正信偈とは

正信偈の読誦の歴史

正信偈は、「顕浄土真実教行証文類」行巻末にある偈文です。
正信偈は、弟子が筆写したといわれる国宝本の前2帖にも、聖人の真蹟にかかる後1帖の初め9種にも、圏発(漢字の四声を示す点、平声・上声・去声・入声)が付されている。また、御草稿本の大部分に圏発がみられ、四声の清濁緩急を図示する凡例まで示されている。これは親鸞聖人御在世の折から、念仏に添えて諷誦していたことを示しています。

存覚の「破邪顕正抄」には
 「和讃のこと、かみのごときの一文不知のやから経教の深理おも知らず、釈義の奥旨をもわきまえがたきゆえに、いささかの教釋のこころをやわらげて無知のともからにこころえしめんがために、ときどき念仏に加えてこれを誦し用ゆべきよしあたえらるるものなり。これまた往生の正業にあらず、ただ念仏の助行なり。もし五種の正行に配せば第五の讃嘆に接すべきか」
とあるように、本願寺第3代宗主覚如上人も存覚師と共に、伽陀や和讃に天台の流儀によって節をつけて読誦していたと伝えられている。

第7代宗主の存如上人(蓮如の父)は、正信偈を本典から別立し、和讃と共の書写し、教化と勤行に用い、蓮如上人の基礎を作りました。このことは、「実悟記」に「存如上人の御代より六種の和讃勤に成り申したる事に候」と示されています。

蓮如上人(第8代宗主)
吉崎時代(1471,7建立)正信偈を朝夕の勤行とし、文明5年(1473)3月、三帖和讃に正信偈を加えて4帖とし開版。これが本宗における聖典開版の初めであり、今日の正信偈読誦の基礎となりました。
 以後、歴代の宗主によって幾度か改版されましたが、みな「文明本」を踏襲しています。「悲歎述懐和讃」と「善光寺和讃」「正像末和讃」に納められている11種の「皇太子聖徳奉讃」、帖外2種の「太子和讃」は、いずれも諷誦しない。これも文明本によっています。

第9代宗主実如上人の頃には、墨譜・舌々の別が生じ、江戸初期には、句切・句下・墨譜行・墨譜真・墨譜草・繰引・中拍子・舌々真・舌々行・舌々草の10種類を数えるに至った。(現在の大派の9種類の正信偈は、この9種類とあまり変化のないものといわれている)

第20代宗主広如上人の折、蓮如上人350回遠忌法要(嘉永元年1848年)に際し、正信偈三帖和讃を開版(章譜付)
明如上人(第21代・明治18年)の時、正信偈の唱法は整理され、真譜・墨譜(ボクフ)・中拍子・草譜・舌舌行の5種類とされる。

大正12年立教開宗七百年記念法要の折、初めて正信念仏偈作法登場しました。
これは現在の正信偈作法とは異なります。
昭和6年11月1日、勝如上人伝灯奉告法要を機会に、現在の真、行、草の3譜に改定しました。葬場勤行の正信偈は舌舌を用いていたのを、改定後は、中拍子の念仏・和讃の節譜を残して、真譜と行譜の善導独明からは、五会の荘厳讃の譜を依用。また真・行・草の念仏和讃は、往生礼讃の中夜偈の譜から編曲されたと言われます。

現在本願寺派において、正信偈を用いる勤行は、真譜、行譜、草譜、葬場勤行「正信念仏偈作法」3種、「奉讃太子作法」2種、「広文類作法」「奉讃伝統作法」です。(但し、大師影倶作法は念仏正信偈)
正信偈作法ー昭和44年本廟御造営慶讃法要に正信偈作法
 昭和48年ご誕生八百年・立教開宗七百五十年慶讃法要の折、正信偈作法第3種、一般寺院用として正信偈作法第2種を制定。
 (第1種、三奉請・正信偈・十一句念仏・回向)
 (第2種、 三奉請・表白・正信偈・念仏・回向・奉讃早引和讃)
 (第3種、三奉請・ジュ讃=大衆人人皆合掌・正信偈・念仏・回向句=自信教人  信・讃=他力真宗の)4月12日よりの立教開宗法要に依用。
奉讃大師作法第2種ー昭和33年、大谷本廟「親鸞聖人七百回大遠忌法要」
 (三奉請・画讃(略)・正信偈・十一句念仏・回向、第一種は、ジュ讃・画賛)
  現在は10月15日龍谷会逮夜に五眼讃と併用。
      第一種ー昭和36年宗祖七百回大遠忌法要に新制
伝統奉讃作法ー昭和54年伝灯奉告法要の折制定。
広文類作法ー大正12年浄土真宗開宗700年記念に制定の正信偈作法を昭和8年に改作。(総序・正信偈・合殺・回向)御正忌15日逮夜に依用。

各派の正信偈

真宗各派のうち、本願寺・高田・仏光・誠照寺の4派は天台系声明を併用しているが、大谷・木辺等は天台系声明を用いず、正信偈和讃が勤行の中心となっている。
大谷派は、句陶(クユリ)・句切・真四句目下(サゲ)・行四句目下・墨譜・中拍子・真読・舌々 の9種類。興正寺派は、本願寺改定前の5種類。仏光寺派は、真譜・行譜・草譜の3種類。誠照寺派は、真偈・行偈・草偈の3種。木辺派は、真引・中引・舌舌。高田派は、正信偈は棒読みで、文類偈のみ節を付けて読じゅされているが、唱法の区分はない。出雲路派は、日常勤行用の簡単な節の付けたものはあるが、重要な法要では、大谷派のものを用い、三門徒・山元の両派はすべて大谷派のものを用いている。
念仏和讃は、興正寺派(改定前の本願寺も同様)は、真譜・墨譜など、正信偈に相応した区分があるが、大谷派・仏光寺派では、ユリの数の増減によって区別している。高田派、木辺派は念仏和讃は1種類のみ。



