99.08.06.『困った時には星に聞け!』(あべ美幸/1〜6巻/冬水社/いちすきコミックス)

藤縞宝、高校一年生。母を早くに亡くし野生動物写真家の父は世界を放浪して家には帰って
こない。入学式直後、二人きりでいっしょに暮らしてきた祖母が亡くなってしまえば、
自宅での一人暮らしを断念し寮に入らざるをえなかった。そしてあれやこれやの後始末を終えて、
入寮および登校を再開できたのは二週間目のことだった。しかし、そのころにはクラスには
すでにグループが成立し、宝を受け入れようとしないで、さらにはいじめへと発展していく。
そして、寮で宝を待っていたのは奇人変人のバーゲンセールのごとき連中で、同室の同級生
保坂清嶺(きよみね)はその筆頭みたいな奴だった。小柄な体躯をものともせずに向こうっ気の
強い宝は、清嶺が自分のまわりに張ったバリアとがんがん衝突をくり返す。そして泣かされる。
なのに、ともに少なからぬ時間を過ごすうちにおたがい誰といるよりも気兼ねなくいられる、
それまで考えたこともなかったような存在としてお互いを認識するようになっていくのだ。
そして、クラス、校外、おたがいの家族など、さまざまなトラブルや恨みつらみの渦中へと、
誠実に飛び込んでいってしまう宝を、他人に無関心な清嶺が結局放っておけなくなってくる。
この作品は、15歳にしてすねきった子供のままかつスレきった清嶺の成長物語でもあるのだろう。

繊細で華やかでかわいくて若々しい画風に、青春を疾風怒濤で駆け抜けていく暴風雨のような
10代の登場人物達。そして、「水戸黄門」的な最後にメーンキャラが幸せとか周囲の理解を
つかむという定番の展開でありながら、そこにいたるまでに、泣きたいような抉られるような、
誰とも違う、キャラそれぞれ固有の痛みを盛り込んでいくことで、話の厚みを出してきてます。
笑いがあふれ、さくっと読めるものでありながら、よく考えて読むとじーんとくるというのは、
やはりキャラそれぞれの孤独や悲しみや拒絶がどこか少しずつ自分と重なるからなんだろうね。
ちなみにタイトルの意味は語られていないようですが、私なりに解釈してみておきましょう。
「星」とはいうなれば、自分の中の輝く部分であり、そばにいる大事な人間のきらきらした
部分でもあると思います。つまり「悩んだり迷ったり困ったり惑ったりしたら、それらの光と
向かいあって恥じることのない道を選べ」そしたらきっと後悔しないだろう、ってことかな。

全体として緩やかなつながりは保ちつつ各巻ごとに一話が完結しているという、最近多い
スタイルでシリーズが構成されています。たぶんこれは不景気および出版不況とも関係ある動き
なんでしょう。かつては、巻末でどーんと「ひき」を作って、次巻を買わせるという意図の
まんがが大半でしたが、ここのところ戦略的にコミックスの作りが変わってきてるのを感じます。
なにはともあれ、少し巻が多めの作品をみなさんにお勧めする時には、たいへん気が楽です。

あべ美幸さんという描き手は、冬水社(旧吉祥寺倶楽部)が見い出したまんが家さんたちの中で、
杉浦志保さんと並んで双璧と言うべき人なんでしょうね。残念ながら初期作品は絶版だけど、
最近冬水社は絶版分のリバイバルコミックスを順次刊行しているので、いずれ収録されるのでは
ないかと思う。現在は掲載誌のカラーもあってBL色ないけど、初期作品群はBL色が濃厚なので
ご存じない方は注意するように。でも私は一連の、男の子達が恋心に真っ向から向かいあう姿を
描いた初期作品群も好き。今みたいに、色事抜きで男の子達がつるんでる時の、邪念0であり
ながら自然に発する色気を描いてくれるのも好き。ちなみにおすすめ初期作品は「阿部美幸」
名義で描かれた、『LOST CHILD』と『君は僕を好きになる』(全4巻)です。参考までに。

*2000/12、第12巻まで刊行済。『君は僕を好きになる』もリバイバルコミックス全二巻で復刊。