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労基旬報は労務管理の専門紙です。

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〒 東京都新宿区下落合

労務担当者がわかる最近の労働行政

独立行政法人 労働政策研究・研修機構
       研究所長 濱口 桂一郎先生

毎月25日号  労務担当者がわかる最近の労働行政

EUの透明で予見 可能な労働条件指令(9月25日号)
 
本紙でも過去何回か制定途中で紹介してきたEUの透明で予見可能な労働条件指令が、 去る2019年6月20日に正式に成立しました。 正式名称は 「欧州連合における透明で予見可能な労働条件に関する欧州議会と理事会の指令 (2019/1152)」 です。 これまで本紙では「EUの新たな労働法政策―多様な就業形態への対応」 2017年6月25日号、 「EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み」 2018年1月15日号で紹介し、 さらに詳細は 『季刊労働法』 2018 年春号(260号) 掲載の 「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」 で条文案を示しつつ解説しています。
 今回成立に至った指令は、 基本的にこれらで紹介した指令案段階の文言とそれほど大きく変わっていませんが、 いちばん大きな変化は指令案第2条に盛り込まれていた 「労働者」、 「使用者」 、 「雇用関係」 の定義規定の削除です。 これらは、 類似のEU司法裁判所における判例に基づくもので、 例えば 「労働者」 は 「一定の時間において、 報酬と引き替えに、 他人のためにその指揮命令下で役務を遂行する自然人」 と定義されていましたが、 とりわけ各国労働大臣からなる理事会において批判が集中し、 削除に追い込まれてしまいました。 2018年6月14日付の理事会文書によると、 審議の当初からEUレベルで労働者の定義規定を設けることに懸念が示され、 旧書面通知指令と同様国レベルへの参照に止めるべきとの意見が出されたようです。 議長国は 「従属性」 を追加し 「役務」 を
「労働」 に変えるという案を提示しましたが受容れられませんでした。
 一方欧州議会の方も労働者概念の拡大につながりかねない動きには警戒的でした。 2018年10月26日付の同議会意見では、 上記労働者の定義規定を第1条第2項に移した上で、 「前者と後者の間に支配従属関係がある場合に」 という要件を追加し、 さらに 「かかる基準を充足しない者は本指令の適用範囲にない」 と規定するだけでも足らず、 第1条第2項として 「本指令で定める基準を充足しない自営業者は本指令の適用範囲にない」 と念を入れています。 両立法体にとっては、 自営業者が労働者とされてしまうリスクを削り取っておくことが重要だったのでしょう。
 結局、 最終的に採択された指令では、 第1条第2項の 「全ての労働者」 を定義する形で、 「本指令は、 司法裁判所の判例を考慮しつつ、 各加盟国の法律、 労働協約又は現行の慣習により定義された雇用契約又は雇用関係を有するEUの全ての労働者に適用される最低限の権利を規定する」 という規定ぶりになっています。
 なお指令案では本文の労働者の定義規定の参照として法的拘束力のない前文第7項に、 その基準を満たす限り家事労働者、 オンデマンド労働者、 間歇的労働者、 バウチャーベースの労働者、 プラ
ットフォーム労働者、 訓練生及び実習生が指令の適用範囲に含まれるという記述がありました。 これらリストは前文第8項に残っていますが、 そこには併せて 「純粋な自営業者はこれら基準を充足しないので本指令の適用範囲にない」 と追加されています。 しかしこれに対しては反発も強く、 結局自営業者の地位の濫用について、 「偽装自営業は雇用関係の諸条件を充足しているにもかかわらず法的財務的義務を回避するために自営業と申告する場合に生ずる。 かかる者は本指令の適用範囲である。 雇用関係の存在判定は当事者による関係の記述ではなく労働の現実の遂行に係る事実によ
って判断されるべき」 というやや説明的な文言が前文第8項に追加されました。 いずれにせよ、 EUにおいても労働者性の問題は政治的にセンシティブなものであることが窺われます。
 もう一つ理事会で修正された実体規定は適用除外です。 指令案では1か月8時間以下の労働者を適用除外することができるとされていましたが、 それでは狭すぎるという批判が出て、 結局4連続週平均で1週間3時間以下の労働者の適用除外とされました。 日本の感覚ではどちらも極めて僅少労働ですが、 これも指令案が緩和された点です。
 指令案から労働者保護的な方向に規定が充実されたのはオンデマンド労働に関する規定です。 指令案第9条 (最低限の就業予見可能性) では、 使用者は事前に決定された参照時間または参照日の範囲内で労働が行われるか、 合理的な事前告知期間をおいて使用者が労働者に作業割当をする場合にのみ可能としていましたが、 欧州議会の修正案に基づき、 いくつかの規定が追加されました。 指令第10条では、 これら要件が満たされなかった場合には労働者が不利益を被ることなく作業割当を拒否する権利があること、 また使用者が補償なく作業割当を取り消すことを認める場合でも、 労働者と合意した作業割当を一定の合理的なデッドライン以後に取り消す使用者に対して補償金を支払うよう加盟国に求めています。 さらに、 オンデマンド労働への補完的措置が第11条として新設され、 加盟国がオンデマンド契約又は類似の契約を認める場合でも、 その利用と期間に制限を設けること、 一定期間に就業した平均労働時間に基づき最低限の賃金支払い時間数の存在を推定すること、 その他乱用を防ぐための同等の措置を求めています。
 全体としては、 いわゆる雇用類似の働き方に係る労働立法の先駆け的な性格はやや後退しましたが、 むしろ近年その濫用が大きな社会問題となっているオンデマンド労働やとりわけセロ時間労働といった極度に不安定な雇用形態に対する立法対応として評価されるべきものとなったように思われます。
 その観点からすると、 本指令の日本へのインプリケーションはいわゆる雇用類似の働き方よりはむしろ、 日雇派遣のような形で表れてきている極度に不安定な雇用形態についてより重要なのかもしれません。 ここで日雇派遣に関する過去の経緯を振り返ってみましょう。 今から10年以上も前の2000年代半ば、 日雇派遣で働く人たちにテレビや新聞が着目し、 ネットカフェに寝泊まりしている姿など彼らの窮状を集中的に報道したことが、 社会に対し非常に大きな影響を与えました。 グッドウィルやフルキャストといった日雇派遣会社の名前を思い出す方もいるでしょう。 2007年12月の労政審中間報告では日雇派遣の一部規制強化が打ち出されました。 そこでは、 日雇派遣は契約期間が短く、 仕事があるかどうかが前日までわからない、 当日キャンセルがあるといったことや、 給与からの不透明な天引きや移動時間中の賃金不払い、 安全衛生措置や教育が講じられず労災が起きやすい、 労働条件の明示がされていないといった問題点が指摘されていました。 これらは上記オンデマンド労働と同じ性格の問題です。 そこでこの時点で省令改正がされ、 日雇でも派遣先責任者の選任義務や派遣先管理台帳の作成記帳義務を課し、 派遣元事業主が定期的に日雇派遣労働者の就業場所を巡回し就業の状況を確認することを義務づける等しました。
 日雇派遣形態そのものの規制については、 2008年7月の 「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」 で、 危険度が高く、 安全性が確保できない業務、 雇用管理責任が担い得ない業務を禁止し、 専門業務など短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務のみ認める方向が打ち出され、 同年9月の労政審建議では 「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、 原則、 労働者派遣を行ってはならない」 とした上で、 「日雇派遣が常態であり、 かつ、 労働者の保護に問題ない業務等について、 政令によりポジティブリスト化して認めることが適当」 としました。 これを受けて同年11月に労働者派遣法改正案が国会に提出されましたが、 折からのリーマンショックで、 多くの派遣労働者が派遣会社の寮を追い出されて住むところを失うという状況があらわになり、 同年末から2009年始にかけていわゆる 「年越し派遣村」 が設立され、 派遣制度に対する風当たりはさらに強くなりました。
 2009年の総選挙で民主党政権が誕生すると、 あらためて労働者派遣法の審議が始められ、 2010年4月により規制を強化した改正案が国会に提出されましたが、 日雇派遣については自公政権時の法案と変わっていませんでした。 しかし、 政治状況から同法案が塩漬けになり、 2012年3月に野党の自公両党と合意して登録型派遣の原則禁止の削除など修正可決した際、 禁止の例外としてさらに
「雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合」 を加え、 具体的には60歳以上の高齢者、 昼間学生、 労働者自身かその配偶者が年収500万円以上の者を適用除外としました。 この規定は2015年9月に労働者派遣法が全面的に改正されたときにも触れられず、 現在も適用されています。
 一方この間、 日雇派遣の原則禁止を見越して多くの業者は日雇派遣から日々紹介への業態転換を図り、 現在では実質的に同様の業務が日々紹介として行われています。 有料職業紹介事業には手数料規制など派遣事業にはない規制があるとはいえ、 対象者に制限がないのでやりやすいことは確かでしょう。 とりわけ、 日雇で働くために年収500万円以上要件をクリアしているかどうかを証明させる面倒くささを考えれば業者が日々紹介に流れていったことはよく理解できます。 しかし、 形態が日雇派遣から日々紹介に変わっても、 指摘されていた 「契約期間が短く、 仕事があるかどうかが前日までわからない、 当日キャンセルがある」 といった問題点に変わりはありません。 これは、 たまたま日雇派遣という形で現れた問題を、 もっぱら労働者派遣という側面に注目して派遣法の法的手段を使って対応しようとしたことの結果と言えます。
 欧米のオンデマンド労働やゼロ時間契約を見てから、 あらためて日本の日雇派遣や日々紹介を見てみると、 就労時間以外の待機時間に当たる部分を、 日本では派遣会社や紹介会社の 「登録」 という曖昧な状態におくことによって、 同じような効果をもたらしていることがわかります。 どちらも、 情報通信技術の発達のおかげで、 いつどこにいても携帯電話による呼び出しが可能になったことを利用した新たな就業形態であり、 その歴史的位置はほぼ同じようなものではないかと思われます。 経済のデジタル化に伴う新たな就業形態が話題となる今日、 日雇派遣・日々紹介についても新たな視点からの議論が求められるのではないでしょうか。
 ごく最近、 2019年6月6日の規制改革推進会議の第5次答申が 「政府の方針として副業の推進が挙げられている現在、 日雇派遣の形態で副業を行うことについて、 現行規制を見直し、 より広く認められてしかるべきである。 労働者が本業の勤務時間外に、 その専門的能力を生かして副業を行う場合、 複数の派遣事業者に登録しておき、 最も都合の良い場所や時間を選択できる日雇派遣は、 労働者にとって極めて利便性が高い。 また、 企業にとっても、 イベント等に関して急に生じた臨時的
・一時的な雇用ニーズを満たすことができる」 と述べ、 「労働者がニーズに応じて、 雇用型、 派遣型、 自営型の副業を柔軟に選べるよう、 副業の場合の日雇派遣の規制を緩和すべきである」 と求めました。 これを受けて、 政府は6月21日に閣議決定した規制改革実施計画で、 「日雇派遣に関して、 労働者保護に留意しつつ、 雇用機会を広げるために、 「副業として行う場合」 の年収要件の見直しを検討し、 速やかに結論を得る」 と決め、 これを受けて厚生労働省はさっそく、 (他の事項と併せて) 同月25日から労政審労働力需給制度部会で審議を開始しています。
 しかし、 EUの透明で予見可能な労働条件指令を見た上で日雇派遣問題を振り返ってみると、 規制改革推進会議が指摘するような問題にとどまらず、 労働法的観点から検討すべき論点が多く残されているように思われます。

留学生のアルバイトというサイドドア (7月25日号)
 最近、 東京福祉大学の留学生が大量に行方不明となった事件がマスコミを賑わせましたが、 留学生のアルバイト (入管法上は 「資格外活動」) が日系南米人や技能実習生と並ぶ外国人単純労働力の調達ル
ートとなっていることはよく知られています。
 今年1月に公表された 「外国人雇用状況」 の届出状況まとめによると、 2018年10月末現在の外国人労働者総数1,460,463人のうち、 留学生の資格外活動は298,461人(20.4%) です。 これは、 技能実習生の308,489人 (21.1%) にほぼ匹敵し、 専門的・技術的分野の在留資格2 7 6,770人 (1 9.0 %) や永住者の2 8 7,009人 (19.7%) よりも多いのです。
 他の在留資格と明確に異なるその特徴は就労業種にあります。 技能実習生は308,489人のうち186,163人 (60.3%) が製造業、 45,990人 (14.9%) が建設業と、 圧倒的に第2次産業に従事しているのに対し、 留学生の資格外活動は298,461人のうち、 宿泊・飲食サービス業が109,175人 (36.6%)、 卸売・小売業が61,360人 (20.6%)、 その他のサービス業が47,152人 (15.8%) と、 圧倒的に第3次産業に集中しています。
 そうした労働需要は今回の入管法改正によって設けられた 「特定技能」 によってもあまりカバーされないことを考えると、 このサイドドアについてきちんと考えていく必要がありそうです。 そこで今回はまず、 戦後入管法の歴史を振り返り、 留学生のアルバイトがどのような制度的枠組みの中で発展してきたのかを概観したいと思います。
 出入国管理令はいわゆるポツダム政令として1951年に制定され、 翌1952年に法律としての効力を有することとなりましたが、 30年以上にわたって留学生の資格外活動を原則として禁止し、 すべて法務大臣の許可制の下に置いてきました。

第十九条…
2 前項の外国人は、 その在留資格に属する者の行うべき活動以外の活動をしようとするときは、 法務省令で定める手続により、 あらかじめ法務大臣の許可を受けなければならない。

 この規定自体は1989年入管法改正まで変わっていませんが、 1983年に運用方針が大きく変わりました。 同年6月の閣議で留学生のアルバイト解禁が了承され、 風俗営業や公序良俗に反するものでない限り、 週20時間程度であれば資格外活動許可を得ることなく、 自由にアルバイトをすることができるようになったのです。 ただし、 就学生のアルバイトは個別の法務大臣の許可を要しました。 この時期、 1984年には留学生受入れ10万人計画が打ち出され、 中国からの留学生、 就学生が急増しました。
 1989年法改正により第19条第2項は次のようになり、 留学生と就学生のアルバイトについては一律かつ包括的な資格外活動許可が与えられることとされました。

第十九条…
2 法務大臣は、 別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者から、 法務省令で定める手続により、 当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動の遂行を阻害しない範囲内で当該活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行うことを希望する旨の申請があつた場合において、 相当と認めるときは、 これを許可することができる。

