンヤくんは、ケヤキ
の木の下にやってきました。
「じゃあ、これから、毎日『タムタム』の練習だよ」
 シンヤくんは、胸をはって、また、先生みたいにいい
ました。
「つぎのつぎのつぎの日曜日、老人ホームへ行ってね、
ぼくと二人で、口笛を吹くんだ」
「えー!」
 ユキは、びっくり。目を丸くしました。
 約束の日曜日、暖かな風が吹いています。
 老人ホーム「さくらえん」のホールは、おじいさんや
おばあさんで、いっぱいです。
「ハッピー」の人たちの演奏が終わり、いよいよ、シン
ヤくんとユキの番になりました。
「曲目は、テレビアニメの主題曲『タムタム』です」
 司会は、シンヤくんのお母さんです。
 ユキは、今日まで、いっしょうけんめい練習しました。
   二人並んでマイクの前に立つと、「1、2、3」と、
二人で小さな声でいって、口笛を吹きはじめました。
 後ろのほうに、お父さんもお母さんも、来ています。
二人とも少し心配だったのでしょう。でも、手をふって、
にこにこしています。
 あいている窓から、サクラのはなびらといっしょに、
オナガのなき声が、入ってきました。
 サクラの枝に止まっている、青い灰色の体も見えます。
 やっぱり、三羽。このまえ、庭にやってきたオナガた
ちにそっくりです。
「ゲエーイ、ゲエーイ」
 三羽が、声をそろえてなきはじめました。でも、今日
は、口笛に合わせて歌っているようで、なんだか楽しそ
う。
(ああ、よかった!)
 ユキはほっとすると、しっかり前をむいて、口笛を吹
きつづけました。

              (おわり)

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