正信偈の唱法

『正信偈和讃』の唱法には、次の3種類がある。
しんぷ
真譜とは ご本山の御正忌報恩講1月16日の晨朝(御影堂)で勤まる。
行譜戸は 毎月の宗祖の命日、あるいは先祖の命日等の大切な日時、または報恩       講等の年中行事に用いる。
草譜とは 平素、朝夕の勤行等に用いる。

出音と速度

本 文 出音(ハ調) 速度 行譜  草譜

帰命無量 レ 70〜80拍 70〜90拍

善導独明 ソ     50〜60拍  右同

初重念仏 レ 右同 50〜60拍

二重念仏 ミ 右同 右同

三重念仏 ラ 右同 右同

回  向 ミ 右同 右同


草譜の注意点
◇ 「帰命無量」から「善導独明」までの間は、4句目ごと音を下げて唱える。
レレレレドドラと下げる。
◇ 1字1拍であるが、「引」が付いている文字は2拍、「超発希-有大-弘誓」  は、「希」(「大」)が1拍半、「有」(「弘」)を半拍で唱える。
◇ 「善導独明」以下は、「下」が付いている以下は、(ソ)から(レ)に音を  落として唱える。
◇ 「弘経大師宗師等」の「等」は四拍。
◇ 「唯可信斯高僧説」は、「行譜」「草譜」ともに同じ。

行譜の注意点
◇ 「草譜」では4句目下りであったが、「行譜」では同じ高さで唱える。
◇ 「中夏日域之高僧」等は、「草譜」では「引」であったが、「行譜」では、  1音上げ(ミ)の高さで唱える。
◇ 「善導」以下は、4句繰り返しの節を付けて唱える。
◇ 2字の仮名はわって唱える。会入(にう)。和讃・回向は草行とも同じ唱法  であるが、わって唱える。
◇ きんは最初に2音、「高僧説」で1音、「往生安楽国」で3音。

和讃の注意点
◇ 和讃唱法の注意点
念仏
・ 1字1拍です。拍を取りながら唱えます。
・ 念仏の最後の「仏」は2拍です。1拍になりやすいので注意が必要です。
・ 初重から2重に移る念仏「南無」の「ナ」は、低くなりがちです。レの高さ  で出音して2重に移ります。
・ 2重最後の念仏の「仏」と、3重の第1句の念仏の「仏」は4拍です。
和讃
・ 讃頭最後の文字のユリは4拍です。
・ 途中にある当たりは1音節2拍で唱えます。「光輪」の「輪」のように2音  節の場合は、初めの仮名で当たり(1拍)、コの母音の「イ」と、次の「ン」  で2拍、都合3拍で唱えます。
・ 「引」は1音節の場合は2拍、2音節の場合は、2文字目を2拍で唱えます。
・ 2重の和讃讃頭の「光輪」「虚空」は、ミ・ソ・ラ・ミでソの音が下がり安  いので注意。
・ 3重讃頭の「清浄光明ならびなし」の「光」と「し」は4拍です。
回向
・ 「願」は、ガ・ンと、各1拍で唱えます。「徳」は8拍です。

◇ 正信偈は偈文のところは、草・行譜ともに本来無本で唱えます。和讃に入り、調声人は、初重念仏の第3句目の念仏の初めの「南」の字で和讃を両手で持し、「阿弥」で頂きます。和讃を懐中もしくは和讃卓から両手に持し閉じたまま頂き、胸の前で開き、和讃卓の場合はその上に置く、この動作を念仏一句を唱える間に終わるように行います。調声人以外は、同じ動作を第4句の念仏の間に行います。

◇ 和讃と唱えている間、和讃卓のある場合は卓の上に置き、和讃卓のない場合は、両手で胸の高さ(袈裟を付けているときは大威儀の結び目のあたり)に持って唱えます。

◇ 調声人は、回向の第2句目の句に入ると同時に、両手で和讃を閉じ、頂いてから懐中もしくは和讃卓の上に置きます。この一連の動作をこの1句の間に行います。調声人以外は、同じ動作を第3句目の行います。

◇ 和讃は本来、順次6種づつ繰り読みで拝読します。「悲歎述懐」と「善光寺和讃」他一部拝読しない和讃がありますが、これは蓮如上人の開版の和讃を踏襲しています。拝読の和讃は326種(53回分)あり、内8種は、「添」といい、「添」の和讃は、前の和讃に引き続いて拝読します。
25丁「弥陀の名号」の和讃は、74丁からの続きです。124丁の続きは155丁の「五濁悪世」です。
「3種引き」の唱法も、古くから行われており、その唱法は、初重、2重、3重の2種の和讃を、1種だけ唱えるものです。その場合、第1種目でも2種目でもよいが、念仏は、初重、2重、3重の初めの念仏を唱えるだけで次の和讃あるいは回向に移ります。

◇ 調声と同音についてですが、2人以上と唱える場合は、調声人だけが唱える箇所があります。「帰命無量寿如来」「善導独明仏正意」「初重・2重・3重の第1句目の念仏」「和讃6種の最初の1句」「願似此功徳」です。調声人が上記のところを唱えたら、間を置かず重なるようにして同音します。

◇ 和讃において、「巡讃」といい、あらかじめ和讃の讃頭の句を唱える人を指定しておき、調声人以外の人が、和讃の讃頭の第1句だけを調声する場合もあります。

*「念仏正信偈」とは、浄土文類聚抄の中に収まられている正信偈の事です。