  「包括的」 というのは、 通達で定める許可基準内であれば自由に行うことができるという意味です。 具体的には、 大学等の留学生は1日4時間以内、 大学の聴講生、 研究生は1日2時間以内、 専修学校等の留学生、 就学生は1日4時間以内です。 いずれも夏休み期間は1日8時間以内です。
 この基準が緩和されたのが1998年です。 1日単位の時間制限があるとアルバイトの選択肢が限られてしまうという意見を踏まえ、 大学等の正規生や専修学校等の留学生は1週28時間以内、 研究生と聴講生は1週14時間以内とされました。 いずれも教育機関の長期休業期間は1日8時間以内です。 また、 個々の留学生が入管窓口で資格外活動許可申請をしなくても、 留学生の在籍する教育機関が一括して申請を取り次ぐ制度も導入されました。 これらは法務省令 (入管法施行規則) で規定されました。 なお、 1999年法改正で留学生の在留期間が2年に延長されたことも、 留学生のアルバイトを促進しました。 なお就学生の取扱いは従前のままでしたが、 2009年法改正で就学生という在留資格が留学生に統合され、 1週28時間以内に統一されました。 現在の入管法施行規則の規定は次の通りです。

第十九条 法第十九条第二項の許可 (以下 「資格外活動許可」 という。) を申請しようとする外国人は、 別記第二十八号様式による申請書一通並びに当該申請に係る活動の内容を明らかにする書類及びその他参考となるべき資料各一通を地方入国管理局に出頭して提出しなければならない。
3 第一項の規定にかかわらず、 地方入国管理局長において相当と認める場合には、 外国人は、 地方入国管理局に出頭することを要しない。 この場合においては、 次の各号に掲げる者であつて当該外国人から依頼を受けたものが、 本邦にある当該外国人に代わつて第一項に定める申請書等の提出及び前項に定める手続を行うものとする。
一 第一項に規定する外国人が経営している機関、 雇用されている機関、 研修若しくは教育を受けている機関若しくは当該外国人が行う技能、 技術又は知識 (以下 「技能等」 という。) を修得する活動の監理を行う団体その他これらに準ずるものとして法務大臣が告示をもつて定める機関の職員 (以下 「受入れ機関等の職員」 という。) 又は公益法人の職員で、 地方入国管理局長が適当と認めるもの
5 法第十九条第二項の規定により条件を付して新たに許可する活動の内容は、 次の各号のいずれかによるものとする。
一 一週について二十八時間以内 (留学の在留資格をもつて在留する者については、 在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときは、 一日について八時間以内) の収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動 (風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 (昭和二十三年法律第百二十二号) 第二条第一項に規定する風俗営業、 同条第六項に規定する店舗型性風俗特殊営業若しくは同条第十一項に規定する特定遊興飲食店営業が営まれている営業所において行うもの又は同条第七項に規定する無店舗型性風俗特殊営業、 同条第八項に規定する映像送信型性風俗特殊営業、 同条第九項に規定する店舗型電話異性紹介営業若しくは同条第十項に規定する無店舗型電話異性紹介営業に従事するものを除き、 留学の在留資格をもつて在留する者については教育機関に在籍している間に行うものに限る。)

 下表のように、 近年の留学生資格外活動労働者数は急激な増加を示しています。 外国人労働者総数も増えているのですが、 その中でも割合を高めているのです。 これまで労働政策の観点からはほとんど取り上げられてこなかった留学生のアルバイトですが、 現実の日本社会では既に労働集約的な第3次産業の基盤を支える労働力になりつつあることを考えると、 もっと正面から議論していく必要がありそうです。 ちなみに、 留学生のアルバイトに着目して外国人労働者の実態を探った最近の著書に、 芹澤健介 『コンビニ外国人』 (新潮新書) があります。 「日本語学校の闇」 では、 「日本語学校の中には、 学校というよりただの人材派遣会社になりさがっているところもありますしね」 という証言など、 興味深い記述も多く、 この問題を考える上で参考になります。


70歳までの就業機会確保 
(6月25日号)
 
現在、 未来投資会議で審議されている成長戦略実行計画には、「第3章 全世代型社会保障への改革」 の冒頭に 「70歳までの就業機会確保」 という項目が掲げられています。 そこでは、 「65歳から70歳までの就業機会確保については、 多様な選択肢を法制度上許容し、 当該企業としては、 そのうちどのような選択肢を用意するか、 労使で話し合う仕組み、 また、 当該個人にどの選択肢を適用するか、 企業が当該個人と相談し、 選択ができるような仕組みを検討する」 とされ、 具体的な選択肢としては次の7つが提示されています。
  定年廃止
  70歳までの定年延長
  継続雇用制度導入 (現行65歳までの制度
  と同様、 子会社・関連会社での継続を含む)
  他の企業 (子会社・関連会社以外の企業)   への再就職の実現
  個人とのフリーランス契約への資金提供
  個人の起業支援
  個人の社会貢献活動参加への資金提供

 このリストはなかなか興味深いものがあります。 からまでは現在の高齢法第9条の高年齢者雇用確保措置と同じです。 ですが、 これを60歳代後半層にそのまま押しつけるのは無理だろうというのは多くの人々の共通の認識でした。 そこで、 同じ高齢法の後ろの方にある第15条 (再就職援助措置) を持ってきて、 他企業への再就職も選択肢に入れるというのは、 想定の範囲内であったと思われます。
 しかしこのリストはそれよりもさらに広く、 個人請負による自営業も就業機会として含めています。 ただこれも、 実はそれほど意外感はありません。 高齢者対策では既に長らくシルバー人材センターという形で雇用によらない就業形態を推進してきていますし、 隣接分野である障害者対策では、 2005年改正で雇用によらない在宅就業障害者に仕事を発注する事業主に対して、 障害者雇用納付金制度において特例調整金、 特例報奨金の支給を行うこととされています。 はその高齢者版と位置付けられるのでしょう。
 の社会貢献活動になると、 解釈によってはそもそもここでいう 「就業機会」 に含まれるのかという疑問も生じますが、 恐らくここで想定されているのは、 NPOやNGOなどの非営利組織の一員となって社会的に有用な経済活動に参加するものなのだと思われます。
  「企業はからの中から当該企業で採用するものを労使で話し合う。 それぞれの選択肢についての企業の関与の具体的な在り方について、 今後検討する」 とありますが、 この 「労使で話し合う」
の中身が恐らく過半数組合又は過半数代表者との協定で云々という形になるとすると、 2004年改正で継続雇用対象者の選別を委ねたときと同様に、 改めて従業員代表制の議論を喚起することになるでしょう。
 この立法は二段階方式で進めるということです。 まず第1段階は、 「法制度上、 上記の〜とい
った選択肢を明示した上で、 70歳までの就業機会確保の努力規定とする。 また、 必要があると認める場合は、 厚生労働大臣が、 事業主に対して、 個社労使で計画を策定するよう求め、 計画策定については履行確保を求める」 とされ、 この第1段階の実態の進捗を踏まえて、 第2段階として、 「現行法のような企業名公表による担保 (いわゆる義務化) のための法改正を検討する。 この際は、 かつての立法例のように、 健康状態が良くない、 出勤率が低いなどで労使が合意した場合について、 適用除外規定を設けることについて検討する」 とされています。
 まず努力義務で促進し、 その上で義務化するというのは、 60歳定年でも65歳継続雇用でもとられてきたやり方なので違和感はありませんが、 企業名の公表が義務化であるかのような表現ぶりには疑問があります。 いうまでもなく、 企業名の公表というのは1986年改正時に60歳定年の努力義務を定めた時にその実効確保のために導入されたもので、 義務化とともに廃止されています。 ここにはいささか概念の混乱が見られるようです。
 また、 「混乱が生じないよう、 65歳 (現在63歳。2025年に施行完了予定) までの現行法制度は、 改正を検討しないこととする」 というのは、 法的安定性を考えれば当然のこととはいいながら、 高齢期の人事管理が60歳まで、 60歳から65歳まで、 65歳から70歳までと5歳刻みで分断されてしまい、 本来あるべき一貫した人事管理が難しくなるという難点があります。 もちろん、 早い段階から社会貢献活動に専念するわけにもいかないでしょうが、 たとえば再就職や起業をするにしても、 65歳というのでは遅すぎて、 もっと早い段階から進めていかなければならないといった意見が出てくるのではないでしょうか。
 今後の日程としては、 「労働政策審議会における審議を経て、 2020年の通常国会において、 第一段階の法案提出を図る」 ということなので、 実はあまり時間はありません。 秋口から審議会で議論をし、 年末には建議を取りまとめるというスケジュールで動いていくことになります。 その際、 上述のような問題点がどこまできちんと議論されるのかが重要でしょう。
 なお、 今回はわざわざ念押し的に 「70歳までの就業機会の確保に伴い、 年金支給開始年齢の引上げは行わない。 他方、 年金受給開始の時期を自分で選択できる範囲 (現在は70歳まで選択可) は拡大する。 加えて、 在職老齢年金制度について、 社会保障審議会での議論を経て、 制度の見直しを行う」 と書かれています。 これまでの高齢者雇用対策がほとんどすべて厚生年金の支給開始年齢の引上げと連動する形で進められてきたことを考えると、 この点は大きな違いです。 これは、 年金受給開始時期を60歳に繰り上げ受給することから70歳に繰り下げ受給することまで可能である現行年金法の枠内で、 70歳就業の自然な帰結として70歳繰り下げ受給を拡大していこうという温和なやり方で、 無用の反発を回避する狙いがあるのでしょう。
 ただ、 在職老齢年金の見直しというのは、 もちろん60歳代後半層の就労意欲を高めるためという意図はわかるのですが、 要は在職しているが故に削減されている部分を満額支給するということなので、 数千億円の追加支出を必要とすることになり、 ただでさえ逼迫している年金財政にさらに悪影響を与えることになりかねません。 これは年金政策サイドとしては、 そう簡単に実施できないように思われます。


4月25日号 特定技能外国人労働者の受入れ
 
 
2018年12月8日に入国管理法等の改正案が成立し、 去る今年4月1日に施行されました。 これにより 「特定技能1号」 「特定技能2号」 という新たな在留資格が創設されました。 これは、 これまで専門技術的分野に限ってきた外国人材の受入れを技能労働者層に大きく拡大する法律です。 今回はここに至る日本の外国人労働政策の流れを振り返ってみたいと思います。
 そもそも日本では1960、 70年代に、 外国人労働者を受入れないという旨の閣議決定を繰り返していました。 外国人労働者の受入れが政策課題として議論され始めたのは1980年代後半のいわゆるバブル経済期で、 労働省は1988年に雇用許可制 (使用者が外国人を雇入れる場合に事前に雇用許可を取得することを義務づける制度) を提案しました。 これに対して出入国管理行政を所管する法務省が猛烈に反発し、 雇用許可制は実現しませんでした。 しかし、 法務省は1989年に入国管理法を改正し、 ブラジルやペルーなどの南米諸国に移住した日系人の二世・三世に対して、 就労に一切制限のない定住者という在留資格を与えることで、 企業側が要求していた外国人労働力の導入に (サイドドアから) 対応したのです。 また、 同改正は 「研修」 という在留資格により事実上の労働力を労働者ではないという名目で導入することを可能にしました。
 1993年に成立した研修・技能実習制度は、 労働者ではないとみなされる 「研修生」 の時期と、 労働者であると認められる 「技能実習生」 の時期を結合した制度で、 法務省と労働省の妥協の産物です。 当初の制度設計では、 2年間のうち初めの3分の1が労働者ではない 「研修」 で、 残りの3分の2が労働者である 「技能実習」 とされ、 後に3年間のうちそれぞれ初めの1年間と残りの2年間とされましたが、 その実態は研修と技能実習とでほとんど変わりがなく、 オンザジョブトレーニングで作業する労働者そのものでした。 やがて累次の裁判例によって研修生の労働者性が認められ、 入国管理法の改正が求められるに至ります。
 政府部内でも規制改革会議や経済財政諮問会議、 厚生労働省が制度の見直しを求め、 2009年の入国管理法の改正により、 3年間通じた 「技能実習」 という在留資格を設け、 座学以外は雇用関係による就労と位置付け、 全面的に労働法を適用することとしました。 同時に、 それまで事実上認められていた団体監理型という一種のブローカー方式の労働力需給調整システムが法律上に明記されました。
 その後も技能実習制度に対しては法令違反や不正行為が後を絶たず、 その適正化が強く求められました。 一方、 企業側は技能実習生を利用できる期間の延長を求めました。 そこで、 法務省と厚生労働省が合同で学識者による検討会を開催し、 その報告書に基づいて2016年に技能実習法が成立しました。 これにより、 3年間の技能実習が終わって一旦帰国した者がさらに2年間技能実習できることとなり、 計5年間実習生として就労できることになりました。 一方、 多くの問題が指摘されていた監理団体 (需給調整のブローカー) に許可制を導入し、 場合によっては許可を取り消すこととするとともに、 実習実施機関 (企業や農家など) を届出制とし、 個々の技能実習計画を認定制とするなど、 制度の厳格化を図りました。
 しかし、 法律上は労働者として認められているとはいえ、 特定の企業や農家で技能実習するという条件の下で就労が認められていることから、 技能実習生が別の企業に転職することは原則として認められていません。 そのため、 特に地方の低賃金企業や農家から脱走して、 都市部の高賃金企業で闇就労する者が後を絶ちませんでした。 また、 依然として技能実習生に対するセクハラなどの人権侵害行為も指摘されました。
 以上のような外国人労働者政策を抜本的に変更する政策が、 2018年2月の経済財政諮問会議において、 安倍晋三首相から提起されました。 中小企業での人手不足が深刻化していることを背景に、 在留資格の上限を定め、 家族の帯同を基本的に認めないという条件の下で、 多様な業種における技能労働力として外国人労働者を受入れるという方針です。 官邸のタスクフォースで議論が進められ、 6月の 「骨太の方針」 に制度の大枠が示されました。 さらに法務省で検討が進められ、 11月に法案が国会に提出され、 12月に成立し、 2019年4月に施行されました。
 新たに設けられた 「特定技能」 という在留資格は2つに分かれます。 「特定技能1号」 は特段の訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる技能水準の者であり、 業所管官庁が定める試験で確認しますが、 上記技能実習2号修了者は試験が免除されるので、 実際には当面、 技能実習生から特定技能1号に移行する者が主となると思われます。 特定技能1号の在留期間は5年で家族の帯同は認められません。 技能実習期間と併せれば計10年間単身で就労することとなります。
 これに対し 「特定技能2号」 は熟練した技能であり、 自らの判断により高度に専門・技術的な業務を遂行でき、 あるいは監督者として業務を統括しつつ遂行できる水準とされています。 こちらは在留期間の更新に上限がなく、 家族の帯同も認められるので、 より移民政策の性格が強いと言えます。
 外国人労働者の導入に対しては、 労働市場に対するマイナスの影響を懸念する国内労働者の不安を払拭する必要があります。 そこで、 法律上対象業種は 「人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業分野」 とされ、 業所管官庁と協議して法務大臣が指定するとされています。 しかし、 2018年2月の経済財政諮問会議の時点では5業種程度が例示されていただけですが、 法制定後に閣議決定された基本方針では14業種に膨れあがっており、 事実上様々な業界の人手不足の悲鳴をほぼ聴き入れた形となっています。

