2002.11.13. 『湾岸シティ・コネクション』(市川ジュン/メディアファクトリー)

港ヨコハマ、山の手横浜……この種の響きを形作っているのは、関内や海岸通りであったり、
山下地区、中華街に代表される華僑たち、元町の老舗、山手や本牧あたりになってくるだろう。
そこに、みなとみらいエリアだとか、北の鶴見、港北、青葉方面、南に回って磯子や金沢、
西の保土ヶ谷、戸塚が加わり、いわゆる「横浜市」になる。けれど街は行政区域で区切れない。

そこに住む人々、町並み、店構え、道幅、交通手段、街路樹の茂り方、土地の傾斜、得意な産業。
数え切れないほどの要件が重なり合って絡まり合って、やっと他のどことも違う街ができあがる。

作中で描かれている横浜は、市川さんの心の中に育った横浜だ。物語なのだから、それでいい。
そして、市川さんらしいキャラクタたちが横浜市街を飄々と闊歩しながら、今を生きている。

山手の丘の上、裕福な家の子どもが通う私立の中高一貫校といえば、現実にも何校か建っている。
作中では、ここに私立海星学園高校が配されている。そして、海星生が日ごろからたまり場とする
学校近くのサンドイッチハウス「ベイサイド」に、若くて綺麗で美人で気っ風のいいねーさんが、
店長としてやってきた。「あんた誰だよ」と誰何された彼女は、杜水葱(もり・なぎ)と名を告げる。
店主である祖母を助けにふらりとやってきた、時代劇でいえば、流れ者の助っ人ポジションだろう。
平凡で停滞ぎみの日々が、がらりと音を立てて動き出すような、ひきがねを弾く存在といっていい。

果して、彼女と張り合えるだけの高校生がいるのか。これがいるんだな。一人目は、横浜きっての
御曹子であるだけでなく、顔は端正、頭も切れて生徒会長を務める御荘直方(みしょうなおかた)。
二人目は、海星高であらゆる運動部を掛け持ちする運動神経抜群の少年海門雄樹(かいもんゆうき)。
海門は学外に出れば、横浜の不良少年少女を仕切る頭なのだ。ただの体力一辺倒であるはずもない。
そして最後に控えるのは、とびきりの容姿を持ったフェミニスト、浮世離れした笑みを浮かべつつも、
深刻な親族関係ゆえに、激しい気性へと育たざるを得なかった月法師漣(つきほうし・れん)である。

これは謎解きミステリでもなく、少年たちの成長物語というだけでもない。かといって、二十歳台の
女1人が、男子高校生3人に惚れられて……というほど甘い夢物語でもない。そして、人死に沙汰を
避けないわりに、ノワールものというほど濃くもない。でも気楽に読み始めてみると、だんだん気分を
締めて、ぎゅっと手に力を込めながらストーリーに引きずり込まれていってしまう。なぜだろうか?

シンプルな物語ではないのだ。水葱ねーさんをめぐる三人の駆け引きだとか、古くからお互いに
分かち合ってきた友情だとか、月法師家・御荘家それぞれのお家騒動だとか、バブルまっただ中で
立ち向かわなきゃいけない諸々の戦いだとか。いろんな要素が詰め込まれているものだから物語の
展開が複雑で入り組んでいる。なので、気づくとけっこう気を張りつめながら読んでいたのだろう。

華麗で粋な連中がたどりつく最終話「永遠の蒼」は、衝撃的なだけでなく、痛烈で、痛快でもある。

『新編 懐古的洋食事情』