  基本方針に定める受入れ業種
  1. 介護業
  2. ビルクリーニング業
  3. 素形材産業
  4. 産業機械製造業
  5. 電気・電子情報関連産業
  6. 建設業
  7. 造船・舶用工業
  8. 自動車整備業
  9. 航空業
  10. 宿泊業
  11. 農業
  12. 漁業
  13. 飲食料品製造業
  14. 外食業

 さらに、 受入れ分野における人手不足の状況について継続的に把握し、 人手不足でなくなった (言い換えれば、 労働力過剰になった) 場合には、 受入れ方針を見直し、 在留資格認定証明書の交付を停止したり、 省令から当該分野を削除することも検討するとされています。 とはいえ企業にとって、 ある程度長期間就労してその企業の仕事に慣れた外国人を解雇して、 技能の乏しい日本人失業者を採用することは合理的な行動ではありません。 現在の好景気が終了し、 日本経済が不況に陥ったときに既に外国人を大量に導入した労働市場で何が起こるのかは、 現時点では予測することは困難です。
 また、 高賃金を払えない中小零細企業が外国人労働者を最低賃金程度で雇用することで、 その分野の労働市場に対して賃金低下の悪影響を及ぼすのではないかという国内労働者の懸念に対応して、 省令上 「報酬の決定…その他の待遇について差別的取扱いをしてはならない」 と規定され、 外国人の報酬額が日本人が従事する場合の報酬額と同等以上であることが求められています。 とはいえ、 そもそも日本人労働者が応募しようとしないほどの低賃金だから人手不足に陥っている職種については、 これは必ずしも高賃金を保証するものではありません。 むしろ、 特定業種の特定職種は、 外国人労働者に依存する低賃金構造が固定化する可能性もあります。
 法制定後に指摘されるようになったこととして、 都会と地方の賃金格差が大きいことの影響があります。 日本の最低賃金制度が都道府県別に設定されており、 最高の東京都の1時間985円から最低の鹿児島の1時間761円まで約3割もの格差があります。 人手不足に悩む地方の中小企業が現地の最低賃金近辺で雇用した特定技能外国人材は、 都会に行けばもっと高い賃金が得られると知れば、 転職することに躊躇しないでしょう。 上記技能実習生と異なり、 (人手不足であると認定された) 同じ業種の中では転職することに制約はないからです。 この問題に対しては、 与党自民党の内部から全国一律最低賃金制にする提案が出されてきていますが、 厚生労働省の賃金課長が特定技能対象職種については全国一律最低賃金とする私案を提示したところ、 大きな波紋を呼び、 内閣官房長官が否定するという騒ぎになるなど、 この問題の決着の方向は未だ見通せません。

3月25日号 公務員と労働基準法
 
前回の 「公立学校教師の労働時間規制」 では、 給特法という特別法が教師という職種に着目したものではなく、 あくまでも地方公務員という身分に基づくものであり、 民間労働者である私立学校や国立学校の教師には一切適用されないものであることを解説しました。 そしてそこで 「ここも誤解している人がいますが、 労働基準法は地方公務員にも原則的に適用されます」 と述べたのですが、 ここはもう少し親切に詳しく解説しておかなければならなかったところかも知れません。 そこで、 今回はやや基礎知識になりますが、 地方公務員への労働基準法の適用について解説しておきたいと思います。
 そもそも、 1947年に労働基準法が制定されたとき以来、 同法第112条は 「この法律及びこの法律に基いて発する命令は、 国、 都道府県、 市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする」 と明記しています。 反対解釈される恐れがあるので念のために設けられた規定です。 現在は別表第1に移されてしまいましたが、 かつては第8条に適用事業の範囲という規定があり、 そこには 「教育、 研究又は調査の事業」 (第12条)、 「病者又は虚弱者の治療、 看護その他保健衛生の事業」 (第13号) に加え、 第16号として 「前各号に該当しない官公署」 まであったのです。 公立学校や公立病院はもとより、 都道府県庁や市町村役場まで、 何の疑問もなく労働基準法の適用対象でした。 制定時の寺本広作課長は、 「蓋し働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきものであって、 官吏関係に特別な権力服従関係はこの法律で保障される権利の上に附加されるべきものとされたのである」 と述べています。
 これを前提にわざわざ設けられたのが法第33条第3項です。 災害等臨時の必要がある場合は36協定がなくても時間外・休日労働をさせることができるというだけでは足りないと考えられたからこそ、 「公務のために臨時の必要がある場合」 には 「第八条第十六号の事業に従事する官吏公吏その他の公務員」 に時間外・休日労働をさせることができることとしていたのです。 また、 労働基準法施行規則には次のような、 公務員のみが対象となるような特別規定がわざわざ設けられていました。

第二十九条 使用者は、 警察官吏、 消防官吏、 又は常備消防職員については、 一日について十時間、 一週間について六十時間まで労働させ、 又は四週間を平均して一日の労働時間が十時間、 一週間の労働時間が六十時間を超えない定をした場合には、 法第三十二条の労働時間にかかわらず、 その定によつて労働させることができる。
第三十三条 警察官吏、 消防官吏、 常備消防職員、 監獄官吏及び矯正院教官については、 法第三十四条第三項の規定は、 これを適用しない。

 こうした規定を見てもし今の我々が違和感を感じるとすれば、 それはその後の法改正によって違和感を感じるようにされてしまったからなのです。 そして、 公務員の任用は労働契約に非ずという、 実定法上にその根拠を持たない概念法学の影響で、 いつしか公務員には労働法が適用されないのが当たり前という間違った考え方が浸透してしまったからなのです。 ちなみに労働法学者の中にも、 労働基準法が地方公務員に原則適用されるという事実に直面して 「公務員の任用関係は労働契約関係と異なるという議論も、 これでは説得力を失いかねない」 などとひっくり返った感想を漏らす向きもありますが※1、 そもそも 「働く者の基本的権利としての労働条件は官吏たると非官吏たるとに関係なく同一に保障さるべきもの」 というのが労働基準法の出発点であったことをわきまえない議論と言うべきでしょう。
 その経緯をざっと見ておきましょう。 早くも占領期のうちに、 公務員の集団的労使関係法制の改正のあおりを食らう形で労働基準法制まで全面的ないし部分的な適用除外とされてしまいました。 1948年7月、 マッカーサー書簡を受けて制定された政令第201号は公務員の団体交渉権及びスト権を否定しましたが、 その中で労働基準法第2条の 「労働条件は、 労働者と使用者が、 対等の立場において決定すべきもの」 との規定が、 マッカーサ
ー書簡の趣旨に反するとして適用されないこととされました。 これはまだ集団的労使関係法制に関わる限りの適用除外でしたが、 同年11月の改正国家公務員法により、 労働組合法と労働関係調整法にとどまらず、 労働基準法と船員法についてもこれらに基づいて発せられる命令も含めて、 一般職に属する職員には適用しないとされました (原始附則第16条)。 そして 「一般職に属する職員に関しては、 別に法律が制定実施されるまでの間、 国家公務員法の精神にてい触せず、 且つ、 同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において、 労働基準法及び船員法並びにこれらに基づく命令の規定を準用する」 (改正附則第3条第1項本文) とされ、 準用される事項は人事院規則で定める (同条第2項) とされましたが、 そのような人事院規則は制定されていません。 また、 「労働基準監督機関の職権に関する規定は、 一般職に属する職員の勤務条件に関しては、 準用しない」 (同条第1項但書) と、 労働基準監督システムについては適用排除を明確にしました。 この改正はどこまで正当性があったか疑わしいものです。 否定された団体交渉権やスト権と全く関わらないような最低労働条件を設定する部分まで適用除外する根拠はなかったはずです。 時の勢いとしか説明のしようがありません。
 これに対して、 1950年12月に成立した地方公務員法では、 少し冷静になって規定の仕分けがされています。 労働組合法と労働関係調整法は全面適用除外であるのに対し、 労働基準法については原則として適用されることとされたのです。 ただし、 地方公務員の種類によって適用される範囲が異なります。 地方公営企業職員と単純労務者は全面適用です。 教育・研究・調査以外の現業職員については、 労使対等決定の原則 (第2条) 及び就業規則の規定 (第89−93条) を除きすべて適用されます。 公立病院などは、 労使関係法制上は地公労法が適用されず非現業扱いですが、 労働条件法制上は現業として労働基準法がほぼフルに適用され、 労働基準監督機関の監督下におかれるということになります。 近年、 医師の長時間労働が問題となる中で、 公立病院への臨検監督により違反が続々と指摘されているのはこのおかげです。
 ところがこれに対して、 狭義の非現業職員 (労働基準法旧第8条第16号の 「前各号に該当しない官公署」) 及び教育・研究・調査に従事する職員については、 上の二つに加えて、 労働基準監督機関の職権を人事委員会又はその委員 (人事委員会のない地方公共団体では地方公共団体の長) が行うという規定 (地方公務員法第58条第3項) が加わり、 労働基準法の労災補償の審査に関する規定及び司法警察権限の規定が適用除外となっているのです。 人事委員会がない場合には、 自分で自分を監督するという、 労働基準監督システムとしてはいかにも奇妙な制度です。 このため、 教師の長時間労働がこれほど世間の話題になりながらも、 公立学校への臨検勧告が行われることはないのです。
 しかし、 にもかかわらず、 労働基準法が原則適用されているという事実には何の変わりもありません。 上で労働基準法施行規則旧第29条、 第33条を引用しましたが、 これらは1950年の地方公務員法成立後もずっと労基則上に存在し続けてきました。 第29条が削除されたのは労働時間短縮という法政策の一環として1981年の省令により1983年度から行われたものであり、 第33条の方は対象を増やしながらなお現在まで厳然と存在し続けています。
第三十三条 法第三十四条第三項の規定は、 左の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 警察官、 消防吏員、 常勤の消防団員、 准救急隊員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

 団結権すら禁止されている警察官や消防士にも、 労働基準法はちゃんと適用されていることを示す規定です。

※1 小嶌典明・豊本治 「地方公務員への労働基準法の適用」 『阪大法学』 63巻3−4号。

2月25日号 公立学校教師の労働時間規制


 
2017年3月の 『働き方改革実行計画』 に基づいて、 2018年6月に働き方改革関連法が成立し、 労働基準法上に初めて時間外労働の絶対的上限規制が設けられました。 しかし、 そこには建設業や自動車運転業務などいくつもの例外があり、 とりわけ医師については厚生労働省医政局に 「医師の働き方改革に関する検討会」 を設置して、 非常に長い時間外労働の上限を検討していることが報じられています。
 これに対して、 近年やはりその長時間労働が社会問題となってきた学校教師については、 働き方改革実行計画でも働き方改革関連法でも全く触れられていません。 しかし、 2017年7月に文部科学省の中央教育審議会に 「学校における働き方改革特別部会」 が設けられ、 約1年半にわたる審議の末、 去る2019年1月25日に 「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」 を答申するとともに、 文部科学省は 「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」 を公表し、 学校における働き方改革推進本部が設置されました。 この答申は膨大なものですが、 今回は学校教師の労働時間規制のいささか複雑な仕組みに焦点を当てて解説したいと思います。
 まずもって、 多くの教育関係者にも誤解があるようですが、 「教師」 という職種のみに着目した労働時間の特例は存在しません。 制度上特別扱いがあるのは公務員たる教師のみであり、 現在は公立学校教員のみです。 一貫して民間労働者であった私立学校教員はもとより、 2004年から非公務員型独立行政法人になった国立学校の教員も、 労働基準法がフルに適用され、 従って36協定も時間外
・休日労働に対する割増賃金も、 さらに2018年改正による時間外労働の上限規制も、 全くそのまま適用されます。 ところが非常に多くの私立学校では後述の給特法類似の仕組みを実施しているようですが、 いうまでもなくそれは違法であり、 労働基準監督官による摘発の対象となります。
 公立学校教員の特例も、 基本的にはまず地方公務員であることによるものです。 ここも誤解している人がいますが、 労働基準法は地方公務員にも原則的に適用されます。 地方公務員法第58条の定めるその適用の仕方が複雑なのですが、 いわゆる現業 (地方公営企業) がほぼフル適用であるのに対し、 病院や学校を含むいわゆる非現業は、 労使協定を要件とする規定、 すなわち (1か月単位を除く) 変形労働時間制、 フレックスタイム制、 裁量労働制、 2018 年改正で導入された高度プロフェ
ッショナル制が適用除外です。 これは、 労使対等決定原則を定めた第2条を適用除外していることに基づくもので、 もっぱら集団的労使関係法制の観点からのものだとされています。 確かに、 就業規則で実施できる1か月単位の変形制は適用されています。 ところが、 それでは説明が付かないのが、 肝心の第36条が適用除外になっていないことです。 純粋の非現業である官公署については制定当時から、 第33条第3項で公務のための臨時の必要がある場合には協定なしに時間外・休日労働が可能ですが、 病院や学校では (第33条第1項の災害等の場合でない限り) 36協定を結ばなければできないはずです。 病院は長くここを、 労働基準法施行規則第23条の宿日直と称することでやりくりしてきましたが、 近年それが監視断続労働の要件に合わないとして批判を浴びたことは周知の通りです。
 そして、 公立学校教師にも第32条と第37条は(少なくとも地方公務員法上は) フル適用です。 公務として時間外・休日労働を命じておいて時間外・休日割増賃金を払わなければ労働基準法違反です。 もっとも、 いわゆる非現業の大部分については、 労働基準監督機関の権限 (第102条) も適用除外となっています。 労働基準法違反を摘発するのは、 人事委員会又はその委任を受けた委員、 人事委員会がない地方公共団体ではその長 (知事や市長) で、 「自分で自分を監督するという、 労働基準監督システムとしてはいかにも奇妙な制度」(拙著 『日本の労働法政策』) なのです。
 ところが、 ここでさらに複雑なのは、 いわゆる非現業の一部についてはこの奇妙な制度ではなく、 素直に労働基準監督機関が監督することになっていることです。 例えば公立病院の場合は、 地方公務員たる医師に関して、 労働基準監督官が臨検して、 法違反を摘発し、 場合によっては送検することが可能です。 これまで問題が表面化しなかった医師の長時間労働が、 働き方改革の中で検討されるに至った一つの背景には、 この監督権限の所在があります。 ところが、 公立学校の教師の場合、 法違反を摘発するのは使用者の身内ないし本人であって、 とても機能するとは思えません。
 ここから給特法の立法経緯に入っていきます。 一般公務員より若干高い給与を払う代わりに超過勤務手当を支給しないというのは、 1948年の公務員給与制度改革以来の発想です。 しかし労働基準法第37条はフルに適用されるのですから、 1949年の文部事務次官通達 「教員の勤務時間について」(昭和24年2月5日発学第46号) は、 「勤務の態様が区々で学校外で勤務する場合等は学校の長が監督することは実際上困難であるので原則として超過勤務は命じないこと」 と述べていました。 しかし、 実態としては時間外労働が多く行われていたため、 1960年代後半に超過勤務手当の支給を求めるいわゆる 「超勤訴訟」 が全国一斉に提起され、 下級審で時間外手当の支給を認める判決が続出し、 1972年の最高裁判決がそれを確認しました。
 この動きに対応すべく1971年5月に立法されたのが、 国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法 (いわゆる 「給特法」。 後に国立学校が外れる。) です。 これにより給与月額の4%の教職調整額が支給されるとともに、 労働基準法第37条が (法文上で) 適用除外されました。 併せて、 上記第33条第3項の 「公務のための臨時の必要がある場合」 に36協定なしに時間外・休日労働可能という規定も官公署並みに適用することとしたのです。 そして、 「正規の勤務時間をこえて勤務させる場合は、 文部大臣が人事院と協議して定める場合に限るものとする。 この場合においては、 教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について充分な配慮がされなければならない」 という条文が設けられ、 その 「場合」 は政令でいわゆる超勤4項目とされました。 具体的には@生徒の実習、 A学校行事、 B職員会議、 C非常災害、 児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合等です。
 ところが、 公立学校教師の長時間労働は悪化の一途をたどっています。 その大部分はクラス担任や部活動担当に伴うもので、 超勤4項目に含まれない 「自発的勤務」 とされ、 裁判例 (札幌高裁平19.9.27) もそれを容認しています。 しかし、実態としてはそれなしには学校運営が成り立たない状況にもかかわらず、 引き受けた教師の自発的活動ゆえ公務ではないので公務災害補償の対象にもならないという理不尽なことになってしまいます。
 さらに、 一般の働き方改革の一環として、 労働安全衛生法上に労働時間の適正把握義務 (第66条の8の3) が規定され、 これは地方公務員にもフルに適用されます。 ただし、 官公署と公立学校は例によって身内ないし本人が監督するという仕組みです。 とはいえ、 働き方改革が国政の重要課題となる中、 監督署に臨検される恐れがないから労働時間の把握もしませんというわけにはいきません。 遂に文部科学省も教員の働き方改革に踏み出さざるを得なくなったわけです。
 ただ、 なまじ給特法で時間外・休日労働が第36条や第37条の違反にならないような仕組みにしてしまったために、 それをどうするかが悩ましい問題となります。 素直に考えれば、「給特法を見直した上で、 36協定の締結や超勤4項目以外の 「自発的勤務」 も含む労働時間の上限設定、 全ての校内勤務に対する時間外勤務手当などの支払」 を原則とするところから始めるべきことになりますが、 答申はそれを是としません。 あくまでも給特法の基本的枠組みを前提として、 「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」 でもって在校時間等の縮減に取組むというスタンスです。
 この 「ガイドライン」 は、 超勤4項目以外の自発的勤務を行う時間も含めて、 在校時間プラス児童生徒の引率等校外勤務時間 (在校時間等) の上限の目安を示すもので、 1か月45時間、 1年360時間、 特例で年720時間、 その場合1か月100時間未満など、 基本的に2018年改正労働基準法に沿っています。 ただし、 在校時間自体が法的概念ではなく、 ガイドラインも法的拘束力はありません。 教育委員会はそれぞれガイドラインを参考にして方針を策定し、 業務の役割分担や適正化、 必要な環境整備に取り組むこととされています。
 では労働時間規制については何もしないのかというと、 やや唐突に1年単位の変形労働時間制の導入が打ち出されています。 学校には夏休みなど児童生徒の長期休業期間がある一方、 学期末・学年末には成績処理や指導要録記入で忙しく、 また学校行事や部活動の試合の時期も長時間勤務になりがちなので、 年間を通した業務のあり方に着目して検討しようというわけです。 その発想自体は 「ありうる」 とは思われますが、 残念ながら現行地方公務員法は1年単位の変形制を適用除外しています。 答申は 「当時において地方公務員の業務においてあらかじめ繁閑が生じるものが想定されなかったことにより適用されなかった取扱いが、 現在も引き続いているもの」 と説明していますが、 これはウソです。 地方公務員法の解説書に、 はっきりと 「労使協定による…規定は適用されない」 と書かれています。 だからこそ、 就業規則で可能な1か月単位の変形制は適用されるのです。 より細かく言えば、 1998年改正で1か月単位の変形制は労使協定又は就業規則で導入することとされましたが、 このとき地方公務員法第58条に第4項を追加し、 読み替え規定でわざわざ労使協定の部分を削って就業規則で導入する部分だけ残したのです。 そのくせ36協定は堂々と残っているのですから首尾一貫していないのですが、 少なくとも地方公務員法制としては労使協定を前提とした制度を地方公務員たる公立学校教師にだけ適用するというのは難しそうです。
 答申は 「地方公務員のうち教師については、 地方公共団体の条例やそれに基づく規則等に基づき、 1年単位の変形労働時間制を適用することができるよう法制度上措置すべきである」 と述べていますが、 1か月単位変形制と違って1年単位変形制は労働基準法上労使協定のみであって就業規則という途はないので、 それを実現するためには労働基準法第32条の4を改正し、 労使協定なしに1年単位変形制を導入できる根拠規定を設けなければなりません。 地方公務員法や給特法は、 労基法の規定を適用除外することはできても、 労基法にない規定を勝手に作ることはできないからです。 ところが、 1か月単位変形制はもともと就業規則で導入可能だったから労使協定との選択制にするのは可能でしたが、 もともと労使協定が要件の1年単位変形制を就業規則との選択制にすることは、 労使対等決定原則に反する 「改悪」 ですからほぼ不可能でしょう。 いや、 公立学校教員だけを労基法上で特別扱いしてくれればいいのだというかも知れませんが、 それならなぜほかの特別扱いは労基法上ではなく、 地方公務員法や給特法でやっているのかということになります。 この政策方向は、 文部科学省が考えている以上に本質的な難点を孕んでいるのです。


1月25日号 一般職種別  賃金の復活?
 
 昨年6月に働き方改革推進法が成立し、 いわゆる「同一労働同一賃金」 という看板の下に、 パートタイム、 有期契約及び派遣労働者についての包括的な均等・均衡待遇法制が構築されました。 その内容はいちいち説明しませんが、 前2者については例外なき均等・均衡待遇が求められるのに対して、 派遣労働者については労使協定による適用除外方式との選択制とされています。 すなわち、 @同種業務の一般の労働者の賃金水準と同等以上であること、 A派遣労働者のキャリア形成を前提に能力を適切に評価して賃金に反映させていくこと、 B賃金以外の待遇について派遣元事業者に雇われている正規雇用労働者の待遇と比較して不合理でないことという3要件を満たす労使協定を締結した場合については、 派遣先労働者との均等
・均衡待遇を求めないこととしています。 もっともこの場合でも、 単に要件を満たす労使協定を締結することだけでは足りず、 3要件を満たす形で協定が実際に履行されていることが求められます。
 問題はこの 「同種業務の一般の労働者の賃金水準」 です。 これは企業を超えた産業別労働協約等により職種別賃金が成立している欧米型労働市場を前提にした規定の仕方ですが、 周知の通り日本にはそのようなものは (ごく一部の例外を除けば)ほとんど存在していないからです。 そういう日本で、 これをどのように実施しようとしているのでしょうか。 労働者派遣法第30条の4第1項第2号イでは、 「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること」 と規定され、 2018年12月21日に労政審で承認された省令案では、 これは 「派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者であって、 当該派遣労働者と同程度の能力及び経験を有するものの平均的な賃金の額とする」 となっています。ますますわかりません。
 同日に承認された 「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針案」 でもこれには触れていません。 参考資料の 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準及びそれと比較する派遣労働者の賃金」 にようやく、 「1. 局長通達で示す統計 (賃金構造基本統計調査及び職業安定業務統計) を用いる場合」として、・職種別の賃金統計を把握できる政府統計として、 賃金構造基本統計調査と職業安定業務統計 (職業大分類、 中分類及び小分類) を用いる・同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準は職種別の一覧表と能力・経験調整指数、 地域指数 (都道府県別及びHW別) を毎年、政府が公表 (時給ベース) ・対応する個々の派遣労働者の賃金を時給換算した上で同等以上か確認というのが出てきます。 さらに、 「平成29年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金 (時給換算)」 という膨大な表もついています。
  「労使協定方式の実務の流れ (年間スケジュール) (案)」 では、 「局長通達の比較対象となる賃金額が改定された後、 労使協定等の見直しには、 一定の期間が必要であり、 「局長通知の発出」 から 「改定後の賃金額の適用」 までに一定の期間を確保することが必要」 とされています。 具体的には、 2月末に前年6月分についての賃金構造基本統計調査が公表され、 4月末に前年度分についての職安業務統計が公表され、 6〜7月に局長通知が発出され、 翌年4月1日にこれが適用されるというスケジュールです。
 これがどういう風に適用されるのかは分かりました。 しかし、 賃金構造基本統計調査にしろ、 職業安定業務統計にしろ、 これらは現実の労働社会がそういう細分化された職種別労働市場を形成しているわけでは必ずしもない中で、 事実としてそれらの業務に従事している労働者の賃金水準を統計的にまとめたものに過ぎません。 それが、 この法令によって、 当該業務に従事する派遣労働者をそれ以下の賃金で使用してはならないという一定の規範性を有する数字になるのですから、 日本の労働法政策の歴史上空前絶後の事態が生じることになるわけです。
 いま 「空前絶後」 と言いました。 正確に言うと、厳密には空前絶後ではありません。 終戦直後の一時期、 労働省が一般職種別賃金というものを公定したことがあるのです。 これは、 1947年12月に制定・施行された 「政府に対する不正手段による支払請求の防止等に関する法律」 による一般職種別賃金です。 この法律は、 GHQの指令 (覚書) を受けて、 政府支出を削減するため、 不正手段による支払請求を防ぐことが目的でした。 具体的には、 国等のためになされた工事、 生産、 役務提供に関する代金の請求について内訳を出させ、 労務費は労働大臣の告示する一般職種別賃金以下でなければならないとされていたのです。 これに基づく告示第8号で一般職種別賃金が決定されたのは、 土木建築業で12職種、 貨物運送業で7職種と、 ごく少数の業種にとどまりましたが、 それ以外の業種についても労働大臣が決定できることとされ、 訓令第90号によりそれが委ねられた都道府県労働基準局長によって相当な範囲の職種について一般的職種別賃金が設けられました。
 その後 GHQは上記覚書を廃止する覚書を発し、 政府もこの法律を廃止することとしましたが、 1950年5月に成立した同法の廃止法は、 但書で 「但し、 同法第十一条の規定及び同条の規定に関連する範囲内における同法第二条中の一般職種別賃金額の告示に関する規定は、 国等を相手方とする契約における条項のうち労働条件に係るものを定めることを目的とする法律が制定施行される日の前日まで、 なお、 その効力を有する。」 と規定しました。 この第11条というのは 「連合国軍の需要に応じて連合国軍のために労務に服する労務者」と 「公共事業費を以て経費の全部又は一部を支弁する事業に係る労務に服する労務者」 で、 この部分についてはなお引き続き一般職種別賃金が効力を持ち続けることとなったのです。 この残っていた効力については、 GHQ関係政府直用労務者については1952年、 公共事業関係直用労務者については1962年まで維持され、 以後完全に廃止されています。
 今回の派遣労働者の均等・均衡待遇を適用除外するための 「同種業務の一般労働者の賃金水準」は、 ある意味で70年ぶりに一般職種別賃金を公的に定めようという企てと見られないこともありません。 もしかしたらそれが派遣労働者の労働市場規制を通じて、 日本の労働市場をより企業横断的職種別労働市場に近いものにしていくきっかけになるのかも知れませんし、 現実との乖離が著しく、 形式的な代物に終わってしまうのか知れません。 いずれにせよ、 制度の基本枠組みを考えたときにはだれも想定していなかったであろうような仕組みが日本の労働法制の中に作られることになったというのは、 大変興味深いことと言えましょう。


11月25日号 傷病手当金と賃金制度

 社会保険と言えば健康保険と年金保険が二大制度ですが、 それらに関する議論は圧倒的に療養の給付と老齢年金に集中しています。 それはもちろん、 人口の高齢化に伴う負担の増大の問題が最重要課題であるからですが、 その影に隠れてややもすれば忘れられがちな制度にも、 時に関心の一端を向けてもいいのではないかと思われます。 それは、 失業保険 (雇用保険の失業給付) が労働の意思と能力を有するにもかかわらず就職できない者に対する所得補償保険であるのに対して、 労働の能力が一時的ないし恒久的に失われた者に対する所得補償保険というべきものです。 具体的には、 健康保険の傷病手当金と年金保険の障害年金ですが、 ほとんどマスコミ等における社会保障論議で取り上げられることはありません。 しかし、 人は常に病気や怪我で一時的に働けなくなったり、 障害で恒久的に働けなくなる可能性があります。 今回はこれら労働不能時所得補償保険のうち、 傷病手当金をめぐる法政策を概観したいと思います。
 これらのうちまず最初に立法化されたのは、 1922年に成立し1927年に施行された健康保険法の傷病手当金です。

第四十五条 被保険者療養ノ為労務ニ服スルコト能ハサルトキハ其ノ期間傷病手当金トシテ一日ニ付報酬日額ノ百分ノ六十ニ相当スル金額ヲ支給ス但シ業務上ノ事由ニ因リ疾病ニ罹リ又ハ負傷シタル場合以外ノ場合ニ於テハ労務ニ服スルコト能ハサルニ至リタル日ヨリ起算シ第四日ヨリ之ヲ支給ス
第四十七条 療養ノ給付及傷病手当金ノ支給ハ同一ノ疾病又ハ負傷及之ニ因リ発シタル疾病ニ付百八十日ヲ超エテ之ヲ為サス
A業務上ノ事由ニ因リ疾病ニ罹リ又ハ負傷シタル場合以外ノ場合ニ於テハ療養ノ給付及傷病手当金ノ支給ハ一年内百八十日ヲ超エテ之ヲ為サス

 戦前の健康保険法は業務外と業務上の両方に適用されていたので、 この規定には現在の健康保険法の傷病手当金と労災保険法の休業補償給付に当たる部分とが含まれています。 業務外の場合は労働不能となって第4日目から一律に1年180日までしか支給されないのに対して、 業務上の場合は労働不能となった初日から傷病ごとに180日まで支給されるという形で格差をつけていました。
 健康保険制定時は病院収容中は扶養家族数に応じて減額するという規定がある一方、 報酬を受けられる期間は支給しないという規定はありませんでした。 日給で働く工場の職工のみを対象とする制度だったからでしょう。 これに対しホワイトカラー職員を対象とした1938年の職員健康保険法では、 月給制であることを前提にかなり限定的な給付とされつつ、 例外的に日給制の職員についてはやや寛大な給付設計としていました。

第四十九条 被保険者ガ療養ノ為引続キ労務ニ服スルコト能ハザルトキハ労務ニ服スルコト能ハザルニ至リタル日ヨリ起算シ三月ヲ経過シタル日ヨリ其ノ後ニ於ケル労務ニ服スルコト能ハザル期間傷病手当金トシテ一日ニ付報酬日額ノ百分ノ五十ニ相当スル金額ヲ支給ス但シ日給ヲ受クル被保険者ニ付テハ労務ニ服スルコト能ハザルニ至リタル日ヨリ起算シ十日ヲ経過シタル日ヨリ之ヲ支給ス
第五十条 傷病手当金ノ支給期間ハ同一ノ疾病又ハ負傷及之ニ因リ発シタル疾病ニ関シテハ三月ヲ以テ限度トス但シ日給ヲ受クル被保険者ニ付テハ六月ヲ以テ限度トス

 職工の60%に対して職員の50%は共通ですが、 日給制職員が待機期間10日で支給期間6か月と職工に近いのに対して、 月給制職員は待機期間3か月で支給期間3か月とされています。 待機期間3か月というと、 1984年改正雇用保険法で導入された自己都合退職者への待機期間を思い出しますが、 月給制職員はそれくらいの経済的余裕はあるはずだと考えられていたのでしょうか。
 1942年には職員健康保険法が健康保険法に統合され、 傷病手当金は職工も職員も一律に支給期間は6か月で、 待機期間も一律に3日間となったのです。 もっとも給付率は職工が60%、 勅令 (健康保険法施行令) で定める職員は50%とされました。 後者は戦前型月給制で、 休業しても3か月は給料が全額保障されるような職員に限られます。

第七十八条ノ三 健康保険法第四十五条ノ規定ニ依リ傷病手当金トシテ一日ニ付報酬日額ノ百分ノ五十ニ相当スル金額ヲ受クル者ハ職員ニシテ疾病又ハ負傷ノ為労務ニ服スルコト能ハサル場合ニ於テハ労務ニ服スルコト能ハサルニ至リタル日ヨリ起算シ引続キ三月以上俸給又ハ給料ノ全額ヲ受クルコトヲ得ヘキモノトス

 この時期、 賃金制度においては、 ブルーカラー工員にも月給制を適用すべきという動きが高まる一方、 ホワイトカラーにも早出残業割増がつく会社経理統制令が施行されるなど、 それまで峻別されていた両者が入り交じるようになってきたことがその背景にあると思われます。
 戦後1947年に健康保険法から労災保険法が分離され、 傷病手当金から労災の休業補償費が分離されましたが、 この時併せてホワイトカラーとブルーカラーの区別も全廃されました。 そもそも、 労災保険法と同時に制定された労働基準法が両者を全く区別せず、 戦前は早出残業しても割増がつかない代わりに遅刻欠勤しても減額されない純粋月給制であったホワイトカラー職員に対しても、 一律に同法第37条による割増賃金の支払を義務づけたのです。 戦時中に大きく進んだ両者の同一化が、 戦後になって完成に至ったといえましょう。 このように、 傷病手当金というのは制度としては目立たないものですが、 その小さな窓から雇用賃金制度の動きが垣間見えるとも言えます。


10月25日号 健康保険法上の労働者概念の誕生

 
 
戦前1922年に健康保険法が制定された時は、 適用対象は工場法と鉱山法の適用を受ける職工だけでしたが、 保障される傷病は業務上と業務外の両方が含まれていました。 業務上傷病については工場法で工業主の扶助義務 (労働災害補償義務) は規定されていましたが、 それを担保する公的保険制度は業務外と一緒になっていたのです。
 戦後、 労働基準法と一緒に労働者災害補償保険法が成立し、 すべての労働者のすべての業務上傷病は労災保険制度で面倒を見ることとなりました。 これにともない、 健康保険法第1条が 「健康保険ニ於テハ保険者ガ被保険者ノ業務外ノ事由ニ因ル疾病、 負傷若ハ死亡又ハ分娩ニ関シ保険給付ヲ為シ併セテ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スル者 (以下被扶養者ト称ス) ノ疾病、 負傷、 死亡又ハ分娩ニ関シ保険給付ヲ為スモノトス」 と改正されました。 これで、 業務上の世界と業務外の世界はきれいに別れたはずですが、 その数年後に厚生省がこういう通達を出して、 混乱のもとをつくってしまったのです (昭和24年7月28日保発第74号)。
 
法人の理事、 監事、 取締役、 代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、 他面その法人の業務の一部を担任している者は、 その限度において使用関係にある者として、 健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、 今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、 法人から、 労務の対償として報酬を受けている者は、 法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。

 このため法人代表者等は医療保険上は労働者として業務外の傷病について高い給付水準を享受できることとなった代わりに、 労災保険上は労働者ではないためその給付を受けられず、 かといって国民健康保険には加入していないのでその業務外傷病給付を受けることもできないという、 いわば制度の谷間にこぼれ落ちてしまいました。 これに対処する法政策は、 長らく労災保険の特別加入制度しかありませんでした。
 2002年6月7日の衆議院厚生労働委員会で、 民主党の大島敦議員がこの問題を取り上げ、 坂口力厚生労働大臣が 「谷間があってはいけませんので、 このほかにもそうした問題がないかどうかもあわせてちょっと検討させていただいて、 そして、 谷間を至急なくするようにしたいと思います」 と答弁しました。
 これを受ける形で、 2003年7月に保険局長名の通達 「法人の代表者等に対する健康保険の適用について」 (平成15年7月1日保発第0701002号) が発出されました。

 被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、 一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、 その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても、 健康保険による保険給付の対象とすること。

 これは、 現に起きている問題に当面の措置として対応したものとしてはそれなりに評価し得ますが、 そもそも健康保険法第1条の 「業務外」 という明文の規定に明らかに反する取扱いですし、 被保険者5人未満という基準も、 被用者保険としての強制適用基準をここに持ち出してくることに論理的因果関係は見当たらず、 意味不明なところがあります。
 その後、 2012年に健康保険法上の被扶養者であるシルバー人材センター会員の就業中の負傷が健康保険法の給付を受けられないことが社会問題となりました。 厚生労働省は急遽健康保険と労災保険の適用関係の整理プロジェクトチームを設置して検討を行い、 その後社会保障審議会医療保険部会で審議され、 これを受けて同年3月に健康保険法改正案が国会に提出され、 同年5月に成立しました。
 この改正により、 健康保険法の第1条が次のようになりました。

(目的)
第一条 この法律は、 労働者又はその被扶養者の業務災害 (労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号) 第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。) 以外の疾病、 負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、 もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

 そして、 新たに第53条の2が設けられました。

(法人の役員である被保険者又はその被扶養者に係る保険給付の特例)
第五十三条の二 被保険者又はその被扶養者が法人の役員 (業務を執行する社員、 取締役、 執行役又はこれらに準ずる者をいい、 相談役、 顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、 法人に対し業務を執行する社員、 取締役、 執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。 以下この条において同じ。) であるときは、 当該被保険者又はその被扶養者のその法人の役員としての業務 (被保険者の数が五人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務であって厚生労働省令で定めるものを除く。) に起因する疾病、 負傷又は死亡に関して保険給付は、 行わない。

 そもそもからすると、 労働法上の労働者ではあり得ない法人代表者を、 企業メンバーシップ感覚から健康保険の被保険者にしてしまったというボタンの掛け違いから生じたことなのです。 しかしながら、 この法改正までは、 少なくとも法令の文言上は健康保険の対象は労働者だけであり、 会社の取締役まで含めているのは行政の運用に過ぎないということもできたのですが、 法改正にまで至ってしまったことにより、 労働法上の労働者概念とは明確に異なる健康保険法上の労働者概念が実定法上に生み出されてしまいました。

9月25日号 雇用保険財政がまかなう職業教育政策


 
去る8月末から、 労働政策審議会雇用保険部会で教育訓練給付に関する審議が始まりました。 これは既に政策を所管する人材開発分科会の方では告示の改正が承認されていて、 財源を所管する雇用保険部会での審議が行われるということになります。 改正点はいくつかありますが、 焦点は来年度(2019年度) 開学する予定の専門職大学・専門職短期大学に対しても、 専門実践教育訓練という名の高率の給付を認めるかという点にあります。 ただ、 この問題はなかなか複雑に入り組んでいるので、 歴史を振り返りながら頭の整理をしておきたいと思います。
 雇用保険法の中に教育訓練給付が設けられたのは今から20年前の1998年です。 当時の職業能力開発政策は個人主導とか自己啓発といった言葉が流行しており、 またフリードマンの教育バウチャー論がもてはやされていたという時代背景もあり、 労働者が自ら費用を負担して一定のの教育訓練を受ける場合にその費用の一部を支給するという制度が設けられたのです。 当時は被保険者期間5年以上を要件として、 かかった費用の80%相当額(上限30万円) という大盤振る舞いでした。 これはまさに時流に乗った政策でしたが、 実際に施行されると、 対象講座があまりにも広範に指定され、 初歩的な英会話教室やパソコン教室のような、 就職時に求められる職業能力という観点から見てどうかと思われるようなものまで含まれていたため、 運用に批判を受け、 対象が絞られるということもありました。
 それよりも1998年頃から雇用保険の支出は収入を大きく上回り、 積立金は激減を始めていました。 職業能力開発政策としては良い政策であっても、 雇用保険財政から支出する必要があるのかという問いは避けられません。 結局、 財政難への対応として、 2003年改正では大幅に絞り込まれ、 給付率が40%に引き下げられ、 上限額も20万円となりました。 一方で、 被保険者期間3〜5年の者も給付率20% (上限10万円) で対象に含めました。 さらに2007年改正では、 給付水準を一律に20% (上限10万円) に一本化するとともに、 被保険者期間を1年に短縮しました。 かなり小ぶりな制度になったわけです。
 ところが、 2012年末に自公政権に復帰した後、 「若者等の学び直しの支援」 というスローガンの下、 再び教育訓練給付を手厚くする方向に舵が切られました。 すなわち、 2014年の改正で中長期的なキャリア形成に資する教育訓練を受講する場合 (専門実践教育訓練) の給付率を20%から原則40%に、 さらに資格取得の上就職すれば60%まで引き上げることとされたのです。 審議会では特に労働側からその有効性に対して疑問の声も示されましたが、 結局労働側の意見を入れて45歳未満の若年離職者に対して基本手当の50%の生活支援が設けられることで了承されました。 なお2017年改正で原則の給付率が40%から50%へ、 資格取得して就職すれば70%に引き上げられています。 上限は年間40万円、 資格取得して就職すれば年間56万円ですが、 対象期間が2年ならその倍、 3年ならその3倍になります。 相当に手厚い給付といえるでしょう。
 では、 その手厚い給付が行われる専門実践教育訓練とはどういうものなのか。 2014年10月から始まった第一弾に含まれたのは、 @業務独占資格・名称独占資格の取得を訓練目標とする養成施設の課程、 A専修学校の職業実践専門課程、 B専門職大学院の3つです。 その後、 2016年度からはC大学等における職業実践力育成プログラム、 2017年度からはD一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程、 2018年度からはE第4次産業革命スキル習得講座と、 毎年のように類型が増加してきています。 そこに今度は2019年度に新たに開学予定のF専門職大学・専門職短期大学をそのスタート時点から加えようというのが、 現在の審議の中身というわけです。
 このリストを見ていくと、 文部科学省の高等教育レベルの職業教育の推進政策の財源としてこの給付が使われてきているようにも見受けられます。 そこで、 そちらの流れを一瞥しておきましょう。 実は、 AはFをめざす政策から派生したものなのです。 文部科学省の中央教育審議会のキャリア教育・職業教育特別部会の2011年1月の答申は、 高等教育レベルに新たな職業実践的な教育に特化した枠組みを提唱しました。 これはまさに専門職大学の原型でしたが、 その後話は専修学校の枠内に職業実践専門課程を設けることに矮小化され、 これがAとして専門実践教育訓練の対象となったのです。
 ところがその後、 官邸に設置された教育再生実行会議が2014年に出した第5次提言で実践的な職業教育を行う高等教育機関を制度化することを求め、 これを受けて文部科学省が実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議を開催し、 具体案を構想しました。 ちなみにこの有識者会議の委員であった冨山和彦氏が 「L型大学、 G型大学」 というややキャッチーな表現をしたことがマスコミで話題となったことを記憶している方も多いでしょう。 その後、 中教審の実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会の議を経て、 2017年に学校教育法が改正され、 「大学のうち、 深く専門の学芸を教授研究し、 専門性が求められる職業を担うための実践的かつ応用的な能力を展開させることを目的とするもの」 を専門職大学と定義しました。 4年制の専門職大学と2年制の専門職短期大学がありますが、 前者は最短で4年です。 ということは、 これに専門実践教育訓練を給付すると、 4年間で原則160万円、 資格取得して就職すると224万円になります。 そんな大金を失業者でもなければ労働市場で困難に遭遇しているわけでもない社会人学生に出すのがいいことなのか、 というのが労働側の反対論の根っこにありますが、 かつてと違って景気が回復し、 労働市場が逼迫しているため、 雇用保険財政は6兆円もの大黒字を出しており、 切り詰める理屈は立ちにくいようです。
 むしろ、 ここ数年の雇用保険財政の黒字に目を付けて、 文部科学省の新たな職業教育政策の財源として専門実践教育訓練給付が用いられるという傾向が強まってきているようです。 当初から含まれていたB専門職大学院は、 2002年の学校教育法改正で設けられたもので、 「大学院のうち、 学術の理論及び応用を教授研究し、 高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とするもの」 ですが、 法科大学院を始め会計、 ビジネス、 公共政策、 公衆衛生、 教職など広い範囲で開設されており、 学生数は2万人を超え、 社会人学生も1万人に近づいています。 東京大学のロースクールも給付対象です。
 また、 2016年度から対象となったC大学等における職業実践力育成プログラムも、 官邸の教育再生実行会議が2015年に出した第6次提言を受けて、 文部科学省が検討会の議を経て設けたもので、 大学、 大学院、 短期大学、 高等専門学校で、 社会人や企業のニーズに応じた魅力的なプログラムを提供し、 社会人がその受講を通じて職業に必要な能力を取得するものです。 この背景には、 少子化によって学生の数が減っていくという危機感がありそうです。 これまでは学生の親の財布を当てにして若者を集めて特段職業的意義のない教育を施しても、 企業側が喜んで引き取ってくれていたので、 特に問題を感じていなかったのでしょうが、 これから若年層が激減していく中で、 積極的に社会人に客層を拡大していかないと、 膨れあがった大学が大量に経営危機に陥っていくことは目に見えています。  
8月25日号 Risak氏のEUプラットフォーム
7月25日号 働き方改革関連法 の放置された論点 
 
 
去る6月29日にようやく働き方改革関連法が成立に至りました。 しかし、 国権の最高機関のはずの国会におけるその審議は目を覆うようなひどいものでした。
 この法案は本来、 時間外労働の上限規制と同一労働同一賃金が二本柱ですが、 国会ではそのいずれについてもまともに議論が行われず、 法案の中で議論が集中したのは2015年に国会に提出されていた高度プロフェッショナル制度についてであり、 しかもそれすら中身の議論がまともに始まったのは参議院に行ってからで、 衆議院では厚生労働省の労働時間調査がいい加減でデータが間違いだらけだと責め立てたり、 野村不動産で過労自殺した労働者に裁量労働制が適用されていたのにそれを隠していたのがけしからんとなじったりと、 はっきり言って枝葉末節の事柄にのみ全精力を集中しているとしか思えない状況が続いていました。 残された議事録の大部分を占拠しているそうしたやりとりのほとんどは、 法案成立後にそれが具体的にどう施行されるべきなのかを検討する上で全く役に立たないゴミくずのような代物です。
 そのせいで、 国会論戦で詰められるべくして全く詰められないまま放置された論点は数多いのですが、 その中でも重大なのは同一労働同一賃金に関わる部分です。 なぜなら時間外労働規制に係る労働基準法の施行は、 厚生労働省労働基準局が細かいところまで詰めて現場の労働基準監督官に指示しなければならず、 基本的にはそれを受けて対応することになるからです。 これに対して、 同一労働同一賃金の方は基本的には民事上どういう格差は許されてどういう格差は許されないかという判断基準が未だ極めて不明確なままであり、 一昨年末のガイドライン (案) や今年6月1日の最高裁判決との関係も曖昧なままだからです。 本来、 そういう民事上の微妙な判断基準を行政機関が勝手にあれこれと決めることはできないはずであることを考えると、 そういう論点を詳細に突っ込んで質疑することこそ国民の代表の任務だったはずですが、 国会議員がそれを放棄してしまった結果、 ボールは再び企業の人事管理サイドに投げ込まれてしまいました。
 その上で、 最後に付けられた付帯決議では、 その実施方法についてこういう意味深長な条項が含まれています。

 三十二、 パートタイム労働法、 労働契約法、 労働者派遣法の三法改正による同一労働同一賃金は、 非正規雇用労働者の待遇改善によって実現すべきであり、 各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げは、 基本的に

三法改正の趣旨に反するとともに、 労働条件の不利益変更法理にも抵触する可能性がある旨を指針等において明らかにし、 その内容を労使に対して丁寧に周知・説明を行うことについて、 労働政策審議会において検討を行うこと。


 これは、 同一労働同一賃金を口実にした 「各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げ」
を抑止しようとするものですが、 裏返していえば、 通常の労働者の待遇引き下げをやるのであれば 「各社の労使による合意」 でもってやれという意味でもあります。 しからばその「各社の労使」 の 「労」 とは何か、 労働組合だけか、 といえば狭すぎますし、 36協定の過半数代表者みたいなものでもいいのか、 となると余りにも緩すぎるでしょう。 実はここに、 集団的労使関係システムをめぐる大問題−新たな従業員代表制を創設すべきか否か?という問題−が孕まれているのですが、 残念ながら肝心の国会はその点を掘り下げて論じてくれてはいないようです。
 この論点こそ、 この欄でもこれまで何回か取り上げてきた、 非正規労働問題の解決の道筋として集団的労使関係システムを活用しようという議論の中核に位置します。 2013年7月に労働政策研究・研修機構の 「様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制に関する研究会」(座長:荒木尚志) の報告書が提起した、 新たな従業員代表制の整備という政策課題を、 働き方改革関連法の実施に向けた議論の中で、 改めて提起していく必要があると思われます。


6月25日号  Uのプラットフォーム 就業者保護規則案

 
ここ数年、 世界的に AI や IoT、 プラットフォームやクラウドといった新技術による新たな産業構造の到来
(第4次産業革命) がホットなテーマになっています。 その中で、 労働のあり方も激変するのではないか、 それに対してどう対応すべきかということが、 法学、 経済学、 社会学など分野横断的に熱っぽく議論されています。 これに対して日本では、 事態の進展もそれに関する議論の展開もやや遅れ気味の嫌いがありましたが、 昨年来ようやく本格的な議論がなされるようになったようです。 私も、 総論的な解説をするとともに、 とりわけEUレベルにおける政策対応の状況を解説してきました。
 その中でも、 EUの行政府である欧州委員会が昨年末に提案した透明で予見可能な労働条件指令案については、『季刊労働法』 2018年春号 (260号) でかなり詳細に紹介しました。 この指令案は主としてオンコール労働者の保護が狙いですが、 指令案前文にはプラットフォーム労働者も適用対象に含まれると明記しており、 いわば労働者性をプラットフォームを利用して働く人々にも広げる形で対応しようという方向性が窺われます。 その後今年3月には自営業者も含めた社会保護アクセスに関する勧告案も提案され、 その中には自営業者の失業保険という項目もあります。 しかしここまでは労働社会政策、 日本でいえば厚生労働省に当たる総局の政策イニシアティブです。
 しかし、 こうした新たな就業形態は経済産業政策や競争政策の対象でもあります。 日本でもここ数年間、 経済産業省や公正取引委員会がこの問題に関する研究会を設け、 報告書を公表してきています。 同じような動きはEUでもあります。 いや、 日本の微温的な動きを遥かに超え、 プラットフォームを利用して働く人々の保護を目指した立法提案が打ち出されるに至っているのです。 今回はこの提案、 「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案」 (Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services) を紹介したいと思います。 これは2018年4月26日に公表されたばかりのホットな話題です。
 その前にEU法について一言。 私が主として紹介してきた労働法分野では、 EUの立法手段としてはほとんどもっぱら 「指令」 が使われてきました。 指令は加盟国にこういう内容の法律を作れと命ずるものですが、 加盟国が立法化をサボっていれば民間企業の労働者が直接EU指令のみを根拠に訴えを起こすことはできません。 それに対して「規則」 は国内法に転換することを要せず、 規則が施行されれば直ちにEU域内の全企業、 全市民に適用されます。 経済法分野では規則が用いられることが普通です。
 さて、 今回の規則案の中身を見ていきましょう。 いうまでもなく、 本規則案には 「労働者」 という言葉は出てきません。 オンライン仲介サービスを利用する両側の当事者のうち、 消費者ではない方、 つまり様々な材やサービスを提供する側のことを 「ビジネスユーザー」 とか 「職業的ユーザー」 と呼んでいます。 あくまでも労働法とは別の、 請負や委任といった民法や商法に基づく取引関係に入る人々について、 その (「労働条件」 ではない) 「取引条件」 の公正性、 透明性を確保するための規制をかけようとしているのです。 しかしその具体的な項目を見ていくと、 まさに労働者の労働条件の保護のために労働契約にさまざまな規制をかけようとする労働法の発想と見事に対応していることがわかります。
 まず、 透明性の向上として、 オンライン仲介サービスのプロバイダーは、 職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で (契約以前の段階も含め) 容易に理解可能でアクセス可能なようにしなければなりません。 これには事前に職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を設定することが含まれます。 最近のプラットフォームの急拡大の中で、 就業者からプラットフォームへの苦情として提起されているのがこの問題であることを考えれば、 規則案の冒頭にこれが出てくるのも頷けます。 プロバイダーはまた、 就労条件の変更への合理的な最低告知期間を尊重しなければなりません。 このあたり、 労働法であれば解雇等の雇用終了や労働条件の不利益変更として議論される領域ですが、 それを労働者ならざる 「ビジネスユーザー」 にいわば類推適用のように持ち込んでいるわけです。
 さらに、 一般労働者の場合ではあまり見られない、 プラットフォーム就業者特有のいくつかの問題にも本規則案は対応しようとしています。 すなわち、 オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了したりすれば、 このプロバイダーはその理由を述べる必要があります。 さらに、 これらサービスのプロバイダーはそのサービスを通じて生み出されたいかなるデータが誰によっていかなる条件下でアクセスされるか、 職業ユーザーによって提供されたものと比べてプロバイダーの財やサービスをいかに取り扱うか、 職業ユーザーによって提供された生産物やサービスのもっとも望ましいレンジや価格を求める契約条項を用いるか、 に関する一般方針を定式化し公表しなければなりません。 最後に、 オンライン仲介サービスとオンライン検索エンジンは検索結果において財やサービスがいかにランク付けされるかを決定する一般基準を設定しなければなりません。 これらは直接労働者の場合に対応するものではないように見えますが、 やや広く捉えれば、 労働者の成果の評価や処遇の公正性といった諸問題に対応すると見ることもできます。 近年急速に発達したアルゴリズムを用いた評価システムの問題はこれから労働者の評価や処遇にも大いに関わってくる可能性がありますが、 プラットフォーム就業者はいわば一足先にその世界に入り込んでいるわけです。
 労働者についても紛争処理システムの整備が重要課題であるように、 これらプラットフォーム就業者についても効果的な紛争解決が図られる必要があります。 本規則案は、 オンライン仲介サービスのプロバイダーが社内に苦情処理制度を設置しなければならないと定めるとともに、 裁判外紛争解決を促進するため、 すべてのオンライン仲介サービスのプロバイダーは、 その就労条件において紛争解決に信義をもってあたろうとする独立かつ資格を有する仲裁人のリストを示さなければならないとしています。 さらに話を広げ、 業界としての対応策を求めています。 すなわち、 オンライン仲介サービスの業界にそのサービスから生じる紛争を取り扱う専門の独立仲裁人を設置することを求めているのです。 最後に、 EUレベルにこの問題を担当する機関を設置するとも述べています。
 確認しますが、 これは労働政策としてではなく、 経済産業政策として打ち出されたものです。 しかしその問題意識は、 弱い立場の労働者を保護するために労働法が試みてきた様々な手段と相似的な手法を、 プラットフォーム就業者というこれまた経済的に弱い立場の人々を保護するために講じようとするものとなっており、 今後世界的にますますプラットフォーム経済、 シェアリング経済が発達していく中で、 一つの参考資料として注目に値するものと思われます。
7月25日号 働き方改革関連法 の放置された論点 

 
去る6月29日にようやく働き方改革関連法が成立に至りました。 しかし、 国権の最高機関のはずの国会におけるその審議は目を覆うようなひどいものでした。
 この法案は本来、 時間外労働の上限規制と同一労働同一賃金が二本柱ですが、 国会ではそのいずれについてもまともに議論が行われず、 法案の中で議論が集中したのは2015年に国会に提出されていた高度プロフェッショナル制度についてであり、 しかもそれすら中身の議論がまともに始まったのは参議院に行ってからで、 衆議院では厚生労働省の労働時間調査がいい加減でデータが間違いだらけだと責め立てたり、 野村不動産で過労自殺した労働者に裁量労働制が適用されていたのにそれを隠していたのがけしからんとなじったりと、 はっきり言って枝葉末節の事柄にのみ全精力を集中しているとしか思えない状況が続いていました。 残された議事録の大部分を占拠しているそうしたやりとりのほとんどは、 法案成立後にそれが具体的にどう施行されるべきなのかを検討する上で全く役に立たないゴミくずのような代物です。
 そのせいで、 国会論戦で詰められるべくして全く詰められないまま放置された論点は数多いのですが、 その中でも重大なのは同一労働同一賃金に関わる部分です。 なぜなら時間外労働規制に係る労働基準法の施行は、 厚生労働省労働基準局が細かいところまで詰めて現場の労働基準監督官に指示しなければならず、 基本的にはそれを受けて対応することになるからです。 これに対して、 同一労働同一賃金の方は基本的には民事上どういう格差は許されてどういう格差は許されないかという判断基準が未だ極めて不明確なままであり、 一昨年末のガイドライン (案) や今年6月1日の最高裁判決との関係も曖昧なままだからです。 本来、 そういう民事上の微妙な判断基準を行政機関が勝手にあれこれと決めることはできないはずであることを考えると、 そういう論点を詳細に突っ込んで質疑することこそ国民の代表の任務だったはずですが、 国会議員がそれを放棄してしまった結果、 ボールは再び企業の人事管理サイドに投げ込まれてしまいました。
 その上で、 最後に付けられた付帯決議では、 その実施方法についてこういう意味深長な条項が含まれています。

 三十二、 パートタイム労働法、 労働契約法、 労働者派遣法の三法改正による同一労働同一賃金は、 非正規雇用労働者の待遇改善によって実現すべきであり、 各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げは、 基本的に

三法改正の趣旨に反するとともに、 労働条件の不利益変更法理にも抵触する可能性がある旨を指針等において明らかにし、 その内容を労使に対して丁寧に周知・説明を行うことについて、 労働政策審議会において検討を行うこと。


 これは、 同一労働同一賃金を口実にした 「各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げ」
を抑止しようとするものですが、 裏返していえば、 通常の労働者の待遇引き下げをやるのであれば 「各社の労使による合意」 でもってやれという意味でもあります。 しからばその「各社の労使」 の 「労」 とは何か、 労働組合だけか、 といえば狭すぎますし、 36協定の過半数代表者みたいなものでもいいのか、 となると余りにも緩すぎるでしょう。 実はここに、 集団的労使関係システムをめぐる大問題−新たな従業員代表制を創設すべきか否か?という問題−が孕まれているのですが、 残念ながら肝心の国会はその点を掘り下げて論じてくれてはいないようです。
 この論点こそ、 この欄でもこれまで何回か取り上げてきた、 非正規労働問題の解決の道筋として集団的労使関係システムを活用しようという議論の中核に位置します。 2013年7月に労働政策研究・研修機構の 「様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制に関する研究会」(座長:荒木尚志) の報告書が提起した、 新たな従業員代表制の整備という政策課題を、 働き方改革関連法の実施に向けた議論の中で、 改めて提起していく必要があると思われます。


6月25日号  Uのプラットフォーム 就業者保護規則案

 
ここ数年、 世界的に AI や IoT、 プラットフォームやクラウドといった新技術による新たな産業構造の到来
(第4次産業革命) がホットなテーマになっています。 その中で、 労働のあり方も激変するのではないか、 それに対してどう対応すべきかということが、 法学、 経済学、 社会学など分野横断的に熱っぽく議論されています。 これに対して日本では、 事態の進展もそれに関する議論の展開もやや遅れ気味の嫌いがありましたが、 昨年来ようやく本格的な議論がなされるようになったようです。 私も、 総論的な解説をするとともに、 とりわけEUレベルにおける政策対応の状況を解説してきました。
 その中でも、 EUの行政府である欧州委員会が昨年末に提案した透明で予見可能な労働条件指令案については、『季刊労働法』 2018年春号 (260号) でかなり詳細に紹介しました。 この指令案は主としてオンコール労働者の保護が狙いですが、 指令案前文にはプラットフォーム労働者も適用対象に含まれると明記しており、 いわば労働者性をプラットフォームを利用して働く人々にも広げる形で対応しようという方向性が窺われます。 その後今年3月には自営業者も含めた社会保護アクセスに関する勧告案も提案され、 その中には自営業者の失業保険という項目もあります。 しかしここまでは労働社会政策、 日本でいえば厚生労働省に当たる総局の政策イニシアティブです。
 しかし、 こうした新たな就業形態は経済産業政策や競争政策の対象でもあります。 日本でもここ数年間、 経済産業省や公正取引委員会がこの問題に関する研究会を設け、 報告書を公表してきています。 同じような動きはEUでもあります。 いや、 日本の微温的な動きを遥かに超え、 プラットフォームを利用して働く人々の保護を目指した立法提案が打ち出されるに至っているのです。 今回はこの提案、 「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案」 (Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services) を紹介したいと思います。 これは2018年4月26日に公表されたばかりのホットな話題です。
 その前にEU法について一言。 私が主として紹介してきた労働法分野では、 EUの立法手段としてはほとんどもっぱら 「指令」 が使われてきました。 指令は加盟国にこういう内容の法律を作れと命ずるものですが、 加盟国が立法化をサボっていれば民間企業の労働者が直接EU指令のみを根拠に訴えを起こすことはできません。 それに対して「規則」 は国内法に転換することを要せず、 規則が施行されれば直ちにEU域内の全企業、 全市民に適用されます。 経済法分野では規則が用いられることが普通です。
 さて、 今回の規則案の中身を見ていきましょう。 いうまでもなく、 本規則案には 「労働者」 という言葉は出てきません。 オンライン仲介サービスを利用する両側の当事者のうち、 消費者ではない方、 つまり様々な材やサービスを提供する側のことを 「ビジネスユーザー」 とか 「職業的ユーザー」 と呼んでいます。 あくまでも労働法とは別の、 請負や委任といった民法や商法に基づく取引関係に入る人々について、 その (「労働条件」 ではない) 「取引条件」 の公正性、 透明性を確保するための規制をかけようとしているのです。 しかしその具体的な項目を見ていくと、 まさに労働者の労働条件の保護のために労働契約にさまざまな規制をかけようとする労働法の発想と見事に対応していることがわかります。
 まず、 透明性の向上として、 オンライン仲介サービスのプロバイダーは、 職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で (契約以前の段階も含め) 容易に理解可能でアクセス可能なようにしなければなりません。 これには事前に職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を設定することが含まれます。 最近のプラットフォームの急拡大の中で、 就業者からプラットフォームへの苦情として提起されているのがこの問題であることを考えれば、 規則案の冒頭にこれが出てくるのも頷けます。 プロバイダーはまた、 就労条件の変更への合理的な最低告知期間を尊重しなければなりません。 このあたり、 労働法であれば解雇等の雇用終了や労働条件の不利益変更として議論される領域ですが、 それを労働者ならざる 「ビジネスユーザー」 にいわば類推適用のように持ち込んでいるわけです。
 さらに、 一般労働者の場合ではあまり見られない、 プラットフォーム就業者特有のいくつかの問題にも本規則案は対応しようとしています。 すなわち、 オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了したりすれば、 このプロバイダーはその理由を述べる必要があります。 さらに、 これらサービスのプロバイダーはそのサービスを通じて生み出されたいかなるデータが誰によっていかなる条件下でアクセスされるか、 職業ユーザーによって提供されたものと比べてプロバイダーの財やサービスをいかに取り扱うか、 職業ユーザーによって提供された生産物やサービスのもっとも望ましいレンジや価格を求める契約条項を用いるか、 に関する一般方針を定式化し公表しなければなりません。 最後に、 オンライン仲介サービスとオンライン検索エンジンは検索結果において財やサービスがいかにランク付けされるかを決定する一般基準を設定しなければなりません。 これらは直接労働者の場合に対応するものではないように見えますが、 やや広く捉えれば、 労働者の成果の評価や処遇の公正性といった諸問題に対応すると見ることもできます。 近年急速に発達したアルゴリズムを用いた評価システムの問題はこれから労働者の評価や処遇にも大いに関わってくる可能性がありますが、 プラットフォーム就業者はいわば一足先にその世界に入り込んでいるわけです。
 労働者についても紛争処理システムの整備が重要課題であるように、 これらプラットフォーム就業者についても効果的な紛争解決が図られる必要があります。 本規則案は、 オンライン仲介サービスのプロバイダーが社内に苦情処理制度を設置しなければならないと定めるとともに、 裁判外紛争解決を促進するため、 すべてのオンライン仲介サービスのプロバイダーは、 その就労条件において紛争解決に信義をもってあたろうとする独立かつ資格を有する仲裁人のリストを示さなければならないとしています。 さらに話を広げ、 業界としての対応策を求めています。 すなわち、 オンライン仲介サービスの業界にそのサービスから生じる紛争を取り扱う専門の独立仲裁人を設置することを求めているのです。 最後に、 EUレベルにこの問題を担当する機関を設置するとも述べています。
 確認しますが、 これは労働政策としてではなく、 経済産業政策として打ち出されたものです。 しかしその問題意識は、 弱い立場の労働者を保護するために労働法が試みてきた様々な手段と相似的な手法を、 プラットフォーム就業者というこれまた経済的に弱い立場の人々を保護するために講じようとするものとなっており、 今後世界的にますますプラットフォーム経済、 シェアリング経済が発達していく中で、 一つの参考資料として注目に値するものと思われます。
5月25日号  「通常の労働者」

 去る4月6日にようやく国会に提出された働き方改革関連法案では、柱の一つである同一労働同一賃金関係の改正として、労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)が削除され、同趣旨の規定であるパート法第8条(短時間労働者の待遇の原則)に吸収合併され、若干の修正を加えて短時間・有期雇用労働者に係る「不合理な待遇の禁止」となっています。また、パート法第9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)や第10条(賃金の努力義務)、第11条(教育訓練)、第12条(福利厚生施設)にも有期雇用労働者が加わります。さらに、労働者派遣法第30条の3(均衡を考慮した待遇の確保)も現行の配慮規定から「不合理な待遇の禁止等」に格上げされることになっています。ただ、改正法の条文をじっくり読んでいくと、この吸収合併により、均等待遇にせよ均衡待遇にせよ、誰と比べるのかという点で微妙な違いが生じていることがわかります。
 現行労働契約法第20条は、「期間の定めのある労働契約」に関する規定の一つです。第18条では反復更新した有期労働契約が期間の定めのない労働契約に転換するのですし、第20条では有期労働契約と期間の定めのない労働契約との労働条件の不合理な格差が問題になっています。対立軸は有期契約と無期契約です。そんなことは当たり前ではないかと思うかもしれませんが、現行パート法はそうなっていないのです。EUのパート指令はパートタイム労働者とフルタイム労働者という対立軸であり、有期労働指令が有期契約労働者と無期契約労働者であるのと全く同型ですが、日本のパート法にフルタイム労働者という概念はありません。あるのは「通常の労働者」という法律用語としていささか意味不明な言葉なのです。
 「短時間労働者」と「通常の労働者」を対立させている現行パート法の規定に「有期雇用労働者」を挿入することにより、現行労働契約法第20条とは異なる土俵に入り込んでしまう可能性があるように思われます。実はそもそも、現行パート法第8条は、2012年の労働契約法第20条に倣って2014年に追加された規定なのですが、そのときからこの両者の規定ぶりの微妙な違いは問題を孕んでいました。それが今回合体されることでより表面化したということもできます。
 しかし、まずはパート法が1993年に成立したときから存在する「通常の労働者」という概念の中身を確認しておきましょう。この時は、第3条(事業主等の責務)の中に、「事業主は、その雇用する短時間労働者について、その就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して、適正な労働条件の確保及び教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善(以下「雇用管理の改善等」という。)を図るために必要な措置を講ずることにより、当該短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとする。」と、努力義務のさらに考慮規定に過ぎませんでした。しかも、この「通常の労働者との均衡等を考慮して」というのは、国会で野党の主張により修正されて付け加わったもので、政府の原案にはなかったのです。制定時の解説書(松原亘子『短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律』労務行政研究所)では、「通常の労働者」についてこう解説しています。
 「通常の労働者」とは、いわゆる正規型の労働者をいい、年功序列的な賃金体系のもとで終身雇用的な長期勤続を前提として雇用される者がこれに該当する。具体的には社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等を総合的に勘案して判断するものである。その際には、例えば、機関の定めなく雇用される者であって、長期雇用を前提とした処遇を受けるものであるかどうか、賃金の主たる部分を時給により受けるものであるかどうか、賞与、退職金の支給、定期的な昇級又は昇格があるかどうかといったことが判断材料として考えられる。
 見ての通り、これは日本型雇用システムにおいて「正社員」と呼ばれる労働者のことであって、フルタイム労働者よりはずっと狭い概念ですし、無期契約でかつフルタイムであっても中小零細企業では終身雇用も年功序列もいわんや退職金もないような労働者などいくらでもいますから、少なくとも法的概念としては「短時間労働者」の対立軸にするにはいかにもふさわしくないものに思われます。それがこの当時何の疑いもなくまかり通ったのは、日本型雇用システムにおいては成人男子を主とする正社員とその妻や子供からなるパートタイマーやアルバイトという二分法が常識化しており、それ以外の存在が脳裏から失われてしまっていたからとしか言いようがありません。
 ところがその後、バブル崩壊や就職氷河期を経過する中で、それまでであれば正社員就職していたはずの若者たちが大量に非正規労働者として労働市場に流れ出しました。彼らフリーターに対する対策が21世紀に入って政策課題となり、その一環として2007年のパート法改正が行われたことは周知の通りです。この時に第8条として設けられたのが、現在第9条になっている「通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止」です。この規定ぶりは込み入っていてわかりにくいのですが、「通常の労働者」との差別待遇が禁止される短時間労働者をあれこれと限定することによって、逆に「通常の労働者」が何者であるかが浮かび上がってくるようになっています。すなわち、差別してはいけないのは短時間労働者のうち@「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一」であって、A「当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結して」おり、B「当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれる」ものです。Aは有期と無期の対立軸が入り込んでいますが、重要なのはBです。ここには、日本型雇用システムにおける「正社員」の定義が裏側から規定されているのです。すなわち、職務の内容や配置が定年までぐるぐると変わっていくのが「正社員」なのだと。そうすると、多くの中小零細企業の無期フルタイム労働者は「正社員」ではないことになります。
 もっとも、法律の規定ぶりは裏側からなので、ある企業の無期フルタイム労働者がみんな職務内容も配置も変わらないのであれば、それが「通常の労働者」ということになり、Bの要件は意味がなくなります。細かく規定しているようで融通無碍な相対的な概念なのですね。このように矛盾は生じないようにしているとはいえ、制定時からの「通常の労働者」概念を維持するために、大変わかりにくい規定になってしまいました。その後、有期と無期という明快な対立軸の2012年労働契約法ができたにもかかわらず、それと同様の規定を持ち込んだ2014年改正では、やはり短時間労働者と「通常の労働者」という枠組みを維持しています。しかも、この時新第9条から上記Aの要件を外しています。有期であっても職務内容や配置がぐるぐる変わるのであれば差別禁止となっていたわけです。そこに、今回有期契約労働者が入ってくるというわけで、この込み入りようは尋常ではありません。しかも、労働者派遣法の改正においても、これまでは「同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者」と素直だったのが、「派遣先に雇用される通常の労働者」になり、職務内容や配置の変更といった要件が入り込んでいます。日本の非正規労働法制は、「通常の労働者」という不思議な概念を中心としたものにほぼ完全に統一されてしまうかのようです。
 ここで話の流れを逆転し、この「通常の労働者」という言葉の由来を法制定以前に遡って探っていきましょう。1989年の「パートタイム労働者の処遇及び労働条件等について考慮すべき事項に関する指針」(告示第39号)でも、「労働条件は、パートタイム労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して定められるべき」とあります。1993年制定時の国会修正はこの指針の文言を持ってきたものだったのです。その前の1984年の「パートタイム労働対策要綱」(次官通達)でも「通常の労働者」という言葉が出てきますが、労働条件の明確化や労働時間管理の適正化などが書かれているだけで、処遇の問題は出てきません。同年の労働基準法研究会報告が、「我が国の雇用慣行を背景に、パートタイム労働者の労働市場が需要側、供給側双方の要因に基づき、通常の労働者のそれとは別に形成され、そこでの労働力の需給関係によりパートタイム労働者の労働条件が決定されていることによる」ので「行政的に介入することは適当とは考えられ」ないと述べていたことを反映しています。
 このように「通常の労働者」という用語法は、内部労働市場志向の労働政策の全盛期に、日本型雇用システムの「正社員」を所与の前提とする形で生み出されたものであることがわかります。というのは、それよりもっと以前の政策文書を見ると、パートタイムの対概念は「通常の労働者」ではなくフルタイムだった時代があるのです。1970年の「女子パートタイム雇用に関する対策の推進について」(局長通達)は、「現状では、パートタイム雇用についての概念の混乱が、近代的パートタイム雇用の確立の上で問題となっているので、パートタイム雇用は、身分的な区分ではなく、短時間就労という一つの雇用形態であり、パートタイマーは労働時間以外の点においては、フルタイムの労働者と何ら異なるものではないことを広く周知徹底する」と、大見得を切っています。
 残念ながら、周知徹底するどころか、労働行政自身がパートタイムを「正社員」と身分(雇用区分)が違う存在として位置づけ、労働時間以外の点で大いに異なるものであることを大前提にその後の政策を形成してきたわけです。そして、欧米型の近代的労働市場を志向していた半世紀前の労働行政がその後日本型雇用の維持強化に舵を切り、さらにその後再びEU型の非正規労働政策を徐々に導入する中で、少なくとも有期契約労働については有期対無期というごく普通の対立軸で立法したにもかかわらず、パートタイムについては1980年代以来の「通常の労働者」概念を基軸とする発想が中心のままであり、そして今回、その枠組みに有期や派遣まで巻き込む形で立法が行われようとしているわけです。いったん確立した思考の枠組みというのは、なかなか変わりにくいことがよくわかります。
4月25日号  東京オリンピックに向けた受動喫煙対策
3月25日号  外国人労働政策の転換? 

 去る2月20日の経済財政諮問会議で、外国人労働政策について見直す方向が打ち出されたようです。会議後の大臣記者会見の記録によると、安倍首相から「移民政策を採る考えがないことは堅持」しつつも、「専門的・技術的な外国人受入れの制度の在り方について、在留期間の上限を設定し、家族の帯同は基本的に認めないといった前提条件の下、真に必要な分野に着目しつつ、制度改正の具体的な検討を進め、夏に方向性を示したい。官房長官、上川(法務)大臣は、関係省の協力を得て、急ぎ、検討を開始して欲しい」との発言があったということです。
 「専門的・技術的」という形容詞はついていますが、その後の質疑応答で茂木担当相から「おそらく介護であったり、建設であったり、運輸であったり、サービス・小売であったり、農業、それぞれの分野別にどういった能力が最低限必要なのであろうか、といったことを洗い出す」と、かなり具体的な業種が語られていますし、「それぞれの分野で、例えば今、人手不足というのが現実に存在すると、これが例えばITとかAIによって、どこまで効率化できるのか。さらには女性・高齢者の方の就業環境を整備することによって、どこまで解消が進むのだろうか。そこで残った分野、充足できない分野について充足の仕方を、先程申し上げたような形で検討していくということ」だと、人手不足対策であることも明確に示しています。
 上述のような業種での人手不足対策をなお「専門的・技術的」と呼ぶことには違和感を禁じ得ませんが、民間議員の発言を見ると、「日本が受け入れている外国人労働力は専門的・技術的分野だが、それ以外の人たちについては、国民のコンセンサスを得つつ、慎重に検討していく必要がある」とあり、すくなくともこれまで「専門的・技術的」とされてきた狭い職種以外にも(それをどう呼ぶかは別として)拡大しようという方向性であることは間違いないようです。
 実はこの動きの背景にあるのは、昨年2017年11月16日に日本商工会議所・東京商工会議所が公表した「今後の外国人材の受入れの在り方に関する意見〜「開かれた日本」の実現に向けた新たな受入れの構築を」という意見書です。そこでは、「受け入れる外国人材は「専門的・技術的分野の外国人」に限定するという、これまでの原則に縛られない、より「開かれた受入れ体制」を構築すること」と、明確に「非技術的分野」の外国人の受入れを求めているのです。そして、そのために「移民政策とは異なる非技術的分野の受け入れ制度のあり方について、課題等を整理する「検討の場」を政府において早急に設置すること」を求めており、上記「制度改正の具体的な検討を進め、夏に方向性を示したい」という首相の指示はこれを受けたものと考えられます。
 これまでの日本の外国人労働政策は、専門的・技術的人材は積極的に受け入れるが単純労働力は受け入れないという二分法的な原則を立てつつ、「就労が認められる在留資格」以外のいわゆるサイドドアを通じた外国人労働が増えてきたという経緯があります。日商・東商の意見書はこの点に正面からメスを入れ、「例外として就労が認められている在留資格で就労を行う外国人材が年々増加している」のは「企業が求めるニーズと在留資格が乖離している」からだと、その見直しを求めているのです。
 その焦点は、「技能」という在留資格の拡大にあるようです。そもそも真の単純労働というのはそれほど多くなく、現在人手不足に悩んでいるのはいわゆる技能労働系の職種です。ところが現在入管法上在留資格として認められている「技能」は、外国料理の調理師からワイン鑑定まで9職種に過ぎず、たとえば外国人留学生が専門学校で学び日本の国家資格を取得しても「技能」と認められません。日商・東商が狙う最大の突破口はおそらくここにあります。
 加えて、「技術」についても、「自然科学、人文科学の分野に属する技術・知識を必要とする業務」として原則として大卒以上という要件に疑問を呈し、「産業界、特に建設業や製造業等では、現行の「技術」の定義に当てはまらない、一定の知識・経験を有する“技術者”への需要は高い」と、その拡大を求めています。
 ちなみに日商・東商の意見書では、「非技術的分野の受入れ」について、「諸外国(例:韓国)の事例等を参考に」と述べ、そこに「韓国では、2004年より「雇用許可制」を導入し・・・」と注釈をつけており、韓国型雇用許可制を念頭に置いているらしいことが窺われます。
 サイドドアとして1993年に創設され、様々な問題を指摘されながら2016年にようやく単独立法化された改正技能実習制度が昨年11月に施行されたばかりですが、外国人労働政策は既にその先に向けて走り出そうとしているようです。その萌芽として既に、2016年改正入管法で「介護」という在留資格が新設され、また現在(本連載昨年7月25日号で紹介したように)国家戦略特区における農業外国人労働の解禁が進められています。しかしそういうパッチワーク的なものではなく、包括的に「技能労働」レベルの外国人労働者を受け入れる枠組を作ろうという動きとして、注目に値します。


2月25日号  外回り営業職の労働時間制度
 


 今国会に提出予定の働き方改革関連法案には、昨年3月の働き方改革実行計画に盛り込まれた時間外労働の上限規制だけでなく、2015年に国会に提出されたまま棚ざらしになっていた高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の提案型営業職等への拡大が盛り込まれていることが政治的争点になっています。本紙に続く。

1月25日号  在宅ワークガイドラインから自営型テレワークガイドラインへ
 

 昨2017年12月25日、厚生労働省の柔軟な働き方に関する検討会は報告をまとめるとともに、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の案を示しました。今回は、このうち二番目の自営型テレワークガイドラインの経緯と内容を見ていきたいと思います。本紙に続く。
11月25日号  解雇無効の原点 

 去る5月31日、厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が報告書を公表しました。この報告書は労働局あっせん、労働委員会あっせん、労働審判など現行の個別労働関係紛争解決システムの改善についてもかなりの紙数を割いていますが、世間の注目はもう一つのトピックたる解雇無効時における金銭救済制度の提案に集中しました。同報告書は、政治的配慮から使用者申立制度の選択肢を排除し、労働者申立のみを認めるとしています。しかしそのことが却って問題をもたらしています。この問題のネックは政策論としての対立にあるだけでなく、それよりもむしろ法律構成上の困難さにあります。過去2回(2003年、2005年)の検討がうまくいかなかったのは、現行訴訟制度の枠内で解雇が無効であるとする判決を要件とする金銭救済の仕組みには一定の限界があるからです。つまり、それは使用者申立に親和的な構成であり、労働者申立のみを想定する制度には適合しないのです。そこで、それとは異なる法的仕組みを工夫しています。
 一つは解雇を不法行為とする損害賠償請求の裁判例を踏まえた仕組みですが、やはり損害賠償請求と金銭を支払った場合に労働契約が終了するという効果を結びつけることは論理的に困難という結論です。そこで、実体法に労働者が一定の要件を満たす場合に金銭の支払を請求できる権利を置くというやり方を提示しています。問題を訴訟法から実体法の領域に移すことで打開を図ろうというわけです。本紙に続く
10月25日号 多様なジョブ型雇用システム

 日本の雇用システムをメンバーシップ型とか「就社」型と定型化し、欧米諸国のジョブ型ないし「就職」型と対比される考え方は、ごく一部の人々を除き、多くの研究者や実務家によって共有されているものでしょう(実をいうと、この「ごく一部の人」に属するのが小池和男氏で、彼は半世紀前の『賃金』依頼一貫して、日本と欧米の違いは「型」の違いではなく発展段階の先後に過ぎず、遅れた欧米は先進的な日本に近づいてくると主張してきました。ところが皮肉なことに、ほとんどすべての読者はそれを取り違え、日本「型」、システムの欧米「型」、システムに対する優位性を論証した学者だと思い込んでいます。閑話休題)
 ところが、日本以外の諸国を全て「ジョブ型」に束ねてしまうと、その間のさまざまな違いがみえにくくなってしまいます。常識的に考えても、流動的で勤続年数が短いアメリカと、勤続年数が日本とあまり変わらぬドイツなど大陸欧州諸国はかなり違うはずです。そこで、世界の雇用システムを大きく二つに分けて、日本に近い側とそうでない側に分類するという試みが何回か行われてきました。ところが、そうした議論を見ていくと、まったく矛盾する正反対の考え方が両方存在することがわかってきます。 まず一つ目は、日本とドイツなど大陸欧州諸国を一つにまとめ、アメリカを代表するアングロサクソン型と対比させる常識的な考え方です。本紙に続く

9月25日号 労働契約法9条『合意』の出所

 労働契約法9条 『合意』 の出所 おそらくここ数年間の労働法学の世界で最もホットな論争点の一つになっているのが、 労働契約法第9条の反対解釈をめぐる議論でしょう。 同条は 「使用者は、 労働者と合意することなく、 就業規則を変更することにより、 労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。 ただし、 次条の場合は、 この限りでない。」 と規定しています。 この 「労働者と合意することなく」 という文言を反対解釈して、 労働者と同意すれば就業規則を変更して不利益変更することができると解釈するのか(合意基準説)、 次の第10条に基づいて合理性審査が必要と解釈するのか(合理性基準説)をめぐる論争です。 詳細は労働法の教科書や論文に書かれていますのでここでは解釈論には一切踏み込みません。 ここで論じたいのは、 確立した判例法理を 「足しもせず、 引きもせず」 立法化したはずの労働契約法の文言からなぜこうした問題が飛び出してきてしまったのか、 という立法学的検討です。
 この 「労働者と合意することなく」 という文言が初めて登場するのは、 2007年1月25日の労政審労働条件分科会 (以下 「分科会」) に諮問された労働契約法案要綱においてです。 しかし同日の議事録を見ても、 「原則としてできない、 ただし…」 という点については議論になっていますが、 この 「合意」 自体は議論になっていません。 そもそも法案作業では通常、 法案要綱として諮問される前にほぼそれに対応する中身が建議/答申としてまとめられるもので、 これについても2006年12月27日に 「今後の労働契約法制の在り方について」 答申がされています。 そこでは 「就業規則の変更による労働条件の変更」 として 「就業規則の変更による労働条件の変更については、 その変更が合理的なものであるかどうかの判断要素を含め、 判例法理に沿って、 明らかにすること。」 と書かれていました。 「労働者と合意することなく」 という文言は、 少なくとも厚生労働省当局は 「判例法理に沿っ」 たものと理解しており、 分科会の委員も特に異議を唱えていなかったことがわかります。
 しかし、問題はむしろ、それまでの諸判決には明確にそういう文言が存在しないにもかかわらず、「労働者と合意することなく」という文言が判例法理に沿ったものとして立法過程に入り込んできたのはなぜかという点にあります。本紙に続く
8月25日号 高度プロフェッショナル 制度をめぐる連合の迷走 

 去る7月13日、 連合の神津里季生会長は安倍晋三内閣総理大臣に対して、 労働基準法等改正法案に関する要請を行いました。 それは、 きたる臨時国会に提出予定の時間外労働の上限規制を導入する労働基準法改正案と、 2015年に提出したままとなっている高度プロフェッショナル制度の導入や裁量労働制の拡大を盛り込んだ労働基準法改正案が、 一本化されて提出されるという見込みが明らかになり、 せめて後者の修正を求めようとして行われたものです。 その要請書においては、 三者択一とされていた導入要件のうち、 「年間104日以上かつ4週間を通じ4日以上の休日確保」 を義務化するとともに、 選択的措置として勤務間インターバルの確保及び深夜業の回数制限、 1カ月又は3カ月についての健康管理時間の上限設定、 2週間連続の休暇の確保、 又は疲労の蓄積や心身の状況等をチェックする臨時の健康診断の実施を求めるものでした。
 これが報じられると、 連合傘下の産別組織の一部や連合以外の労働団体、 さらには労働弁護士などから激しい批判が巻き起こり、 同月21日の中央執行委員会でも異論が相次ぎ、 執行部は組織内での了解取り付けに失敗したと伝えられました。 さらに26, 27日に札幌で開いた臨時の中央執行委員会でも同意が得られず、 政労使合意を見送る方針を決めたということです。 同日付の事務局長談話では 「連合は三者構成主義の観点から、 本件修正のみの政労使合意を模索したが、 この趣旨についての一致点は現時点で見いだせない。 よって、 政労使合意の締結は見送ることとする。 法案の取り扱いについては、 労働政策審議会の場で議論を行うこととし、 その答申を経て、 最終的には国会の審議に委ねられることになる」 と述べています。
 政府はその後両法案の一本化を表明し、 連合が懸念していた状況が現実のものであることが明らかになりました。本紙に続く。

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